川の向こうにいるもの
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■ショートシナリオ
担当:まれのぞみ
対応レベル:1〜3lv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月04日〜02月09日
リプレイ公開日:2005年02月12日
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●オープニング
数日つづいた吹雪がやみました。
雲が去り、青い空がのぞくと、冬の陽射しがきらきらとかがやきだし、家々の扉が開いて、子供たちがいっせいに駆け出していきます。
雪のせいで家に閉じ込められ、つまらない日々がつづいていたのだから、当然かもしれません。
これから雪かきやら、薪の準備やら、つぎの吹雪にそなえて家の壊れた個所の修理などはど大人たちには、やることがいっぱいあります。でも、そんな大人たちの苦労を知りもしないで子供たちはのんきなものです。
「手伝いなさいよ!」
そんな声など、聞こえもしないのでしょう。
早くも、子供たちの一団が村のそばの森に入っていきました。
「秘密の場所はどうなっているかな?」
金髪の少年が言います。
「熊が眠っていたりして!」
赤毛の少年が冗談めかして応えます。
かれらの秘密の場所とは、森の中に見つけた洞穴のことです。その場所のことは、この子供たち以外の村人は知りません。
「こんどこそ、あの秘密の抜け穴がどこにつながっているか調べてやるぞ!」
背の小さな少年が言います。彼くらいしか通れないような小さな抜け穴が、その洞穴にはあるのです。
「雪がとけてからにしなよ。それより、あの場所を、どんな風にしようか?」
「そうだな……――」
また、その話です。
雪が振り出す前に見つけた、その場所のことで、少年たちは雪のふっているあいだ、ずっとああしたい、こうしたいと話してばかりいました。
そんなことをしゃべっているうちに、凍った小川が見えてきました
「あれ?」
ふとっちょの少年が声をあげました。
「どうしたんだい?」
「このあたりに橋があったよね?」
「そういえば……」
この川には、ドワーフが石で作ったという、村自慢の橋があったはずなのです。それがいまではどこにもありません。少年たちは、あたりを見まわし、雪をかきわけ、ようやく見つけることがができました。驚くべきことに、石でできた橋が壊れ、雪の下に隠れていたのです。
少年たちが不安げな顔で互いを見ます。
と、その時、聞きなれない言葉――少年たちの耳には、耳障りな音としか聞こえなかったのですが――が聞こえてきました。
そして、その姿を見たとき、少年たちは
「あッ!?」
と叫んでしまいました。
そこには、なんとも醜悪な生物がいたのです。
顔はその性根の邪悪さをあらわしたのようにゆがみ、口にはきたならしい黄色い牙がのぞいています。手には長い槍をもったけったいな数匹の生物は、かれらを見つけるなり、凍った川を渡って、迫ってきました。
少年たちも一目散に逃げ出します。
しかし、それらの足は意外と早く、散り散りになって逃げ出した少年たちもひとり、ふたりと捕まってしまいました。
そんな中、赤毛の少年は、あまりにもあわてすぎて木にどかり。しりもちを打って転ぶと、枝から落ちた雪を全身でかぶってしまいました。
それでも、そんな不運が幸いしました。
その生物は、彼の三人の友達を捕まえると、あたりをもう一度見まわしました。そして、もう誰も目に入らなくなると、それがすべてだと思って、川を渡って森の奥へ消えていってしまったのです。
赤毛の少年――シークは雪の中から、ようようと立ちあがると、ふるえる自分の身体を抱きかかえこみました。しかし、すぐに意を決したように前を向き、駆け足で村に向ったのです。
空にはいつしか、雪雲が戻ってきていました。
●リプレイ本文
「あいつは、大丈夫だったんだろうか?」
黒髭のラーバルト・バトルハンマー(eb0206)がそんなことをぽつりとつぶやいたのは、ちょうどケヴィン・グレイヴ(ea8773)が偵察から帰ってきた時でした。それをわざわざアスカ・クライン(eb0963)がイギリス語に通訳したものですから、茶の入ったカップを受け取りながら、ケヴィンがいぶしがるような視線をラーバルトに向けます。
そして、茶を一口すすり、やがてラーバルトにとっては意味のわからぬ異国の言葉をアスカに伝えます。
「なにが大丈夫だったのか? とケヴィンさんは尋ねています」
アスカが通訳してくれました。
「いや、おまえの事ではなくて、ほれおまえと同じような格好をしていたやつさ」
とラーバルト帽子で隠した耳のことを暗に指し示します。ケヴィンはハーフエルフだったのです。
「どうだろうね?」
すこし離れた場所でナラン・チャロ(ea8537)が、その会話を耳にしながらにやにやとしていました。そんな少女の様子に相麻鳴海(ea9646)がさげすむような視線を一瞬おくりましたが、ナランと目を合わせてしまうと、にっこりと微笑みます。
「くしょん!」
ハーフエルフのエイジス・レーヴァティン(ea9907)がくしゃみをしたのは、ちょうどそんな会話が洞窟の側でなされている頃でした。同族のセシル・クライト(eb0763)が、こんな風に聞いてきたのは、ごく自然なことかもしれません。
「風邪かい?」
エイジスは顔を横にふります。
「村人たちが噂をしているのかもしれないな……」
これは、村人や赤毛の少年から情報を得るために、ハーフエルフが迫害を受けることも忘れて村にいき、危うく正体がバレかけたことをいっています。その時は、一緒にいたナランの機転で助かったのですが、その時のナランのにやにやしたとした笑みを思いだされて、ちょっとぶるり。
「そんなにふるえて、やっぱりカゼをひいているんじゃないか!」
「だから、ちがうって!」
そんなことをふたりが言い合っていると、
(さあ、準備はいいよね!)
空路道星(ea8265)がふたりに声をかけました。
全身で会話をしているような娘で、ふたりにはわからないはずの外国の言葉で語りかけているのですが、なんとなく意味がわかるから不思議です。
雪をのけ、乾いた木々を集め、火をつけ、保存食の乾いた肉をあぶります。燻製から煙がのぼってきて、それはそれはとってもおいしそうな匂いで、その肉を提供した空路のお腹が鳴ります。
煙が風にのって穴の方へ向っていきます。
「あら?」
潜入班の五人が潜む場所にも、肉を焼くいい匂いがしてきました。
目の前の穴からは、お腹をさすったゴブリンが一匹、二匹、三匹……――なんということでしょうか、十匹ものゴブリンが出てきてしまいました。
「バカ!」
そうとだけつぶやくと、相麻が、後はまかせたはと言ってゴブリンの後を追いました。さすがに誘導班の三人だけにはまかせていられないと思ったのでしょう。
残された四人は穴に入っていきました。
中は壁となる岩肌こそごつごつとしていますが、地面は平らで、なかなか心地のいい場所です。ドワーフのラーバルトが言うには、子供たちが秘密の場所にしたがっていたのもわかるそうです。いくつかの角を曲がると、じきに子供たちが見つかりました。
手足を草で編んだ縄で適当にしばられ、ほっておいておかれたままという感じです。捕まってから数日たっているのですが、子供たちは、まだいくらか元気があるようで、冒険者たちの顔を見ると、助かったという顔をします。
「お腹すいてるでしょ? さあ、これでも食べるんだよ。あ、ほらあわてない。よく噛んで食べるんだよ」
縄をほどき、ナランが用意してきた食事を与えます。
「でも、ヘンですね。さらわれた子供たちは三人だったんですよね、でもここにいるのは金髪の子とふとっちょのふたり……」
アスカの疑問が、全員の頭によぎった時です。
うなり声をあげ、一匹の獣がのっそりとあらわれました。
「ホブゴブリンだよ!」
オーガに関する知識を持つナランが声をあげます。
それは先ほど穴から出ていったゴブリンたちよりも大柄で、がたいのいいゴブリンで、手にはとげとげのついた鉄の棒と盾を持っています。
ラーバルトが攻撃を仕掛けました。
その攻撃を盾で受け、ホブゴブリンは、にやりと笑います。そして、盾の力をわざと抜きラーバルトのバランスを崩すと、鉄の棒をふりかぶり、すさまじい一撃を食らわせました。ラーバルトは、背後の壁にぶつかってしまいます。
残った三人をにらみ、ホブゴブリンはうなり声をあげました。
その頃、陽動班もまた戦いのさなかにありました。
「空路家長女、空路・道星、参ります!」
名乗りをあげ、はあっ! たあっ! やぁぁぁぁぁぁ! という掛け声もいさましく、空路のこぶしが、蹴りが、ゴブリンたちをたたきのめしていきます。
ハーフエルフのふたり組は互いに背中をあわせ、あるいは木を背中にしながら、剣をふるっています。剣先がふられ、幾筋の光の線が空に描かれるたびに、雪の上に鮮血の花が咲き、火をたいた場所からここまで長くて赤い絨毯が引かれているようにも見えます。
ゴブリンたちを洞窟から引き離すという作戦はうまくいっています。
両手のダガーをふるいながら、セシルは仲間にうまくいったねと、ウィンクします。
しかし、エイジスはそれに返事をすることなど、この戦いには不要と判断したのでしょう。無言のまま、戦いつづけます。同族の血のなせる業とはいえ、ちょっといたたまれなって、セシルは、もうひとりの仲間をちらりと見ました。とたん、
「あぶない!」
セシルは叫んでいました。
空路の背中からゴブリンが槍で刺そうとしていたのです。
(間に合わない!)
セシルがそう思ったとき、ゴブリンは背後から切り捨てられました。
「所詮、わたくしが居ないと何も出来ない烏合の衆なのですね」
そこには、日本刀を腰に戻しながら空路に一瞥をくれる相麻がいました。
生き残ったゴブリンたちは四散していきました。
「それで、これからどうしますか?」
「ゴブリンを殲滅するべきだと思うよ」
正論ながら、過激な事をエイジスがほんわかとした笑顔でいいます。
「かれらには悪いけれど、それが村人の為になりますね。それに洞窟に行った人たちも気になりますし」
セシルがそう応じます。
「頼りにならない人たちですものね」
相麻も彼女らしい言い方で同意します。
そして、三人が歩き出したので空路が後ろからついていきました。
その頃、救援班の戦いは続いていました。ホブゴブリンは、このパーティーの一人一人にとっては強敵ですが、冒険者が四人で当たればなんとかならいこともありません。
「ちっ!」
放った矢を盾でふせがれ、レヴィンは舌打ちしました。しかし、それが同時に隙となりました。
「いただき!」
ゴブリンの空いた腕に向って、ナランがレイピアを突き刺します。血が流れ、ホブゴブリンは痛さと腹立たしさのあまり、力任せにナランを地面にたたきつけました。
「いたたたた……」
あわててアスカがナランに駆け寄り手をかざし、怪我を癒します。
「いいかげんにしやがれ!」
ホブゴブリンの後頭部をラーバルトがグレートハンマーで殴りました。今度はホブゴブリンが顔から地面にくちづけする番です。殴られた首を押さえ、頭をふりながらホブゴブリンは立ちあがると、血を吐き捨て、乱戦に巻き込まれ、逃げ遅れていたふとっちょを捕まえました。そして、きたならしい叫び声――たぶん、言葉なのでしょうが――をあげます。言葉はもちろんわかりませんが、さすがになにが言いたいのかは想像がつきます。
「きたない……」
ナランが、そうつぶやくとホブゴブリンが勝ち誇ったような唸り声をあげた――そんな風にも聞こえる唸り声をあげました。いえ、あげかけたという方が正確かもしれません。その声はすぐに、憤激したものに変わったのです。
見れば、ラーバールトのつけた首のキズが開き、血が流れ始めていました。原因はすぐにわかりました。背後から石が投げられたのです。
どうやって逃げ出したのかはわかりませんが小柄な子供が石を投げていました。
ホブゴブリンの注意がそれました。
(……――!)
アスカの耳にだけは、その言葉が聞こえました。アスカが小さくうなずくと、次の瞬間、ケヴィンの弓から二本の矢が放たれ、ホブゴブリンの片目とナランのつけたキズに突き刺さります。アスカが愛剣を抜きながら駈け出し、ホブゴブリンの手から子供を奪うと、空いた手で剣をつきたて、首筋をかっきりました。血の噴水が吹きあがりホブゴブリンが頭から倒れると、その戦いは終わりました。
しかし、安心する暇はありません。洞窟の外から早くもゴブリンたちの声が聞こえてきたのです。その声の数はしだいに多くなり、中に入ってくる音も聞こえます。どこかで角笛を吹く音さえ聞こえてきました。
その時、石を投げた子供がこっちこっちと手招きをしました。
「まずいですね」
洞窟から少し離れた木立に空路、相麻、エイジス、セシルの四人がそろっていました。仲間のいる洞窟へ向ってきたのですが、ここにきて足踏み状態です。
戦いの後、逃げ出したゴブリンがここに集まってくるであろうと予想はつき、戦う覚悟はしていたのですが、思いのほか多くのゴブリンが集まりつつあります。どうやら匂いに寄ってきたのは一部だけで、洞穴の外の別の場所にキャンプを張っていた者達がいたようなのです。
それが、角笛の音にぞろぞろと集まってきました。
エイジスが剣に手をやり、セシルがそれを押さえます。
戦ってもいいのですが、勇気と無謀は違います。空路の国ではこういう態度を暴虎馮河といって昔のえらい人が戒めています。もし言葉が通じたら、空路は遠い故郷の格言について語ったかもしれませんが、残念ながら空路はゲルマン語をしゃべれません。
「あれ?」
そんな時、きょとんとした声が背後からして相麻が振り向きざま、抜刀していました。佐々木流という剣術の使い手である彼女にとって、このような剣の扱い方はなれたものなのです。しかし、その剣先は相手を傷つけることなく、その鼻先で止まると、相麻は目を疑いました。
そこには、洞穴の中にいるはずのナランたちがいたのです。
聞けば、洞穴には抜け穴があって、そこから逃げ出してきたというのです。背のちっちゃな子供がそれを発見したとのことで、他のふたりの友人に自慢しています。
「なんにしろ、子供たちもいることですし、さっさと逃げましょう」
ということになりました。
ところが、ここで問題が発生。
なんと、金髪の子供がくしゃみをしてしまったのです!
これでゴブリンたちに気づかれてしまいました。
とりあえず全力で逃げるしかありません。
雪に足をとられながらも、森の中を走ります。
うしろをふりかえれば、手に槍や棍棒を手にしたゴブリンたちが迫ってきます。
「なに、まかせておけ!」
髭親父がにやりと笑いました
来るときに相麻の魔法で作った橋を渡るとラーバルトはうなり声をあげながら、ハンマーで氷をたたき割りました。
「挑みたるヒゲ・ラーバルト、行くぜ! 手前ら逝っちまいな!」
そのとたん、氷はぐらつき、冷たい水面が姿をあらわし、川を渡ろうとしていたゴブリンたちの一群は転び、あるいは冷たい川にほうり投げ出されてしまいました。
橋を渡ろうとしたゴブリンたちはケヴィンの矢に射られ、残ったゴブリンたちも突っ込んできたエイジスに数匹を屠られると、もはや戦う意思もなくして、ほうほうの態で逃げ出してしまいました。
なんにしろ、そんな冒険者たちの活躍でゴブリンたちの一団は壊滅し、子供たちも無事に村に戻れることになったのです。
他の面々がやれやれと息をつく中、空路が眠そうな目をこすりながら、大きくあくびをしました。そして、子供たちが、ボク達も冒険者になりたいといっているの聞きつけた相麻がぴくつくこみかみを押さえ、こうつぶやいて、その冒険は終わったのです。
「お馬鹿さん達、これ以上わたくしをイラつかせないで下さるかしら」