死者の剣
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■ショートシナリオ
担当:まれのぞみ
対応レベル:1〜3lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月19日〜01月24日
リプレイ公開日:2005年01月26日
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●オープニング
ここにひとつの言い伝えがある。
その昔、刀鍛冶が一本の剣を打ったという。
それは見事な剣で、その剣を手にした者は 歴戦の勇者となり、その剣とともに冒険や戦いに生きたという。そして、それを最後に所有した者は、その剣とともに死ぬことを望み、その願いは確かにかなえられ、主の死体とともに剣が埋められ、永遠の眠りについたのだという。しかし、その勇者の最期は同時に悲惨なもので、ある村を守るためにたった一人で戦士たちの集団と戦い、やがて森の中で壮絶な死を迎えたのだという。
問題はここからである。
カリータというのはドレスタットから遠く離れたひなびた村の名前である。深い森林に囲まれた村は、世間からは隔離されていて、ドラゴンの襲来騒動すら知らぬ者がいてもさほどめずらしくないほどである。
この村で最近、話題となっているのはズゥンビの群れのことである。
数としては、ほんの数体の小さな群れであったり、単体であったりするものを村人が森でたまに見かけることがあるといった程度で、まだとりたてて問題が発生しているわけではない。
しかし、ズゥンビの特性――人間型の生物を見たら必ず襲いかかり、食い殺してしまう――から考えれば、僥倖がつづいているだけという考えも成り立つわけであり、早めに手を打つべく、村からズゥンビ退治の依頼が舞いこんできた。
森の中を徘徊するズゥンビを探し当て、殲滅する。
仕事の内容自体はわかりやすいものである。
ただ、興味深いのは、さまようズゥンビの群れの手には剣が握られ、その中でもいつも一体でいるズゥンビの手には立派な剣が握られているということなのである。
そして、村には、この森のどこかには勇者の墓があるという伝説があり、そのためそのズゥンビは剣とともに眠りについた勇者が復活したのではないのかと不安視する向きもあるという。
なんにしろ、調べてみないことにはわからない。
さて、真相はいかに?
●リプレイ本文
「いただよ!」
ひとときの休息の合間、歩哨に立っていたジュチ・メルゲン(ea9702)の平原で鍛えられた鋭い目に、それが映る。彼女は弓をひきしぼりながら、仲間に警告を発した。カレル・シルバリア(ea9732)がうなずき、呪文を高速詠唱する。
「来たか!」
口許に危険な笑みさえ浮かべ、ガルザイン・スノーデサイズ(ea9602)は立ちあがると、カレルの魔法が生んだ水晶の剣を彼女の手からぶんどるようにして受け取る。
エイジス・レーヴァティン(ea9907)もまたカレルの魔法の剣を手に駆け出す。さきほどまでにこにことしていた表情は、一転、鉄仮面のごとき形相となる。狂化である。それは、人とエルフの両なる血のなせる業だという。
ジュチの放った矢が地面に突き刺さり、四人は三体のズゥンビと戦端を開いた。
くさった死体は手にしていた剣を捨て、本能の赴くまま憎むべき生者に襲いかかる。
「くだらん死者どもが、消滅しろ!」
一体のズゥンビに向い、ガルザインは嬉々としながら剣を振るう。
エイジスは木を背中に、二体のズゥンビを引き受ける。器用にも盾で片方の攻撃を回避し、返す刃でもう一体に攻撃を加える。そして、機会を狙い、振り下ろす。みごとに深い傷を敵に与える。しかし、ズゥンビに痛感などありはしない。片腕が跳んだというのに、まるで意に関せぬままズゥンビが突っ込んでくるのだ。ズゥンビの爪がエイジスの頬をかすめ、血が流れる。しかし、エイジスもまた苦痛の表情すら浮かべることなく、感情もないかのように戦いつづけていた。
「ふたりとも、よく戦っているようだべ」
「そうみたいね」
すでに前線の戦士たちが接近戦に入っている。ジュチは矢を射るのはあきらめ、これまでいろいろと恩があって、すっかり財布を握られてしまっているカレルをガードしながらその様子を眺めていた。それに、ジュチにしても剣を持っているとはいっても、年頃の女の子としてはズゥンビには近づきたくないというところが本音なのである。
ようやく、エイジスが一体を屠った。
ガルザインも多少キズをおったようだが、なぎ払うように、豪快に剣を横にふるうとズゥンビの首が飛ぶ。ころころと転がり、女の子たちの足元へ。
「きゃあ!」
とは女性ではあっても、そこは冒険者らしく叫ばない二人だが、イヤな物から目を避けるように、それから視線を外す。
「あ!?」
その次の瞬間、カレルは息を呑んだ。
ふたりの背後から、さらに四体のズゥンビが近づいてくるのが目に入った。
その頃――
ジム・ヒギンズ(ea9449)の鼻歌が冬枯れのこずえに響いていた。冬には稀な陽気で、風もなく、木々からのぞむ空は青く、ズゥンビが闊歩する森だということさえ気にしないのならば誰でも自然に気分がよくなってしまいそうな日よりであったのだ。
二手に分かれ、広い森を探索していた冒険者たちの片割れは、ひとつのポイントに近づいていた。
「このあたりですわね」
足を止め、神木秋緒(ea9150)はあたりを見まわす。
「そうね。このあたりが、墓の心当たりとされた場所ですわ」
ワルキュリア・ブルークリスタル(ea7983)が村人の書いてくれた手書きの地図をのぞきこみながらうなずく。絵は稚拙なのだが、森に対して土地感を持つワルキュリアにとっては、それだけでも十分すぎるほどであった。実は森に入る前に八人は、カリータの村をはじめ、森の近辺に点在す近隣の村々で情報を集めていたのだ。その結果、どの村にも剣と勇者の話や、それに類似する話があることがわかった。ただ、そのどれもが勇者が守ったのは、自分の村だと言い張っていたり、勇者が最期に戦った相手も盗賊はもちろん、邪悪な騎士、あるいは死人使いであったりとさまざまであった。しかも、墓とされる場所も村の数だけあって、結局、そのすべてを当たるべく八人は、広い森を二手に分かれて捜すことにしたのである。
ただ、墓があるとされた場所は、ワルキュリアが独自に集めた情報から判断するに、ズゥンビが徘徊している可能性の高い場所に、そのどれもがあてはまっていた。
「……ズゥンビは……」
「いないぞ」
お化けや怪談には滅法弱い癖をして、ズゥンビがらみの冒険に加わったカヤ・ベルンシュタイン(ea8791)は、ちょっとおどおどとした様子で、大きな瞳をうるませながらあたりを見まわす。十字架を掛けた胸の大きな娘の、そんな態度がおかしくて、ジムはからかうように応えていた。
「この泉こそが本命だといいのですけどね」
神木が泉のそばの木をさわりながら言う。
勇者の墓はいくつもあるといったが、ひとつ共通する点がある。泉のそばに木の墓を立てたという点である。
「問題は、木の墓どこにあるのか……」
そう言いかけた神木の指先になにかを読み取った。
(「カ・リ・ー・タ……――」)
木には、いまではすっかり薄くなっていたが、そう刻まれていた。
「あッ!?」
そんな神木の横では、ワルキュリアの声をはずませていた。彼女の好きなウサギが飛び跳ねていくの目に入ったのだ。ワルキュリアが、再び叫んだ。
「あッ!?」
同じ感嘆符も、こんどは様子がちがう。
剣を持ったズゥンビが森の奥に向って歩いていくのが見えたのである。
四人は顔を見合わせ、うなずきあい、その後を追った。
ズゥンビの特性に注意を払い、距離を置きながら近づいてくると、森のどこからか剣戟の音が聞こえてきた。剣の手にしたズゥンビは、まるでそれを求め、誘われでもしているかのように、その音に近づいていく。
そして四人は、ズゥンビと、それに囲まれた仲間を見た!
「危ない!」
両手を握り、ひとさし指を突き出すと、
「オーラショット!」
カヤの指先から光弾が発射された。
しかし、遅い!
二体のズゥンビの腕がカレルとジュチにに振り下ろされ――なかった。カレルの目の前でズゥンビが穴に落ちていったのである。
「予定とは微妙に違うけど作戦は成功だね」
得意な顔をしてカレルはジュチに言った。実は、後方で待機している間にカレルはウォールホールで穴を並べてズゥンビの接近を食い止める即席の堀を作っていたのである。そこに、たまたまズゥンビが落ちたのは僥倖だろう。
剣を持ったズゥンビが、一体のズゥンビに迫る。それは、もはやぼろきれを着ただけとなった死体で、二体の死体はにらみあうかのように視線をぶつけると、衝突した。
剣を振り下ろされ、爪が襲いかかり、たがいの首元に迫る。
爪が飛び、剣が折れる。
「俺の剣が!?」
ガルザインが悲鳴をあげた。
古の刀匠が打ったという剣を、この男はなかば強引に村人たちに説得し、それで仲間を納得させ、手にいれようとしてたのである。
ふたつの生ける死体は、逝ける死体に戻った。
「おいらは強いぜ!! さあ、こい!! パラの戦士が相手だ!!」
この機を逃すまいとジムが突っ込む。神木もバックパックを落とし、抜刀するとその後を追った。ワルキュリアも負けじとピュアリファインの魔法を唱える。
この段階で勝敗は決した。
数で上回ってしまえば、冒険者たちがズゥンビに負けることはない。ズゥンビどもがあっという間に掃討され、最後に、堀に落ちたズゥンビを屠り、戦いは終わった。
「勝手にしろ!」
いまや、ただの土くれとなってしまった剣など用はないとまで言いきってガルザインはそっぽを向く、これで剣は許の主とともに、泉のそばの墓に埋められることとなった。
神木は語る。
「それだけ時がたっていたということなんですね。墓として立てられた若木がいつしか根づき、育ち、老い木になるほどに……」
いくら当時の名工が打った剣だとはいっても、しょせん鉄でできた剣は魔法の剣ではない。時間とともに、古び、風化し、いまや土に戻ったのである。
「そして、汚されてしまった肉体もまた、再び大地に戻ることができるのです」
十字架を手に、カヤは聖書の一節を読み上た。
結局、その真実がなにであったのかをしかと語ることができる者はいなかった。想像していた通り、かつての復活した敵と戦うために勇者もまた復活したのかもしれないし、また、違うのかもしれない。しかし、それでいいのかもしれない。この冒険もやがては近隣の村々で語られ、冒険者たちもかつての勇者と同じように、いつかは伝承の中の人物になる日がくるであろう。だが、その時、すでに遠い日となった今日という日の真実を誰が語ることができようか?