求ム! ゴーレム・ストッパー

■ショートシナリオ


担当:まれのぞみ

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:8 G 76 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月23日〜05月28日

リプレイ公開日:2007年05月30日

●オープニング

「我が一族には守護神がおる!」
 男が言った。
「それで、叔父上、いかなる理由で、あの巨人のことを語り始められるのか?」
 若人が問う。
「うむ、実は今年がどのような年であるかわかるか?」
「今年がですか?」
「左様! 今年こそは‥‥」
 と、言いかけたところで老人は言葉を切った。
 そして、しばらく空中を眺め、
「はて、わしは何をしゃべろうとしておったのかのう?」
 白髪の執事が、ため息をついて言葉をつづけた。
「つまり、今年は鉄の巨人のメンテナンスの年なのでございます」
「なるほど‥‥って、魔法の物体に整備が必要なのですか?」
「永久機関なんて信用できるか! というのが、当時、それの製作を魔法使いに頼んだご先祖さまの言葉ですからな‥‥」
「そうじゃ、そうじゃ、思い出したぞ。そこで、しぶしぶながら魔法使い殿が、一定期間がきたら整備が必要なゴーレムを作ってくださったんだ!」
「どうせ超過料金を求められたんでしょ?」
「いや、しょせん特注品なので予算的には問題はなかったと、ご先祖さまは日記に書いてらっしゃるのだな」
「それにしても、また無意味なことを‥‥」
 口にこそ苦情を述べたものの、ひょっとしたら自分も同じことをやってしまうのではと思うと、自分に流れる道楽の血を若者はすこし呪った。
「じゃが、すこし困ったことがあってな‥‥」
「すこしと申しますと?」
「あれの鍵をなくしてしまったんだわ」
「それじゃあ、点検もできませんね」
 全員で笑った。
「な、わけないでしょ! 鍵もない状態でゴーレムに必要以上に近づいたらどうなるんですか?」
「もちろん、襲われる!」
「自信満々に言わないでください! まあ、おじいさまのおじいさまの、そのまたおじいさまの何代前から受け継いだものだし無くす可能性はあったでしょうから、予備の鍵なり非常の手段なりあるんでしょうね?」
「まあ、なくはないが‥‥」
「ないが? なんですか、その言いよどんだしゃべり方は? もしかして、それも忘れたとは言いませんよね!」
「そこまではボケておらんぞ! ただな、動いた状態の鉄の鎧を着たゴーレムの、その顔に見える鎧の覗き穴に覗く、赤い印を押せばいい仕掛けになっておるだけじゃ」
「王になるということも、言うだけならば誰にでもできるという小話を地でいっていますすね」
「素敵じゃろ?」
「ええ、素敵な無敵。無敵な不敵、いったいそんなことを、誰がやってくれるというのですか!?」
 次期の――いつになることやら――当主は頭をかかえるのであった。

 ※

 おせわになります。シャイロックと申します。このたびは、当家の依頼に目を通していただきありがとうございます。さて、我が主人たちが申しておりますように、このたびの依頼は我が家にありますアイアンゴーレムを止めていただくことにあります。
 場所は、我が先祖が眠られる教会の中。
 憩いの日には、我が一族が集って祈りを捧げる、十字架の下にあります。
 先祖の眠りを妨げたり、攻撃を加えたりしたら発動する仕掛けになっております。
 物が物の為、一応、お伺いを立てたところ、王室の方より希少価値の高いクリーチャーにつき破壊することはまかりならぬとの厳重注意を受けました。また、教会の神父さまからは教会内における必要以上の被害につきましては別途請求とさせていただきますとの連絡をいただきます。つまり、被害額に応じて報酬がマイナスされるわけです。厄介な依頼かと思われますが、高名なる、あなたさまがたならば達成可能かと思います。
 どうぞ、よろしくお願いいたします。

 ※

「どうしたの?」
 依頼をギルドに張ったところへ、お使いへ出ていた娘が帰ってきた。
「こんな、チケットを売っていたんですが?」
「どれどれ?」
 フロランスは、そのチケットを一目見て、頭をかかえた。
「依頼費用の穴埋めを見世物で埋めようというわけか‥‥さすが、シャイロック氏というところね‥‥」

●今回の参加者

 ea1671 ガブリエル・プリメーラ(27歳・♀・バード・エルフ・ロシア王国)
 ea2350 シクル・ザーン(23歳・♂・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 ea4465 アウル・ファングオル(26歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea8820 デュランダル・アウローラ(29歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb5363 天津風 美沙樹(38歳・♀・ナイト・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 静寂につつまれた教会は、闇に包まれた空間であり、だからこそ光あふれる場所でもあった。巨大な石造りの中、彩色の施されたガラスから漏れる光の筋は天への階段にも見える。ステンドグラスには、かつて、この一族を襲った災疫とそれとの戦歴を物語り、また巨大な十字の下、その戦いにも参戦した三体の巨人が座す。左右には膝を片膝つき、槍をつきだした二体の石像を従え、その中央には、全身に鎧を着込んだ鉄の騎士がおる。
 聖なるかな。聖なるかな。
 パイプオルガンが歌い、あたかもその場の空気すらも浄化するように鳴り響く。
 突然、扉が開いた。
 音楽がやむ。
 逆光を背に黒衣の騎士があらわれ、鉄の騎士を見つめた。

 ※

「おお、まだはじまらねぇだか」
 顔をまっかに染めたおやじが叫んだ。
「おじいさん、おじいさん、飲みすぎですよ」
 おばあさんが、そういいながらおじいさんの持つ杯にワインを注いでいる。
「ああ、あいつら、どこに陣取っているのよ!」
 友達ときたのに迷子になった女の子が、なにごとか呪文を唱える。発動の瞬間、術者が銀系統の淡い光に包まれ、やがて、にっこり。ここ、ここ! と手をふる。どうやら、テレパシーで友人と連絡をとったらしい。そんな隣では武芸者風の男が、淡いピンクの輝いたかと思うと。横を向き、すこしはなれた場所にいた友人によぉと手をあげる。初級レベルのオーラセンサーでも、教会の中でひとを捜す程度には十分である。
「お弁当はいかがですかぁ!」
 さきほどまで、もぎり嬢をしていた娘が、いまは菓子や酒を売って歩いている。
 そこにあるのは村祭りの景色。
 すっかりごったがえしになっている教会の中には、ふだんとは違う人だかりで、ブライドが高い一族であったのならば、絶対にこのようなことはしないであろうし、いかにもアイアンゴーレムを停止してくれなどと惚けた依頼が出せる人柄の人間を家長にいだく一族だといっていいかもしれない。
 ちなみに観客席は立ち見も含めて、完売だそうである。なお、チケットの値段によって席の見やすさはもちろん、神聖魔法のホーリーフィールドのレベルが違うそうである。
 シャイロック氏はほくほく顔。
「思ったよりも、客の入りがよくて、すこしくらいの被害ならば収支で吸収できそうですな」
 自然、口元にも微笑がこぼれる。
 それも当然だろう。
 ここまで名のある者たちが集まるとは思ってもいなかったのである。
 さきほどまで目を閉じ、パイプオルガン演奏の妙技に興じていたアウル・ファングオル(ea4465)が依頼主に問いただす。
「悪人や、最悪デビルの手に渡って町中で暴走する可能性など無いのですか?」
 パリで一、二を争う実力を噂される若者の手には、いまは、なぜか大工道具がある。
「ご心配はなく。その範囲はこの教会よりも外へはいくことはありませんから」
 と、意味ありげな笑顔を浮かべた。
「それは――」
 どういう意味なのかと問おうとするとシャイロックがアウルを促した。
「みなさん、お待ちのようですよ――」

 ※

「綺麗なものね」
 こちらもまた大工姿で、ノルマン人の目には少女にしか見えない女が教会の外に立ち、空を見上げていた。
 かすみやかかった空は晴天で、雲がのどかに流れていっている。
 もうすぐ三十路の声も聞こえる天津風美沙樹(eb5363)は額の汗をぬぐった。
 本当であるのあらば、もっと時間とお金をかけていろいろと準備をしたかったのだが、そのどちらも足りないことに気がつき断念。とりあえずは、教会の中と外で冒険者総出で進入禁止の柵を立て終わったところある。
「おねえちゃん、がんばってね!」
 などと手をふりながら、菓子を加えた子供たちが歩いていく。
「おばちゃん、がんばってね!」
 銀髪の女性が微笑んで、子供たちに手をふりかえす。
 話には聞いていた、ガブリエル・プリメーラ(ea1671)の年季のはいった猫かぶりには、天津風も感心。子供たちが教会の中へ入っていくと、人間年齢に換算すれば、天津風よりも若いガブリエルの眉がぴくりぴくりと動いていた。
 ガブリエルも、空を見上げる。
「いい天気ね。太陽の光をさえぎりそうな雲もない」
 手をかざし、その細いまなざしを一段とほそめる。
「さて、おもてなしの準備はこれくらいにしない? 十字架の下で眠る巨人。絵面的には詩的なんだけどね――」
「はい!」
 天津風の態度は、どこか初々しい。
 こんな気分の高揚は、初めての依頼を受けた時以来だろうか‥‥
「これからゴーレムを止めるのね? スモールだのなんだのとは、また違うのよね。見るのが楽しみだわ」

 ※

 黒い鎧に身を包んだデュランダル・アウローラ(ea8820)が両手で扉を左右に開けると、足元には赤い絨毯がしきつめられ、その先の十字架のもとに鉄の巨人が待っていた。
 銀の鎧を身にまとった守護者である。
「アイアンゴーレムとはまた珍しいものがでてきたな。しかし、破壊するならともかく、ゴーレムを壊さずに、周囲にも被害を及ぼさずに、となると随分厄介な話だ」
 戦うときの常として、デュランダルは、まぶたを閉じた。
(「だが、やってみせるせ――」)
 と心の中で、つぶやいて、息を吐く。
 そして、駆けた。
 観客たちの見守る中、漆黒の騎士が駆る。
 一陣の黒い風が、その眼前に近づき、絨毯がなくなった場所に片足をつけると左右の槍をのけ、のっそりと巨躯が動き出した。その一歩によって、あたりには地震のような振動が起き、アイアンゴーレムが腕をふりあげると、あたりには衝撃の旋風がふきあれた。
 デュランダル長い髪がそよいだ。
 そのすさまじいまでの一撃を騎士の盾が受け止める。
 傍目には、骨は大丈夫なのかと心配になる。
 ただ、それを受けた男は、目を開けることもなく、その口元に薄い笑みを浮かべるだけであった。
 そして、それがはじまりの合図となり――あたりでは拍手喝采とあいなった。
「さすが『ゴーレムよりも硬い』と評判のデュランダル卿!」
 シクル・ザーン(ea2350)はなかばあきれ、なかば感心する。
 自分にはできない芸当である。
「こらこら‥‥」
 子供たちが、靴をぬいだシクルの足に興味をもち、おもしろがって手をだしてくる。
「なんで、おじさんは裸足なの?」
 そして、素直なものである。
 両親が、こらこらといって、頭をさげている。
「いろいろ‥‥と、ね」
 幼女に、ウィンクしてみせた。
 ふだんであるならば、黒と銀の騎士たちの衝突を皮切りに、魔法が飛び、剣技を繰り出し、周囲の被害など気にしている暇もないすさまじいまでの戦闘となるのだが、どうにもこうにも今回ばかりは調子がでない。
 周囲からは、やんややんやの大喝采。
 まるで村の祭りの出し物である。
 実際のところ、これほどのレベルの冒険者がアイアンゴーレムと戦うところを見ることができるなど、この機をのがせばもう二度とないはずなのである。
 もっとも、まわりの様子が普段とはちがっても依頼に対してはベストを尽くす。それがプロというものであるし、かれらはまちがいなく、その道の達人であり、そこまで達していなくとも専門家であることには疑いなかった。
「鬼さん〜、こ〜ち〜ら♪」
 天津風がゴーレムを前にして、手をたたいて、はやしたてる。
 観客席では子供たちが、その様子を笑いながらまねしている。
 もっとも、やっている本人は真剣そのものである。
 間隔を見計らい、背後との距離を測りながら、しだいしだいに後退。
 ゴーレムの一撃をもろに受けたら、
「痛っい!」
 ですむ問題ではない。
 怪我については戦闘後に教会で世話をしてもらうことになっている。
「まあ、うちの若い者に治癒はやらせますよ」
 シクルが戦場となる教会と、その周辺の地形についての情報を収集をしにいったとき、自分もかつては冒険者だったと自慢する司祭の承諾をもらってきているのだ。
 だからといって無理や無茶をするつもりはない。
 しばらく、傍目には派手さのない、しかし、見るものが見たのならば巧妙なフォーメーションで戦線が後退していく。
(「ゴーレムを外へと連れ出すつもりか」)
 観客席では、そんな解説も聞こえた。
 入り口まで来ると、ゴーレムは突然、その足を止めた。
 扉を背にすると、いちばん近くにいたデュランダルにこぶしを振り上げていた。
「あらあら、やっぱり教会の外には出ないのね」
 教会の外では、天津風が苦笑いをして、やれやれとため息をついてみせる。
「氏が言っていたのは、こういうことですか」
 アウルがわざと大きくため息をつく。
 シャイロック氏の言っていた大丈夫というのは、こういうことだったのだ。
 この教会のアイアンゴーレムは、最初から、一族にとって神聖な領域だけを守り、追い出すためだけに存在している。教会の外へは出ないように作られているのだ。ならば悪人に渡ったところで――デビルはさすがにわからないが――外界に影響はない。
(「さて――」)
 アウルが仲間の名前を叫んだ。
「シクルさん!」 
 ならば――
 仲間をたてた予定の作戦を、この場でやるだけのことである。
 戦場にあっては臨機応変。
 仕掛けは、すでに終わっている。
 あとは望みどうりの結果を手のすることができるかどうかである。
 突然、シクルの体が黒い炎のようなかがやきにつつまれたかと思うと、ぐにゃぐにゃと手がのびはじめた。まるで、蛇がのたうつように、その手はやがてシクルの身長を超え、さらら伸び、教会の天井に近づいていった。
 観客席から驚きの声があがっている。
 のびた手が赤い印の覗くゴーレムの仮面をこじ開けようとする。
 だが、その腕をゴーレムをにぎり、払おうとする。
「おっと!」
 さすがに、そのこぶしに腕をにぎられるわけにはいかない。右手が、逃げ出し、こんどは反対の腕がゴーレムを襲った。しかし、それもゴーレムが腕を払って、撃退しようとする。
「ならば!」
 と、さらには、その両足がゴーレムを襲う。
 さらに、そこへデュランダルと天津風が牽制をいれる。
 こんどはゴーレムが千鳥足になりながら、後ろへ前へと行ったりきたり。
「おおっと、危ない!」
 観客席では悲鳴があがる。
「硬いだけで頭がない敵など!」
 アウルの腕も伸びた。
 すばやいスピードでゴーレムの股を抜き、急旋回、柵にからまり、さらに、今度はゴーレムの肩のあたりを超えて、アウルの手元に戻ってくる。
「よし!」
 そして、その手にはロープが握られていて、足元の柵――戦いの前にかれが準備していたものだ――には、ロープが結ばれていた。
 アウルが、それを引っ張るとゴーレムは体勢を崩した。
 事前に、会場のあちらこちらに作られた柵がうまく作用する。
 もし、ゴーレムに知能というものがあったのならば、そのとき、自分が罠にかかっていたことに気がついたろう。だが、そのようなものをそれの創造主は与えなかった。だからこそ、それは人の形をしたものにしかすぎないのである。
 ゴーレムが、罠にかかった猛獣のように暴れる。
 壊してはいけないという条件なので、いつもであったらありったけの攻撃を仕掛けたであろう四人も手が出ないでいる――四人?
「おい、見ろよ!」
 誰かが叫んだ。
 ステンドグラスに影がのびた。
 まるで闇がもりあがり、あまたの触手が伸び、のたうつように動いたかと思うと、あたかも蛇たちが、獲物に向かって飛び掛るようにして絨毯へと向かう。そして、ゴーレムの影を侵し、縛り上げていく。
「どう?」
 ぞくりとするような嬌声であったかもしれない。
 影の元には美しい姿があった。ガブリエル・プリメーラ。女が、その銀色の髪をかきあげた。
「きょうは天気がいいですものね。日がかげることはないと思っていましたわ。さぁ、いかがかしら?」
 勝負はあった。
 なおも動こうという無駄な動きをする鉄の人形に印が押される。
 歓声が消えた。
 震えるような音がゴーレムがしたかと思うと、二度、三度、ゴーレムの体全体が上下に動いたが、あとはそれっきり。ゴーレムは、完全に停止した。
 いまも、ステンドグラスから光がさしている。
 天使が降りてきて、勝者たちを祝福している。
 そんな様子にすら見える。
 あたかも一瞬が永遠へと還元されたかのような静寂があたりをつつみ、そして、それは大歓声にかき消された。
 花がばらまかれ、かれらの名を叫び、酒の杯があげられ、観客たちがどっと席を離れ、冒険者たちは興奮した観客にもみくちゃにされ――大歓声のなか、その依頼は、大団円の結果となったのである。