【ドラゴン襲来】 醜聞
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■ショートシナリオ
担当:まれのぞみ
対応レベル:1〜5lv
難易度:難しい
成功報酬:1 G 62 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月18日〜06月23日
リプレイ公開日:2005年06月27日
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●オープニング
「こまったね」
ドレスタットの領主であるエイリークは両腕を組んで、ため息をついた。
「ああ、まったくだ!」
冒険者ギルドの長のシールケルも腕を組む。
それは、昼下がりの、冒険者ギルドでのことであった。
机に休憩の札をかけ、外に食事にでも出ようとしたとたん、部屋に入ってきた珍客にシールケルのこみかみが、すこしぴくついている。
入ってくるなり片付けてあった椅子に腰掛け、ふんぞりかえった客は部屋の主に言う。
「おい、ここじゃあ、客に酒もでないのか?」
「なんで、お前ごときにタダで酒をふるまわなきゃらないんだ!?」
シールケルは叫んだ。
「友達だろ?」
しらっとエイリークは言う。
「お前などを友人にもった記憶はない!」
「ひどいことを言うな。せっかく、仕事を持ってきてやったんだぞ!」
「お前、本当は暇なのとちがうか? 面倒があるたび、うちに持ち込んできて! 第一、そんなもの、部下にまかせればいいだろ!」
「まあまあ、友人じゃないか! 困ったときは、おたがいさまだ」
「一方的に面倒をかけるだけのヤツを俺は友人とは認めんって言っているだろ!」
「悪友も友人のうちさ‥‥そう、たとえ二心を持っていることがわかっていたとしても、忠誠を誓った部下は部下として扱わないといけないようにな――」
言いながらエイリークの表情があらたまる。
「今回は、そんな部下にはまかせられないし、公にはしたくない仕事だから、ここにきたんだよ。シールケル!」
ギルドの長の表情も硬いものとなった。
ドレスタットの領主が語る。
「俺を支持してくれる貴族にプリスクスというヤツがいる。前の公爵の時代からドレスタットの統治に携わってきたじいさんで、がんこなヤツだ。
この前、そのじいさん絡みで問題が起きた。
ヤツが俺に紹介し、屋敷に入ってきた娘が俺を狙ったんだ。覚えているか? 俺を狙った暗殺未遂の騒ぎだ。まあ、俺自身はこの通り、ぴんぴんしている。お前のところの冒険者の連中のおかげだ――機会があったら、また礼を言っておいてくれよ――。それで、今回の依頼だが、そのじいさんを俺の前にひっぱりだしてきて欲しいんだ。
というのも、その件以来、プリスクスのじいさんは、かってに謹慎を申し出てきやがって再三呼び出しをかけているのに、領地から出てきやしない。そして、それをいいことに口さがない連中は、その行為を謀反の兆候だといってきやがっている。俺は止めてはいるが、そのことを口実にして、いつ私戦をはじめるかわかったもんじゃねぇ。とりわけ血気盛んな野郎――たしか、ジブロスっいうガキが、兵を動かしたっていう未確認の情報も入ってきている。
正直、この件で俺がじかに動いたり、また騎士団を動員したりしたりはない。下手な刺激を他の貴族たちに与えることになってしまうからな。そこで、またお前たちの力を借りて搦め手でいく。正直、プリスクスのおやじを説得して、はい終わりならばいいんだが、どうもいやな予感がする。戦いなどしなければそれに越したことはないが、最悪の場合は両軍――といっても、どちらも、せいぜい数十人の一族郎党だろうが――の間に介入して戦いをやめさせてもらわねばならんかもしれん。むろん、それは裏に何者かがいないという前提の話だがな」
「依頼料の高そうな相談だな」
「まあな、面倒な話だよ。ドラゴン襲来以来、どうも乱世がこようとしていると夢想している輩が多すぎる。先祖の夢をいま再びってな! 戦乱に立身出世を夢見てやがる。正直、平時に乱を起こされるようなことをされたら、こっちがたまらんよ!」
「それはかまわんが‥‥三人市に虎をなすの喩えもある」
「なんだ、それ?」
「東洋から来た連中から教わったことわざだよ。意味はウソであっても、何度もいわれているうちに、それを本当と信じてしまうということだよ。まあ、こういって主人に忠告を与えた部下も結局は讒言を繰り返され、その主人にうとまれたそうだがな」
「皮肉か?」
「さあ、な。賢明なる領主さまがどのように対処なされるかだよ――俺たちだって、背中からいきなり刺されるのはごめんなんでな」
「まあ、それはこのさいどうだっていい。俺としては世話になったじいさんだし、なによりも信頼できるヤツだからな、まだ失うわけにはいかないんだよ。ただ気をつけてくれ、ヤツは誇り高い人間だからな」
●リプレイ本文
「おや?」
「あら!」
と、ドレスタットで最も高貴な夫妻がその日、その部屋の前で顔をあわせたのは、どんな運命の巡り合わせがあってのことであったのだろうか。
「どうされたのですか?」
「手紙をな‥‥まあ、書いていていたのさ。お前は?」
「わたくしも手紙を‥‥でも、筆が進まなくて気分転換に編み物でもしようかと思いまして――」
「編み物?」
ほんのすこしドレスタット公エイリークの口元がゆがんだのは、彼の姿をした人形のことが頭によぎったせいかもしれない。それは、過去からつづく糸のなしえた反応である。歴史とは、そんな運命という糸の織り成す巻物であるという。さまざまな糸により織り成された一枚の絵巻物。たとえば、その一本の糸はエイリークからマクダレン・アンヴァリッド(eb2355)へとつながっている。
「準備はできたのかの?」
マクダレンが待望久しいエイリークの直筆の手紙を懐にしまい、去りぎわになにごとか言うと、ギルドの一室から出てきて、連れの女性たちを呼んだ。
すでに身支度を整え、椅子に座り、黙想していたサレナ・ブリュンヒルド(eb2571)が目を開いて、うなづく。ただ、他の連れが見えない。扉のしまった部屋から水無瀬瑠璃(eb2664)とラスティ・コンバラリア(eb2363)の楽しそうな笑い声が聞こえてくる。冒険者といっても、それ以前に女の子なのだろう。買い物に化粧にエトセトラ――机の上にこんもりと積もった請求書の山を見つけ、自分のした入れ知恵ではあったことを思い出しながらも、マクダレンは、天をあおぎ、祈りの言葉をささげざるを得なかった。
「慈悲深きスポンサー殿の懐に祝福のあらんことを」
※
「ここが、そうなのか?」
磐猛賢(eb2504)がフィーネイア・ダナール(eb2509)の顔をのぞきこむ。
そこは、昼なお薄暗いドレスタットの路地裏である。貧民街ともいえる場所で、住民やわけあり、それに冒険者ならばともかく、普通の生活をしている者は近づくことはまれである。高貴と一般にいわれる者ならば、なおさらであろう。
だが、例外もある。酒場などで集めた情報から、ここにかつてひとりの高名な占い師が住んでいたことをフィーネイアは突き止めていた。長屋の廃屋といってもいい場所に、貴族や商人にも信者がいたほどの占い師が住んでいたのだ。しかし、それも今は昔。よく言うように、占い師は運命の糸を読み解くことができる――自分をのぞいては――ということなのだろうか、その占い師は、エイリークが命を狙われた、その日にはすでに何者かによって殺されていたという。当局は、物取りということで片はつけてしまったのか、それ以来、続報らしい続報はない。
すくなくとも、そこまでがフィーネイアが体を張って仕入れた情報である。
そして、裏の情報としては、その占い師がある貴族の娘をそそのかし、エイリークの暗殺を企てたという話も聞こえてくる。
とりあえず現場百遍である。
噂ほどには金を持っていたとは思えない質素な部屋の中をふたりはのぞく。そのとき、ふたりの背後で何かの物音がした。
「誰だ!」
ふりむきざまに放った磐のこぶしが壁を砕く。
「まってくださいましぃ‥‥」
まいったとばかり、両手をあげ、まるで泣くようなその声の主をよくよく見れば、太った中年の男だ。貧相ないでたち風貌で、どうよく見ても農夫というとこだろう。
「お前は誰だ?」
「あ、あなたこそ‥‥冒険者の方で?」
「なに!」
磐の目がわずかにつりあがり男をにらむ。反対に、
「なにか知っているようね」
フィーネイアの目がこびるようにうるみ、猫なで声になると、白い肩をわずかにのぞかせながら、男に迫る。
「よ、よしくてくださいまし。私は官吏――といってもエイリーク様の陪臣――にしかすぎませんよ。エイリーク様を狙った犯人のことを調べているところで‥‥」
「あら、あの方はわたしたちに一任してくださったんじゃないの?」
「どの件を言ってらっしゃるかはわかりかねますが、あの方は常に複数の手段を講じていらっしゃいますよ。それに、この件はまだギルドに話はいっていないはずですが?」
「なんのことを言っているのだ?」
「そちらこそ?」
たがいに顔を見合わせる。
やがて――
「そういうことですだか! プリスクス様の件をまかされた方々でございますか。それにしても、そのかわいそうなお嬢様と王妃の為にわざわざ頼まれてもいない件まで調べなされておりましたか。失礼、しつれい」
「まったくよ! でも、あなたはどんなことを知っているの?」
「いまのところはとなにもと申しましょう。そういえば、プリスクス様といえば、その領地の近くで夜盗のごとき化け物どもが暴れたとの第一報がさきほどありましただよ」
※
「開門してください!」
サレナの声が、小さな砦の前に響くと壁のあいだから白髪の騎士が顔をのぞかせる。
「誰だ!」
「エイリーク様の使いの者です。親書をここに」
このような場合、司祭を前にだした方がよいとの判断である。
「それにしても、ふたりともお美しい」
門が開くまでの間、着飾った仲間にむかい、ふとマクダレンが言葉を漏らしていた。
そんな言葉は耳に届かないのか、ふだんであれば心弾ませるような心遣いも、いまのラスティにはなんの感慨もない。事前に頼んでおいた手紙が結局、手には入らなかったことが気にかかるのだ。それにガルスヴィントの様子もどこかおかしいとも聞いた。うかない表情になる。
(「なにか悪い予感がするな‥‥」)
やがて門が開く。
「老人ばかりじゃない!」
水無瀬が城内を一目みて絶句した。
まさに城内にいるのは、よぼよぼの体に古い鎧を着込んだ、かつての騎士たちばかりであったのだ。そんな真ん中には、老いた、しかし、それでもなお他を圧倒してやまない雰囲気をかもしだしている者がいる。
「プリスクス卿かな?」
うむ、と、その男は首をふった。
長身を鎧を着込み、抜き身の大剣を地面につきさし、まさに戦場に行かんとする騎士のさまである。鋭くひとりひとりの客人を見ていた目が、ふと止まった。
「そのような目をなされて‥‥」
片目に包帯をする水無瀬の痛々しい姿に心打たれたらしい。
「途中でなにかひどい目にでもあわれましたかな?」
やさしく細められた瞳で、そのようなことを聞き、水無瀬とふたこと、みこと言葉をかわし談笑する。つぎにサレナの覚悟を決めたようなまなざしを見つめる。
「これから話すことは不愉快な思いをされるかもしれませんが、最期まで話を聞いて欲しいです。その変わり、最期まで話を聞いて不愉快だとだと思ったのなら私を切り捨ててもかまいませんです――」
そして、四人の説得がはじまった。
日が傾く。
「確かに、不愉快だな!」
説得を聴き終え、しばらく黙っていたプリスクスの返事がそれであった。
「確かに、そなたたちの言うことは最もであろう! ロキにわしはのせられているのかもしれない! だが、こうなってしまって、わしになにができる? エイリーク殿に刃を向けるような娘を育ててしまったのだぞ! たとえわしが許しを請い、それをエイリーク殿が許してくれたとしても、それでは、わしのわしへの良心が許さぬのだ! そして、愚かにも、わしには自分の娘は殺せぬのじゃ!」
その娘のことをラスティは気にしていた。
「だから、修道院にいかせたよ!」
父親は憎々しげにうなった。サレナが叫んだ。
「やはり、あなたはズルいんです!」
「わしがずるい?」
「ええ。貴族としての誇りがあるのならば、エイリークさまに許しを請うのではなく、お裁きを受ければよいではありませんか! それが責任をとるということではなありませんか?」
その時、鐘が鳴った。
プリスクスが言葉を失い立ち尽くす中、まわりが騒然としはじめる。敵襲! の声が砦に響いた。水無瀬が舌打ちをする。
(「ジブロスの足止めに失敗したのか?」)
※
砦の近くの森を粛々と歩む騎士たちの一団がいた。
いままさに戦いをはじめようかとするいでたちの騎士たちだ。その後を、従者たちと食料を背負った農民たちが従う。総勢でも百人にも満たぬ数だが、復興戦争以後の国内の戦いではけして少ない人数ではない。
叛逆者を撃たんとするジブロスの軍であった。
「こんにちは! ドレスタット随一の忠臣、ジブロス様のご一行ではありませんか!」
そのとき、はずむような声がした。
ジブロスが、馬上で左右を見回すと、やがて木の影からひょっこりと可憐な乙女が顔をのぞかせた。ちょうど木々の枝葉が揺れ、木漏れ日に浮かび上がるその姿は、幼い頃、乳母に語って聞かせた童話の中のような風景でである。ジブロスの胸が高鳴る。
「これはこれは綺麗なお嬢さん、どうされました? こんな森の中で? 道にでも迷いでもされましたか?」
それでも、そんなそぶりは見せぬように――でも、顔を真っ赤にして――ジブロスは見知らぬ少女に応じた。
「いいえ」
そういってカラット・カーバンクル(eb2390)は首を横にふった。
つまるところは白豚候だなと話には聞いはいたが、まさに想像していたとおりの姿である。しかも、警戒心の欠片もないのか、馬から降り、気楽にカラットに近づいてくる。
ただ、まわりの殺気はただものではない。有能きわまりない部下たちが無能だが人当たりだけはいい主人を盛り立てているということなのだろう。
「ジブロス様をお待ちしていました」
「ボクを?」
「はい」
その言葉にウソはない。忍である水無瀬がジブロスの行方を突き止め、その情報からカラットは、ここで待ち伏せしていたのである。木の影から、もうひとり姿をあらわす。
「エルフ?」
アリアドル・レイ(ea4943)が片ひざをつく。
その髪が微風にそよぎ、沈んだ瞳はあたかも神託を告げる預言者にも見える。どこか、神話めいた雰囲気のなか、妖精の吟遊詩人はあいさつを述べ、詩を語り、打ち解けた雰囲気になってきたのを見届けると、こう切り出した。
「閣下! 物語の主人公となり後世にまで詠われる騎士たちの多くは、戦いの中でその誉れを得ました」
ふむふむと満足げにジブロスはうなずく。
「けれどその刃はいつも、弱者を守るために振るわれてのもの。それゆえに歌を聴く人々は、その武勇を讃えるのです。いま戦いを起こせば、あなたは戦火の火種になってしまうことでしょう」
「たしかに、そうだな。主君の命に応じ、弱い者を守るのが、われら騎士の役目だ!」
「そうでございます。さて、閣下はいかなる理由で今回は兵を挙げられたので?」
「とある老人がエイリーク様の再三の申し入れをしりぞけ、宮廷に出てこないばかりか、兵を砦に集めているんだ。それを世間では謀反の兆しというからボクが懲らしめにきたんだよ」
「でも、そのご老人にもなにか理由があるのではありませんか?」
カラットがそう言って、とりなす。
「理由か‥‥」
そう言われるとジブロスに言葉もない。まさに美人局に絡みとられた暗君である。
「聞いてみたらいかがですか?」
「叛逆者が話を聞くかな?」
「まだ、そうとは決まったわけではありませんよ」
「そうでございます。卿の誤解を解く助けになれば、それは無血で戦禍を退けたことに等しい行い。どれほどの詩人たちが、あなたを詠うでしょうか?」
「う‥‥うん。わかった。話は聞こう」
ジブロスはふたりのいいに同意した。
その時である。
「モンスターです!」
情報集めの為に先行していた騎士のひとりがジブロスに駆け寄ってきた。
「なんだと!?」
「プリスクス卿の砦をモンスターどもが攻めようとしているのでございます。すでに砦の前についたモンスターどもと砦の戦端は開いていおります」
「数は?」
「二百ほどかと」
「わかった。ならば、助けにまいろうぞ!」
そう叫び、ジブロスは騎士たちを叱咤した。
そして、乗馬すると、客人ふたりには、こう言うのであった。
「ご老人の言い分は戦いの後で聞きましょう。それよりも、まずは互いに憎むべきモンスターたちを退治したからのことです」
※
数日後、プリスクスとジブロスの軍勢がモンスターの一団を打ち破り、その後、長い交渉のすえプリスクスがエイリークの元へ顔をだすことになったとガルスヴィントは、エイリークから聞いた。
「ジブロスと冒険者たちの金星だな。もっとも、あのじいさんらしく今回の件の裁判を受けることを条件としてだがな」
とエイリークは笑う。
「そうですか――」
としか、ガルスヴィントには応えることができなかった。
なにかが心にひっかかるのである。
部屋へ戻ると、机の上には書きかけの手紙が置かれたままであった。
運命の糸はまださだまらず、運命の一幕を描ききりながらも、しかし、その余韻はいまなお未明なる歴史の闇にむかってつづくのであった。