橋の上のトロール

■ショートシナリオ


担当:まれのぞみ

対応レベル:3〜7lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 4 C

参加人数:6人

サポート参加人数:2人

冒険期間:08月09日〜08月14日

リプレイ公開日:2006年08月17日

●オープニング

「General speaking ”tool bridge” but in this case We call ”troll bridge”!」

 その依頼を聞いたとき、イギリスからやってきた冒険者は、本国の言葉で、そうつぶやき、大笑いをした。ギルドの人間がいさめるような目つきでにむ。笑っていられるような状況ではないではないか。その鋭いまなざしは、そう語っていた。
 実際、そうなのだ。
 パリから離れた山間に、ロルムという小さな村がある。
 山深い渓谷にある村で、いちばん近いふもとの村とも数日ほど離れているという、まさに秘境の里である。しかも、その村をつなぐのも獣道かとまごうほどの細い道と谷にかかった一本の吊り橋だけだ。
 それほどに人の往来がないのである。
 しかし、まったくないというわけでもない。
 だからこそ、問題の発生した。
 村と村をつなぐ、その橋が昨今、一匹のトロールに奪われてしまったのだ。
 村の方はもとより自給自足に近い状態であるので我関せずの風らしいのだが、その周辺を納める代官としては放っておくことはできない。もし村で疫病が発生などした場合、医者の派遣ができないし、それになにより三度の飯よりも好きな徴税に行けないではないか!
 むろんトロールは難敵である。しかも、トロールがいる橋の幅は狭く、人間が一人で一杯で横に並ぶことはできないのだという。むろん、その先にはトロールが陣取っている。
「つまり、タイマンでトロールに勝てる人材が欲しいのですよ」
 依頼をもってきた役人は、無理難題なんですが――と恐縮することしきりである。
 実力者。かつて、そう呼ばれた者たちの多くは、いまここにはいない。その多くが東洋の地へ、あるいは異世界の扉を開き、この地は離れている。
 その状況で、それほどの人材を呼ぶことができるのかと、その役人は懸念していのだ。しかし、気にすることはない。誰が未来の英雄であり、誰がこの冒険を成功させる者であるかなどと語りえる者がいるであろうか。かつて実力者と呼ばれていた者たちもまた、数々の経験をへて、そう呼ばれるようになったのであり、現在の子供が未来の大人であるように、これに挑もうとする者たちもまた将来の実力者であるやもしれぬのだ。
 なんにしろ、それは神の振る賽の目のみぞ知ることである。

●今回の参加者

 ea8558 東雲 大牙(33歳・♂・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 eb2021 ユーリ・ブランフォード(32歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 eb4803 シェリル・オレアリス(53歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 eb5324 ウィルフレッド・オゥコナー(35歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb5413 シャルウィード・ハミルトン(34歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb5422 メイユ・ブリッド(35歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

アンリ・フィルス(eb4667)/ ヴェニー・ブリッド(eb5868

●リプレイ本文

「トロール。外見は青銅色のいびつな肌をした巨人。食欲の旺盛な巨人で、雑食性ながらも好んで生肉を食べる。火傷以外の傷を受けても短時間で治癒してしまう‥‥まあ、知っている知識で言ってしまえば、そんなモンスターだ」
 ユーリ・ブランフォード(eb2021)がトロールについて知っていることを端的に語った。エルフながらも野性的な顔立ちをしたシャルウィード・ハミルトン(eb5413)がうなずく。彼女が知っている知識も同じようなものだ。
「そこで、今回の作戦だが――」

 ※

 ユーリの唱えた呪文により、シャルウィードの手にした矢に魔法の炎が燈った。ぎりぎりと張られた弦から弓が放たれると、それは狙いをたがわずに、トロールに足元へと突き刺さった。つづけざまに、二の矢、三の矢。
 つぎつぎと放たれる火矢にトロールは激高し、うなり声を発した。そして、冒険者めがけて駆けてきた。突風が吹きでもしたかのように、細く長い吊り橋がゆれる。
 橋の出口で冒険者たちが、それを待ち受ける。
 緊張した顔をしながら、どこか自信に満ちた微笑がその口元にはこぼれている。
 ウィルフレッド・オゥコナー(eb5324)が呪文を唱えると、その指先から稲妻が走り、幾度となくトロールに打撃を与える。
 すっかり、ふらふらとなったトロールを待っていたのは、ひ弱な人間やエルフとは違い、自分ほどの体格を持った敵手――巨人族の東雲大牙(ea8558)であった。
 トロールの顔をにらみ、東雲はにやりと笑う。
 トロールの顔がそれに応えるようにゆがむ。
 しかし、それが隙となった。
 東雲の蹴りが棍棒をたたきつぶす。
 つづけざま、右の拳がトロールの顔にヒット、ヒット、ヒット!
 よろよろとトロールがよろけ、足から崩れる。
 あとは、矢や魔法がふりそそぎ、そのモンスターを冒険者は退治したのであった。
 もちろん最後にはシェリル・オレアリス(eb4803)のウェザーコントールで火を消すのも忘れない。

 ※

「まあ、こんな作戦だ」
 シャルウィドーが説明を終えた。
 そして、ご意見番として呼んだ二人に感想を求める。
 助言としては、次善の策、次々善の策があればいいだろうということであった。が、まだ若い冒険者たちが、その話をどこまでまじめに聞いたものか――
 返事こそいいものの、トロール征伐隊はそそくさと旅の準備をはじめた。
 そして、
「はぁい♪ みなさんがんばってきてね♪」
 という、なんともかわいらしい声に見送られることとなる。。
 ウィルフレッドがこんなことをぐちる。
「サポートでいる旦那、滅茶強くないかな?」
 なんにしろ、最大の戦力になるはずであったかもしれな男は、そんな言葉にも笑っているだけで、冒険者たちを見送っただけなのであった。

  ※

 橋を前にして、メイユ・ブリッド(eb5422)の手に中には、十字架が握られている。両手を握り、瞳を閉じ、その赤い唇から漏れるは聖母への祈りであった。
「あなたさまの助けのあらんことを――」
 しかし、聖母もまた女である。
 運命は女神だから気ままなだとは、どこの男の言葉であったか知らないが、その男の言葉に従えば、天におわす神なる子の母でさえもまた女であったようだ。
 あぐらをかき、まぶたを閉じたトロールが橋の中央にいる。
 ここまでは予定どうりだ。
 魔法の火矢を放つ。
 しかし、ぴくりともしない。
 二本目、三本目、つぎつぎと放つが気にするそぶりすら見せない。ただ、気がついているのは確かだ。その額に向かって打ち込まれた矢には反応し、腕の一撃で矢をはじく。
 青銅色の巨人が立ち上がった。
 かっと目を開くと、片目がつぶれた、隻眼のトロールであった。
 なにごとか叫ぶ。
 もし、この場にトロールの言葉がわかる者がいたのならば、こう叫んでいたと気がついたであろう。
(「我コソハ一族ガ勇者ナリ! 戦イヲ求メル者ナリ! イザ尋常ニ勝負セン!?」)
「ええぃ。じゃあ、こうだ!」
 ウィルフレッドがライトニングサンダーボルトの魔法を放った。
 必殺の一撃がトロールを襲う。
 青銅の肌がこげ、ぶすぶすと煙があがる。しかし、両腕で身を守りながらトロールは微動だにしない。
(「イイ腕ダ!」)
 トロールがにやりと笑った。
「ええっ、うっそ〜、うっそ〜。なに、あいつぅ!?」
 ウィルフレッドが狼狽の声をあげる。
「困ったことが多いこと」
 シェリルは、手を頬にあて、優雅なため息をもらした。しかし、その口元には微笑が浮かんでいる。あたかも、想定外のできごとを楽しんでいるかのようである。
 なんにしろ計画は狂った。
 もっとも、どれくらい予定より外れたのかを計るためのバロメーターとして計画があるのだから、それを修正すればいいのである。旅立つ前に受けた、次善の策、次々善の策を考えておけという言葉が思い出される。
 先人の言葉は、かくも重いものなのである。
 なんにしろ、次善の策に移るしかない。
「バックはよろしく!」
 万一、橋の上から引っ張り出せなかった場合は吊り橋という状況を考えて、体重が軽めのシャルウィドーが突っ込むことになっていた。
「ユーリ悪いね!」
「シャルウィドー。あなたに武運があらんことを!」
 さまざまな魔法を唱えると、ユーリが最後に彼女の耳元にささやいた。
「よしなよ」
 もとより万が一の策であったが、その万が一がいまとなってしまうとは――
「この運が賭け事のときにいい意味であってほしかったよ!」
 舌打ちしてシャルウィドーが突っ込んでいく。
 トロールが吼え、それに応える。
 シャルウィドーの炎の剣がトロールに襲い掛かる。
「うま君!」
 メルが叫んだ。
 背後の森から羽をはばたかせ、ペガサスがあらわれたかと思うと、メルをその背に載せて飛び上がる。みるみるちに地上から離れ、メルの足元に大地がその姿を見せ始めた。
 深い森を東西に置き、その真ん中を深い谷が走っている。そして、その谷には吊り橋がかかり、その先には細い道がくねくねとつづき、やがて家が数軒あつまった小さな集落へとたどり着く。あれが、例の村だろうか。
「あら?」
 そんな村から人影が歩き出したかと思うと、吊り橋の上流へと歩き出していた。その先にも橋がある。
 それは、いい。
 メルがうまに語りかけた。
「ねえ、あのモンスターの側に近寄れない?」
 うまはいななき、主人を言葉に従った。
 まだ戦いはつづいている。
 はじめの勢いはどこへ。
 最初の数撃を耐え切れられると、さすがにシャルウィドーには分が悪い。体力があるトロールの方が優勢となりつつある。
 握った拳をふるわせ、東雲がくやしそうな顔をしながら戦いの様子を見つめている。助けに行きたくとも、橋は狭く、巨人の東雲が戦いに飛び込んでいくことは不可能だ。さらに、その戦いによって橋は激しく左右に揺れている。橋をささえる縄がぎぃぎぃと不気味な音をたて、いまにも切れるのではないという不安をかきたてる。
 このような場で、戦いなれたトロールはともかく、防戦一方でありながらも、シャルウィドーはよく戦っているといっていいだろう。
 しかし、それも時間の問題か。
「そろそろかしら?」
 そうつぶやき、シェリルがスクロールを取り出した。
 やはり、このトロールをいまのレベルのシャルウィドーが単独で挑むのは無謀というものであった。
 じり、じりと追い込まれてくる。
 彼女も、すでにいっぱい、いっぱいだという顔をしている。
 トロールは戦いに熱中するあまり、その人間ひとりしか見えていない。一体一の戦いであったのならば、それは正しかったであったし、その集中力は賞賛に値する。
 しかし、これは名誉ある勇者の戦いではない。
 ついに足をすべらせ、シャルウィドーは腰をうった。その頭に最後の一撃を加えようと、トロールが腕をふり上げた。
 その瞬間、体が動かなくなった。
 何が起きたのかトロールにはわからない。
 いや、命拾いしたシャルウィドーにもわからなかった。
「大丈夫ですか!」
 意外な方向から声がした。
 橋の横に顔が見えた。
「えッ?」」
 ペガサスにまたがった聖女が、そこまで近づいていたのだ。振り返れば、対岸ではシェリルが微笑をたたえながら手をふっている。彼女たちが放った魔法の影響であった。
 恐怖でトロールの顔が凍てつく。
 知りもしなかった力、それが彼の体をしばっているのだ。
 トロールは岸まで引っ張られていく。
「タイマン? 卑怯? 知らないね。これが人間さまの戦い方だ。いやぁ、チームワークってすばらしいね」
 さきほどまで、彼の前に転がっていた女が、彼の胸に片足をのせてうそぶく。
「さあ、やりな!」
 そう言うと、女の仲間の巨人が、こぶしをならしてトロールに馬乗りとなると、顔を殴りつけた。一発、二発‥‥――
 それは、もはや戦いではなかった。
 鼻が折れて血が流れ、歯が折れて、口の中が血でいっぱいになる。それでも、巨人はトロールを殴り続けた。
 血で窒息しかけて、ごほごほという咳が喉から漏れる。
 もはやトロールの意識は遠くへ行こうとしていた。
(「戦士ノ死デ・ハ・ナ‥‥イ――」)
 トロールの頭に、そんな言葉がまたたいた。
(「おッ‥‥」)
 指先がわずからながら動く。
 首も力はないが動いて、トロールはあたりを見回した。
 見慣れた景色が涙で濡れたようなぼんやりとした景色となっていた。
(「橋‥‥」)
 すでにぼんやりとした目に、それが映った。
(「ソ‥‥ウ‥‥ダ――」)
 トロールの頭になにかがささやいた。
(「うぉ‥‥うぉ‥うぉーーーー!?」)
 トロールは最後の力をふりしぼると巨人を突き飛ばすと、誰もが考えていなかったことをした。
 谷に向かって身を投げたのだ。
 声もない。
 ただ、一陣の風が吹く。
 なにがあったか、理解するには、まだしばらく時間が必要であったかもしれない。
「うん?」
「どうしたのかしら?」
 シェリルが同じ種族の女の顔をのぞきこんだ。
「なにか、視線を感じたのだよ?」

 ※

「そう――」
 報告を聞き終えたギルドの幹部は、何かいいたげな表情をして、そのまま物思いにふけってしまった。
「なにかしら?」
 まだ去ろうとはしない報告した者の顔を見て、小さく笑った。
「その後ですって? そうね、彼女達はだいぶ村人たちに恨まれたようよ。国はなくとも人は育つ。すくなくとも国の恩恵を受けていないと思っている人たちにとっては徴税官なんて国という看板をしょった泥棒でしかないでしょうね。それに、村人たちはトロールが橋を占拠していることをいいことに、他の場所にも自分たちで橋を作っていたそうよ」
 グラスのワインをあおる。
「人間とは、そういうものだということかしら? あら、まだなにか言いたげね? そうね、あの戦士としての死を望み、それがかなわぬと知ったとき、戦士としての誇りを守るために、みずからの命を絶った彼は、どれだけ純粋であったのでしょうね――」