【ドラゴン襲来】迷子のドラゴン

■ショートシナリオ


担当:まれのぞみ

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月07日〜12月12日

リプレイ公開日:2004年12月15日

●オープニング

 それは君達の耳に各地からドラゴンの襲来の報が半ば日常と化した頃のことであった。
 そもそもドラゴンなどという、なかば伝説のモンスターを一匹見かけることさえ稀であるというのに、それが大挙して人間の町を襲撃してくるなど空前絶後な出来事である。
(「裏になにかある――」)
 そう勘付き、君達がぴりぴりとしていると、
「川にドラゴンがいる!」
 というしらせがまたも入ってきた。
 なんでも街近くの川の中州に、人間ほどの大きさのドラゴンがあらわれて、なにか叫びつづけているというのだ。
 すでに街の代官が川辺の住人たちを避難させていて、事後を君達の腕に託すという話を持ってきた。
 なんでも今回はドラゴンの出現数があまりに多すぎるのでドレスタットの騎士団や自警団、それに警護担当者のいずれの手もまわらないということなのだ。
 代官はこう語る。
「青い鱗をした巨大な海蛇のような姿。それに首の横にとげのあるひれが大きく張り出している様子から、あれはリバードラゴンであろうというのが物知りな魔法使いの見解です。そのドラゴンは現在、川の中州にいて、あいかわらずなにか泣き……いえ、鳴き叫びつづけていると言った方がいいですね」
「泣く?」
「ええ、そんな風に聞こえるという者もいるのですよ。なんにしろ、そいつがいる中州までは橋もなく、船でなくては渡れない場所ですから、それはこちらでどうにかしたいと思います。もっとも、あななたちに策があるというのならば、おまかせします。
 また中州ですが、広さはそれなりにある場所で中央部分は草木がはえ、雑木林のようになっていて、その周囲には砂地が広がっています。ドラゴンはいまのところ砂地の目立つ場所にいて、あっちにふらふらこっちにふらふらと歩いています。
 中州で戦うかぎり、周囲への被害はないかと思いますが、相手が相手ですし、周囲への被害の多少は目をつぶります。ドラゴンの生死は問いませんから、退治するなり追い払うなりしてください。
 ただ、リバードラゴンは竜族でも比較的おとなしい部類に入るといいますし、もしかしたらなんらかの手段で意思疎通が可能であるのならば、戦うことなくすませることができるかもしれませんが……」

●今回の参加者

 ea6115 雷 鱗麒(24歳・♂・武道家・シフール・華仙教大国)
 ea7976 ピリル・メリクール(27歳・♀・バード・人間・フランク王国)
 ea8189 エルザ・ヴァリアント(19歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea8237 アンデルフリーナ・イステルニテ(25歳・♀・ファイター・パラ・イスパニア王国)
 ea8265 空路 道星(30歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea9009 アリオーシュ・アルセイデス(20歳・♂・バード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ea9162 ティアラ・ファルモニア(33歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)
 ea9204 シャムロック・ホークウインド(32歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

『カアチャン……ハラヘッタ!』
「えッ!?」
 それはリバードラゴンのさまよう小島に冒険者達が乗りこんだ時のことであった。
 まだ霧の晴れぬ早朝、小船に乗り、ドラゴンのうろつく小島に渡った冒険者たちは目を覚ましたばかりのドラゴンと対面することとなった。
 冒険者たち……とりわけ紫色の法衣を身にまとったエルザ・ヴァリアント(ea8189)の姿を寝覚めに見つけたドラゴンはうなり声をあげ、牙をむきだしにしながら、かれらをにらんだ。
 いままさに戦いの火蓋が切られようとした瞬間、テレパシーでドラゴンに語りかけようとしたピリル・メリクール(ea7976)の頭に最初に流れ込んできた思惟である。
「どうしたんだ?」
 ドラゴンとの間合いを目で図り、用事しながら右手に持ったハンドアックを握りめたシャムロック・ホークウインド(ea9204)がちらりとピリルに向けた。
 その瞳には、
(「俺が調べた通りなのか?」)
 という問いがある。
「そう! この子、やっぱり迷子みたいなんだよ!」
 事前の協議で、この小柄なドラゴンが迷子になったのではないかと予想はしていた冒険者たちではあったが、それでも現実にそれが事実であるとわかると少し戸惑ってしまうピリルであった。
「ボクの予想は的中! 的中!」
 アンデルフリーナ・イステルニテ(ea8237)は子供のようにはしゃぎながら、友達になろうねとドラゴンに呼びかけ、仲間の準備を手伝いはじめた。
「あたいの歌を聴け〜〜!!」
 竪琴をかき鳴らしながら叫ぶと、ティアラ・ファルモニア(ea9162)はテレパシーでピリルとともにドラゴンの説得にあたった。
 時間はかかりはしたものの、ドラゴンもなんとか理解はしてくれたらしい。
『ネエチャン、ハラヘッタ!』
 あるいは単にお腹がすいて、本来の目的などどうでもよくなってしまったのかもしれないが。
「食べるやろか?」
 空路道星(ea8265)が作ってきた鍋を火にかけている。リバードラゴンが魚を食べるらしいので、わざわざ鶏がらで煮立ててきたらしい。空路の鍋からはいい匂いがしてきて、ドラゴンよりも前に冒険者たちの腹が鳴った。
 気がつけば、太陽はずいぶん上に見えるようになった。
 保存食を取り出してみせて、ドラゴンの目の前でエルザが食べてみせる。ドラゴンに、それが食べ物であることを教えようとしているのだ。
 ドラゴンがなんなのかなといった様子で長い首をひねる。
 このあたり、ドラゴンとはいってもタイニーともなると、その知能は動物とたいして違わないのだ。
 そんなことをしていると、シフールの雷鱗麒(ea6115)がわざわざ岸まで飛んで戻って、村人たちとともに集めていた、さまざまな種類の餌を持ってきた。そんななかに魚があるのを見つけると、ドラゴンはそれを一飲みして、喜ぶような鳴き声をあげた。そして、ドラゴンは魚。冒険者は空路の手料理ですこし遅い朝飯をとることとなったのである。
 やがて太陽が西に傾きかけた頃には、いつのまにか危険なはずの任務は、ドラゴンと少女たちの戯れる場となっていた。
 きらきらとかがやきながら水飛沫がはね、少女たちの笑い声や黄色い声が川に小島に響き渡る。ドラゴンもすっかり少女たちになついている。
「空路、あぶないよ!」
 ドラゴンに抱き着いて遊んでいたアルデルフリーナが突然、叫んだ。
 ドラゴンの背中に乗っていた空路が、その背中でうとうととなって、そのまま川に落ちてしまったのだ。
「いったいし、冷たいんだよね」
 びしょぬれになった空路は、口でこそそうは言っているくせに、すこしうれしそうな表情をしている。まわりでは笑い声があがり、ドラゴンも笑っているように見えた。
 そんな様子を、シャムロックが横目で見ている。
 世間のハーフエルフに対する扱いに心を痛めるピリルが、その種族の戦士の顔をのぞきこんだ。人間とエルフの血を継ぐ者の顔は用心深くもローブの奥に隠れている。
「気にするな。誰も好きこのんで孤独でいるわけじゃない。ただ……」
「ただ? そういえば、もうひとりはどうしたの?」
「だから、そいつを待っているのさ」
 その頃、もうひとりのハーフエルフ、アリオーシュ・アルセイデス(ea9009)は船上にいた。別に用意した小船に乗りこみ、小島から離れた葦深い川下にいる。
 エルザの聞きこみ、それに空の上にいる雷から逐次もたらせる報告、そしてなによりアリオーシュ自身の読みが、この近くに子供ドラゴンの母親が近くにいることを指し示しているのだ。
「さてと――」
 アリオーシュは横笛を取り出した。
 一息つき、唇をあてる。
 横笛を吹きだすと、それは子供のドラゴンの鳴き声に似た音となった。
 遠くで応えるような鳴き声がした。
「来たか?」」
 笛を吹くのにも力が入る。
 その声がだんだんと近づいてくる。
 アリオーシュは空に向かって指を立てた。
「了解!」
 空では雷がいまかいまかと待ち構えている。
 足元に揺れを感じ、アリオーシュは小船のへりをもち、腰をかがめた。
 川面が波立つ。小船が激しく揺れる。船の底に不気味な黒い影が浮かんできた。
「きやがったか!」
 やがて川面から首がせり出てきた。
 リバードラゴンである。
 小島にいるドラゴンより大きなそれは、狼狽したようにあたりを見まわし、うなり声をあげている。まさに子供とはぐれた母親のそれである。
「落ちついてくれよ」
 アリオーシュは祈るようにつぶやき、心に澄んだ水をイメージしながら笛を吹きつづけた。その思いが通じたのだろうか。母ドラゴンの慌てぶりが落ちついたように思える。そして、雷が呼ぶ方へ向かう。
「こっちだぞ!」
 雷の目に小島が見えてきた。
 ドラゴンが鳴き声をあげた。
 遊んでいたドラゴンの動きが止まった。やがて、子供のドラゴンも声をあげる。母親のドラゴンが応える。それが幾度か繰り返され、少女たちが離れると、ドラゴンは名残惜しそうに小島から離れ、母親の側へ泳いでいった。
「バイバイ!」
 アンデルフリートが二匹に手をふった。
 二匹のドラゴンは何事か鳴きあい、首を寄せ合う。やがて、よりそいながら、水の中に消えていった。
「やっぱり、問題は色だったのね」
 エルザがぽつりとつぶいた。
 いつの間にか、エルザの肢体を被うものは紫色のローブではなくなっていた。そのせいか、以前の2回のように母親のドラゴンから威嚇されることはなかったのである。
 ティアラの歌声が夕暮れの川辺に響く。
「傷つきながら戦う背中――」
 それは、ティアラがドラゴンを説得している時に唄った歌であった。そして、それは別れの歌にもなった。
「なにを捜しているの――」
 ティアラの心には、母親のドラゴンの声が返ってきていた。
 母親のドラゴンも宝がどんなものか具体的には知らないという。
 自分は見たこともないが、より高位のドラゴンから捜すように命じられたという。そして、その大切な契約の品は見たことはなくともドラゴン族にはわかるのだとも。
 ティアラの歌が終わったとき、太陽が水平線に落ち、日が暮れた。
 ふだんの川辺が戻ってきていた。