かいとうみならいちゅう

■ショートシナリオ


担当:まれのぞみ

対応レベル:1〜4lv

難易度:易しい

成功報酬:1 G 0 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月10日〜03月15日

リプレイ公開日:2005年03月18日

●オープニング

(「執事のセルバンテスがあわてた声で起こすような朝には注意しろ!」)
 そんな亡父の言葉を夢うつつに聞きながら、エリックは目を覚ました。
 そういえば、その言葉はこんな風につづいていたっけ。
(「そんな日は、たいていよくない事が起きる日だからな」)
 しかし、その言葉に反して父は、そんな日をとても愛していたし、またその血を引く少年にも、その気持ちがすこしだけわかっていた。それはなにかどきどきするような日の幕開けとなることを、この幼い主人は知っていたのである。
 ほら、きょうも……
「おぼっちゃま、大変でございます!」
 顔色を変えてセルバンテスが部屋に入ってきた。
「どうしたんだい。朝からせわしない」
 眠い目をこすりながらエリックは実直な執事の顔を見る。
「それどころでは、ございません!」
「今度は何が盗まれたんだい?」
 あきれたようにエリックは執事にたずねた。
 どうしたものか、どんなに警備を厳重にしても、父親の残した遺産がつぎつぎと盗まれていくのだ。口さがない噂では、エリックの父親が幽霊になってまでも生前集めたコレクションを集めにきているという。
「名刀タケミツでございます」
「あの刀が?」
「はい」
 執事が真っ青になってうなずく。
 亡き父が東洋の商人から買った逸品とかで、さびることのない材質でできている刀であったという。刀という剣に興味のないエリックは父の亡き後、正当な持ち主になったというのに、その実物をじっくりと見たことはなかった。
 それでも、
「困まったね……」
 と、つぶやいてはみせる。しかし、そうはつぶやいてはみても、口許がわずかにゆるみ、目許の端には微笑がまたたいているのは、父譲りの癖なのだろう。
「誰が盗んだのか手がかりになるようなものは? まさか、当世、名高いイギリスのファンタスティック・マスカレード殿がわざわざ、こんな田舎まで出払っていらっしゃるとは思えないけどな」
「はあ、どうやら近所の盗賊と思われます」
「根拠は?」
「ミミズののたうちまわったような字でゲルマン語で犯行声明が書かれていて、刀と金を交換しろと書いてあります」
 そういって執事は主人に紙を渡した。
「ほっておけ」
 一読して、エリックはあっさりと言いきった。
「だ、だめですぅ!」
 部屋の外から声がした。
「メグどうしたんだい?」
「な、なんでもないですぅ」
 そういって廊下をどたばたとメイドが走っていく音が聞こえた。
「話を聞かれましたかな?」
「たぶんな。まあ、いいさ」
 実際、彼の父親が残したコレクションというのは役にたたないものばかりで、それを盗まれたところでエリックは別に困りはしなかったし、それどころか屋敷の中のゴミが減ってよかったと思ったほどなのであった。
 ただ、気になるのはどうやって屋敷に侵入しているかである。
「調査に専門家でも雇うことにいたしますか?」
「専門家……ああ、冒険者のことか! おやじの遺産はともかく、なんだか、おもしろいことが起こりそうだね」


●今回の参加者

 ea7983 ワルキュリア・ブルークリスタル(33歳・♀・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ea8216 シルフィーナ・ベルンシュタイン(27歳・♀・ナイト・エルフ・ノルマン王国)
 ea8742 レング・カルザス(29歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 ea8875 劉 水(31歳・♂・僧兵・人間・華仙教大国)
 eb0254 源 靖久(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb1251 獅士堂 漆葉(29歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb1259 マスク・ド・フンドーシ(40歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 eb1465 イヴン・バトゥータ(31歳・♂・レンジャー・人間・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

 ぐずついていた空が、屋敷にたどりつく頃には雪空へと変わっていた。紙の傘をさし、雪の道に点々とぞうりの跡が残していた青年がふと足を止める。
「あの木が、そうですか‥‥」
 劉水(ea8875)が、つぶやく。
 その木こそが、好事家の息子であるエリックの依頼にあった、怪盗が指定した木なのである。
「おや?」
 木の下に褐色の巨人が誰かとしゃべっている後姿を見えた。
「あれは、サムソンさんですか? ‥‥まあ、いいでしょう」
 劉水はふたたび歩き出した。
 ここには、さまざまな者達が、さまざまな思惑をもって集まっている。探偵という聞きなれない役割で顔をだすことになって、はや数日。彼にも、それがよくわかるようになっていた――
「おかしな怪盗がいたもんだぜ。刀を盗むくらいなら初めから金を盗めってんだ」
 鋭いまなざしを赤々と燃える炎のように爛々とかがやかせながら獅士堂漆葉(eb1251)は朝からメイドの後をつけている。
「それによ、他国の俺が言うのもなんだがヘタな字だったしよぉ〜」
 さきほどの言葉には、そんなアイデアもあったんだと表情で語っていたメグも、その言葉には、ちょっと頬がふくらませる。
「アンタなら500GPあったらなんに使う?」
 肉をくわえ、右手は着物の胸元から出して首をかきながら、メグの背後に日夜つきっきりで、まるで街のちんぴらが、いちゃもんをつけているとしか見えない。
「私の教え子になにか用かしら?」
 涼やかな声がした。
 スカートの裾をひるがえさせず、金の髪をゆらさず、優雅なふるまいの女性である。
「あ、先生!」
 それは作法教師のワルキュリア・ブルークリスタル(ea7983)であった。
 その青いまなざしが東洋の武人を捕らえる。
「な、なんでもねえよ」
 獅子堂は、それこそやくざ者のような捨て言葉を残して、その場を立ち去った。
「悪い人間ではないんだけど、やっぱり態度が粗暴な人なのよね」
 頬に手をあて、ワルキュリアはため息をつく。
「先生、タイミングがいいですぅ!?」
「あなたのお友達が教えてくださったんです」
「メグさん!」
 ハィ! と声をあげて、ワルキュリアの背後から銀色の髪をゆらせながらシルフィーナ・ベルンシュタイン(ea8216)がひょっこりと顔をのぞかせた。
「シルフィーナちゃん!」
「まったく、メグさんに始終まとわりついて、あの男は! この前もメグさんの部屋に遊びに行かせてもらったら、あの人がいて、メグさんのことを犯人だって決め付けて、俺もまぜろみたいなことをいっていたんだよね。ひどい人間だよ!」
 シルフィーナが頬をふくらませて友達の弁護をする。
 その頃、主人は客人たちを亡父の残した宝物庫へ案内していた。
「みごとなものだな」
 ここまでくると、あきれた通り越して、感嘆にも似た声を源靖久(eb0254)をあげざるをえない。レング・カルザス(ea8742)も困ったような表情になって、頭をかいた。
 それは、聞きしにも勝るガラクタとゴミの山であったのである。
 エリックが役にたたない、役にたたない言うので、どんなものかとのぞきに来てみれば、そこには、剣に盾に彫刻。絵画に水晶球にエトセトラ、エトセトラ。ありとあらゆる物がけっして広いとはいえない――庶民の家などと比べれば遥かに広いのだが――部屋に飾られていた。どれもこれもうさんくささと、いわくはありげな様子で渾然一体となっていて、確かに価値がわからないものにとってはガラクタの山である。
「アンタも物好きだな」
 あいかわらず獅子堂は乾し肉をかんでいる。
「ええ。自分でそう思っていますよ」
「ところで盗まれた刀の銘はなんだったか、おわかりか?」
「銘とはなんなのですか?」
 エリックが首をかしげた。その返しに源も首をかしげる。
「刀を打った者の名前だが?」
「刀を打った者の名前がなぜ剣についているのですか?」
 ちぐはぐな、そんなふたりのやりとりにレングが苦笑しながら割ってはいる。ただ、こちらはこちらで何か歯に何かつまったようない言い方である。
「剣を作った人物の名前をいちいちつける風習がジャパンにはあるんだ。それにジャパンには、俺の知るかぎりでは‥‥まあ、なんだ――ジャパンの刀と西洋の剣を知らないとわからないことがいろいろとあるんだな」
「へぇ、そうなんですか」
 東洋の事には無知らしいエリックが素直に納得し、源もすこし同意する。
「なるほど、そういうことか。そうすると、エリック殿は刀の銘の事など知らないか、聞いたことがあっても忘れているかだな。それにしても鍵はもちろん、見まわりやら罠やら、はては魔法の仕掛けやらと確かに外からの侵入にはいろいろと対策を練っていられるようだ。やはり、中の者と考えた方がいいようだな」
「そうですね、誰か内部の人間がやったと考えれば無理はないでしょう。しかも、刀の価値もわからない者の犯行だと僕は思います。メグさんの調べられたとおり、統一性のない盗み方からも言って‥‥」
 劉水は、部屋の外をちらりと見ながら応答した。
 窓の外では、どこかから戻ってきたばかりなのに、すぐに、いろいろな道具をかかえてイヴン・バトゥータ(eb1465)が屋敷から出て行く様子が見えたのである。
 テラスでは黄色い声があがっていた。
「イギリスみたいですぅ」
 メグが、両手でカップをにぎろうとしたところを、やさしくワルキュリア先生にたしなめられ――メイド向けの作法の授業とともに、そういう日常での教育にも重きを置く教え方をしているのだ――あわてて片手で持ちなおす。
「メグさんはイギリスが好きなんだね」
 陽射しが戻ってきたテラスのお気に入りの日溜りに席を決めこんだシルフィーナが、メグたちを誘って、優雅にカップをかたむけながら昼の紅茶としゃれこんでいる。
 そういえばイギリスには、ティータイムという習慣があってということから、その日は海をへだてた島国のことが話題となっていた。
「好きですぅ、あこがれていますぅ」
「行ってみたことはあるのですか?」
「ないですぅ、行ってみたいんですぅう。やっぱり、それにはお金が欲しいしぃ‥‥」
 といって、明日には渡される給金のことで云々。
「正直だね!」
 シルフィーナがくすくすと笑った。
「それが、ここで働いている理由ですか?」
「先生もですかぁ?」
「それはナ・イ・ショ」
 微笑を残し、ワルキュリアは紅茶を口につけかけたところで、思い出したように、こんな話題をふった。
「そういえばイギリスっていえば不思議仮面でしたかしら、そんな怪盗があちらこちらで悪さをしているそうですね」
「ファンタスティック・マスカレード様ですぅ」
 メグが口をとがらせる。
「あらあら、詳しいのですね」
 ワルキュリアの瞳がすこしかがやいた。
 そして、そのかがやきは星のようだとメグは思い、思うまま、空はいつしか星々のまたたく刻となっていた。
 仕事の支度をして屋敷を出る。
 仮面をつけ、黒い服に着替え、あれを手にして屋敷の裏門から出ていく。約束の場所についたとたん、なにかに引っかかり、ものの見事に転んで、それが地面に落ちた。
「痛いですぅ〜」
「おやおや、どうしたのかな?」
 誰かがそれを拾いながら声をかけてきた。
 さて、約束の時刻となった。
 詭弁も論理のひとつということで、
「ひとりで来いとは書いてなかった!」
 誰か言い出したのか、そんな意見が採用され、若干名を屋敷に残してぞろぞろと木の元へと集まっていた。
 地面には雪こそ残るものの、満天の夜空には月が昇る。
 笑い声が聞こえてきた。
「なに!?」
 月光を背に、皆の前に仮面をつけた裸体の男があらわれた。
 腕の、胸の隆々とした筋肉がもりあがり、ポーズをきめるごとに、それらがぴくぴくと動いている。やがて、一通りのポーズを決めると最後に仮面の歯がきらりと光った。
「んんふうはァ! 我輩こそイギリスからの愛の使者、その名も高きマスク・ド・フンドーシ(eb1259)!?」
 一同の周りを冷たい風が吹いた。
「寒くねえのか、あいつ?」
 レングがあきれたような声をあげる。
「よく、来たのである!」
 怪人が叫んだ。
「帰れ! 斬るぞ、変態仮面!」
 獅子堂が刀を抜く。
「帰れとは心外である。これでもあるか?」
 マスクが刀をとりだした。
「それが父の!?」
 エリックが声をあげ、それを受け取る。
「約束の刀を返すぞ!」
「折れているでしょ!」
 ワルキュリアが怪盗に叫んだ。
「いや、まあなんだ、事故があったのだ。事故が! まあ、それゆえ金品は求めぬゆえ、よいな! さらばだ!」
「消えた!?」
 突然、その姿が全員の視界から消えた。怪人の姿が闇の中に消えたのだ。
「妖、幽霊の類であったか!」
 源が刀を抜き、用心深くあたりを見る。
「何者だったのでしょうか?」
 劉水が、意味ありげな問いを意味ありげに、その男にふった。 
「裸の怪人‥‥ネイキッド・ファントムというところでしょうか」
 各国の言葉をしゃべることができるイブンがニコニコとしながら、しかし意味深長にも、その名前をわざわざ英国の言葉で結んだ。
 レングと獅子堂が吼えていた。
「やっぱり竹光だったか!」
「まさとは思っていたがよ!」
「タケミツとはなんなのですか?」
 ワルキュリアがジャパンを知る者たちにたずねる。
「竹っていう東洋の木で作った模擬刀だよ」
「模擬刀?」
「鉄でできているわけではない形だけの刀さ。まあ、斬った張ったよりも見栄で持つことが多いがな」
「こんなに美しいのにですか?」
「まあ、見た目はよいかもしれんが、本当の名刀ともなれば、それは氷のように澄み、恐ろしいほど美しいものだぞ」
 このようになと、源が右手の日本刀を月光にかざした。
 なんにしろ――壊れてはしまったが――タケミツを回収したとして冒険者たちはエリックに早々に場を去ることを主張した。
 さて、月がかたむき、風が吹く。
「はっくしょんですぅ〜」
 誰もいなくなった雪の野に、どこからかくしゃみが聞こえてきた。
「うまくいったようだな」
 マスクが土の中から顔をだした。いや、木の下に巧妙に隠された穴から顔をだしたのだ。ひょっこりとメグもイヴンのしかけた罠から顔をだした。いや、正確にいうにはマスクがイヴンに頼みこんで彼が対怪盗用に準備していた罠を、逃避用に改造してもらっていたのだ。
「なんで、邪魔をするんですかぁ!?」
 メグがマスクに向って文句をたれる。
「邪魔だと?」
 マスクは愉快そうな声をあげた。
「そうですぅ。せっかく大金を手にすることができたかもしれないんですぅ」
 劉水が想像したとうり、メグには、その価値がわかっていなかったらしい。マスクは仮面の下で苦笑いした。そこへ、別の声が割り込んでくる。
「メグさんは、自分がどんなことをしでかしたかわかってないの?」
「ど、どんなこと?」
 メグは、どきりとした。
「みんな、メグさんがやったってことはわかっているんだよ。盗みなんて立派な犯罪だからね、それがわかっているの!? でもね、みんなメグさんのことを思って、今回は見逃してくれようとしているんだよ!  また、こんなことをしたら絶交だよ!」
 それは、友達のシルフィーナであった。
 メグは言葉もない。
「我輩が身代わりとなったから、今回は主人をだませたと思うぞ。まあ、次回はもうこの手もつかえんしな。気持ちをあらためるがよい。それに、あの物好きな主人のことだ、イギリスにメイドの勉強に行きたいとでもいえば行かせてくれるのではないかな? なんにしろ、さらばなのである!」
 にこりと笑うマスクの歯がきらりとかがやき、巨人は、その場を立ち去っていった。
 ただ、
「シルフィーナちゅん、あたし――」
 とメグが何かを言おうとした瞬間、近くの穴に誰かがはまる音と悲鳴がして、少女たちの笑い声が夜空に鳴り響き、終劇となったことを最後に記しておきたい。