亡き君に黙示録の花束を
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■ショートシナリオ
担当:まれのぞみ
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 62 C
参加人数:5人
サポート参加人数:2人
冒険期間:11月24日〜11月29日
リプレイ公開日:2008年12月02日
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●オープニング
冒険者ギルドにやってくる依頼というものには、いくつかのパターンがある。
ギルドのカウンターにやってきて依頼を頼むという一般的なパターンから、各地の仲介者を頼っての仕事の依頼、あるいはかつて依頼を成功させた結果、お得意さまやあるいは好印象をもってくれた人物を通じての依頼。あとひとつはギルドの人間の個人のツテによるものである。
少女がノックをして部屋に入ると、床には一枚の手紙が落ちていた。
拾おうとして身をかがめようとすると、フロランスが
「いいのよ、いいの」
といって手を振る。
そして、その手紙はゴミ箱にでも捨ててしまいなさいと言う。
(「あらあら――」)
どうやら手紙は中身を確認をするまでもなく、彼女の主人にとっては、お気に召さない相手か、あるいは依頼内容のようだ。
どこの貴人か金持ちか物好きか――
「あら!」
手紙を拾った少女は、裏を見て、目を細めた。
そして、彼女の主人とその背後に見える開け放たれた窓の外――秋の空を見ると、窓辺により、延びた枝から紅くなった葉を一枚、拝借して、それを盆に載せた。
茶とともに主人の前に置く。
「あら?」
茶の湯気にそえられた季節の便り。
何十もの言葉にもまさる、一瞬というものがある。
そして、永遠にも思える一瞬というものもあるのである。
「そうね‥‥もうそんな季節なのね」
フロランスはため息をついて、カップを手にした。
「はい」
古き傷は癒えれども、それはもとに戻ったのではない。新しく皮膚という再生をへて、新たな姿になったにしかすぎない。そして、新しきものもいつしかかつてのように体になじみ、昔からあったものであるかのように思えてくる。
言い換えれば、日々とは日常の書き換えの連続によって成り立つものである。
秋という現在は、夏という過去があって存在するのであり、その現在という時間もすぐに冬という未来に書きかえられる。
しかし、かつての傷跡は体のどこかに残っている。
「こんな季節ですから、このお方から手紙がまいったのででしょうね。この方にならって、わたしも、こんど両親のお墓参りに行こうかと思います」
少女は主人に休暇の申し出をした。
風が一陣、吹いた。
風の精霊たちが、手に手をとりあい、軽やかではあるが、どこか曲の底には寂寞とした曲調をたたえた秋風のワルツを踊っている。
やがて――
その言があることはわかっていたのだろう。
フロランスは、それを是とした。
そして、遠くを見つめるようなまなざしとなる。
「あの戦争から‥‥あなたの両親が亡くなり、あのノルマンが滅んだ日から、もうどれくらいたったのかしら?」
遠くで鐘の音がしてきた。
足の早い秋の夕暮れは、いつしか窓辺までやってきていて、教会の鐘の音が薄暗くなった大気のなかに響いてきた。
少女が、すこし寒そうに身震いをしながら窓を閉めると、フロランスがランプに火を点す。
廊下から、あわてて教会へと向かうと叫んでいる娘たちの声と足音がした。
そういえば、今夜は戦争の死者を弔うミサがあったか。
死者に対する儀礼は死んだ者のためにあるのではない。
現在を生きる者のためにある。
そうでないのならば、宗教など死者の集うという、天の獄なり地の獄にあればいいだけの話なのだ。しかし、それが地上にあるということは、やはり、それを必要とする者たちがここにいるということなのであろう。
「ときには心の傷を癒したい‥‥そう思うときもあるのですよ。わたしにも、そして、かの御仁も‥‥」
少女はにっこりと笑った。
「わかったわよ」
めんどうくさそうに――人前ではけして見せることはない、フロランスの日常の一情景――頭をかきながら彼女は血縁者の申し出を受けることとした。
「しかし、あの子の仕事は条件がめんどうなのよね‥‥初恋の相手の墓参りくらい、自分の部下を使えばいいのに――」
ぶつぶつといいながら、フロランスは所定の書類を書き始めるのであった。
●リプレイ本文
「今の時世、用心に越した事はない…そこで、コレだ!」
リスター・ストーム(ea6536)がわざとらしく、ひひぃひと笑いながら青と銀が奇妙にからみあった指輪を胸元から取り出した。
「さあ、これを使えば新しい世界が見れるぞ!」
異性をひきつけてやまぬ笑顔が、この場合、ちょっとした狂気の演出にさえ見えてくる。
「ま、まて、わ、わたしには‥‥――」
さっと血の気がひき、青くなった貴族の顔には肌寒い日だというのに汗が流れる。
つけ髭がとれ、せっかくの鬘もずれてしまい、腰をぬかしながら、壁ににじり寄る。
リスターはいやらしい笑顔で――
「‥‥じゃあねぇよ! まあ、いいじゃないか、その辺の変装より、手軽で完璧さ」
リスターは貴族の手をとり、その指に輪をはめ――悲鳴があがった。
それは、うららかな秋の日のこと。
カップからは白い湯気があがり、できたての菓子はまだ温かい。
一口、それをかじり、茶が喉をすぎていく。
「大丈夫でしょうか?」
隣の部屋から聞こえる奇声に、ふだんはギルドの受付をやっている少女がおびえたような顔をする。
「大丈夫なんじゃないかしら?」
どうでもいいという態度でフロランスは、午後の暇を楽しんでいた。
いつも茶を入れてくれている娘は申告どうり墓参りに行っている。
(あの娘にくらべると、いまいちかな‥‥)
ふたたび、悲鳴――こんどは女性の声があがった。
「なんでしょうか、いまの?」
「なにをやってい‥‥るの――!?」
さすがに重い腰をあげ、声のした部屋の扉を開けるとフロランスは目を疑った。そして、その名前が喉まででかかった。
いまは亡き、あの日の少女。
実の弟のようにかわいがっていた、あの男を守るために盾となり生命を落としたひとりの女。史実には残ることはない、しかし、それを知る者にとっては確かに歴史を決定づけた、あの娘。
その娘が、いま、へたりと両膝を左右に広げて座り込んでいる。
ぶかぶかの男物――あの貴族の男が着てきたものだ――を身に着け、その胸元ははだけて、白い肌となによりも女性特有のふくらみがのぞく。
ちらりと視線を下におくりながら、その女は顔を真っ赤にしてしている。
リスターが女の両手をにぎりながら、そのまなざしをのぞきこむ。
「どうだい、女になった気分は? それになんて魅惑的なんだろう」
そんな男の指にもリングがきらりとかがやいている。
「‥‥うん、誰がどう見ても薄幸の美女っ。似合いすぎですっ」
リーディア・カンツォーネ(ea1225)が目をかがやかせながら薄幸の貴族をみつめたが、もうひとりの男も気になるようである。
「あの方の態度は、なにかの呪いですか?」
「悪魔の呪いです!」
ひそひそと先輩のクレリックにささやくと、ジュヌヴィエーヴ・ガルドン(eb3583)がギルドで出されたカップを激しい音とともに皿に載せた。
なんにしろ冗談なのか本気なのかは、好色な男の指に光る指輪のせいで他人にはわからなくなっている。
その指輪について、書物はかくのごとく記している。
「牛の角をかたどった飾りのついた、桃色の魔法の指輪。七つの大罪の名が冠せられており、身につけたものの能力を上昇させる。身につけたものを好色にする呪いがかけられている」
「はいはい、遊びはそこまで!」
手を叩く音がしてライラ・マグニフィセント(eb9243)が部屋に入ってきた。
野に咲く一本の薔薇のような凛々しい姿をした戦士だ。
涙を目に浮かべた女が見上げる。
「ヨシュ‥‥いや、依頼者の貴族殿だね」
にっこりと笑い、あたかも女装の騎士が幼い姫に手をさしだすかのような態度で応じる。こくりとうなずく貴人の姿は、さきほどまでの青年とは思えない可憐さである。
「依頼の期間中はザザ・デュブルデュー卿と名乗って貰える様にするとありがたいが、どうかね?」
こくりとうなずく。
「それは、よかった」
ライラが指をならすと、シフールやギルドの娘たちが嬉々とした表情で、戦乙女の兜やらロイヤルナイト・サーコートといった冒険者の道具を持って部屋へ流れ込んできた。
「さあ、こちらへ!」
そして、さきほどまでは男であった女を鏡の前に立たせると、初めて驚いたような表情となってザザは鏡に手をのばした。
そして、鏡面の顔をなぞるように指先を動かす。
まるで、かつて失った大切なものをふたたび目の当たりにし、それが本当であるかのように――そして、健康的な男子らしく、自分の胸をさわったり、あるべき場所を恐る恐るとのぞきこみ――
「ああ、ザザさん鼻血が!?」
「精神までは影響しないはずなんだがな?」
ひとり、部屋の外へと聖職者ふたり組に耳をひっぱられしょっぴかれた男は左右に美人と美少女の小言を聞かされながらも、馬耳東風の体でいた。
なんにしろ準備が終わり、騒がしい一団がギルドを立ち去っていく。
やれやれといった顔のフロランスは声を聞いた。
「‥‥初恋は実らないジンクス大当たり〜?」
さきほど、彼であった彼女の着替えを手伝っていたシフールが、彼女のうたい文句をつぶやいていたのだ。フロランスは遠い目をした。
「彼の場合はね――」
※
(「ウィリアム3世に過ぎたるもの――」)
そんなお題を家庭教師のだした宿題のあいまに考えていた娘がいる。
どこかの貴族の館だろう。
家庭教師が椅子に腰掛け、本を読みながら教え子が出した問題を解くなり、質問をするのを待っている。そして、その生徒の方はいまかいまかとチャンスをうかがっているし、もちろん出された問題など、一問たりとも解けてはいない。
やがて、家庭教師が立ち上がった。
お手洗いにでも行くのだろう。
部屋を後にした。
ちらりと確認。
大きく息をつき、でも小さな声で、
「出かけてきます!」
あいさつをして、窓からふわり。
逃亡成功!
せっかく領地からにパリに出てきたのだ。
羽を伸ばさなくては!
それに、おもしろい噂を聞いたのだ!
※
シフール便のもってきた仲間からの手紙を受け取ると、一読してライラは苦笑をした。
「こまったね」
別にこまってはいそうにない声音だ。
貴族を囲むようにして移動していた仲間のひとりが不思議そうな表情をしてふりかえった。
「マグニフィセント様、どうなされたのですか?」
銀色の髪を頭の左右でゆったレリアンナ・エトリゾーレ(ec4988)の幼い顔がライラを見つめている。
「せっかくギルドの方で低いレベルのメンバーを集めて、めだたなくさせるつもりいたみたいなのに、わたしたちみたいな名声がある者たちが集まったから、別の意味で興味をもたれたみたいよ」
「それでは!?」
「用心にこしたことはなしということですよ。さあ、手伝ってください」
ジュヌヴィエーヴがふたりに掃除道具を渡した。
リーディアが手馴れたようすで墓の周囲のそうじをはじめている。
それに同じ職業の仲間がつづく。
修行時代にはやらされたのかもしれない。
「シンプルな墓ね――」
そうじの合間、ジュヌヴィエーヴが墓標の前に立った。
愛しい女性へ――
そうとだけ書かれた石づくりの墓標には、その高価そうな作りとは裏腹に奇妙なまでに生前の彼女をしのばせることはほとんど書かれてはいないし、ジュネの想像していた紋章もなかった。
「なによりも、彼女の亡骸はここにはないからな――」
依頼主の口も重い。
「復興戦争か‥‥」
墓標に記された没年がリスターの目に入った。
「あなたも誰か‥‥――」
そういいかけて、ザザは言葉をきった。
あれは、ノルマンに生きている者たちに等しくふりかかった人災。
そして、人のもたらした災いである因は誰かにある――
ただ、リスターはその間には応えなかった。
「俺か? 家を残すため貴族の血筋の女と結婚し、名誉のため戦場に出たが、帰った時には、妻は娘を残して逝っていた‥‥体の弱い奴だったからな」
そして、自嘲的な笑みを浮かべながら、いつしか、それは一人語りとなっていた。
「あいつが幸せだったのか、俺を愛してくれていたのかも‥‥今となっては知りようがない――」
それはザザとて同じ。
「どんな女性だったんですか?」
誰となく尋ねてくる。
「彼女か? 彼女は――」
遠い日の幻。
少年の愛した過去の幻影――永遠の女性――心に浮かぶは、そんな彼女とともに過ごした黄金期のことばかり――
そして、神につかえる女たちの祈りが歌われ、献花して、墓参りを終わった。
頭上に何かが飛来した。
剣がひかり、男の周囲を冒険者たちが囲む。
すると、それを眺めるかのように、石づくりの悪魔がその墓に降り立った。
声がする。
「はじめまして、ウィリアム陛下」
まさか、そのガーゴイルがしゃべっているわけではないだろう。
「人形ごしのお話で申し訳ありませんわ。わたくしは‥‥いいえ、真名を語る悪魔もいないでしょうから、謎の悪魔Aとでも名乗っておきましょうか」
「その謎の悪魔Aがわたしになんの用かね?」
王と呼ばれた男は躊躇もせずに応じる。
「いえ、別にたいしたことではありません。わたしは、ただ告げにきただけ」
「告げに?」
「これより――いえ、そのようなものはとっくの昔になされていたのでしょうが――いまここ改めて我々は、ノルマンに対して宣戦をおこないましょう。いえ、人類にエルフにドワーフに‥‥すべての生きとし生ける者たちに対して、我々の最後の聖戦がはじまることを宣言しにまいったのですよ。陛下――胸の具合はいかがでございますか?」
ガーゴイルが爪をたて、かれらを襲った。
※
日が暮れた。
カラスが鳴いて、敗軍の将はため息ばかり。
「なによ、あの戦力! よくよく見れば、有名な冒険者ばかりだったじゃない! それが魔法のアイテムで武装したり、使ったりして‥‥ああ! もう、くやしい!? それがわかっていたら、わたしだってもっといいのをを用意したのに! せっかくレベルの低い連中だってきいたから、なんの改造もしていないただのガーゴイルくんを用意したのに、なによ! なによ! あんな連中が相手じゃあ、がーくんなんて‥‥ごめんね‥‥。ああ、もう! こっちの攻撃はなにもあたらないし! 一方的に殴られつづけられるだけで‥‥もう、これは絶対に悪魔に対するいじめね!」
頬をふくらませては文句たらたら。
気分はすっかりブルー。
暖かなお風呂に入って、料理長たちが作ったおいしい料理とデザートを食べよう。あとは大好きな人形たちに愚痴を言いながら、いっしょに眠ってしまおう。
もう、やだやだ!
視線をあげれば、屋敷の自分の部屋には明かりもついていない。
「あ‥‥――」
外で遊んでいたから忘れていたが、宿題が終わっていない。
「先生に怒られちゃう!」
窓辺をちょこっと開け、左右を確認。
部屋の中には人影も気配もなし。
ほっとため息。
靴の土ははらって、
「ただいま」
といって、静かに帰宅。
とたん、部屋の扉が開いた。
「どこに行ってらっしゃるのですか、お嬢さま!?」
「あ‥‥せ、先生!」
きゃあという、かわいい悲鳴と、
「言い訳を聞くのはあとです!」
という叫び声と小言、先生ごめんなさい! という泣き声がつづけざまにあがった。
そして、その屋敷の外をちょうど冒険者たちが歩いていてくる。
「お尻をたたかれるんでしょうかね?」
「そんな音が聞こえますわね」
「いたずらをしたのか、宿題をさぼったのか‥‥貴族の子弟も大変だね」
「パリでも、そういうことをするのですか?」
この街を異世界の法則が働いている別世界かなにかと心底勘違いしているにちがいないレリアンナが、さも奇妙ですねと応じた。
なにしろ、彼女のパリに対する偏った見方はこの依頼の冒頭が強すぎたせいであろう。彼女はふるさとの友人にこんな手紙を送っている。
「パリでは殿方が女性の格好をすることが普通と聞きました!」
※
「どうされましたか?」
ひとり、ベットに入って、それでも眠れないでいると声がした。
「いや、なんでもない‥‥とは、さすがには言えないな」
「癒えない傷のことですか?」
昼間使っていた――使う予定であったといった方が正確であろうが――偽名と同じ名前の男の声がする。
「言うな‥‥私とて気にしていることなのだ。それに、きょうは世話になった者たちに、いろいろと諭されたぞ」
「当然でしょうね」
彼よりも早く生まれ、そして、寿命だけでいけば彼が死んだあとさえも生きつづける男はさもありなんという口調で応える。
「それで、彼女――あの三人の娘――たちには、聖夜祭にはなにを贈ったらいいだろうかな?」
「めずらしいことをいいますね」
「いろいろと言われたのだぞ――」
たとえばと言って王は女の声をまねてみた。
「時には足を止めて過去を振り返る事も必要だと思います。前だけを見て歩み続けられる程、人は強く有りません。どんなに強い人でも何れ疲れて身を損なう事でしょう。でも、振り返って休んだ後はまた前に進みませんとね。そうでないと、この方も安らかに眠れないでしょうから――とかな」
「身につまされますな」
「だから、いまは亡きあの人のことはおいて、生きている者たちになにかをしてやりたいと思ったのだ。それに彼女には、いつでも会える気がしてな――」
そっと胸に手をあてながら王は語っていた。