【ドラゴン襲来】 暗殺!

■ショートシナリオ


担当:まれのぞみ

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月30日〜05月05日

リプレイ公開日:2005年05月08日

●オープニング

「いいですわね! これをエイリークに! これは、衣装を通して肌からしみこみ、やがて体を弱らせる毒だそうです‥‥――」
 そのささやくような、しかし鋭い声を偶然にも君達が耳にしたのは、港の小道でのことであった。
 宵の月は雲に隠れ、ドラゴン襲来におののくドレスタットの街は深い沈黙の中にある。しかし、海面にきらめく街のあかりは、同時に街の人々のあきらめぬ意思の光を映しているかのようである。
 そう、まだ希望はあるのだ。
 身を呈して、それと戦っている冒険者たちと、その上に立つひとりの男、赤毛のエイリーク――海賊から成り上がったという、ドレスタットの統治者である。
 ドラゴンの襲来により、きわめて不安定となっているこのドレスタットの地がまがりなりにも平穏を保っていられるのは、彼の豪腕ともいえる統治によるところが大きい。
 ただそれゆえ、それに反発する者も少なくはない。
 とりわけ実力はなくとも先祖伝来の地位だけはある貴族たちにとっては、実力本位を唱え、自分たちをないがしろにする、その存在はおもしろくないのだ。それに、エイリークが前の公爵の忘れ形見を娶ったことにより、家柄的もまた自分たちと同じになったということも気に入らないらしい。
 下々にしてみれば、卑しい出自の者を、なにもそこまでねたまなくともとなるのだが、貴族にしてみれば、自分たちの庭に土足で入り込んできて、主人ぶる、その男が心からにくかったのかもしれない。
 だから、瓶を渡すとローブの――声の質からの想像だが――女がやがて貴族の屋敷が連なる界隈に消えていったのは不思議ではない。また、その瓶を受け取った者が小走りに闇を抜け、領主の館へ向かったのは意外でないだけに恐ろしい。
 館の裏門にたどりつくと、その者は扉を叩く。
「帰りました。ミーアです」
 門が開き、灯火を掲げた門番が顔をのぞかせる。じろりとその者の顔を確認すると、やがて男は笑顔になった。
「帰りが遅くなりましたな」
「ええ、すこし遠出してみましたの。でも、おかげでよい生地を手に入れることができましたわ」
 青い瞳をかがやかせ、金髪の少女が笑みを浮かべた。
 その純真な笑顔からは、彼女が暗殺者なのだとは俄かには信じられない。いや、それこそが、彼女が、そういう風に教育を受けてきた証拠なのかもしれない。
 ミーアと名乗った少女は生地の束を門番に見せた。
「そりゃあ、よかった。こんどのパーティーはめずらしいことに、名だたる貴族さまたちがそろって顔が出すとかいって、エイリーク閣下もはりきっておられるしな」
「私も女官長から、しっかりと新しい衣装を縫えっていわれて大変なのよ。そういえは、エイリークさまは今晩もお出かけなの?」
 その問いに門番は苦笑いで応える。
「ご領主さまは、きょうも帰ってこないそうだ。どの高官とお会いしているかは、存じ上げないがな」」
「奥方様も、さぞやさびしいでしょうね」
「まったくだ。うわさ好きの女官たちが今晩もプンプンだよ。明日は、明日でまた閣下と女官たちの修羅場が待っているだろうな」
「女官長さまが、そちらに行かれますように」
 そんな風に祈って見せて、暗殺者は標的の懐に入っていった。


「ガルスヴィントも、あんな男とさっさと別れてしまえばいいのに」
 ローブをぬぎ、その女は、エイリークの妻の名前をつぶやいた。
 雲間から月光がさしこんでくる。
 銀髪の女に月の光がかかると、やや眉のつりあがった顔に憂いが浮かんでいることがわかる。数日前、屋敷に出入りをしている占い師に、ふと漏らしてしまった本音――あの娘のことが心配――そんな言葉がめぐりめぐって、こんなことになってしまった。
 もう後戻りはできない。
「でも、あの娘の幸せの為には‥‥」
 女の爪がやわらかな手のひらにくいこみ、ふるえている。
 占い師から渡された毒を、いわれるがまま、あの名も知らぬ娘に渡してしてしまったいま、自分の手はすでに罪で汚れている。
 部屋へ戻ると執事の声がした。
「フレデグント様。エイリーク様主催のパーティーへのご参加はいかがお返事すればよろしいでしょうか?」
「もちろん出ますわ。あの娘‥‥ガルスヴィントにも会いたいもの。どうしているかしら? ひとりで大丈夫かしら? あんな不実な男のもとで幸せに‥‥――」
 ベットに倒れこみ、罪を背負った女は、深く、そして不快な夢へと落ちていくのであった。

●今回の参加者

 ea3191 夜闇 握真(40歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea5640 リュリス・アルフェイン(29歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea7586 マギウス・ジル・マルシェ(63歳・♂・ジプシー・シフール・ノルマン王国)
 ea8872 アリア・シンクレア(25歳・♀・バード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 ea9085 エルトウィン・クリストフ(22歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 ea9517 リオリート・オルロフ(36歳・♂・ナイト・ジャイアント・ロシア王国)
 ea9935 ユノ・ユリシアス(35歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 eb0131 アースハット・レッドペッパー(38歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

「それでは、今日から皆さんといっしょに働くことになった子を紹介しましょう」
 開け放たれた窓からさしこんでくる陽光はきらきらと光り、すでにどこか夏の香りのする風がさわさわと緑の枝葉をゆらしている。
 普段は、厳しくメイドや女官たちを指導する女官長も、この時ばかりは目元にかすかな微笑がまたたき、メイドたちも口元を隠しながら、くすくすと笑っていた。
「さあ――」
 そんな言葉にうながされ、女官長の背中から、新しいメイドが顔をのぞかせる。もじもじとしながら、それにちょっと恥ずかしそうな表情でうつむきかげん。
 さあさあと背中をおされると、
「お、俺は‥‥」
 と自己紹介を言いいかけて、口の中でもごもごとなってしまう。
 そのとたん、周囲では黄色い笑い声があがった。
 メイドの格好をさせられた夜闇握真(ea3191)は顔を真っ赤にしながら顔をあげる。自分から望んだこととはいえ、まさかメイド姿になった上に化粧までさせらるとは思わなかった。世の中は意外に満ちているのだ。意外といえば、あの夜、怪しげな薬を館に持ち込んできたミーアがまるで自然に、その場に溶け込み仲間たちとともに、その年頃にふさわしい笑みをこぼしているのが、意外であったかもしれない。
 彼女は、下級貴族の養女で、有力貴族の推薦で館に来たのだと、エルトウィン・クリストフ(ea9085)は仲間たちから聞いた。
 エルストウィンも夜闇と同じように、メイドとして館に入り込んでいたのである。
 館の主人の訓戒が行き届いているのか、女性たちの頂にいる奥方、ガルスヴィントの鷹揚な性格のおかげか、ハーフエルフである彼女を怪訝な目で見るものはいても、口や行動でそれと差別するような者はいなかった。
 まあ、本人は自分のことを山エルフなのだと言い張っているのだが。
 そういえば、ガルスヴィントは、ここしばらく昼間には館にいないことが多い。
「どこで、なにをしているやら?」
 とエルトウィンも仲間どうしで噂をしあったりするのだが、それがすぐに不倫では‥‥と疑われたりしないのが人徳というものなのだろう。
 さて、少なくとも女性関係においては人徳のなさをドレスタット全土に露見している奥方様の夫殿は、その日もまた、ひとりの女性と面会していた。
 秘密の話があるということで、側近たちすら場をはずさせている。
 相手は、男好きしそうな豊満な体を魔術師のローブで隠す女である。
「私はドレスタットの街が好きです。街は領主を映す鏡である、と思っています。この街を殺させるわけには‥‥いきません」
 ユノ・ユリシアス(ea9935)は、そう言って話を切り出した。
 彼を狙っている者がいること。それは、たぶん皮膚にしみこむタイプの毒であろうこと。その能力を効率的に使うには服に塗りこむであろうこと。
「それで、あ、あの‥‥それで代わりのお召し物を用意させていただきますので、よろしければ、新しいお召し物の為に身体周りを測らせていただけけませんか?」
 そんな衣料品を商う両親に生まれた娘の申し出に、しばらくいぶしがっていたエイリークであるが、やがて、にっこりと笑い、立ち上がると、ユノに身をまかせた。
 しばらく時間がたち、体の大きさを測ることは終わった。
「さあ、これで終わり‥‥――」
 ユノがそう言いかけたときである。
 エイリークがその体を抱きしめた。あまりのことに、ユノの顔は真っ赤である。そして、どきどきと鳴る胸の鼓動のタイミングを知り、それに合わせるかのような甘言。
「できれば、少し大きめに作ってはもらえないものかな? それと、服を作ってもらえるお礼に、こんど食事でもどうだい?」
 エイリークは、やさしげな光を目に浮かべる。
 もう、なにがなんだかわからない。
 すっかり動転したユノの耳元に、甘い誘惑の毒がしみこんでくる。毒を注意にきたにもかかわらず、すっかりユノの心に毒がまわっている。もはや気分は天国、夢の中。ユノはすっかり、なされるがまま。
 女の顎に男が指をあて、唇を近づけ、と、その時である。
「エイリーク様!」
 鋭い叱責が飛び、扉が開く。
 そこには眉をひそめる女官長がいた。そして、その背後には手に手に掃除道具や調理器具をもった女官たちの群れ。
「まずい!」
 そういってエイリークは、別の部屋の扉を開けると、一目散に逃げ出だしていった。女官たちが、その後を追う。
「奥方様がいらっしゃらないからといって屋敷の中でまで!」
「この女の敵!」
 静かになった部屋には、顔を真っ赤にして、ただ呆然と天をあおぐ女だけが残されたのだった。

 ※

「‥‥――に、ムモルス男爵。シギベルト候、それになによりも前のドレスタット領主の弟でもあり、領主の奥方様の叔父でもあるキルペリク伯か」
 リュリス・アルフェイン(ea5640)がそこまで名前を読み上げると、リオリート・オルロフ(ea9517)は困ったような顔となり、アースハット・レッドペッパー(eb0131)が苦笑した。
 どこをどうやれば、ここまで多くの貴族を敵にして、それでも権力基盤を維持することができるのか。
「ある意味、才能だな」
 リオリートは頭をかいた。
 リュリスとリオリートが調べたところによると反エイリーク派と目される貴族たちは、ドレスタット全貴族の中に少なからずいて、旗幟を鮮明にしていない者たちを総動員することができたのならば、勢力的には、エイリーク派に対して戦争を起こしても勝てるかもしれないという思いを抱かせるほどの数であった。
(「誘惑を感じさせるな‥‥」)
 リュリスの心に、そんな言葉がよぎった。
 そして、それは時を同じくして、ドレスタットのどこかで、何者かがつぶやいた言葉でもあった。
「さて、仕事をしようぜ」
 アースハットが、しだいに会場に入ってくる客たちをちらりと見て、手を叩き、仲間たちを促した。その言葉どうり、貴族たちがぞくぞくと会場に入ってきている。
 さきほど、名前の出てきた貴族たちの姿もちらほら見え始めている。
 さて、その頃、その貴族たちの怨嗟の的である男は、
「ったくよ、あの女どもは‥‥――」
 いててと体をさすりながら、ミーアの用意した服――パリの仕立て屋がやったにしては雑な仕事をしている――に目をやっていた。
(「そういえば、やつはプリスクスの紹介だったけかな?」)
 しかし、目をくべたのはそれだけ。
 銀色のなにかを着込むと、ユノが用意した大きめの服を手にした。
 と、扉を叩く音がして、アリア・シンクレア(ea8872)が部屋に入ってきた。彼女は、こんな忠告をした。
「毒がお飲み物に入っているかもしれません。何も飲まず、食べないようにしておいたほうがよろしいかと思います」
「ありがたい忠告だな」
 そういってエイリークはアリアの瞳を見つめた。
「しかし、俺は、乾杯をし、杯をあげなくてはいけないのだよ。それが領主の務めというものなんでね。たとえ、それが毒杯であっても笑ってそれをあおるくらいのことをしなくては、誰が俺の後ろについてくるんだ? 俺は代々の貴族とはちがうんだ。皆に、俺という存在を疑わせてはいけないんだよ」
 表情を変えぬままアリアは頷いた。
「わかりましたわ、閣下。もしもの場合は、解毒薬を用意してお待ちしています」
 そんなふたりがやりとりをしている部屋の外から、くすくすと笑う声がしてきた。
 アースハットがナンパしていたのだ。一緒にいたのは屋敷で働くメイドで、いかにもアースハットが好みそうなタイプである。
 そんな横を、アースハットが手を出すのをためらうような、銀髪のいかにも気位が高そうな女が横切っていく。その女は、ふたりに冷たい一瞥をくべると、エイリーク夫人の部屋へと入っていった。
「おおぅ、こわい、怖い。男なんて不潔な存在とか思っていそうだな」
「プリスクス候のご息女、フレデグントさまよ。まあ、あなたの言うとおり、大の男きらいのひとなのよね。それよりも‥‥」
 といって、メイドはアースハットの耳をつねった。
「フレデグントさまが潔癖で怖いってことは、逆に、わたしが尻軽ってことかしら? 今夜は長いわよ、たっぷりとお話をしましょうね!」

 ※

 吟遊詩人が弦をはじき、娘たちが踊り、杯がゆきかう。
 夜闇が味見した酒を杯につぎ、エイリークが乾杯すると、その夜のパーティーは始まった。こんど行われる船舶レースの前祝だとかなんとか理由はつけられてるが、ぱっと派手なことをやって沈みがちな人心を盛り上げようというのがエイリークの意図らしい。
 エルトウィンが給仕をしながら、耳をそばたて、会場の様子を伺っている。
「こんな時に‥‥――」
 ドラゴン襲来で疲弊した状況にもかかわらず行われた夜会に眉をひそめる者がいる。純粋に楽しむ者がいる。しゃべり声や笑い声がこだまし、音楽が鳴り響く。
 いつしか会場には、いくつかのグループが生まれていた。
 ひとつは、暗い顔をした者たちが顔をそろえ、話される声は小さく、話は深刻なものへと変わっていく。一方では、エイリークの周辺に、その後援者たちが集まり、わいわいと騒いでいる。エイリークはご機嫌な様子で、その両方のグループの島々へ酒を片手に笑顔をふりまいているのであった。
 そんな中、会場の隅では、マギウス・ジル・マルシェ(ea7586)が小道具を持ち込むのを見つかってしまい、ガルスヴィントにせがまられるままに手品をやって見せていた。ただ、その表情はさえない。
「なにか心配ごとでもあるのかしら?」
「さっきユノって友人に会ってきたら、なんかぼーとした様子で、ちょっとおかしかったんだよね。それが、気になっているんだ。でも、奥方さまも、なにか様子がヘンなんだけどな?」
「ご友人の方が心配ですわね。私の方はどうってことはないですわ。ただ、ちょっと‥‥ごめんなさい。今晩は、早々にお暇させてもらいますわ」
「なんですって!」
 フレデグントが悲鳴をあげた。
「どうしたの、どこか悪いの? ヘンなものを食べたりはしていないわよね。熱はないようだし、やっぱり、こんなところにいて気持ち的に疲れたりしているの?」
 まるで、子供を盲愛する母親のようである。
「もしかして、ご懐妊なのかな!」
「なにを言っているの! あんなふしだらで、身勝手な男の子供を、こんないい子が宿すわけがないじゃないのよ!」
 半分は正解ながら、半分は意味不明かつ誹謗中傷以外の何物でもない。
「フレデグントさまったら。それにマギウスさんも‥‥ただ、疲れているだけですわ。ちょっと、眠くて‥‥」
「ならば、いいけど‥‥あんな男のもとで苦労していない? 大丈夫? 大丈夫?」
「大丈夫! 幸せですから――ちょっと、疲れているだけですは。おやすみあそばせ」
 そう言って、ガルスヴィントは会場を後にした。
 ふいにフレデグントは何かに気がついたような表情になり、とたんに顔から血が引いていった。
「まさか、あの娘! エイリークじゃなくて、間違えて、あの子に体を弱らせる薬を使ったんじゃないでしょうね!」
 そして、その言葉がキーワードであったかのように暗殺者が動き出した。
 極端なことを言ってしまえば、人を殺めるのには大立ち回りをする必要はない。一瞬の隙をつき、必殺の一撃をあたえればよいのだ。だから、リオリートたちが壁のようにエイリークの前に立ちはだかっていたところで、その隙をつかれてしまったら終わりなのである。
 突然、距離を置いていたミーアがエイリークの傍に駆け寄っていった。テーブルにあった、果物用のナイフを手にすると、彼女はエイリークの横腹にナイフを突き立てる。しかし、その一撃は服に傷をつけただけであった。装束の下に隠されていた鎧によってはじかれたのだ。
 場の空気が固まる。
 エイリークが一笑した。
「心配するな! これはちょっとした事故だ! そうだな! そうだよな、そこのシフール!」
 そういってエイリークはマギウスに声をかけた。
「はい‥‥」
 という返事に、魔法の言葉が混じる。
 と、ミーアは、エイリークの腕の中へ倒れこんでしまった。
「どうやら、体調が悪かっただけのようだ! 昼間の鬼ごっこでも顔を見かけた娘だしな! それに、これも昼間のつづきかい女官長殿?」
 その日、はじめてエイリークの表情は、得意がる子供のような表情になっていた。
 ただ、それとは対照的にフレデグントが真っ青な顔になって出て行くところを、リオリートは見逃さなかった。後をつける。屋敷を抜け、街にはいり、そして下町へゆく。そして、一軒の家へ入っていくと、悲鳴があがった。
 リオリートが剣を抜き、突入すると、そこには死体となった占い師を前にしてわななくフレデグントの姿があった。
「なにもかもが、予定外だな!」
 リオリートは舌打ちをした。
「しかし、これでいいのか?」
 暗殺の未遂を強引に、メイドたちの余興ということにしてしまい、場のしらけたパーティは、そのままお流れとなってしまった。
 失敗といっていいかもしれない。
 来賓としてパーティーに顔をだしていた冒険者ギルドの長であるシールケルが、あきれたように、依頼主にたずねた。こんな騒ぎを起こしてしまったのでは、失政ではないかと問うているのだ。しかし、それに対してこの件の依頼主‥‥エイリークは苦笑いするだけであった。
「まあ、ここまでは、こんなもんだろう! だが、これで事態は動くさ。良くも悪くも。まあ、しばらく、受けにまわらねばならんというのが気にいらんがな!」
「いや、それもそうだが、お前を狙った、あの娘たちだよ。両方ともプリスクス候の関係だろ?」
「その始末か‥‥頭が痛いな――」

 その頃――
「これでよろしいのですかな?」
 エイリークの胸に刃をつきたてそこねた黒幕に、それは問うた。
「重要なのは、奴を殺すことではないのじゃ。我らは嚆矢となりさえすればよいのだ。誰もが期待していた、背中からの一押しにな! それに、これでヤツも自分が裸の王様であることに気づいたじゃろうな。よりもよって、エイリーク派とされる貴族の紹介で屋敷に入った娘が、自分の命を狙ったのじゃからな。しかも、その娘が雇い主じゃ! エイリークも、いままで頼っていた貴族たちにも疑いの目を向けるじゃろう」
「そうか」
 そう言って、それの気配が消えると、キルペルクは小さな笑い声をあげた。
「しかし、わしとしては、あの憎らしい姪の婿殿には、まだ生きていてもらわねばならんのだがな!」