歌姫たちの戯れ
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■ショートシナリオ
担当:まれのぞみ
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月18日〜03月23日
リプレイ公開日:2005年03月25日
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●オープニング
「お願いがあるんだけどさ‥‥」
司祭と呼ぶには色香を感じさせすぎる女がほんのりと頬を赤らめ、うるんだ瞳で君達に声をかけてきたのは、ある晩のことであった。
ドレスタットの酒場に人影だけは多いのは、冒険者ギルドにたつ依頼が少ないからであり、それだけを考えるのならば、
「神は天におわしまし。世はなべてこともなし――」
というなことなのであろう。
証拠に、暇に開かせ、女に声をかけては、酒に轟沈した冒険者どもが、すでに十人ほど、その床に酔いつぶれてしまっている。
「まあ、ドラゴンのことはあるにしても、平和なのはいいことさね。ただ、あんたたちはそうではないだろ? どうだい、ひと仕事してみないかい?」
妖艶な微笑をたたえながら、女はもう一杯、酒をあおった。
「あたしのまかされた村のひとつから陳情がきた。
なんでも村の男どもが漁に出たきり、戻ってこなくなったということなんだよ。
まあ、あたしが言うのもなんだけど気性の荒い女たちが実権を握っている村だから、最初に聞いたときは、ついに哀れな男どもがそろいもそろって家出をしたかと思ったもんだよ。しかし、どうやらちがうみたいなんだ。
村から、すこし離れた海上に清水の泉があり、ちょっとした果実なんかもとれる無人の島があるんだ。場所がら、漁を終えた男どもが休憩などによく使うそうなんだが、その島に天使が舞い降りたという噂があるんだよ。
まあ、眉唾ものの話だとは思うけどね、行方知れずになった男どもは一様にそう言っていたというんだ。で、その内の話のひとつには、歌を唄う天使たちが降りてきたと夫が言っていたという証言があるんだ。
まあ、こんな職をしているからあたしにも想像がつくのだけれども、歌を唄うなんて天使がそうそう、この世に出てくるようなことはない。変わりに、そんな容姿のモンスターとそんな能力を持ったモンスターならば時々、世の中にあらわれることがある。
確証はないから、それらがどんなモンスターかは言わないけれど、あんたたちがあたしの望む位の実力あるのならば、それがなにであるのか想像くらいはつくだろ?
依頼はそのモンスターを倒すなり、追い払うならして、戻ってこなくなった男たちを連れかえってきて欲しいということさ。
バカな男どもだけど、まあ、それを待っている妻や子供たちもいるから助けてやって欲しいんだよ。あと、もし男どもが戻りたくないとか寝言を言い出したら、首に縄をひっかけてでも連れてきておくれ。まあ、それでもかたくなに動こうとしないのならば、まあ、こっちにも考えがあるがね。
そうそう。島までの船はこちらで用意してもいいけど、もし自分たちで使いたいというのならば用意するのはやぶさかでないよ。あと必要なものがあったら言ってくれな。できる限りの用意はさせてもらよ」
●リプレイ本文
「ええっと、これとこれを足したらいいんでしょうか〜♪」
エスト・エストリア(ea6855)が一見、妖しげな、そして実際にも怪しい器具を机一杯に広げて、なにやら作っていたのは臨時の本陣となった宿を兼ねた酒場であった。
「天使さんですか〜。解剖したりしたら、錬金術の目的である神への一歩に近づけますかねぇ? うふふふふ〜、これで神の座に一歩近づけるでしょうか〜♪」
さきほどから、ずっと独り言を言っているエストの口許には隠しても隠し切れない微笑がこぼれている。華国のドレスを身にまとう異国の血を引くエルフの容姿は、この場ではあまりにもオリエンタルな雰囲気を醸し出している。宿のおかみもそうなのだが、この村の女性達は金髪、青眼、白い肌という典型的な北欧系の顔立ちが多いせいだ。
「なにを作っているのかしら?」
「錬金術で耳栓が作れないかためしているんですぅ」
「布に海水につけて耳に入れれば、耳栓の代わりなるのではないのかしら?」
紫藤要(eb1040)がニコニコしながら問うた。
「それに、村の人達が貸してくれましたよ」
ヤマ・ウパチャーラ(eb0435)がおかみから耳栓を受け取っているエルザ・ヴァリアント(ea8189)と桜城鈴音(ea9901)を指差した。
「目指せ錬金術の〜達人〜と〜研究所経営〜♪」
まるで聞いていないのか、照れ隠しなのか、顔をそむけ、扉からのぞむ海に向ってエルザは腕を上げる。めずらしく装飾品のかがやきが見えないのが逆に印象的だ。
「さて、行きましょうか! 皆さん」
紫藤が促し、後発隊は宿を後にした。
ちょうどその頃、耳栓をし終えたドロシー・ジュティーア(ea8252)が砂地を踏んだ。寄せる波に、その足跡がさらわれていく。カノン・リュフトヒェン(ea9689)と東雲井(eb0186)もつづいて上陸する。先発隊が島についたのである。
先発隊の三人は顔をあわせ、うなずく。
ドロシーが剣を抜き、あたりを見まわし、カノンと東雲も、警戒しながら浜辺を歩き出した。
しばらく歩くと、森の木々が揺れ、粗末な武器を手にした男たちが駈けてきた。
「女が、この島にくるんじゃねぇ!」
「女は、やさしい天使さまだけでいいんだよ!」
「もう、あんな強暴な女の元にいはもどりたくねえんだよ!」
「天使さまの元に居させてくれよ!」
「じゃれごとをいってんじゃないのねん!」
東雲が走りより、ひとりの男のみぞを刀の柄でうち、ふりむきざまに飛びかかってくる男の首を手套で叩いた。カノンもまた、男のもっていた武器を足でけり落としたかと思うと、そのままかかとを落とし、男をノックダウンさせ、恐ろしいことには、その無理な体勢をさらに回し蹴りにもっていって最後の男までダウンさせたことだ。
「陸に上がった河童のようなものなのねん」
あまりのあっけなさに、東雲が、故郷のことわざを口にした。
ドロシーが用意してきたロープで男たちをしばると、
「偽者の天使を片付けるまでですから」
金髪の髪を揺らし、天使のような微笑みをのぞかせるが、気絶した男たちにとっては悪魔の使いのそれであったにちがいなかったろう。
たしかに、こんな女もいる。
「なさけないなさけないとは聞いていたが、聞きしに勝るな」
縛られた男どもに冷たい一瞥をくれ、カノンは森へと向った。
人が住んでいないとも聞いていたが、人の足に踏み固められ、地面が露出して、ちょっとした小道のようになった場所がある。森の奥へとつづいている。情報から想像するに、この小道は、泉につづいているのだろう。
カノンは、さてと考え込んだ。
ハーフエルフでもある彼女にとって森は、親しく知った場所であるのだが、それとは別に罠に関しての知識はないので、必要以上に用心深くなっているのだ。
運の悪いことに、そういう技術について詳しい知識をもっている者は、この三人の中にはいない。反面、運のいいことに、操られている男どもも、しょせんはその道では素人であり、あったとしても漁師の男たちが作った罠だということである。
「陸にあがった河童がどれほどのことができるのかのねん?」
東雲が、さきほどのことわざをそんな風に言い換えてみせた。
「なるほどな」
カノンは、ほっとした声をあげる。
やはり、相手も手馴れぬことをしたということだ。
道の真ん中に、まわりにない――といって、十数メートル先に見える――木の葉が大量に落ちていたり、草が不自然な方向に倒れていたりする。
こうなると、カノンの森に対する知識と観察力が幸いした。
罠をさけていくと水の音が聞こえ、男たちの声がしてきた。泉のまわりに男たちがたむろしている。木立を利用して、うまく風上に立ち、東雲の持参してきた痺れ薬を、
「問答無用でまくぞん!」
かくして、十数人の男たちをすべて縄でしばりあげることに成功した。
そこが村でいわれた泉であるのはまちがいないようであったが、泉のまわりには人の骨が転がっていて、小道とは反対の草むらになにかひきずったような跡があった。それをつけていくと、やがてその跡は崖にできた小道をつたって海の中へとつづいていた。
水平線には暗雲が立ち込めていた。
そう、まだ春にはなりきらぬ冬の空には雲がたちこめ、時に小雪のまじる北からの風は冷たく、海上の波は高い。けして大きくない船は上下に揺れながら、ぎしぎしと悲鳴をあげては、いくども、いくども頭上すら越える白い波にさらされている。
ヤマは船の縁にしがみつきながら、北の空を見ていた。
彼は、島にドラゴンに関する情報を求めていたが、それは村の女性たちに一笑にふされただけであった。あそこは、たんなる無人の島だという。ただ、そんなやりとりの中で村の女たちがヴァルキューレの子孫だと自称していることを知った。それは、北欧の神話に登場する神々の使者のことである。
ふと、ドラゴンもまた神話から出てきたのかもしれないという考えが頭をよぎった。
「北欧ですか――」
かの地はいまだ沈黙の中にある。
「えッ!?」
波間に立つ女がいた。
白い衣をまとい、背中に翼を広げ、その歌声は、頭に直接響いてくる。
聖なるかな、聖なるかな――
白い翼をもった女が美しい歌を歌い上げると、雲間が割れ、天国の梯子が降りてくるとともに、陽光がその微笑をさす。なんと暖かく、やさしげな笑みだろうか。まるで子供を見つめる慈母である。まるで、その母親が子供を呼びでもするかのように両腕を開き、手をさしのばす。
さあ――
ヤマの指先が我知らずにのびようとする、エストも手をのばそうとしていた。
エルザが頭をだきかかえるようにしながら、膝をつく。
(「気をしっかり持ちなさい私。こんな似非天使に心を奪われて恥かしいとは思わないの!?」)
「うっ!」
こもったような悲鳴があがった。桜城の唇から血がしたたってくる。忍びの娘は、舌をかんだのだ。そして、苦痛に顔をゆがめながらも、クリスマスに手にいれた魔法の衣装で舞った。
天使も、そんな魔法少女の踊りに、ほんの一瞬だけ、心惹かれたらしい。
しかし、彼女たちにとっては、その一瞬で十分であった。
「――火霊よ、その尊き御魂の片鱗を我が前に示せ!」
魅了に抗しえたエルザの火球が天使に向けられた放たれ、天使の化けの皮がはがれる。天使――セイレーンは水の中へ消えた。
船を狙ってくるつもりだ。
どろ〜んと桜城の足元から煙幕があがると、
「時間は稼ぐから、島まで行ってよ!」
といって、海の中へもぐっていく。
水遁の術を使ったのだ。
手の甲に自傷を追いながらも、魅力に耐え切った紫藤が船をこぐ。
海中で何かが爆発がした。
「なにが起きているのかしら!?」
「いいから!」
海上に赤い血が浮かんでくる。
島へつくと、先発隊が出迎え、すぐに迎撃の準備をはじめた。
わき腹をかかえながら桜城が浜辺にあがってくる。
白い砂に血痕を残しながら、仲間たちのもとへよろよろと駆け寄ってくる。冷たい――冬の海にもぐり、心臓が止まらなかったのが、僥倖といえるかもしれない。エルザの腕の中に倒れこんだ桜城の顔はすっかり青ざめていた。
「やったよ‥‥」
それだけ言って桜城は気を失った。
しかし、仲間たちにはわかっていた。あれだけで散るような敵ではない。縄でしばった男たちともども、セイレーンの魅力にとりつかれた仲間には桜城の傷の手当てをするように言いくるめて、その場が離れさせる。
「来る!」
大きな波が浜辺を襲い、去ると、そこには美しい顔をゆがめながらたたずむ女がいた。しかし、それがただの女ではないことは、その魚のような下半身と、ファイヤーボムや微塵の術で全身に受けたはずの火傷の跡が、しだいに治っていくことからもわかる。
「紫藤要、舞闘は夢想流紫藤派、職は給士をさせて頂いております。若輩者ではありますが‥‥行かせて貰います!」
紫藤が斬ってかかるも、それは軽くあしらわれる。しかし、それは囮。東雲とカノンが、つづけざに攻撃を加える。東雲が太刀をあびせ、はらいのけようとした腕によって空いた胸元にカノンが剣をつきたてる。白い肌に再び鮮血の跡が残った。
エルザの唱える魔法の言葉が剣に新たな力を与える。
ドロシーはうなずき、剣を振るうと、炎となった刃から火の粉が舞った。
「行きます!」
ドロシーがセイレーンに一撃を叩き込む。
そして、急所をかばうようにしながら、しかしセイレーンの牙の攻撃を鎧の補強された個所で受け止めながら、積極的に攻撃していく。その戦い方がセイレーンの目を引き、心を奪った。あるいは、そのとき、ドロシーもまた剣戟という楽器で戦いという歌を奏でるセイレーンになっていたのかもしれない。
ついに傷のひどさが、回復を上回り、セイレーンは逃げようとあたりを見まわした。そして、セイレーンが、そのことに気がついたとき、勝負は決まっていた。
いつのまにかセイレーンのまわりをぐるりと冒険者が囲んでいて、逃げ出すことは不可能になっていたのである。
「まったくハードだったわ‥‥――」
セイレーンの耳元に、はたして、その言葉が届いたろうか。
さっと、まわりが飛びのいたとき、多くの男たちを抱き、愛し、そして食してきた女に生涯最後の抱擁が与えられた。炎の精霊に熱く抱きしめられたのである。
火につつまれたセイレーン歓喜とも、悲痛とれる悲鳴をあげ、その声はやがて断末魔へと変わりながら、ほてった体を静めるかのように、女は海へと沈んでいった。海から生まれた女は海へ戻っていった――
最後に男どもの始末が残った。
よりにもよってセイレーンが姿を消し、死体を残していかなかったので、天使さまを求める男どもを説得させるのは骨の折れる仕事となったのである。
本当のことを言っても、このわからず屋どもは理解しなかったのである。いや、あれだけ散々な目にあったのだから、男どもがこの女性陣におびえ、疑うのは無理もないかもしれない。
それに、魔法で見せられた夢はさぞや心地よかったのだろう。
「ま、なにはともあれ、そんな拙いユメからはさっさと覚まさせてあげないと」
とエルザがあきれるほどである。
「家に帰ったら、どんな風にこき使われるかわかったもんじゃねえ!」
「それに、あんたら、あの方にわしらが、殺されるっていうかもしれないだども、どうせ家にいたったわしらは、おっかあに殺されちまだ!」
「うだうだ。同じ、殺されるのならば天使さまの膝元で逝きたいだ」
まだ、多分に、魅力の影響が残っているように見える。
そんな男どもの前にたち、こちらもまだ魅力から醒めたようには見えないエストが手近にあった花を手にすると、それを石に変えてみせ、こんなことを言う。
「天使さまもいなくなっちゃたし、別に〜命があれば、この状態で連れて帰っていいんですよねぇ?」
そう口にしながら彼女が見せた善意からの微笑みは、男たちを絶望の淵に叩き落すのには十分であったらしい。男どもの顔が真っ青になっていた。
桜城の傷を魔法で癒しながら、その様子を眺めていたヤマは、
(「なるほど、これでは女が成仏できないと仏さまが申したのは本当のことです。女性のおもては菩薩であっても心は夜叉であるとは、まこと、仏の教えは尊いものでござます。あ、もちろん、あの天使さまはちがいますけどね」)
そんなことを思うと、女たちにいさめられる男たちに向って、自然に手をあわせているのであった。
合掌――