【セーヌ河の悪魔】潜入

■シリーズシナリオ


担当:まれのぞみ

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 55 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月08日〜11月13日

リプレイ公開日:2007年11月16日

●オープニング

「――つまり、負けたわけですな」
 敗戦の報を、こともなげにシュバルツ・カッツは王に告げた。
「よくも、そんな風に言えたものだな」
 玉座に肘をつき、頬杖をつきながら彼の主人がうろんな目つきでにらむ。
 昨日、セーヌ河岸を荒らす連中を退治するために兵が派遣されたのだが、盗賊とかわらないその一団に、兵たちの乗った船が戦闘の末に焼かれ、多くの死者や負傷も出すというできごとがあった。
「いくさの勝ち負けは武人の常ですから‥‥と申しましても、正直なところ、なめていましたな。いくら河で暴れる海賊のような連中といっても、敗残兵たちが中心。つまり、もとは貴族のもとにいた騎士なり、軍事の知識をもった者たちがおるのでしょう」
「そうか――」
 当然、そのような不景気な話を王が気に召すはずもない。あからさまに、さっさと帰れという表情である。
 そしらぬ顔をして隊長がつづける。
「逐次投入は趣味ではありませんし、ヘタな手は受てなくなりましたよ。このたびの負けは、連中によい宣伝材料をくれてやったようまものですからな‥‥緑林白波どもの――」
 わざと言葉を、そこで切った。
「なんだ、それは?」
「悪党たちの巣‥‥まあ、そんな意味ですよ」
 にやりと心の中で笑う。
「やけに、あの敗軍の集まりを気にするのだな?」
「ただの残党ならばよろしいのですがね‥‥火の粉は小さければ蝋燭の炎となりますが、大となれば都市を焼くほどの火災の因となります。また、のどを潤すコップいっぱいの水も集まればひとを飲み込むほどの大河の氾濫となりましょう」
「なにが言いたい?」
「盗賊たちの一団が力をつけ、時流にのり、退廃した前王朝を倒して、あらたな国の支配者となる――」
「まるで、わたしが愚昧な王でもあるかのような言いだな!」
「そうなってほしくはないのでございますよ。そのためには、陛下には、まずは第一に血を残されることをお勧めしましょう」
「お前まで言い出すか‥‥よい伴侶がおれば考えるよ!?」
 あいからず頬杖をついたまま、王はふんと顔をだけそむけた。
「よき王妃とは、まずなによりも健康なお子さまをたくさん生むことができる方のことをさすのでございますよ。そして、国としては‥‥たくさんの持参金をもってきてくださる方がよろしいでしょうかな」
 鎧の下に黒くてとんがった尻尾を隠していると噂される男の言葉は王の弱みをみごとについている。。
「いや、それでは愛情が‥‥」
 とまどったような王の言葉を部下の叱咤がさえぎる。
「傾国の美姫とは王の寵愛を一身にを受けるがゆえに生まれることをお忘れなく。そして、王にとって本当に愛をそそぐべきは国であり国民であることを、お忘れなく」
「私は、そのようなものを好かないのだ!」
「それだから、いちばんロマンティストは陛下なのだ言われるのでございますよ! まあ、その手の話は他に好きそうな方もいらっしゃいましょうから、その方におまかせしましょう――なんにしろ、物を盗んだ者たちは盗賊と呼ばれ、国を盗んだ者たちは建国の英雄と呼ばれるのが世というものでございます。同じ盗賊ならば、小さなうちにつぶしておくにこしたことはありますまい」
「それで、どうするのだ?」
 結婚話からは離れたいとみえ、王が話にのってくる。
 いや、まんまと年長者の話に乗せられたといっていい。
 心の中では、にんまりとした笑みを浮かべながら、鉄でできた顔面を持った男の表情は変わらない。
「連中が、どこに本拠をかまえているのか? どのような者たちがいるのか、規模はどれくらいなのか? そんなことを、まず調べてもらいましょう。船はセロール――湖沼地帯ですな――のあたりに向かったという未確認の報告もありますし、まず、村に潜入する必要もあるでしょうな」
「あの娘に行かせるのか?」
 王は、シュバルツの隊の副長のことをいっているらしい。
(「あの娘がお気に召されましたかな?」)
 などいって、からかうのも一興だが、そんな暇はない。
「残念ながら、あれほどのおてんば娘でも‥‥貴族の出ですから隠し切れぬ品というものがありますよ。今回のような潜入は、その手の専門家にまかせる方がよろしいでしょう。なにより、盗賊たちにセロールの村が乗っ取られている可能性も否定できませんか」
「大変そうだな」 
「当初の予定よりも時間はかかるものと覚悟しております」

 ※

「あらあら、陛下をいじめてきたのかしら? 顔に書いてあるわよ」
 ギルドの主人が、その男の来訪に笑って応えた。
「いやいや、人生の先輩として若者をさとしただけだがな」
「いじめっこは、いつもそう言うわよ。それはそうと、頼まれていたセロールの村の情報ね。村はセーヌ河の支流でできた湖沼地帯にある人口、数十人くらいの小さな村落。村人たちは湖沼地帯での漁業を中心に生計をたてている。村長はレアールって娘さん‥‥まあ、一般的な情報としては、そんなところかしら」
 情報を聞き終え、シュバルツは首をひねった。
「娘?」
「先代の村長が、この前の戦いに巻き込まれて死亡、つぎの村長が決まるまでのあいだ臨時に継いだという状況らしいわ。それと、もうひとつ。こちらは未確認なのだけれど、戦いのあと各地からの難民が、あの村に集まってきたという話もあるわ」
「それは、また奇妙な話だな――」
 シュバルツは舌打ちをした。
「なぜ、そんな小さな村に人が集まるのだ?」

●今回の参加者

 ea3502 ユリゼ・ファルアート(30歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea8078 羽鳥 助(24歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb3416 アルフレドゥス・シギスムンドゥス(36歳・♂・ファイター・人間・ビザンチン帝国)
 eb3583 ジュヌヴィエーヴ・ガルドン(32歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 eb9243 ライラ・マグニフィセント(27歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

「さて、みんなそろったかな?」
 男が、シャンゼリゼにたどりつくと、真っ赤な薔薇を弄んでいたライラ・マグニフィセント(eb9243)はふくよかな胸元にさし、テーブルにそろったメンバーの顔を確認した。
 すでに夕暮れの日の光が街を照らす頃合となっていた。
 少女たちがテーブルに食事をならべていった。
 まずは子牛のパテにはじまって、茸のスープ、ハーブに岩塩とオリーブをたらしたサラダ、メインは豚の肉料理でラストのデザートは秋の果実だ。
 あいかわらず、こんなところには費用をおしまない男が依頼主なだけある。
「さて、みなの見てきた村の様子を聞かせてもらおうか」
 食事が一通り終わり、テーブルの上の蝋燭に火が点される。
 冷たい風が吹き、カップからのぼる湯気が白く揺れた。
「私が行ってみってみようとしたのは村長さんのところでした――」
 まず、ユリゼ・ファルアート(ea3502)が報告をはじめた。

 ※

 セロール村の入り口には柵がたてられ、まるで辺境の砦でもあるかのような物々しい雰囲気になっている。村に――街道側と小船が係留された港の――二箇所つくられた門には、それぞれ門番たちが立っている。
 もっともかれらは役人というわけでもないらしい――
「薬草を売りにきたんです」
 ユリゼは門番に、そう申告している。
 しかし、門番たちは、そんな申告など上の空。
 ユリゼの顔や体をちらりちらりと見ている。
 その日のユリゼは、彼女としてはめずらしいほど化粧がはえている。白い頬を、ほんのりと赤く染め、唇も赤く映えている。それに服装もふだんとはちがった大人びた格好。少女らしい容姿が、きょうばかりはすこし大人びて見える。
「そうか、薬草売りか‥‥」
「しかし、薬草売りにしちゃあきれいな顔をしすぎているじゃないか! ウソをついているんじゃないだろうか?」
 と言いながら、ふたりの男たちはユリゼに体を近づけてきた。
「!?」
 ユリゼとて子供ではない。
 ふたりが暗に何を要求しているかくらいはわかった。
 貞操の危機とばかりに、作り笑いをしながら、体にタッチしてくるふたりの手をなんとかかわしてみせるが、権力をかさにきせた馬鹿ほど始末のおけない者はない。
 だんだんと態度は露骨になってきて、怒鳴り声は恐喝となっていく。
「怪しいやつめ、こっちへこい!」
 腕をとり、男たちが番所へ連れこもうとする。
(「本気をだそうか――」)
 さすがに、そう考え始めたところへ、救いの神があらわれた。
「ユリゼさん、どうしましたか?」
 銀河という名前の馬をひいて、ひとりの男がやってきたのだ。
 羽鳥助(ea8078)。
 今回の旅でしばらくの間、ユリゼと道中をともにしている者だ。
「ああ、助ちゃん!」
 ユリゼは門番の手を払うと、羽鳥の腕をとり、おびえたように彼の背中になかば隠れた。一瞬、羽鳥は、えっという表情をしかけたが、必死に訴えかけてくるユリゼのまなざしになんとかしてみようという表情になった。
「俺の彼女になんの用なのかな?」
「誰だお前は?」
「ただの旅人だよ。ジャパンの月道商人の縁者の伝でやって来て、物見遊山であちこち旅しているんだよ」
「そうよ。そのついでに薬草探しもしているのよ!」
 まるで彼氏の言葉に同意する彼女のように、ユリゼも話をあわせる。
 なんにしろ門番とふたりが言い争いをしているところで、
「これは災難でしたね」
 突然、門番たちの背後から声がした。
「あ、これはブルーノ様」
 その声に、あわてて門番たちがふりかえって頭をさげた。
 白いマントが印象的な、面長な青年である。
「村にいれてやったらいかがですか?」
「あやしいヤツらですぜ?」
「せっかくいらした方々ですよ。病人も多いのです。薬師の方ならばなおのこと歓迎せねばなりませんよ!」
 柔和な表情が一瞬だけ、鋭いものとなり荒くれものどもを仰した。
「さあ」
(「しつけが行き届かなくて申し訳ありません。それと薬師の方でしたならば、村長殿の屋敷に滞在している我が主のフレドリック様に会ってくださいませ。お喜びになると思いますので――」)
 ふたりの耳元に男の言葉が残った。
 恋人たち――と、門番が勘違いしたふたり――が去っていくと、
「頼もう!」
 という声がした。
 門番たちがふりかえると、こんどは頬髭をはやした異丈夫がいた。
 身なりこそ薄汚れているが、がたいもよく、その顔には隠しようもない凛々しさがある。傭兵であろうか。
「お前は?」
 自然、門番の声も低いものとなる。
「俺か? 俺はアルフ‥‥ボート」
 親指で自分をさしながら、アルフレドゥス・シギスムンドゥス(eb3416)は満面の笑みを浮かべて偽名を名乗った。
「何の用できたんだ?」
「傭兵の方ですか?」
 ふたりの門番がつづけざまに詰問する。
「いや、この前の戦乱でな――」
 アルフレドゥスは語る。
 この村の近辺では、かつてノストラダムスの信者たちと王の軍が戦った。
 むろん勝利は王の側へ微笑み戦いは終わったが、その後、この地に訪れたものは平和ではなく崩壊であった。
 戦時ということで、ノストラダムス軍にも王の軍にも男たちは兵として連行され、老人と子供だけが残った村は戦いのさなかに略奪され、あるいは焼かれ、兵から戻ってきた農民たちが見たのは、なにもかもが破壊されつくした故郷であった。
 冬が近づき、生活の再建をあきらめて村を捨てた者も多い。そして、そんな者たちが難民として、この村に集まってきていたのだ。
「――妻や娘と離れ離れになってしまってな。風の噂で、難民になって、この村にきたって話なんだよ」
「それは大変な不幸で‥‥この村で、あなたが家族と再会できることをお祈りしておりますよ」
 静かに聖なる印をきりブルーノはアルフレドゥスを村の中へと誘った。
「ブルーノさま‥‥」
(「さまづけの男か――」)
 心の中で口笛を吹いて、アルフレドゥスは難民たちが集う場所へと向かった。

 ※

「村長殿はいらっしゃいますか?」
 村で薬の出店を出す許可をもらいにきたユリゼに同行して先行して村にたどり着いていたジュヌヴィエーヴ・ガルドン(eb3583)が村長の家にやってきた。
 ジュヌヴィエーヴが扉を叩く。
「なんだよ?」
 しばらくして家の中から顔をだしたのは、ぼさぼさになった髪をかいた、半裸の男であった。眠そうに目をしょぼつかせながら、生あくびをしている。男の背中にもたれかかり、その手を男の胸元にすべりこませている女もいる。
「ねぇ、フレドリック‥‥」
 村長は娘と聞いているから、彼女が村長なのだろう。
 すると、この男は女の恋人なのだろうか。
 まさに優男といういでたちの男だった。あるいは、風の噂に聞く、ドレスタットのエイリークとは、こんな男であるのかもしれない。
「ねぇ、じゃあねぇ。お前の客だろ。難民ばかりくるし、ブルーノのおかげで、この前は役人どもに勝てたが、それだって何度ともというわけにもいかんってのに、すこしは考えろよ! たく、いつもいつも夜のことばかり考えやがって――」
「いいじゃない! 難しいことはフレドリックが考えてよ!」
「だから、すこしは考える暇くらいくれっていっているんだよ!」
(「ちょっ!」)
 ユリゼがジュヌヴィエーヴの裾をつかんだ。
 ジュヌヴィエーヴのこみかみがぴくつき、神につかえる淑女はいまにもつっかかっていって、この不埒なふたりに説教をはじめそうに見えたのだ。
「あんたは?」
「聖なる母に仕える癒し手です」
 ジュヌヴィエーヴは、そう名乗り、教会か礼拝所があればそこを利用させて頂きたいとだけ申し出た。
「ああ、いいよ。たしか教会は無人になっている‥‥いるよね?」
「バカか! 家をなくした者たちに解放して、いまや共同住宅みたいなものだぞ! それでよければかまわんが、あんたはいいのか?」
「ええ、怪我をした方が居たらそれを癒す為の簡易診療所を開こうと思っていましたから、逆に幸いかもしれません。怪我以外でも、何か悩み事が有りましたら相談に乗りたいですから、フレドリックさんや村長からも村人に話しておいて貰えないでしょうか? それと、この子ですが、わたしの知り合いでユリゼさん、薬師なんですが――」
「問題なしだな、手配をしておこう。それに薬師の件ならばブルーノの野郎から話がきている。問題はないぞ!」

 ※

 その頃――
 親切好きらしい聖職者に連れられたアルフレドゥスが難民たちの間をめぐり、行方不明になった家族を探していた。
 むろん、さがすといったところで架空の妻子など最初からいるはずもない。
 本当の目的は村の情報を得ようという魂胆があってことであるが、同行者がいるからヘタに本音ばかりで情報を得ようというわけにはいかない。
 その結果、何人かとあった。
 わかればなれになった夫がいる女や、親とはなればなれになった子供たちとだ。
 もちろん、その中にアルフレドゥスの捜し人がいるわけもない。ただ、相手は本当に捜し人がいる。その真摯な瞳と、その後の落胆した顔を見続けるのは、ほろ苦く、つらいことであった。
 そんななか、ひとり、銀髪の少女にも会った。
(「あのまなざし――」)
 別れてから、アルフレドゥスの記憶には、その少女の印象は瞳の色しか残っていなかった。そして、彼自分が村にきた理由を彼女にだけは正直に――仲間たちのことさえ――話したことも覚えてはいなかった。
 羽鳥の足は村から離れ、川べりへとゆく。
 港には、それほど多くの船はない。
 三隻の船が戻ってきた。
 難民たちが、船へと集まっていく。
 船の中から略奪品がばらまかれ、それに人々が飛びつき、ちょっとした騒ぎになる。一方で、別の船には長い列ができている。先頭を見れば、河賊は船を襲って手に入れた品を難民たちに配っている。
 そこから離れると、川辺では槍をもった男が私兵たちの訓練をしていた。
 練度はけっして低くはない。
 王の兵たちに勝てたのも、たまたまというようでもないらしい。
 そして、その景色はけして平和な時代のものでもないのも確かである――
 銀河がいなないた。
 羽鳥の視線が鋭くあたりを見まわした。
(「おや?」)
 川辺をぶらついていたアルフレドゥスと、偶然、遭遇した。
 しかし、この場ではふたりは知らない者同士。
 無言のまま、ふたりはすれちがっていった。

 ※


 漁から帰ってきたライラ・マグニフィセント(eb9243)が宿で、河で見聞したことを書き記している。
 漁師とともに河で漁をしながら見たのは、地元の人間でなくてはわからない複雑な湿地帯であり、それ相応に作られている船。そして、漁師たちも村長に禁じられているからといって近づかない複数の小島――たぶん河賊たちの基地かなにかがあるのでしょとの漁師たちの弁――そんなことをノルマンの人間に読まれないように用心の為に母国の言葉で書いていたはずであったのだ。
(「村の状況を英語で書いているみたいね」)
 テーブルの脇では褐色の肌をした乙女が微笑んでいた。
 ライラは、はっとした。
(「大丈夫。他人には言ったりはしないもの」)
 さびしそうに英語でつぶやくと、少女は銀色の髪を横にふる。そのとき、ライラははじめて彼女の首に細い皮がついていることに気がついた。
「それは――」
 言いかけたライラの横で、宿の主人がしっとしかった。
(「えッ?」)
 声がした。
「ピックルはいるか!」
 のっそろりと宿に入ってきたのは鉄の鎧に身をかためたジャイアントである。頭をすっかりとかりあげ、片目には眼帯をしていて、まるで岩の巨人のようにも見える。
 そのあとには、がらの悪そうな兵たちがつづく。
「グルード‥‥さま」
 少女のまなざしが恐怖のものとなる。
 巨人の隻眼がぎらりと輝いた。
「やはり、こんなところで油を売っていたのか!」
 宿のテーブルがすべて、その怒声に揺れたような錯覚をおぼえる。
 あわててピックルは、ライラの背後に隠れた。
(「やれやれ‥‥」)
 秘密の任務である。
 あまりおおっぴらになるような行動は慎みたいものだが、この状況で、なにも言わずに、この少女を差し出してしまうのも逆に不自然だろう‥‥
 ならば――
「あらあら、いい大人がそんな顔でなんだい?」
 挑発するような口調に、媚びるような目つき
 女という刃で、ライラはジャイアントに挑んでみた。
「何者だ?」
「見てのとおりの旅の者よ。別に一宿一飯の義理もないけど、さすがに小さな女の子がいさめられているのを可哀想に思えるでしょ?」
「可哀想‥‥かっ!?」
 グルードは大笑。
「そうね‥‥理由はそれだけ――。だから、理由くらいは教えてもらえないかしら? わたしも寝覚めの悪いのはいやな性質なのよ」
「なに、そんなの俺が起こしてやってもいいぜ。もちろん、一晩、ベットをともにした後の話だがな!」
「あら、いやだ――」
 ふだんは使ったりしないような姿態でおどけてみせて話は、それっきりとなった。
「まあ、冗談だがな! なんで人間の女を俺がだかないといけないんだ! それに、その娘を傷つけでもしてみろ、俺がフレドリックの兄貴にどんじかられる!」
 少女の安全は約束して、ジャイアントは去っていった。
「いまのは?」
「あの娘ですか? ピックルという子でしてね、戦災の難民として、この村にまぎれこんできてしまった娘なんですよ。両親とは離れ離れで生死も不明。ただ、演奏と歌がうまいのでフレドリックさまがいつもお手元においておこうとしているのですよ」
「なるほどね‥‥」
 さきほど河でとってきた魚を焼いてもらい、塩とハーブで味付けをしてもらった料理を口にする。
「あら! おいしい!」
「魚だけが、この村の名物だったものですからね」
「まるで現在はちがうみたいな言い方じゃない?」
「名物は‥‥河賊どもですよ――」
 主人は寂しそうに笑った。

 ※

 一朝、ブルーノと門番たち――つまるところ、他の村でいうごろつきたちなのだが――が村の門をあけようとしていると、朝霧のなかをひとりの男が歩いてきた。
「もう出かけるのですか?」
「ああ‥‥残念なことに、この村には妻子はいなかったようだ。他の場所をあたってみるつもりだが、まずはパリにでも戻って情報集めさ。いまから行けば夕方くらいにはパリにくしな」
「朝も遅くなりましたが、夕方も早くなりましたからね」
 来たときとはちがった門番の態度は丁寧である。
「アルフボートさんも、ご家族が見つかるといいですね」
 ブルーノがあいさつをする。
「アルフボート‥‥って、ああ、そうだな。幸運を祈っていてくれ‥‥俺だけじゃなくて村にいる者たちみんなのな、それじゃあな」
 アルフレドゥスは門番に手をふった。
(「さて、戻るとするかな――シャンゼリゼでは情報会とかいって、依頼人が飯を用意してくれていると言うし――」)