屋根裏にうごめくもの

■ショートシナリオ


担当:まれのぞみ

対応レベル:1〜4lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 60 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月28日〜03月03日

リプレイ公開日:2005年03月07日

●オープニング

 拝啓、親愛なる冒険者の皆様がた。

 私はドレスタットの近郊の村に住むシャーザ・アルテアと申す者でございます。

 このような手紙を皆様のいるギルドにお送りしましたのは、率直に申しまして、皆様のお力添えをぜひとも必要とする出来事が起こったからに他ありません。

 ことのはじまりは去年の秋、亡くなった祖母の遺産である屋敷を私が継いだことに端を発します。ドレスタットの近郊と申しましても、周辺には家らしい家のない場所にあり、広大な敷地をもつその屋敷は、魔女であった祖母が冒険で得た宝で作ったのだと生前よく私に聞かせてくれたものです。
 その祖母は、この屋敷には魔法がかかっていて家事、とりわけ掃除はしなくていいから楽だとよく申して、まだ幼かった私を不思議がらせたものです。正直、それもいまでは幼い日の思い出だと思っておりました。

 あの日までは……――

 それは、私たちがこの屋敷についた日のことでした。
 相続したといっても、法律的な手続きや準備などを終え、私達がドレスタットからその屋敷に引越したのは祖母が亡くなってからすでに数ヶ月たっていました。
 さきほども申しました通り、使用人などなく、祖母がひときりで住んでいた屋敷ですので、その広かったのことを思い、後片付けなどのこまごとした仕事の事で頭を痛めながら門をくぐりますと不思議なことに大きなごみのような物はなく、まさに、祖母が言っていたとおり、掃除をしなくてもいいという感じでした。
 その時は疲れていたこともあり、あさはかにも、近所の人が片付けておいてくれたのだと思っていました。
 いまから思えば、近所に人などおりませぬのに……
 しかし、その奇妙さに気がつくのには時間はかかりませんでした。
 まず、飼い猫がそのことに気がついたのかもしれません。もともと愛嬌のよかった猫だったのですが、この屋敷に来てからはいつもなにかにおびえ、あるいは毛をそばだてながら、目に見えぬなにかに向って威嚇していることが多くなり、ついにはその猫は姿を消しました。
 まだその頃は、慣れぬ家で迷子になったのかと思い、あちらこちらを捜したのですが、どこにもおらず、それどころか二階を捜していた夫が体をべとべとさせながら降りてきて、
「なんだろうな?」
 と夫婦で言い合ったものです。
 そして、飼い猫がいなくなり、気がついたのですが、屋敷は人里離れた場所にあるにもかかわらず動物たちを見ることがほとんどないのです。それに気がついたとき、私達夫婦は、なにか恐ろしいものが屋敷に住みついているのではと思うようになりました。
 そして、その予感は的中しました。その晩から、誰もいないはずの二階から夜な夜、なにかが動く音が聞こえるようになってきたのです。

  ( 以下、数段にわたり字がみだれている )

 ――……昨晩、夫がその正体をさぐるべく、二階に上がっていきました。そして、今朝になっても夫は二階から戻ってはきません――

 ( 以下、解読不能な文字がならぶ )

 もう私にはどうしたらいいのかわかりません。屋敷から逃げ出すこともできず、もちろん私みづからが二階に昇ることもできずに、この手紙を書いています……―

   ( 文章がとぎれている )

●今回の参加者

 ea8411 近藤 継之介(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8602 ギム・ガジェット(31歳・♂・ファイター・ドワーフ・フランク王国)
 eb0435 ヤマ・ウパチャーラ(53歳・♂・僧侶・シフール・インドゥーラ国)
 eb1069 アルベリーノ・サルサエル(52歳・♀・ジプシー・人間・イスパニア王国)
 eb1259 マスク・ド・フンドーシ(40歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)

●リプレイ本文

「静かだな‥‥、だが、何か嫌な予感がする‥‥」
 屋敷に一歩入るなり、近藤継之介(ea8411)は、そうつぶやきながら着物の上から腕をさすった。鳥肌がたっている。それは、なにも雪舞う外の寒さだけではない。
「なに、緊急を要する依頼だ! こんなところで、ぶつくさ言ってないで、二階に上がればわかるだろう」
 ドワーフのギム・ガジェット(ea8602)が剣を抜き放つと、駈け出そうとした。
「待ちなよ!」
 妖艶な容姿の女がギムを制した。
 ふだんは肩からのぞく褐色の肌も、きょうばかりはマントの下に隠れている。しかし、その姿はだからこそ神秘を覗く者という雰囲気をまわりに与えたかもしれない。占い師を糧とするアルベリーノ・サルサエル(eb1069)である。
「そうです、まず調べてみないと‥‥」
 僧侶姿をしたシフール、ヤマ・ウパチャーラ(eb0435)も、彼女の意見に同意する。
「まあ、そうだな。知っていて竜の口に入っていくのもバカらしいしな」
 ギムが納得したのを見届けると、アリベリーノの体が淡い黄金の色にかがやく。あちらこちらを見まわすと、やがて流し目を近藤に送る。
「やっぱり、あなたの勘が当たっ‥‥ちょっと待って! 来るわ!?」
 突然、黒い足が廊下の角からのび、パーティを襲った。
 その一撃を仮面をしたジャイアントの重斧がさえぎる。
 褐色のたくましい巨体に東洋伝来の褌だけを身につけたマスク・ド・フンドーシ(eb1259)である。防具をなにもつけないその姿は、まことに漢らしい。
「我輩にまかせたまえ! 正義に燃えた我輩の前に、寒さや蜘蛛などかなうわけがないのである!」
「フン殿!」
 ギムが叫ぶ。いや、それよりも早く近藤の指先が動き、
「‥‥!!」
 一閃、鞘から放たれた日本刀のきらめきが、苦し紛れにマスクにあびせられようとしていた大蜘蛛のからまる糸を断ち切る。
「うぉぉお!」
 ギムも剣をふりあげ、大蜘蛛に襲いかかる。
「はじまったわね」
 腕を組み、悠然とした態度でアルベリーノは前線の戦いを見つめていた。ヤマもまた、その横で観戦している。
 大蜘蛛は大きく成長しすぎていて廊下を動くにしてはでかくなりすぎている。おかげで三人は幸いにも、そのふところにもぐりこんで殴り、蹴り、あるいは斬ることができるのである。
「それにしてもヘンね‥‥」
 後衛の為、冷静でいられるアルベリーノがつぶやいた。
 占い師としての勘がなにかささやくのだ。
 背筋にぞくりとするものが走り、冷たいものが首元に落ちた。
 はっとして背後を振り返ると、赤い輝きが天井にはあった。
「あぶないよ!」
 反射的にヤマをヤマを押し倒した。アルベリーノの上に、それがおおいかぶさり、壁が回転して、ヤマは壁の中に消えていく。
 前衛の三人の前にも、新たな光の群れが近づいていた。
「わぁあ!?」
 その頃、ヤマは、こてんとこてんと転がり、どこかの部屋に転がり出ていた。
「痛いぃぃ!」
 思わず腰をさする。
「やあ、やっと来たね」
「えッ?」
 その声に顔をあげると、そこにはヤマと同じ種族の男がいた。他の種族であったのならばわからなかったかもしれないが、同族のヤマには、その男が壮年とも呼べる年代であることがわかった。ヤマが立ちあがるのを助けながら、男は一方的にしゃべってくる。
「ここは、魔女のばあさまの書庫さ。あの蜘蛛どもも、この部屋には近づけないよ。そういう魔法がかかっているらしい。詳しいことは知らんがね」
「あなたが、何を言っているのかわからないんですけど?」
「ああ、ごめん。説明が必要だね。ボクは、あの女性の――」
 そういって、そのシフールは背後に視線を送った。そこには人間の女性が横になって眠っている姿があった。たぶん、彼女が依頼人の女性なのだろう。
「手紙を君達に持っていったシフール飛脚のものさ。まあ、いまはシフール飛脚なんてやっているけれど、以前は君達と同じように冒険に出ていたもんなんだぜ」
「元冒険者?」
「そう。若い頃は、ここの前の主だった魔女のばあさんと、あっちへこっちへでいろんな冒険をしたもんだ。だから、君の考えていることくらいわかるさ。なんで、あんなのが、ここにいるかと言いたいのだろ? あれは、使い魔の慣れの果てさ」
「使い魔の慣れの果てってことは……」
「魔女のばあさまは、その使い魔たちに、屋敷の掃除などをさせていたというわけさ」
「やっぱり!」
 それは道中、マスクが可能性のひとつとして示唆したことと一致していた。
「まあ、そのばあさまが死んでしまったので、その魔法なりアイテムの力がなくなり、使い魔たちの一部が暴走をはじめた。で、その中でもっとも強かった大蜘蛛たちが他の使い魔たちを食事にしてしまったわけさ。そして、そこに間の悪いことに夫妻が到着。逆に、彼女がピンチになっているところに、タイミングよくボクも遊びにきたものだから、さあ大変! まあ、そういうことさ。理解したかい?」
「ええ、なんとなくですが‥‥。それはそうと、襲来してきたドラゴンについて何か知りませんか? あるいは、そのおばあさんが、魔女であったのならば、それに関する何かの研究とかしていませんでしたか?」
「ドラゴンの?」
 目をぱちくりさせ、やがて男は破顔一笑。彼にとって、それはあまりにも意外な問いであったのだろう。本当に楽しそうに笑い、だからこそ人生は愉快だと前置きして、こんなことを言った。
「ボクの知る限り、ここにあるのは、何かを使役する魔法についての研究だけだ。他人をこき使うことにだけは、大変な情熱をかたむけていたばあさんだから、さもありなんというわけだけどな。それが、今回のドラゴン襲来の件に関係するかどうかはボクには、わからないよ。ただ、ボクが教えることが出来るのは、そのばあさまは精霊すら使役する魔法の物品が世界のどこかにあるという伝説にたいそうご執心だったということだけさ! そういえば、いつだったか、たまたま顔を出したとき、ヘンなローブの男がこの屋敷から出ていったことがあったっけ!?」
 ヤマは、考え込むように天井を見上げた。
 この話がなにを意味しているのか彼にはわからなかった。何の意味もないのかもしれない。いや、そもそもが雲をつかむような話だから当然なのだが――
(「そういえば、雲‥‥くも‥‥蜘蛛!?」)
「きゃあ!」
 大蜘蛛の足がアルベリーノを押さえる。
「くぅ」
 と力をこめても、戦士でもない女の力ではそれを振り払うことはできない。
 まるで強引に押し倒されたかのようにアルベリーノは、衣服がみだれ、肩もあらわになる。瞳をうるませながら、
「やさしくしてしてね」
 とつぶやいてみせて、すぐに、くすりと笑う。
「火遊びは好きなんだけど、あなたみたいに本気はきらいなのよ」
 アルベリーノが、その指先を蜘蛛のこみかみにあてると一条の光線がそのの額をつらぬき、蜘蛛は絶命した。
「あらあら、早い人ね。もう逝っちゃったのかしら?」
 魔法を放った人差し指を唇にあてアルベリーノは微笑した。
「まだ、来よるか!」
 何体目かの蜘蛛を屠ったギムが返り血をあびながら叫んだ。
「いや、我輩の勘が、あれが最後だと言っておる」
「なぜ、そう言いきれる?」
「ずいぶんと成長しているからな!」
 巨人が口許に余裕の笑みを浮かべた。
 その言葉どうり、壁や天井を壊しながら一体の大蜘蛛が近づいてきた。
「おいおい、わしらがせっかく建物に瑕をつけないように気をつけて戦っておるというのに大蜘蛛殿はおかまいなしといこことか?」
 廊下や部屋の壁をぶち壊しながら、それは突っ込んできた。
「こりゃあ、また育ったものであるな」
 マスクが口笛を吹いた。
「女王蜘蛛殿というところかもしれんな」
「そんなのいるのか?」
「知らん!」
 ギムは、言い捨てて、もうひとりに声をかけた。
「近藤殿、行くぞ!」
 ギムの声に無言で応じ近藤も動く。
 大蜘蛛が糸を吐く。
 またかという表情をわずかに見せ、近藤は日本刀をふるった。
「北辰流‥‥外伝目録‥‥飛燕墜星!?」
 日本刀が、蜘蛛糸を切り裂くと、仲間たちがその間を突っ込む。
 八本足をかいくぐり、マスクが、その足元にたどりつくと、前足を攻撃する。その目をアルベリーノの魔法が襲う。
「うぉぉぉ!」
 ギムは渾身の一撃を蜘蛛の腹に与えた。
 苦しみ、暴れ、体液を流した蜘蛛は飛びはねるようにして近藤にぶつかっていった。それを近藤は盾で受ける。激痛が盾を持った腕に走る。返り血が、その頬をつたう。
 しかし、それにもかまわずに近藤は叫んだ。
「北辰流‥‥本目録‥‥抜突!」
 その声とともに、近藤の刃が蜘蛛の体を貫き、首が飛んだ。巨大な蜘蛛はそれでも突撃をつづけ、そのまま壁をつきやぶって庭に出ていった。そして、雪上に体液をばらまくと、やがて、ずしりという音ともに崩れ落ちた。
「やれやれ、終わったな……」
 と、そこへヤマが戻ってきて仲間を秘密の部屋へと誘った。
 シフールの男はいつの間にか姿を消している。
 しかし、依頼人の女性はまだ眠ったままだ。
「彼女は、私が見るわ」
 というアリベリーノの申し出を受け、男達はすくなくとも死体だけでも……という気持ちで二階にあがった。
 そこはやはり蜘蛛の巣となっており、さまざまな動物や謎の生物の死体や骨が散乱していた。蜘蛛の巣を払っていると、人間の男がでてきた。依頼人の夫だろう。
 わずかに息をしているようだが、心臓の音があまりに遅い。
 あきらかに毒の影響だと思われるのだが……
「心配、ご無用!」
 マスクが胸を張った。
「こんなこともあろうかと用意しておいたのだよ」
 そういうとマスクはどこからともなく解毒剤を取り出した。
 三人の男達は意外そうな目でマスク見る。
「なんだね? 君達は、我輩が、そんなに用心深くないと思っていたのか? こんな格好で戦闘などやるには、伊達と酔狂、それに、なによりも細心の注意を払わなくては、やってられんものだよ!」
 そう言ってHAHAHAHA! と笑うマスクの声とともに、その冒険の幕は降ろされたのである。