【凍る碑】凍てつく悪戯

■ショートシナリオ


担当:まれのぞみ

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月28日〜02月02日

リプレイ公開日:2007年02月05日

●オープニング

「どうしたらいいですかぁ〜?」
 ここ数日、そんなことばかりつぶやいている者がいます。
 ちっちゃな背丈に、背中には羽。一目見て、シフールと思う人も多いでしょう。でも、ちょっと待ってください。そのお尻からのびた黒い尻尾があります。
 そう、この娘、実は小悪魔のリリス。名前をエーリアルといいます。
 きょうもきょうとて彼女は悪事の計画を立てているところです。
 ちょうど世間では寒気到来の怪しげな預言が巷間に流れていて、それにかこつけた悪戯こそ、悪魔の仕業にふさわしいにちがいありません。
 でも、でも、
「なにも思いつかないですぅ〜」
 ご主人さま謹製のメイド服の格好をしたまま窓辺に腰掛けて、ため息をつきました。
「こらこら、風が冷たいじゃないか! 窓を閉めろよ!」
 暖炉のそばでご主人さまが叫びました。
 彼女のご主人さまは、けっこう(横に)大柄なのですが寒さにはめっぽう弱いらしく、雪が降り始めてからはずっと家に閉じこもりっきり。しばらく内職に勤しんでいます。それでも心意気だけはあるらしく壁には、
「世界征服はノルマンから」
 の文字。
 そんな彼ですが、さっきからなにやら丸い桶のようなものを持ち出してきて、中に火のついた炭を暖炉から取り出しいれています。その上に布をかぶせ、板で天井をしてできあがり。
「何をやっているんですかぁ?」
 そんな質問に、はじめは不思議そうな顔をしていたご主人さまですが、やがて、納得したような表情になります。
「そうだな、お前はこれを知らなかったな。まあ、東洋にある呪いのアイテムみたいなものでな、その虜になるとここから出てこれなくなるんだ!」
「呪いのアイテム!」
 エーリアルは目をかがやかせました。
「いいこと思いついたですぅ!」
「寒いから、パス!」
 途端、そう言って、ご主人さまは、それに下半身をもぐりこませると、そのまますやすやと眠ってしまいました。
「す、すごいですぅ。もう眠ってしまったですぅ。これは、すごい呪いのアイテムにちがないですぅ。これを配ったら、すごい騒ぎになるに違いないですぅ。ご主人さまがやらないならば、わたしがやるですぅ。そうだ、冒険者ギルドにこの悪戯を手伝わせる依頼をだしてやるですぅ。この前の意趣返しですぅ。だまして苦しめてやるですぅ!」
 こぶしを握り、復讐を誓う悪魔だったのです。

●今回の参加者

 eb6675 カーテローゼ・フォイエルバッハ(36歳・♀・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 eb6702 アーシャ・イクティノス(24歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb7983 エメラルド・シルフィユ(27歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ec0887 セリア・バートウィッスル(23歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

「みなさん、はじめましてですぅ」
 晴れやかな笑顔でエーリアルと名乗る髪の長いシフールが冒険者たちに挨拶をした。
(「シフール?」)
 カーテローゼ・フォイエルバッハ(eb6675)は、その姿を一目見て、なにかひっかかるものを感じた。
 冒険者ギルドでの面会が終わると、今回の仕事の打ち合わせをして、エーリアルが買い揃えた火鉢と布団を馬に載せる。
 依頼者の姿を頭に描きながら、カーテローゼはふむとつぶやき、何事か考え込むようにして作業をつづけた。
(「アレは‥‥何処かで見た様な覚えが‥‥」)
 思考が記憶の森を彷徨っていて、追憶の森の迷い子の心は、ここにあらずという風である。そんな横では、はじめての依頼だというセリア・バートウィッスル(ec0887)が緊張した面持ちで、荷物を馬の背中に載せている。
「この寒い中、これを各家庭に配ろうなんて感心なシフールさんですね」
 自分の準備は終えたアーシャ・ペンドラゴン(eb6702)が火のはいった火鉢に手をかざしながらエーリアルとしゃべっていた。エーリアルが配るようにと提案しているのは、この火鉢に布団をかぶせた簡単な暖房器具で――エーリアルは知らないのだが――ノルマンの江戸村ではコタツと呼ばれているものである。
「ご主人さまの故郷のものなんですぅ」
 とエーリアルがアーシャに説明をする。
(「ご主人さま!?」)
 その言葉が迷いの森の出口の鍵となった。
 カーテローゼの脳内に、ひとつの映像があらわれる。
 月夜の護岸、陰謀をたくらむ不遜な男とその背後の女――悪魔の姿――リリス!
 カーテローゼは愕然として、仲間たちと談笑するエーリアルを見つめた。それは、たしかに、あの夜の悪魔にちがいない。
「やっぱり‥‥デビル――」
 体が自然とふるえる。
「デビル!?」
 カーテローゼのつぶやきに、エメラルド・シルフィユ(eb7983)は顔色を変えた。カーテローゼがうなずき、エメラルドの耳元に、ことの顛末をささやいた。だが、それを聞いたエメラルドの顔はうかない。
「悪さをする悪魔ならば、主の教えに基づき討ち果たしてくれるのだが‥‥どうもなぁ‥‥」
 仲間たちと談笑する小悪魔をちらりと見ながら、それはいつしか自問になっていく。
「無害な悪魔――というか主の教えなら「無害な悪魔」などいないと思うのだが――を滅するほど私は割り切れん‥‥私が未熟なのだろうか‥‥」
「未熟ね!」
 冷静にカーテローゼは言い放つ。
「無害な悪魔などいないわ。それにしても、アレにそんな知恵があるとは思わなかったわよ」
「どういうこと?」
「この暖房って確かに暖かいけれど、これで眠るとなると寝汗をかきそうじゃない? そしてこの寒い時期、寝汗をほっておくと風邪をひくわ。この悪天候、タダでさ医者は多くないのに、風邪が蔓延すれば‥‥体力のない子供やお年寄りがにはまさに致命的よ!」
「あッ‥‥」
「まさに悪魔の策略ね。なんにしろ、尻尾をつかまえて異端諮問官に突き出してやるわ!」
 などという密やかな会話がありはしたものの準備は滞りなく終わり、森の村――ドラゴン出没の噂がある場所から、さほど遠くないところにある――へと出発となった。
 はや、村へとつく。
「ああ、おばあちゃん、この暖房は暖かいですよぅ」
 村のまんなかで露天を開き、バナナの叩き売りよろしくコタツを無料で配布する。はじめはヘンな物を見ているような目つきであった村人たちも、どこからか子猫が迷い込んできて、中に入り込み、ぬくぬくとしている様子で眠るのを見ると、我も我もと手をだしはじめる。
「猫好きに悪い人はいないということですぅ!」
(「つまり、悪い悪魔がいるだけね」)
 などといい、誰かのつぶやきがあったとかなかったとか。
 なんにしろ、そんなコタツを配りの中で、もっとも愛想も対応もよかったのはエーリアルである。さすがは悪魔、営業トークはお手のものというところであろう。
「天職だって、ご主人さまが言ってくれんですぅ」
(「さすが契約の押し売りが本職なだけありますわね」)
 そういえば、こんなエピソードもあった。
 昼も過ぎた頃、冒険者たちにエーリアルが食事をだした。
 朝早く起きて作ったという、その食事は、本当であるのならば、小悪魔らしく、なにか盛るのが、らしいのだが――
「そんなことをすると、あたしが食べれないですしぃ、みなさんに悪いですぅ」
 などとつぶやいて、下ごしらえ以上のなにかはしていない。
 すっかり当初の目的を忘れているのが、この落第悪魔らしいところである。
 もっとも、そんなことは冒険者たちが知らない話ではあるが――そんなわけで――
「割り切れんな‥‥」
 エメラルドが、もう一度、この冒険がはじまるときにつぶやいた言葉を吐いた。
 暦は春に近くとも、季節は冬にちがいない。
 コタツは、すっかりはけ――エーリアルがいないところで使用上の注意を村人たちにはして――帰りの時間となった。
「さて、帰り支度ね」
 とカーテローゼが意味深長な発言をして、冒険者たちは支度をはじめた。
 だいぶ気が緩んだらしく、エーリアスの着物からのぞく黒いもの――悪魔の尻尾。
「変わった飾りですね」
 アーシャが、エーリアルの尻尾を引っ張る。
「あら、飾りじゃないの。え!? 本物? さてはデビルか!?」
 などと、棒読みな調子。
「ふふふふ‥‥気がついてしまったんですねぇ。あなたたちの配ったアイテムの呪いで、みんな暖かくて、あそこから動けなくなってしまうですぅ」
 こちらも、ヘタな芝居かかった応答でエーリアルが応える。
「いや、気がついていたから‥‥それに、コタツは本来、そういうもの。呪いでもなんでも、ないから‥‥」
「えッ!?」
 ちょっと、茫然。
「昨年、悪魔たちが跋扈した月夜の晩。ケントの村の防波堤でのこと、忘れたとは言わせないわよ!」
 カーテローゼが悪魔をにらむ。
「あああ‥‥!」
「そうよ、わかったかしら?」
「‥‥って、あの場所にいられた方ですか?」
 しかし、真剣な表情はほんの一秒ももたない娘らしい。
「そうよ! おぼえているでしょ!?」
「‥‥おぼえてないですぅ」
 本当に、すまなそうな表情で、ごめんなさいとエーリアルは頭をさげた。
 妙にやりにくい相手である。
 悪魔に恨みをもつアーシャもなかば笑いを堪えるがやっとの様子だ。それでも、カーテローゼはがんがん攻める。
「あなたが忘れていても、私がおぼえているわ。さあ、観念しなさい!」
「じゃあ、いままでのことは‥‥」
「知っていて、やっていた」
 四人の声がハーモニーを奏でた。
「だ、だ、だましたですぅ、だましたですねぇ〜」
 大きな目に涙をじわりと浮かべ、エーリアルが叫ぶ。
 まるで駄々っ子だ。
「知っていて、あたしをだましていたんですねぇ〜」
「いや、それは、お前たち悪魔のお得意技だろ」
 戦への緊張が血わき肉おどらせ、アーシャをふだんの彼女ではない彼女にする。言葉づかいこそ、その兆候である男の口調にはなっているが、めずらしく冷静なところが残っていもいる。というよりも、この悪魔のあまりに調子外れぷりに、ハーフエルフのその血さえも調子が外れてしまったのかもしれない。
 なんにしろ、きぃきぃと騒ぐデビルは悪魔というよりも、わがままな幼子であろう。飛び上がった姿が月にかぶった。
「見てはだめだ!」
 エメラルドが叫んだが、遅かった。
「ああ‥‥あ、あ、あ‥‥――」
 高ぶる鼓動、脈打ち血潮、喉から漏れるは、荒々しい戦いの歌。抜いた剣がわなわなと震え、血の暴走がはじまる。
 セリアがエーリアルに切りかかった。
 しかし、彼女とて――ぜんぜん、そうは見えないが――地獄でも有数の種族の端くれ。駆け出しの冒険者の剣先がかすりこそすれ、致命的な一撃を与えれるような相手ではない。まあ、きゃあきゃあ言いながら避けているリリス族の娘の様子は、なんというか低いレベルで戯れているようにしか見えないが‥‥
「うるさい! てめぇをぶった切る!」
 アーシャが苦笑を抑えながら、聖剣をふるった。
 一瞬だけ、エーリアルの双眸に真摯な輝きがうまれた。
「ああああぁぁぁぁぶぶぶぶぶぶないいいいですぅぅぅぅぅ」
「避けられただと!」
 会心のはずの一撃が回避された。もっともエーリアルの払った代価も小さくはない。長かった髪が舞い散る。
「そんな危ないものをふるちゃダメですぅ〜」
 もっとも、ちょっと自慢だった髪型のことなど気にしている場合ではない。
 戦いの狂乱にふけったセリアが、再度、襲い掛かってくる。ちょうど、エーリアルとカーテローゼが一直線上になっていた。手馴れたものならば、その可能性も頭にいれて動いたかもしれいない。しかし、まだ若く、狂乱に酔う彼女にまわりを見る余裕はない。
 エーリアルがよけると、その剣先が勢い余ってカーテローゼを襲った。
「しま‥‥っ」
 ヘキサグラム・タリスマンを使って結界内にリリスを捕らえるつもりで準備していたカーテローゼの手からタリスマンが落ちる。
 目をらんらんとかがやかせ、セリアがふぅふぅ息をこぼしながら、カーテローゼをにらんだ。
「よせ!」
 剣を抜いたエメラルドが割ってはいる。
 傍目には仲間割れにも見える状況に陥った。
 これを幸い。
「ハーフエルフは怖い連中ですぅ〜」
 一目散、泣きながらエーリアルが去っていった。気がついたときには、すでに夜の森にその姿は消えている
 カーテローゼが舌打ちしたが、
「まあ、いいわ」
 それは、つぎ会ったら、こんどこそ捕まえてやろうという決意であった。
「まぁ、いいか」
 と、同じようにつぶやきながらも、アーシャはこうつづけた。
「どうも憎めないですね、あのエーリアルって小悪魔」
「申し訳ありません」
 戦いにスリルに身を任せすぎたと後悔するセリアがエメラルドに頭をさげる。たいしたことではないと応じるエメラルドにセリアが問うた。
「そういえば、あの悪魔に対する答えは見つかったのですか?」
「そうだな――」
 エメラルドは、そう前置きして――

 ※

 結局――
「ただいまですぅ〜」
 エーリアルが自宅に戻ったのは、夜半もふけた時分であった。灯のともっていない家へ入ると、すでにベットに入っているのか主人の姿はない。あたりを見回し、コタツにもぐりこむと、涙目のエーリアルは、しくしくと泣くのであった。
 翌朝。
「風邪をひいたですぅ‥‥」
 コタツの中で眠ってしまったエーリアルは、ごほごほと咳をしながら布団の中の人となっていた。
「寒いのに、遅くまで外で遊んでいるからだろ? それに、コタツの中で眠ると風邪をひくものなんだぞ」
 あきれ顔で主人が、彼女の額に水にひたした手ぬぐいをおいた。
「ごふご‥‥」
「あ、すまん、人間のつもりだった」
(そもそも成功の見込みはなかった)陰謀は防がれ、風邪をひいたうえに、しまいには窒息しそうにまでなってしまったエーリアルは布団を顔にかぶせながら悪態をつくのであった。
「やっぱり、コタツは呪いのアイテムですぅぅぅぅぅ――」