【聖夜祭】あの樹を狙え!
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■ショートシナリオ
担当:まれのぞみ
対応レベル:1〜3lv
難易度:易しい
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月23日〜12月28日
リプレイ公開日:2004年12月30日
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●オープニング
聖夜祭も近い、この季節になると、普段は仲のよい、その隣同士の村がなにかと張り合うようになる。
原因……と言っては仰々しいが、ふたつの村の境界に立つ一本の大樹を聖夜祭の夜に飾る栄誉をめぐって、ちょっとしたゲームをやる慣わしになっているのだ。
それは、いわゆる玉蹴りのゲームで大樹の前で人の背丈ほどもある大きなひとつの球を取り合い、相手の村の入り口の門にさきにその球を入れた方の勝ちというものである。
聖夜祭の前の朝から始まって、大抵はその日の夕方には終わる。
そして、勝った方の村人たちが大樹の飾りつけに入り、そのまま聖夜祭に突入するという形になっているのである。むろん、負けた方にも教会の大掃除という別の仕事が振り分けられるので不公平ではないのだが、前者の方が人気があるのはいうまでもない。
そんなわけで、その日は競技にでる者たちはもちろんのこと、他の村人たちも朝から手に手に弁当をもち、その競技の行方を悲喜こもごもな様子で眺めることとなる。
そんな競技も、ここ数年はカリス村の勝利がつづいている。
さて、カリス村の負けつづけているルカの村の酒場では村長とが村人たちが、今年こそはの思いを胸に策を練っていた。
「どうしたもんかね……」
この一週間で、いったい何回、村長の口から漏れたかわからない言葉が、その日も漏れていた。
すでに雪も降り始める季節となり、農業を主体とするルカの村では、競技と聖夜祭ぐらいしか大きな行事はないので時間だけはたっぷりとあまっているのである。しかも家にいても邪魔だからといって、家を追い出された男たちが朝からこうして酒場で、のんべんだらりと酒を酌み交わしながら策を練るのだから、胸の決心ほどにはよい策が浮かぶわけがない。
「そうはいっても狩りをやるカリスの村の若い衆は、うちの村の若いのと違って、がたいのいい連中がそろっているだべ」
「うだうだ。しかも、魔法使いっていうだが、あのよくわからん呪文を唱えるやっこさんまで、あの村にはおるしな」
「そうだそうだ。なんでも冒険者とやらをつのってもいるそうだべ」
「勝てるわけねえべ……」
数年来の負け越しのせいか、すっかり負け犬根性がしみついた状態となってしまっている。そこへ女の声がわりこんできた。
「だったら、うちの村でも雇うというのはどうだい?」
村長の妻がやってきたのだ。
「だいたい、見ていればいつもいつも参加者の数だけはうちの村の方が多いくせに、いいところで負けてばかりいるじゃないか! 三年前は大樹からくだる坂のところでがたいのいい男たちのスクラムに負けたし、二年前は相手の村の門前までいったのに、そこで機敏なのにまんまと球をもって行かれた。そして、去年なんて相手の村の魔法使いの幻影にいいように踊らされて……すこしは頭を使ったらどうだい? いいや、そんなお酒づけの頭じゃなにも考えられないのかしら? だったら、そういうことができそうな人達を雇えばいいじゃないのかい? わたしらだってね、毎年とはいわないけど――さすがに、飽きるからね――たまには大樹を飾りたいんだよ!」
●リプレイ本文
「ねえ、キミはなんて名前なの?」
その時、エルトウィン・クリストフ(ea9085)が青い瞳をきらきらめかせたのは、世にもめずらしい両足だちのトナカイを見つけたからであった。
それは、ルカとカリスの村の中央にたつ大樹のもとでのことである。
空はしばらく前から曇りだし、北から吹く風は冷たく、エルトウィンがハーフエルフであることを隠すために身につけた帽子や耳当てが本来の役割を十二分にはたしている。
「ジュネイ・ラングフォルド(ea9728)だ」
むっとしながら、そのトナカイはなんとゲルマン語で応えた。
エルトウィンは目をまん丸にする。
「勝手に驚け!」
トナカイがそう怒鳴るとフードをはらり。エルフ族の長い耳と、それにしてはどこか人間らしい容姿の顔があらわれる。エルトウィンと同じ種族の男だ。
ハーフエルフの男は同じ種族の女に言う。
「俺の事は、ジュネ様と呼んでも構わないぞ?」
「エド・クリスだよ、よろしくね☆」
「おまえはどこへ行ってきたんだ?」
「偵察に行ってきたんだ!」
そう言ってカルスの村に行って、なにやら策をろうしてきたらしいことをほのめかす。そのくせ、あとはただ微笑むだけ。
「それでキミは何をしていたの?」
「いろいろと準備をな」
こちらも、それだけいうとそそくさとその場を離れ、フードをかぶると、身をかがめ、まるでその動物が草を食むように、なにかの作業を再開した。
たまたま近くを通りかかった親子がいた。
「トナカイだよ、トナカイ!」
子供が歓喜をあげたが、いっしょにいた母親はかまわずに手を引っ張っていく。
「目を合わせちゃダメよ!」
「あら?」
空にはいつしか白いものが舞い始めていた。
翌朝――
「降ったもんだな」
白い息をもらしながら リオリート・オルロフ(ea9517)はあたりを見まわした。
一夜にしてあたりは雪景色となり、昨日まで見えていた足元の土や草は雪の下に隠され、山の木々は白い衣装をまとっている。そんな中にあっても、すでに大樹のまわりはルカとカリスの村民でごったがえしていた。普段ならば、それこそ家なり酒場に篭って酒を呑んでいそうなおやじ達も、今日ばかりは酒の抜けた顔で集まってきている。
それにしてもリオリートは目立つ。なんにしろ巨躯なのである。あたりにいるどの人間よりも、頭ふたつは大きく、さすがジャイアントだというところである。
カリスの村人達はもちろん、かれらが雇った冒険者達も、これには驚き、おびえてしまっている。反対に、ルカの村人達の士気はすっかり高揚し、すでに勝った気になっているほどだ。
そんな中、ふたつの村のおかみさんや子供達がたがいに勝て勝てと大声で叫び、鍋を杓子で叩いての大応援。聖夜祭の敬虔な趣とは違うとはいえ、これもまた祭りの雰囲気といってもよい。
やがて、人ごみを掻き分け、司祭があらわれた。
大声で今日という日を祝い、皆とともに祈りを捧げ、競技の開始を宣言する。
「ま、余興を楽しむのを悪くは無い、か。……精々頑張らせもらおう」
大樹からすこし離れた小高い場所で、アンノウン・フーディス(ea6966)が大玉に群がる人の群れを見下ろしながら口元に笑みを浮かべていた。漆黒のローブを身にまとい、フードで顔を隠す、みごとなまでに怪しげな人物である。
「どうなるか、楽しみだな」
「さて、どうしましょうか」
ちょうどアンノウンがなにごとがつぶやいたのとは反対側の小高い場所でも、ゼンという名前の魔法使いが腕組みをしていた。白いローブを着た、まだ少年の頃の容姿が残る青年で普段はカリスの村で子供達に文字や計算などを教えている。ここ数年、同じ村の監督をやっていて、その村の勝利に大きく貢献してきていた。
とある理由から、今年はとっておきの技の使えないゼンは、それでも最善を尽くすつもりでいた。
「あとすこしで丘を越えるだ! 丘をこえたらカリスの村の衆がいるだぞ!」
競技はリオリートが球を転がし、村人達がそれを助け、あるいはカリスの者達が近づけないようにガードする。そんなルカの村が有利な形で進行していた。
この坂を登りきれば、
「カリスの村が見えただ!」
その時、巨大な球は左右にゆるやかな勾配の頂点にある。とてもバランスの悪い場所にあって、転がりだせばたとえリオリートの力をもってしても、それを止めることは容易ではないだろう。
カリスの村の若い衆が四方を取り囲むようにして、襲ってきた。
あっというまに、ルカとカリスの人間との間で押し合いへしあい。ゼンは、ルカの村の連中の疲れるのをまっていたのだ。しだいに、ルカの人間は放逐され、リオリートの周りには人がいなくなった。
リオリートがかまえる。が、それがゼンの狙いだった。小柄な若者達がリオリートの胸元に入りこんでくる。巨体の隙を突き、球を触る。
「しまった!?」
球が転がり出す。
ごろん、ごろんと転がり、坂をくだる。
ここで一気に流れを変えようというゼンの作戦である。そして、彼はつぶやいた。
「ルカの村の人達は、これでやる気をなくしますよ」
しかし、それは例年だったならばだった。
転がった球は、ちょうど次の作戦を練りながら歩いてきたアンノウンに向かった!
「って、おい! 何でよりによって私のところに勢いついて転がって……―」
トルネードの魔法を唱え、一気に球を丘の反対側に飛ばしてしまう。
雪と球をともなった竜巻は、丘を超え、球をぽとり。こんどはカリスの村へ向かって球が転がり出す。ルカとカリスの村人達が、喚声をあげながら、それを追った。
ちょうどそこへ、こっち、こっちと二本立ちのトナカイが手招きする姿が目に入る。
「へッ?」
(「見なかったことにしよう……」)
とたん、こて、こて、こてと立て続けにカリスの村人達が転んだ。
トナカイの格好をしたジュネイが額の汗をぬぐう。
「ふっ、いい仕事をしたぜ」
そういってジュネイは、その場を立ち去ろうとして……雪の中にめりこんだ。
昨日あちらこちらに仕掛けておいたた罠が、ちょうど雪で隠れてしまい、ものの見事に自分もひっかかったのである。
「あと、すこしだ!」
顔を真っ赤にしてリオリートが叫んだ。
まわりの男達も同様で、吐く息は白く、流れる汗が湯気だっている。日が暮れ、火が焚かれると、その様子はまるで神に捧げられるという東洋の祭りににも見えてくる。
カリスの村の門前での攻防は激しさをましていた。
大方の勝負はついたといっていいだろう。
(「しかし!」)
その一念でカリスの村人達が防戦にはいっていた。もう、だいぶこの状態が続いているだろう。この状況が永遠につづく、そう思えてきたときである。
きゃあきゃあと言う声がした。
状況を打破しようとしてエルトウィンが投げた雪が、たまたま子供達にあたり、それがそのまま雪合戦になってしまっていたのだ。競技などそっちのけで、その一角では、子供達が雪合戦に熱中していた。
なんという場違いな様子か――
一瞬、場の空気が和んだ。そして、気の緩みが、その勝負を決めた。
「うぉ!」
というリオリートの絶叫とともに、大玉がついにゴールの線を越えたのである。
「それにしても、なんでお前達は魔法を使ってこなかったんだ?」
終了後の祝宴で、アンノウンが杯を口にしながら疑問を呈した。
みずからのもつ酒を提供し、皆で祝杯を盛り上げる心意気はよしである。
「なにを言うだべ、ルカの村民どもが怪しげな魔法使いを雇って、うちの魔法使いの先生が魔法を使ったら、とんでもない災いがふりかかるる呪いをかけたって、山エルフだとかいう、きれいなねえちゃんが言って回ってたべ」
「だから、みなさん私に魔法を使うなっていったんですよ」
ゼンが肩をすくめて笑った。
「怪しげな魔法使い?」
ふたつの村の住人達の視線が、一斉に怪しげな格好の魔法使いに集中した。
「えっへん☆」
その頃、そんな怪情報を吹いてまわった女が、大樹の飾りつけをしながら、ルカの村のおばさん達に、そのことを自慢げに語っているのであった。