【死のつかい】堤を壊すもの
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■ショートシナリオ
担当:まれのぞみ
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:6人
サポート参加人数:2人
冒険期間:12月05日〜12月10日
リプレイ公開日:2006年12月15日
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●オープニング
王宮ですらようやく手に入れた神学者ノストラダムスの預言を記した写本。パリの街にその内容が広がった速度には、どう考えても何者かの作為が働いている。
更にパリから見たセーヌ川下流域でのアルマン坑道崩壊とそれによって起こった鉄砲水。すでに多数の住民が土砂混じりの水に呑まれたと報告があるが、同時に腐乱死体のズゥンビの目撃情報も寄せられた。
他に、上流域でも堤防が決壊して、村に被害が出たと報告も上がっていた。
これがまたパリの街にも広まっていて、逃げ出す者も出始めている。
折悪しく天候はここ数日雨続き、次はパリの街が水底に沈むのだとまことしやかに囁かれれば、逃げたくなるのも当然だろう。
そうしてコンコルド城の御前会議では、現実に可能性の高いパリ水没の危機を逃れるために、上流域の堤防を人為的に切ることで、増水した水を近くの湿地帯に流す計画が国王の裁可を受けた。これとて失敗すれば近くの村々が沈むことになり、その万が一の被害を避けるために必要な行動は多岐に渡る。
近隣住民を避難させ、堤防を切り、水がどう流れたかの確認をしつつ、緊急時には臨機応変に最善の策を取る。言えばたやすいが、それが一人で出来る者は神ならぬ身には存在しない。必要な人材を集めているが、実際に堤防を切るにはその設計などに詳しい者が必要だ。けれども職人達は事の大きさに怖気づき、大半が現地へ向かうことを忌避しているという。
また現地に向かって住民を避難させる人手も十分とは言えず‥‥
「この際パリが空になっても構わない。月道管理塔からはどれほど出せる」
「そのような仰せであれば、動ける者は全て。ですが」
「その隙にパリに何事かあるかもしれないというのだろう。ブランシュ騎士団が数名おれば、私の周りは十分だ」
修行中のブランシュ騎士団員や、近隣の領主の手勢も可能な限り呼び寄せた。騎士団員はともかく、領主の中には自領が手薄になるのを心中嫌がる者がいるかもしれないが、あいにくと細かい動向は追いきれない。
そうして集めた人員の幾らかは、すでに被害が出た地域に向かい、残りはこれから事が起きる地域に出向く。国王ウィリアム三世が『近衛も出ろ』と言ったからには、まさに総動員だ。
「足りない分は、仕方ない、冒険者ギルドに」
ウィリアム三世が言葉を切り、椅子の背もたれに体重を預けたところで、白いマントに正装の騎士団長ヨシュアス・レインが声を上げた。
「伝令!」
矢継ぎ早に指示を与えられた複数の伝令の一人が、事あるを察していた冒険者ギルドの幹部達が集まる部屋に現れたのは、それから僅かの時間の後だった。
※
「いいか、よく聞くんだぞ!」
顔すら隠した黒マントの男が語る。
「はいですぅ」
それに応えたのは、シフールだろうか。男と同じようなマントに身を隠している。
「俺は魔王になる!」
男は断言した。
「ご主人さまは魔王になるですぅ」
「そうだ三十をすぎてまで女とは縁のなかった俺は、だからこそついに‥‥ついに魔法の力を得たのだ!」
「ご主人さまは魔法使いですぅ!?」
「ちっと待て! それは微妙に違うぞ!」
「ちがうんですかぁ?」
「そうだ! 俺は悪の魔法使いだ!」
「それは、失礼しましたぁ。それで、ご主人さまはまずなにをなるさるんですかぁ?」
「まず悪いやつのすることとといたら、あれだろ?」
「あれっていうと、あれですかぁ?」
「そう、あれだ!」
「魚のことですね!」
「そうそう、あの魚っておいしいんだよな‥‥」
と、つばがじゅるり。
あわてて正気(?)に戻る。
「それは魚のアラだろ! そもそも、なんでお前が、そんな東洋の国の単語を知っているんだ?」
「この前、知人においしい魚があるといわれて紹介されたんですぅ。でも、なんでご主人さまが知っているんですか?」
「それは俺の生まれが‥‥いや、そんなことはどうでもいい。某預言者の預言をかなえてやるんだ! つまり、流言にのった悪さをするんだよ!」
「悪さ! 悪さ!」
小柄な影がうれしそうに手を叩いた。
「それで、具体的には?」
「頭が悪いな‥‥」
「どうせ、頭が悪いですぅ」
ぷくりと頬でもふくらませたのだろうか。
マントの下の表情はわからないが、声の調子がすこし変わっている。しかし、そんなことにはまるで気がつかないようすで男はしゃべりつづける。
「堤を壊すんだよ! その為のモンスターも用意した!」
「すごいですぅ〜。どんなヤツです?」
「内緒だが、ヒントをいうと黒いやつだ! これでパリ近郊のケイト村の堤は‥‥うぇっっははははぁぁぁ!?」
よくも、そんな発音ができるものだとなかば感心してしまう。
そこは、冒険者ギルドの片隅。
正義の心をもった者たちが仕事がないかと掲示板を見たり、昨今の冒険のことを語り合っている場所。そんな中で、よくもここまで場違いな会話ができたものである。しかも、正体を隠すためのマントのなんと目立つことか。これでは正体を隠すどころか、怪しいヤツがいると自分で宣伝しているようなものだ。しかも、白昼堂々、ギルドの中での誰もがわかるような大声での密談(?)である。
あまりにあからさますぎて、誰も注意を払わないどころか、目すら合わせないようにして、自然とその場からそそくさと立ち去っていく。
そんななかを、自称、悪の魔法使いは高笑いを残して去っていった。
「‥‥だれか、あのうるさい人たちの悪事を止めてきなさい」
立ち去ったのを確認すると、こめかみを押さえながらギルドマスターが冒険者達に命じるのであった。
●リプレイ本文
テーブルの上の蝋燭はかぼそく燃え、ぼんやりとした周囲に暗い顔をした面々の顔が浮かびあがっている。はりつめた空気の中、ぼそぼそとした声でなにか語りあっている。
ふと、壁に黒い影が動いた。
どこから来て、そして去ったのか、その影はもはやない。
ただ、カグラ・シンヨウ(eb0744)の耳元にのみ、その言葉が残っていた。
「まだ、たどりついてはいないみたいね。ケントの村に急いだ方がいいわね」
ギルドで村の情報などを収集していたカグラが仲間たちをうながす。
冒険者たちはうなずきあい、装備を手にした。
謎のモンスターについて、その知識のすべて使って推測し、そして助言を与えていた娘も立ち上がり、心配げな表情で冒険者たちを見送る。
娘に礼を言うと、かれらの乗った馬たちが走り出した。
その姿が闇の中に消えたのを確認して女は、宿の中に戻ろうとした。ふと、髪をおさえた。いつしか、冬の風が吹き出していた。
闇夜は深い。
馬を駆る。
道はどこまでつづくのか――
空は曇り、月明かりはもちろん、星のかがやきすらも閉ざし、あたかも冒険者たちの未来を暗示する悪魔の予言のようにも思える。現在、禍々しい予言とともに暗躍する悪魔たちと冒険者たちの戦いがセーヌ河を舞台として繰り広げられている。
これも、たぶんそのひとつ――
「あそこか!」
旅の路銀のために、この依頼を受けたジョネル・ジョルジョーネ(eb9602)が叫んだ。 堤が見えた。
そして、それにはりつくようにして長くのびた村が見える。
ケントの村だ。火の消えた村を通る。人の気配はない。すでに皆、眠っているのか、ギルドに手配した警告を素直に聞いてくれたのかはわからない。
「セーラ様、ケイト村の人々と私達に神のご加護を」
カグラが馬上で祈りをささげると、隣ではティル・ハーシュ(eb8372)が、愛馬におつかれさまの言葉をつぶやいていた。
堤につく。
雲間が裂け、月明かりがさしてきた。
水面がきらきらとかがやきだす。
まだ、人影はない。
「きた?」
ふたつの影が近づいてきた。
「ははははっ、今宵はいい夜だ! 俺が魔王として‥‥な、な、お前たちは何者だ!」
悪の魔法使いが冒険者たちを見つけて叫んだ。
しかし、その声の調子は、どこか楽しそうである。
「通りすがりの冒険者」
噂は聞いていたが、これほどとは‥‥頭をかかえながらかれら応じる。
「なるほど、俺の覇道の邪魔をしようというのか! 返り討ちにしてやる!」
そう言って馬鹿笑いをすると、マントをぱっとひるがえし――
「デブ!」
が正体をあらわした。大きな丸顔にはにきびだらけで、そして、目をひくのは大きなおなか。双子を孕んだ妊婦かと思えるほどである。
「見なかったことにしたいな‥‥」
誰となくつぶやくが、そうもいかないだろう。
男は胸元から筒を取り出し、地面に置いた。
「行け、わが兵士達!?」
一瞬の静寂、冷たい視線、そして――
「‥‥アリ?」
蟻である。
飯店の敵である黒い虫かカラスかと想像したり、あるいは頭を悩ませながらモンスター知識のある女性に相談したり、どのタイミングでスリープを使ったりするか、どのような攻撃をするかなどと真面目に相談したことがいったいなんであったのかと思えてくるオチだ。
カーテローゼ・フォイエルバッハ(eb6675)などは顔をうつむかせて、くくくくと笑い、肩をいななかせている。
むりやり冬眠から醒めさせられ黒い虫たちがねぐらを求めるように、堤防にしぶしぶと近づき、土の粒子の一個、一個を運び出す。
「行け! 蟻の一穴、堤も壊す作戦だ!」
プチ!
誰といわず、その虫たちを踏んだ。
「ああぁ、綾波、蒼龍、青葉に須磨‥‥それに、それに――」
「いいかげんにしなさい!」
「‥‥は‥‥はい――」
まさに燃えんばかりの炎のオーラを背負い、冒険者たちはこの不埒者を睨んだ。いや、睨んだなどという言葉ですら、その状況をあらわすには生易しすぎるかもしれない。もし、視線というものが物質化していたのならば、その刃に自称魔法使いは百回は殺されていたにちがいないからである。
「いいですか、そもそも‥‥何かしらに才能を発揮する事は、決して悪い事ではありませんが‥‥。今回の事に関して言えば、その才能の使い道をどこか間違えていると言いますか‥‥そもそも本来進むべき道を間違えているのではないかと言うか‥‥そんな気がします」
教え諭すような言葉のわりには、すっかりあきらめたような顔でウェルリック・アレクセイ(ea9343)が、とうとうと神の道について語る。
「正せる過ちならば、正しませんと。あなたのを目を覚まさせて、何とか正道へと導かねば。今ならば十分間に合いま……」
ウェルリックの言葉が、ふと聞き取れないほど小さくなる。
(「間に合うと良いですねぇ」)
しだいに、この愚か者も両手組む。その瞳は救いをみいだした信者のそれである。
「悪の魔法使い気取ったって女の子にはもてないよ」
同じく神職に奉ずる少女が声をかけた。
「‥‥逆に、今災害に合って苦しんでる人を助けて回ればヒーローになれるんじゃない? そうすれば良い意味で注目してくれる女の子も見つかるかもね」
もしかしたら、その言葉で彼は救われたのかもしれない
しかし、それは神‥‥もとい悪魔が許しはしなかった。
「だ、だまされちゃ、ダメですぅ!」
「エーリアル‥‥」
その声に自称悪の魔法使いは、はっとして正気(?)に戻った。
「あなた!」
シフールめいた、その謎の存在に最初から注意を払っていたカグラとティルが同時に叫ぶ。その声に合わせて、カーテローゼがラハト・ケレブをふるった。
剣先がマントを破ると、その姿があらわになる。
一見、少年のような細い肢体を黒い体に密着した服を着た金髪のシフールに見える。しかし、ただ一点、ちがうことがあった。その腰から下には黒い尻尾があるのである。
そう、悪魔だ。
ふだんであるのならば、その登場は場をシリアスなものに変えたにちがいない。
しかし――
「やっぱり、そこの無能な男ではなく、あなたのせいだったのね! それにしても、なんて恥ずかしい格好なのかしら? ついでに胸もないようね」
「う、う、う、うるさぁいですぅ!? せっかく、ご主人さまが夜なべして作ってくれた衣装なんですぅ。人の悪口をいうヤツは悪魔に呪われるって地獄で教わったですぅ!」
アヴリル・ロシュタイン(eb9475)の挑発に応える、悪魔の態度には威厳もへったくれもなかった。リリルと呼ばれた小悪魔が、きんきんとした声で叫ぶ。
「あらあら、それはよかったわね。地獄のどんなおえらい悪魔が作ってくれたのかしらね?」
「ちがいますぅ。ご主人さまですぅ!」
「ご主人さまって。これ?」
アヴリルは、男をすでにこれ扱い。
「そうですぅ。契約した相手は、ご主人様だって聞きましたぁ」
「はぃ?」
「それで、地獄で契約した相手のいうことは聞かないと契約にならないと先輩に習いましたぁ。それで、なんだかんだあって、ご主人様に契約をしてらもったんですぅ」
地獄でどの悪魔にそそのかされたか、だまされたのか、あるいは単に勘違いをしているのかはわからないが、どうやらこの悪魔はけなげにも契約を守ろうとしるらしい。
「そしたら、メイドさんをやって欲しいと言われたですぅ」
「だから、やっているの?」
「はい‥‥でも、それだと別のお仕事ができないから、それは手伝ってもらうことにしたんですぅ‥‥」
そして、小言で。
(「ちょっとだけズルをしたんでけどね」)
「別の仕事ってなんですか?」
人当たりのいい笑顔で神父が悪魔に質問した。
「それはもちろん、堤防を壊す預言を成就させるためで‥‥って、わたし、なにか言いましたぁ?」
「思いっきり、白状した!」
ジョネルはにやにやと笑っている。
「ひ、ひ、ひどいですぅ。やっぱり、神とそれに仕える連中は悪魔をたぶらかす悪いやつらですぅ」
どう考えても、悪魔が吐くにしてはおかしい台詞を吐く。
「わかったわ! あれだけギルドで堂々と騒いでいたのも陽動作戦のうちだったわけね。ギルドマスターの心労を察していたけれど――リリス!」
カーテローゼが悟ったようなことをいう。
「なるほど! それだったら、他の有能な冒険者の方々をこんな依頼にわずらわせないようにしたのは正解だったわね!」
アブリルが剣をふるった。
「な、なんの話ですかぁ? わたし、わからないですぅ」
きゃあきゃあ言いながら、エーリアルはふたりの攻撃を空中でひょいひょいとよける。こんなヤツながらも悪魔の加護は十分に受けているらしい。
「ならば、これで!」
ティルが眠りの呪文を唱える。
「甘いですぅ」
さすがに、その程度の魔法は効かない。エーリアルは自慢げであった。しかし、それは悪魔の注意を逸らす罠。
「もらった!」
隙をついてジョネルの一撃が決まりかけた。
その時である。
「あぶない!」
飛び出してきた男が身代わりになった。みごとに腹に決まったかと思うと、男はごろんごろんと転がってしまった。
「ダークネスが効かなかったですと?」
説教にかこつけて男に魔法をかけたつもりでいたウェルリックは舌打ちした。
男は地面に転がって、げほげほとしている。
「ご主人さまぁ!」
そんな男に、アヴリルは冷酷だ。
「ふん、童貞が」
男をさげすむ目が印象的だ。なんとも冷たい視線で、その筋の趣味があったならば踏まれたいと心底、思ったにちがいない。残念ながら、どうやら彼には、そこまでの趣味はなかったらしい。
だから、撤退だとつぶやくと、謝罪と保障を云々と言いながら、涙を流して駆け出していく。
「こんな事しているから、その歳で独身なのですよ!」
そんな、美人のひとこと、ひとことが胸につきさったようだ。ついには胸を押さえながら前につんだおれ、そのまま堤の向こう側に落ちてしまった。
「ご、ご主人さま」
エーリアルの表情が一変した。
「お、おぼえていっしゃあぃぃぃぃ」
そして、捨て台詞を残して、堤の向こう側に消えた。
その直後、なにかが水に落ちる音がした。
「助けてくださあぃ〜ご主人さま〜」
という声がして、それはしだいに遠くになっていった。
とりあえず、そんな声には耳に栓をする。
最後に悪魔を退治し終えた神父が論評を行った。
「励む者を哂う者には遍く【父】の天罰が下るでしょう、それはまた、自らに何かを課すことも無く高みに上った気でいる者にも同様に‥‥アーメン」