【ドラゴン襲来】 野に争いの炎は放たれぬ
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■ショートシナリオ
担当:まれのぞみ
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 81 C
参加人数:12人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月24日〜05月27日
リプレイ公開日:2005年06月01日
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●オープニング
深夜のことであった。
突然、アルスカントと呼ばれる村の一角から火の手があがった。
火矢が打ち込まれたのである。
そして、奇声をあげながら化け物どもの一団が村へなだれこんでくると、それは虐殺の幕開けとなった。
寝込みを襲われた村人たちに一体なにができようか。
一夜の眠りが、永遠の眠りに変わった者もいる。
目を覚ましはしたものの、それによって見た者は愛する母子の死体であったり、自分にふりおろされようとした刃であった者もいる。
運良く難を逃れえた者もいるが、それは単に命を永らえたということだけであったかもしれない。
なんにしろ、その夜、村を襲った悪夢は、燃え上がる炎に、血に酔う化け物どもに姿を変え、現実となって村人たちの前にあらわれたのである。
いまもまた、悲鳴があがった。
(「予定どうり、一暴れできましたぜ!」)
(「そうだな、食いもんをかっぱらうこともできたし、とんずらするぞ!」)
絶命した女から槍を抜いた化け物が叫んだ。
そして、部下どもに命じる。
(「よし! 俺の後についてくるんだぞ!」)
槍を振り回しながら叫ぶと、その巨大な鬼は眼前をにらみ、かまえる人間どもに襲い掛かった。その槍の腕はたくみで、一撃ごとに、首が、腕が、跳び、いどんでくる者たちをはねのける。まさに鬼神のごとくといってよいかもしれない。たまたま村の宿に宿泊していた――近くにお宝があるという噂の洞穴があるのだ――わりと手馴れた戦士たちまでもがあしらわれる。そして、突破口を開くと、あとは一目散。はじめから、それが手はずであったかのように、化け物どもは洞穴の方向へ向かって撤退していったのであった。
翌朝、まだ日がのぼりきらぬうちに、付近の砦にいたムモルス男爵が村にやってきた。髪に白いものが見え始めている初老の男は、廃墟となった村をなかば呆然とした目で見つめ、声を失いかける。
しかしそこは武人の常と自分に言い聞かせ、部下にドレスタットに至急たつようにと命じた。そして、自分はただただ立ち尽くし、泣くだけとなった村人たちのそばに立ち寄り、声をかけるのだった。
(「さて、エイリーク殿、いかがなされるますかな?」)
と心の内につぶやきながら。
●リプレイ本文
「失礼させてもらう」
マクダレン・アンヴァリッド(eb2355)が扉を叩くと、バカ野郎といううなり声が聞こえた。扉を開いてみれば、机に向かい、書類と格闘していた冒険者ギルドの主の口から何度となくもれる怨嗟の声であったのである。
「聞きたいことがあるのだが?」
「あ、冒険の途中で使った金や食料を配ったりしたのならば、あとで請求してくれ。エイリークのバカの元に後で取立てに行くからな。なんなら、水増しでもかまわんぞ!」
マグダレンは苦笑した。そんなことを聞きにきたのではない。
「シールケル殿。私はね、今回もロキという男がエイリーク卿を貶める罠のひとつだと思っているんだよ」
そう語りだすと、ほぅというため息がもれ、シールケルが振り返った。
「察しがいいご老体だな。ああ、あのバカも同じことを言っていたよ。だから、本当ならばもっと日数をかけてもいい依頼なんだが、3日でこなせなどという無理をいってきやがった。しかも、報酬は通常の額だとよ。バカもバカなりに利口になったもんだ」
「それでムモルス卿は敵か味方か‥‥」
「中立だ!」
シールケルはさらりと言ってのけた。
「いまのところはという前置きがつき、しかも非好意的なという形容詞をつけなくてはならないがな。だから、今回の日程も、きわめて政治的な判断によるものだ――というのが、今回のスポンサー殿の見解だ。それで準備はどのくらい進んでいるんだ?」
「それは――」
月が中天に上る頃となった。
「さあ、出発だ!」
湯田鎖雷(ea0109)が愛馬めひひひひんに飛び乗ると、仲間たちに向かって叫んだ。ケヴァリム・ゼエヴ(ea1407)がユダくんのボーダーコリーに乗って、よりそうように足を進める。他の仲間たちも口少なに駒を進めた。
そんな中、カラット・カーバンクル(eb2390)が馬上で眠たそうに目をこすっている。仲間からお金を集め、すでに閉まっている店の扉を叩き、無理をいってお願いをしたり、頭をさげたりして集めた食料品や医薬品がいま、仲間の馬たちにくくりつけられている。まずは、いい仕事をしたということだろう。夜は更け、月の西の方に傾き、しだいにカラットはうとうとしはじめ、横にいた人馬の姿がいつしか消えていることには気がつかない。
「風が、泣いているの‥‥」
代わりのように、ラスティ・コンバラリア(eb2363)は何かを感じ取ったのかもしれない。その憂いの浮かんだ銀色の瞳には、空に立ち上る一条の煙が映っていた。
しばらく、何事もなく時間が過ぎ、いつしか東の方が紫立ち、雲が茜色に染まりはじめる。そんな中、風が吹くと、さわやかなはずの朝の空気にまじって、まだかすかに残る血の匂いと肉のこげた香り。そして、なによりも死臭がただよってきた。
「流石に、これはひどすぎますよ」
村にたどりついた時、あまりのありさまに、レミナ・エスマール(ea4090)はなよなよと半壊した壁にもたれかかってしまった。そのさまは、そこが、かつて村であったと呼んだ方がよいほどまでに荒れ果ててしまっていたのである。騎士たちが、村の中央に死体をならべ、それを火にくべている。ズゥンビ対策なのだという。レミナはようようと立ち上がると、死者に祈りを捧げた。煙とともに、その言葉もまた天へ上っていく。
すでに一足はやく村についていたジノ・ダヴィドフ(eb0639)が保存食やワイン、それに水を配っていた。カラットたちも炊き出しの準備を始める。
一方で、祈りを終えたレミナやヤマ・ウパチャーラ(eb0435)が怪我人に癒しの魔法を唱えたりしていた。
そんな作業も一段落すると、ヤマは、準備していた心の癒しを疲労してみせた。
「さあ、皆さんに挨拶なさいさ!」
(「ばうぅ?」)
ヤマの飼い犬がなんですかという感じで尻尾をふり、首を傾けた。まわりに集まってきた子供たちの表情にわずかばかりの笑顔が戻り、笑い声も聞こえてくる。
「ありがたいものだな」
そんな笑い声にひかれるように、冒険者たちのそばにひとりの男が近づいてきた。
「ひどい連中じゃよ。特に食料を持っていきおっての困っていたところなんだ。わしのところの倉庫も、昨年のドラゴン騒動以来いろいろ持ち出しが多くてな、すっかり空になっておるのでな。しかも、人手が足りず村を守ろうにも、攻めようにも、砦には庭師や料理人、それにわしを含めても30人しかおらんでな」
その目元は、数日らいの激務のせいでくまができている。その背後には、おびえたように男のマントの裾を小さな手でつかんでいる幼子がいた。そんな子供に腰をまげ、視線をあわせてジノが腰からなにやら羽を取り出すと、
「見てみろ! これは天使の羽だ! 俺には天使がついているんだ。だから絶対に!」
子供が目をかがやかせて、うなずいた。マントの男の口元にもわずかながら微笑が浮かんでいる。
「このような格好で失礼するよ。わしがムモルスだ」
※
朝日が木々からこぼれ、小川の水がきらきらとかがやきだす頃になってはじめてシルフィーナ・ベルンシュタイン(ea8216)は馬から降りた。単独行動という形になってはしまったが、どうしても怪しい洞窟をまず見ておきたかったのである。
事前の調査では、崖の上にそれはあるという。
「無理させちゃって、ごめんね」
馬から下りると、シルフィーナは馬の首をやさしくなで、小川につれていってやった。一夜、ほとんど休むことなく走らせてしまった愛馬に、このあたりで休息をとらせてやりたいのだ。水を呑ませ、野菜を取り出して食べさせる。そして、ブラシで毛をそろえようとすると、突然、馬は何かに気がついたのか、おびえたようにいななき始めた。
「あら?」
崖の上の小道をなにかの影がよぎる。シルフィーナが、あわてて愛馬とともに木の影に隠れると、その小道を巨大な影が過ぎ去り、その後をゴブリンたちが何かの袋を肩にかついで行くのが見えた。
「お引越しなのかな?」
※
「砦にだと!?」
その日の夕方、乾いたパンを水で胃に流し一昼夜ぶりの食事をし終えたムモルスに、カールス・フィッシャー(eb2419)をはじめとする冒険者たちが提案をしてきた。
村人たちを砦に連れて行けというのだ。
「また化け物どもが襲ってくるかもしれいない。そんな時、村人たちを庇いながらでは私たちが不利になる。おぬ‥‥あなたも騎士ならば、それくらいおわかりのはずだ」
「奴らが再び襲ってくる? これ以上、この村から何を奪えるというのだ? 鼠が食べるような食べ残しをかね? 廃材をかね? それとも、死体をかね?」
「子供たちの未来をです!」
ラティスの眼光が矢先のようにムモルスの瞳を射る。幼い頃、両親を化け者どもによって失った娘にとって、それは譲れない願いでもあった。
「だからこそ村人たちを、あなたの砦に避難させてもらいたいのだ。あるいは、あなたとその騎士たちが退治に行かれますかな?」
マクダレンが最後に念を押した。
冒険者たちの視線が試すように自分のことを見つめていたことに気がついていたであろうか。やがてムモルスもうなずかざるを得なかった。
「わかった。残った村人たちを砦に連れて行くことは認めよう。しかし、途中で襲われたらどうする? 我々には老人、子供ばかりか病人やけが人たちもいるのだぞ? たしかに砦まで数マイルも離れていないから馬ならば、それこそあっという間だが、徒歩の者ばかりで、もし、その間に襲われたりしたら? この数で守れるのか?」
「それは、大丈夫だと思いますよ」
夕闇の中から声がした。シルフィーナである。
「どうだった?」
雅上烈椎(ea3990)が声をかけ、手短に互いの状況を連絡しあう。仲間たちも結果として偵察をまかせることになってしまった少女に質問を投げかける。やがて、その情報を収集した結果、当初の予定をいくらか変更することになりはしたが、隊をふたつに分けることは事前の予定どうりである。
「じゃあ、こっちこっち」
翌朝、犬に乗ったケヴァリムが手旗を振ると、ヤマの飼い犬がうれしそうに尻尾をふりながらその後につづき、子供たちが好奇と笑い声をあげて、ついていく。そして、その後ろを大人や台車に乗せられた者たちがつづく。その脇には、湯田たちがついていた。
かくして、冒険者たちの一隊は盾となって村人たちを守りながら砦に移送し、もう一隊は剣となることとなったのである。
※
(「おい、お前が最後だよな?」)
自分よりもえらい、大きな角のあるヤツから、最後に洞穴から出てきた連中の世話をするようにと言われたホブゴブリンは連呼をとった。
(「へい。あちきで終わりでやんす」)
重そうな袋をかついだ最後の一匹が応えた。
(「そうか、なら行くぞ!」)
ホブゴブリンは、仲間に命じて、しばらく住んでいた洞穴を後にした。
なんにしろ、ここしばらく楽しいことがつづいた。
村を焼き、人間どもを殺し、食べ物を奪い、なんとも満ち足りた気分でいっぱいである。しかも、これからまだまだすることがあるという。ぞくぞくとする。
(「まあ、あの方にはおよばねえけどな」)
と、そこに前方にいた一匹がやってきて耳打ちをする。
(「おい、どうした?」)
(「人間の娘らしきもんが森の真ん中にいやす」)
(なにをしているんだ?」)
(「へい。どうやら怪我をしているみたいで、道のすみっこに腰掛けて‥‥ひょっとして、この前の村の生き残りでは?」)
(「そうか‥‥ならば、殺っちまえ!」)
なんの考えがあるでもなく、いつもどうりのことを言ったとき、突然、頭の中に誰かの声が響いてきた。
(「何故君がここにいる? 計画の変更を知らないのかい?」)
(「だ、誰だよ、て、てめえは!」)
ホブゴブリンの叫び声に、駆け出そうとしていたゴブリンたちが足を止めて、怪訝な目で見返した。
(「な、なんでもねえよ!」)
そういいながらも、 恐ろしいことに、まだ、その言葉は頭の中で語りかけてくる。
(‥‥伝令は、もう着いていたと思ったのだが?」)
ホブゴブリンは恐ろしさのあまり歯を鳴らし、あたりを見回し、頭をふるった。じぶんがどうかしてしまったのかと思ったのだ。
(「見当ちがいか!」)
舌打ちを最後にして、その声は消えた。
突然、左右の木々がゆらめいた。
白刃をきらめかせ人間やエルフたちが襲ってきたのだ。あまりにも手際がよすぎる。部下たちが対応する間もなく、一匹、一匹と血祭りにあげられていく。ホブゴブリンもあわてて剣をかまえたところで、なにかが足元でうなり、わけもわからぬまま。転がり、そして立ち上がろうと顔をあげた瞬間である。
ホブゴブリンは、自分に振り下ろされる日本刀の刃先を見たのであった――そして、遠のく意識の中で、彼を殺めた日本刀をぬぐい、雅上烈がそれを腰に戻す姿をみつづけていたのであった。
「これで終わりだ‥‥――」
※
親愛なるエイリーク陛下
このたびはそれがしがごとき者のあつかましき依頼に多大なるご支援――冒険者の皆様には大変世話になったお伝えください――と援助、まことにありがたく、領民ともども心よりお礼を申し上げさせてもらい、また、あらためて騎士の誓いをたてさせていただきましょう。我が主よ――
ムモルス・オーギュタン・ティエリ拝