一夜の戯れ
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■ショートシナリオ
担当:まれのぞみ
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 69 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月10日〜06月15日
リプレイ公開日:2007年06月17日
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●オープニング
それは、夢だったのだろう。
いつしかあたりは闇につつまれ、深い霧の中に騎士はいた。
「不快だな」
親衛隊の隊長はひとりごつ。
現在ではすでに不自由な足が、いまは自然と動くのだ。
「不愉快だ――」
男はもう一度、つぶやいた。
そして、口には声にならない声が残っている。
(「これは、夢なのだからな――」)
自由になった左の足を動かし、シュバルツ・カッツは、とりあえずの注意を払って夢の探索をはじめた。
まとわりつく霧は、あたかも地からのびる手のようにまとわりつき、騎士をとりこもうとしているかのように近づき、一閃、騎士の抜刀に切り捨てられた。
「ほぉ――」
霧が四散し、風に踊り、ひとつの影となった。
喪服姿の女であろうか。
そのときばかりは、不自然なまでに夢らしくぼんやりとした姿であった。
「誰であったかな?」
「さあ、誰でしょうね? さすが国王の親衛隊、紫隊の隊長さん」
あいまいな顔はだが、美人であろうことはまちがいないようである。そのくせ、声だけはやけに鮮明に聞こえる。
(「どこぞに首なしの美人亭という、愉快な名前の宿屋があったかな?」)
そんな状況にあってさえも、男の心の片隅はどこか冷静であり、皮肉を忘れることはなかった。
「まだ、時が満ちてませんから、直接、お会いする時ではないと思いまして」
「時が満ちていない?」
シュバルツの問いに、女は応えない。
返ってきたのは、提案であった。
「遊戯などいかがですか?」
「遊びだと?」
「ええ――」
いつしか、騎士の背中に夢の女の腕がまわり――その艶かしいまでの感覚はある――赤い唇が、その眼前に近づいていた。
さめた目で騎士は、女の胸をはたく。
「あらくちづけはきらいだったのかしら?」
「乙女のくちづけは歓迎するが、死のくちづけはまだ遠慮しておきたいものだ。これでも、わたしは臆病なのでね。その唇に甘い毒を盛られたら、たまらんだろ?」
「そこまで無粋ではありませんはよ」
くすくすという笑い声が頭の中に直接、響き渡る。
「ならば、こんどの三日月の晩――別にいつでもいいんですけれどね――日没の日が落ちてから、翌朝の日の出までの一晩のあいだ、わたしの手から、あなたが生き延びることができれば、あなたの勝ち――そんな遊びはいかがかしら?」
「一方的な申し出だな。俺が勝ったら、なんの益があるのかな?」
「あなたの生命が永らえましょう」
「大層な物言いだ!」
「ここでの主導権は、わたしにあることをお忘れなく」
「姿なき敵と戦わなくてはならぬとは‥‥な。それで、目的はなんなのだ?」
「あいさつですよ――永遠のお別れになるかもしれませんけれどね――」
笑い声が遠くになる。
(「ああ、あぁ――」)
夢から覚める。
窓からは冷たい風が入りこんできた。
椅子に腰掛けて眠っていたのか――自由のきかない足をたたき、杖をつく。
そして、背後の壁を見て、シュバルツは苦笑した。
「いつでも、俺を殺せるというわけか――」
壁には流れるような文字で書かれた便箋がナイフによって突き刺されていた。そして、その手紙には夢の中で語られたルールが記してあった。
「薔薇の香りの――」
●リプレイ本文
茜色の残光が西の地平線へと落ちていくと、最後に開け放れた窓辺にレースのカーテンが揺れ、それが、その日の太陽の別れのあいさつであったのかもしれない。
ククノチ(ec0828)が、隊長の夢見た場所を見ておきたいということで王宮の、その一室に通されていた。手紙に突き刺さっていたというナイフは、投げられて壁に突き刺さったというよりも、誰か――それほど力のない、それこそ少女のような者――が壁に突き刺したようにも見える。
さて、一通りの見聞が終わった頃、
「バラの香りのつづきだと!?」
冒険者たちのバラの香りの先には、なにが書かれていたのかという問いに、ふふふとシュヴァルツ・バルトは苦笑して、例の手紙をさしだした。
「あ‥‥」
手紙の内容はたいしたことは書かれていない。
依頼の時に聞いたルールの説明だけである。ただ、その紙から香ってくるものはバラの香り。
「どうだね匂いなどいかがかな? その手紙にかかっているバラの香水ほどきつくわないが、君には、このような素朴な味わいの方が似合うかな」
そういうと男は、懐からきれいな包装をした布の袋をとりだした。
「これは何か?」
ククノチは、杖をつく男から手渡された袋に顔を近づけ、くんくんと鼻でかぐ。香ってくるのは、彼女が好きな果実の匂いだ。
「匂い袋というものさ」
そう言って、同じ質問をしたブリジット・ラ・フォンテーヌ(ec2838)にも別の色の袋を手渡した。これもまた、ブリジット好みの果実の香り。
「さて、行こうかな――」
そっと背中からうながし、騎士は少女たちをエスコートをする。
そんな同性の態度に、エルディン・アトワイト(ec0290)は、ただただ苦笑いするだけであった。
「こんな場所もあったんだね‥‥」
やがて案内されたのは、たしかにレノア・レイスフラウ(ea4122)にとっては理想どうりの部屋ではあった。
「まるで牢獄だよ!」
窓のない部屋を所望した、彼女がため息をもらす。
いかつい石造りの壁が四方を覆い、目の前の扉は頑丈な鉄。なによりも、地下にある、その部屋の入り口は、じっとりと湿っている。
「あまり長居はしたくない場所ですね」
「まったくだ。それに、先ほどレノア嬢の言っていたとおり、ここは正真正銘の牢獄なんだよ」
そういってシュヴァルツは、鍵をとりだした。
しばらく開けたことはなかったのだろう、何度か、鍵をがちゃがちゃとやって、ようやく錠の封印が解けた。さびかけた扉が、かなぎり声をあげた。中は、石のベットだけの殺風景な部屋だ。
「懐かしいものだな――」
「まるで、牢獄にいれられたことがあるみたいなしゃべり方である」
「ああ、かつての戦争の時にな――」
復興戦争の生き残りは、そうとだけ言った。
足音が聞こえてくる。
「?」
振り返ると、
「お食事をお持ちしました」
と言って、宮廷つきのふたりのメイドが料理を持ってくる。
レノアの姿が淡い黄金につつまれ、ふたりを見た。しかし、首を横にふる。仲間たちも無言で頷き、何事か語り合っているようであった。なにごとかしらといった表情で、ふたりは弁当箱を置いていく。
そして、料理長につくらせたという弁当を食べながら、一夜の計画についての再確認が行われた。
「交代で見張りが出来るほど人が居ないので、全員で護衛をします」
「了解した。君たちも昼夜逆転の生活をしていて大変だろうし、私もひさしぶりに一晩くらい眠らないように努力しよう。それに、美人とはいえ私の命を狙っている女性とは会いたくはないしな」
「たぶん、その夢に出てきた女は夢魔でしょうな」
エルディンが断言し、モンスター知識で調べたレノアも同意する。
ならば夢の世界に巻き込まれたら不利だ。
ククノチのつぶやきが重い。
「長いな…明けない夜が無いとしても」
なんにしろ、眠ったら負けだ。
沈黙もあったが、やがて互いに声をかけあい眠らないようにした。いつしか話題はめぐり、エルディンの旅行語りとなっている。
「修行のために外国を巡っていました。キャメロット、江戸、キエフ‥‥」
十手、百鬼夜行絵図、ロシア王国博物誌、巫女装束など、彼は自分の所有する異国の宝物を取り出して、思い出の数々を語った。
「巫女姿って、この白と赤の着物のことか?」
蝦夷の出身であるククノチが、記憶の片隅にあった服飾に似たものを指さした。
「女性しか着ないのですか?」
服飾ということで、レノアやブリジットものってきた。
そして、たがいの体にあわせてみたりしながら、わいわいがやがや。はじめは、その装束のかわいらしさ、美しさということが話題になって、やがて着たらどうなのだろうというところへと話はゆく。そして、西洋生まれのどちらとなくククノチに着たことあるのかと、たずねた――はずであった。
「巫女装束‥‥ええ、まあ‥‥着たことありますね。ジャパンでは私のような者は目立ちますので」
それに応えたのは、エルディンであった。
はたして、それだけが理由なのだろうかという視線が、あたりから注がれた。
その女性にも似たかんばせに、その白装束。
見たわけではないが、やはり似合っていたのだろうとは想像できる。
「女性に化けて‥‥か――」
シュヴァルツは苦笑した。
そして、四人に復興戦争の時代にあった、ひとつのエピソードを語り始めた。
「それは、俺がまだ若い頃のことだ」
ある貴人を救い出すという任務を与えられたシュヴァルツは四人の冒険者とともに、その城へと向かった。そのとき、敵をあざむくために参加した騎士たちは全員、武器を隠し、メイドの格好をしたのだという。
「誰が、そんなことをいいだしたんですか?」
「知るか!?」
シュヴァルツの苦笑はつづく。
「ヘンなことをするのものである」
「いや、これはこれで理由がある。武器が隠しやすい格好だったからな」
「スカートにですか?」
「もちろん、そうだがそれだけではない。たとえば、さきほどメイドの娘たちが何で食事を持ってきたか覚えているかな?」
「バスケットでしたね」
エルディンが記憶の糸を手繰り寄せてみせた。
「そう。あれほどの食事の入ったものだと武器を隠すにはちょうどいいだろ?」
そんなことを話していると、扉がかなぎり声をあげた開いた。
「誰!?」
緊張が走る。
「あら?」
それは、さきほど食事を届けてくれたふたりのメイドだった。その手には、バスケットがある。
「おや? 夜食でも――」
言いかけてレノアが飛びのいたのは本能によるものだけだったのだろう。バスケット籠からりんごでも取り出すようなしぐさで出てきたものは鋭利な刃物。
「敵の襲撃‥‥デビル?」
ヘキサグラムタリスマンの反応はない。
「じゃあ!?」
「あなたを殺さないといけない!」
正気を失ったメイドたちの手には、壁に突き刺さっていたナイフと同じ物があった。
杖をつきながら、シュヴァルツは、よたよたとしてナイフの攻撃を避ける。素人の娘たちでも苦戦するようだ。
「もうすこし広ければ杖もふるえるのだが‥‥」
狭い部屋にこもったのが仇となった。
冒険者たちも助太刀するにも仲間たちの体がたがいに邪魔となる。しかし、それは並みの体格の冒険者たちならばの話でもある。この状況は、小柄なククノチが活躍できるスペースはあるということである。
「えぃ!」
ククノチが、ひとりの手首からナイフを叩き落した。
つづけざま、ブリジットがコアギュレイトで、あとひとりを束縛する。エルディンが、メイドからナイフを奪い取った。
メイドたちが、ふらふらと倒れる。
開け放たれた扉の外からうっすらとした光が差し込んできた。
「夜明けが闇を払う時は今。貴方の遊戯もここまでです」
ブリジットの声は凛々しい。
(「あらあら時間ね‥‥」)
ため息が、ブリジットの耳元に聞こえ、鳥肌がたった。
背筋にも冷たいものが走り、ぞくぞくとした。そんな趣味などあろうはずもないのに、同性の声にも似た、そのささやきに、なんといえない興奮をおぼえる。誰かの指先が、鎧の下の素肌をはい、撫でるかのような感覚に襲われる。なんという悦楽。背徳者の喜び。善なる魂の堕落は、悪魔のもっとも喜ぶところである。
「ああぁぁぁ――」
ゆだねかけた快楽をブリジット自身のレジストデビルの魔法がはじいた。
両膝をつき、顔の色を変え、ブリジットは両手で自分の肩を抱いて激しく息をする。
(「あら、残念!」)
なおも嘲笑が響き渡る。
「どうでもいいけどゲームは終了でしょ! それにしても、なんで隊長を倒せる機会があったのに、なぜ遊戯を持ちかけたのかしら?」
レノアが叫んだ。
(「それは決まっているは――」)
「なにがよ!」
(「おもしろいもの!」)
「おもしろい!」
やはり、愉快犯なんだねとレノアは心の中で舌打ちをした。
悪魔の言葉はつづく。
(「あなたたちは、わたしが手をくださなくても亡んでいくもの。ならば、せいぜい美しく華やかに滅亡していく姿を見てみたいのよ。それが歴史という舞台で踊る、あなたたたちに対する、観客であるわたしの唯一の慈悲ではないかしら?」)
「私達の勝利権利として名前くらいは聞かせてほしいものね!」
むっとした声でレノアが叫んだ。
(「あなたの好きなように呼べたいいわよ。わたしは、あなたたちの影。あなたたちの果て無き欲望。心の奥底に眠る、禁忌なき夢の泡の粒なのですから――」)
※
「客だと?」
一夜の騒ぎが終わり、冒険者たちに風呂と食事がふるまわれ、そのまま提供されたベットに就くと、かれらはそのまま眠ってしまった――それにしては、あまりにも寝つきがよかった気もするが――そこへ計ったように客人がやってきたのだという。しかも王宮に約束もなくあらわれることができるとなれば、相応の身分の者ということにもなる。
「アルラウネ様と申され、ブロア家の夫人だとそうでございます」
取次ぎの者が言う。
ならば、相手は王位継承権は低いながらも公爵家の人間だということになる。
「ほぉ、あの公爵夫人か!」
騎士は、その夫である老貴族とはすくなからず縁がある。それに、最近、社交界では、その老人の後妻が美人であるという噂が聞こえてきたのを思い出したのだ。
「はじめまして――」
初めて会ったはずなのに、どこかで聞いたことがあるような声だと思った。
つややかな黒髪を頭で編みあげ、絹の衣で身をつつんだ若い貴婦人は清楚な少女という雰囲気であったかもしれない。だが、時に見せる、その媚びたような微笑から男は、その髪と同じ色をした双眸は漆黒というよりも暗黒といった方が正確であり、唇の赤もまた鮮血のようだと思った。そして、だからこそ、その容姿は妖かしの艶かさだと思った。
「それで、あなたほどの女性が、この無骨な武人になにかご用で?」
「ええ、ごあいさつまでに。これから、いろいろとご迷惑をおかけするかもしれませんし、また、夫の領土で、あなたさまに掛けられるかもしれませんからね。たがいに、パイプを作っておくのも悪くはないことではありませんでしょ? いかがかしら?」
交渉をもちかける女からは、バラの香りがしていた。