ニューイヤー・コンサート

■ショートシナリオ


担当:まれのぞみ

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月11日〜01月16日

リプレイ公開日:2005年01月19日

●オープニング

「あらあら、あんたたちは運がないねぇ」
 おばあさんが君達を宿に迎えながら笑った。
 ふりかえると扉の外は、白い風景に閉ざされようとしている。
 このお調子では、雪はしばらくふりつづき、たぶん、数日は外にはでることができないまま、この宿で今年は新年を迎えることになるのだろう。
 宿のおばあさんは、
「長期の泊まりになりそうだし、安くしとくよ」
 と笑う。
 別に急ぐ旅でもない。
 年を越し、雪がやむまで、この宿に世話になろう。
 この先にある峠を越えた街に行くつもりであった君達だが、即座に決心した。それほど外の天気は荒れている。
 それに、引退した魔法使いのおばあさんがやっているというこの宿は、知る人は知る程度には評判がいいところなのだ。
 赤々と燃える火のはじける暖炉のそばでは、老いた黒猫が子猫たちとともに、大きくあくびをしている。乾いた服に着替え、食事をとり、酒を呑み、君達は他の客とおしゃべりしたりしながら、のんびりとした夕べを楽しんだ。
 そして、目蓋が重くなり、口からあくびが出始めた頃、
「誰かいないか!」
 と、扉を叩くものがいた。
 扉を開けると、吹雪の玄関には、ひとりの男がいた。
 全身、雪にまみれ、肩には竪琴をかけている。
「友人が迷子になったんだ!」
 男が叫ぶ。
 フィーバと名乗った男は、この吹雪の中、友人とともに峠を越え――君達が、危険だと判断して中止したコースだ!――隣の街へ行こうとしていたというのだ。
 その街では、新年を記念してその年の最初の日にコンサートを開いていて、二人は吹雪の中をムリして出発してしまい、結果として友人が遭難してしまったというのだ。
 捜して欲しい、できうれば、その上で、自分とともに彼を連れて街まで行って欲しいとまでフィーバは言う。
「捜すのはともかく、山越えはよしておきな」
 宿の主人は応えている。
 君達は、はたしてこの吹雪の中、依頼主の友人を捜しだし、しかも山を越えた隣の街まで連れていくことはできるのだろうか?

 あるいは……――

●今回の参加者

 ea2049 カルロス・ポルザンパルク(41歳・♂・ファイター・ドワーフ・フランク王国)
 ea8357 サレナ・ヒュッケバイン(26歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea8537 ナラン・チャロ(24歳・♀・レンジャー・人間・インドゥーラ国)
 eb0005 ゲラック・テインゲア(40歳・♂・神聖騎士・ドワーフ・ノルマン王国)
 eb0132 円 周(20歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb0382 安寧門 金角(30歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb0435 ヤマ・ウパチャーラ(53歳・♂・僧侶・シフール・インドゥーラ国)

●リプレイ本文

「む……」
 深夜の騒動に寝起きをたたき起こされ、不機嫌そうな顔のシフールがあらわれた。フィーバをにらむように見て、そのシフール――ヤマ・ウパチャーラ(eb0435)は、しかし、次の瞬間には異なる色の両目に微笑をたたえた。
「私はこれから食事です。あなたもいかがですか?」
 すっかり動転しているフィーバを椅子につかせる。そこへ宿のおばさんが間髪をいれずにお茶をだす。フィーバが、それを一口すすり、まわりを見まわすと、冒険者たちがすでに準備を始めていた。
 サレナ・ヒュッケバイン(ea8357)が声を残して部屋にかけこんでいく。
「フィーバさん、貴方のご友人は必ず私達が連れて帰ります」
 ありがとうと応え、フィーバは、ひと息をつく。肩の力が抜ける。気持ちに余裕が生まれる。そう、たいていの問題はお茶を一杯呑むあいだに心の中では片が付いてしまうものである。あとは、それを実行できるかどうかだ。すこしは気分が落ち着いてきたフィーバに、毛むくじゃらな顔をしたカルロス・ポルザンパルク(ea2049)が話かけてくる。
「お仲間の事について、教えてもらえないだろうか?」
「そうですね――」
 フィーバは、友人、ヨハンの事について語り始めた。
 その頃、宿の一室では水草の模様が染めこまれた白い衣装を身にまとった円周(eb0132)が黙想をし、手をあわせていた。その唇には、故郷の言葉が踊っている。もし、彼の故国の言葉がわかる者がいたのならば、彼が土地の神に天候の回復を祈っていたことがわかったであろう。円周の体が青白くぼんやりとかがやいている。
「周ちゃん、行くよ!」
 扉の外からナラン・チャロ(ea8537)の呼ぶ声がした。
「はい」
 かがやきが自然と薄れ、防寒服を手にすると周円は部屋の外へ向った。
 すでに有志の救出隊がそろっていた。
 カルロスが、フィーバから得た情報を元にたてた計画を仲間たちに語り、詰めを行っている。なお、フィーバはカルロスとナランに説得されて宿に残ることになったという。
「むぅ……すごい吹雪じゃのぅ。いくら魔法があるとはいえ天候が変わるまでには時間がかかるじゃろう」
 ゲラック・テインゲア(eb0005)は風できしむ宿の扉をすこし開け、外の様子を確認すると、宿の中にいる仲間たちに指示をした。
「はぐれないように全員、このロープを腰に結びつけるのじゃぞ!」
 全員が腰にロープを結ぶと気合の入った声をあげ、安寧門金角(eb0382)が先頭になって雪の中に向って出発した。
「安寧門が番人。金角参る!」
「気をつけるんだよ!」
 宿からほんの少し離れただけなのに、もう宿のおばさんの声が、風の音にかき消されている。吹雪は、周円の声など聞こえもしなかったように吹き荒れ、あたかも白い姿をした精霊たちが冒険者たちを踊りながらあざけわらっているかのようだ。
 顔にふりかかってくる雪に視界は閉ざされ、目蓋を開けていることもつらい。わずかに開く目には、白と黒のグラデーションで彩られた世界が見える。ただ、ゲラックののかかげた小さな灯火とか細いロープだけが、全員を結びつける。
 防寒具をつけているのに、そんなものなど意味がないと思えるほど寒い。手の先、足の先が冷え、凍え、そして感覚がなくなってくる。さきほどまでいた宿の温かさが恋しい。愛しい。それでも、行くしかない。
 遠くに雪崩の音を聞き、腰までかぶる雪をかきわけ、スコップですくい、前進する。
 いつの間にか、白一色の世界に迷い込んでしまう。
「こっちだな」
 それでも、山に対してはゲラックの土地感があり、
「そっちは行くでないぞ」 
「危険だ!」
 金角とヤマにはそれぞれ雪上での土地感がある。
 割れた氷上、雪に隠れたクレパスなどをうまく回避し、危険だといわれた山道を通り抜け、フィーバがヨハンとはぐれたという場所にくる頃になると、
「ようやく……――」
 円がため息をつく。
「わぁぁあ!」
 スコップを担いだナランが白い息を吐きながら、歓声をあげた。雲が割け、すべてを照らすよな満天の星空が凍てついた夜空からのぞく。
「さて、それでは魔法を使う方々にグッドラックを使用しよう……――」
 雪もやみ、風も止まったというのに、ゲラックの発言に、まわりの気温が確かに数度下がった。
「……ん? ち、違うのじゃ! 断じて駄洒落ではないのじゃ!」
 ぶつぶつと言うゲラックの体が白いかがやきにつつまれ、ヤマの体が黒いかがやきに燃える。こちらは、デティクトライフの魔法を使ったという。
 ヤマが魔法で周囲を探っている間、周囲ではカルロス達がヨハンの名前を呼びながら渦を巻くように歩いて捜索しているし、一方では、まだか、まだかといった調子でスコップを雪につきさした金角達が掘り出す機会を待っている。
 おかしいなといった表情をヤマがした。
「あれ? 煙?」
 星空を見つづけていたナランの目に、うっすらとたなびく煙が映った。
「どこからですか!?」
 ヤマが叫び、空を見上げる。その優れた目には煙がどこから流れてきているのかがわかった。翼をはためかせる。岩場に、わずかに光がもれる横穴がある。
「ここですか!」
 そこには服をはだけさせ、ぐったりとした様子で岩にもたれかかった青年がいた。脇には楽器が転がり、名前が書いてある。ヨハン・ブーレーヌ!
 青白い顔をしたヨハン青年が、夢うつつにつぶやきつづけている。
「行かなくちゃ……行かな――あの人達に……音楽を届けなくちゃ――」
 カルロスは懐から瓶を取り出す。
「魔法の薬だ。体力は回復しないが外傷くらいはどうにかなるが……」
 そう言いかけたところで、外傷は見あたらないことがわかった。ただ、体温が非常に低くなっている。酒で体を温めさせるのは危険だろう。ゲラックが仲間に言う。
「ありったけの毛布で包むのじゃ!」
 仲間達が、あるだけの毛布をかき集め、ヨハンを包む。あとは、連れて帰るだけだ。
「ムリをしなくて済むか……」
 山越えの可能性も考慮していた金角が安堵のため息をついた。
 ところで、ここでひとつ問題が発生した。
 誰が、どのようにヨハンを宿に運んでいくのかという事である。
 ヨハンは、歩けるような状態ではない。ソリでもあればいいのだが、あいにくそのような物は用意していない。しかも、いまは晴れている天候も、いつどのように変化するかはわかったものではないのだ。
 そんなことをしているうちに風が出てきて、寒さが一段と増す。
 サレナが提案した。
「私がヨハンさんをおんぶします」
 ナイトではあるが、サレナは、まだあどけなさが残るほど若く、きゃしゃな体つきの娘である。しかし、強い意思を込めた瞳で仲間を見つめ、こう付け加えた。
「これでも体力はあるんです。伊達に走りこみはしていません!」
 ここまで言われてしまえばしかたない。
 ヨハンはサレナが背負うこととなった。ただ体力的な問題もあるということで、男達がサポートにつき、再び宿へ向った。
 黙々と来た道を戻る。
 帰りの道は、もと来た道程がわかるだけに、なお遠い。
 いつしか雪が降り始めていた。
 あたりが明るくなってきた。山脈の峰が見えた。しかし、それはすでに深く立ちこめる暗雲と霧に呑みこまれている。
「雲が、あんなに低く……」
 そうつぶやいた円の耳に、風がどこからか音楽を運んできた。
「フィーバ君、そうだよね。音楽はどこにでもあるものだよね」
 円ははっとして目の前を見た。一瞬、雲間から朝日が差し込み、ナランの本当にうれしそうな微笑がかがやかせたように見えた。彼女はフィーバの音楽をどこでもいいから聞きたいと言ったのだという。これが、フィーバなりの返答なのだろう。
 宿が見えてきた。
 風に載って流れてくる音に、雪の舞い散る音が唱和し、メロディーとなり、雪の世界に広がる。そして、それは新年の音楽会のはじまりとなった。