【ドラゴン襲来】報告
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■ショートシナリオ
担当:まれのぞみ
対応レベル:1〜3lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月27日〜02月01日
リプレイ公開日:2005年02月04日
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●オープニング
「この当時、ドラゴンの襲来という未曾有の災害により、どれほどの被害と破壊がドレスタットにもたらされたのかを正確に量る資料はいまではほとんど残っていない。
あったにしろ、それは断片的な記録や確証のとれない言い伝えであり、とりわけ街道やそれらに付随する公共物などの破壊の具合を調べるには、事の信憑はともかくとして、どうしてもあの物語をまずあたらなければならないのである――」
後世の歴史家が、そう語ることになるかもしれない物語とは、ふたりの貴族のこんな会話からはじまった冒険のことである。
「それでは、君はこの状況にもかかわらずドレスタットの港から、この屋敷まで3日で茶を運んで来れるというのかね?」
それは、フューベンバッハという商人の好事家が、年長の友人である貴族のシモンという男と食事をともにしている時のことであった。
「そうですね。私は3、4日あれば現状でもお茶を持ってくることは可能かと思っているんですよ。それに運のいいことに、私の船が昨日、港に入ってきましてね。インドゥラから運んできたばかりをお茶を飲みたいと思いませんか?」
フューベンバッハは、他人を疑うことがないような、とろける笑顔を友人に向けた。女性めいた風貌の金髪の青年の媚びるような表情には、同性でも怪しい気持ちになる者もいて、それが商売に有利に働いているという者もいるが、そのような趣味は微塵もないシモンは、ふんと顔をそむけ茶をすすっただけであった。
ただ、しばらくしてカップをのぞきこむ。
「まったく、忌々しい! ムーンロードがあるとはいえ、ドラゴンどもの襲来以来、こうして茶を喫することも非常に贅沢なことになってしまったよ。そういえば言ってはなかったが、最近、私はエイリーク……閣下の依頼でドレスタット近隣の被害状況を確認、把握するように言われているんだよ」
海賊時代のドレスタット統治者を知る男は、素直というには程遠い微笑を口許にたたえながら友人にいかに状況がよくないかを語って聞かせた。
「あちこちで崖が崩れたりして道が通れなくなっているぞ!」
「回り道をすればいいことです」
「橋が落ちているぞ?」
「船を出せばいいでしょう」
「モンスターや盗賊が闊歩して、それこそ治安の状況は悪いんだぞ!」
「それこそ、かれらの専門ではないですか!」
さすがに、ここまで言いきられたところで、ほおと禿げの男は年下の友人を興味深そうに見つめた。
「前向きな意見だな! 貴方がそこまでいうのならば、その話に私ものろう。それに、私もドラゴン被害の状況を把握しきれているわけではないんだ。とりわけ、ドレスタットの港から、この城にくるまでの山なりの道には人手が足りずに調べることができないでいる。そこで、茶をとりにいったついでに、その周辺の状況も見てきてもらいたいのだ」
「たしか、あの周辺は?」
「そう、ドラゴンどもが来る前から盗賊団やらゴブリンの巣やら噂されていた場所だ。もっとも、これだけ荒れたというのに暴れ出さないでいるところをみると、単なる噂であったのかもしれんがな」
「わかりました。雇った冒険者には、そこを通るように言ってきますよ。それに、ボクはうれしいんですよ」
「なにがだ?」
「かれらからが持ってくるお茶と、その途上であった出来事を聞くこととが、ボクのお茶会のなによりの楽しみですからね」
●リプレイ本文
ふりかえると海から吹く風にセシル・クライト(eb0763)の黒い髪が揺れた。
「フォーリィ義姐さんは大丈夫かな……海賊を相手に無茶をしてなきゃいいんだけど」
冬の黒い雲が低くたちこめるドレスタットの港は深い沈黙の中にあるように見え、また雪まじりの風は不気味なドラゴンの息吹のようにも聞こえる。
神聖歴1000年――前年に端を発するドラゴンの襲来は、幾多の冒険者の活躍にもかかわらず、この年の初頭になっても、まだ解決への目処は立ってはいなかった。それどころか、それに冒険者たちが没頭しているのをいいことに、海賊や盗賊、それにモンスターの跳梁を許すこととなっていたのである。
船員たちが海賊たちと戦い、命をかけてイギリスから運んできたと言い張る茶をドレスタットの港で引き取る。
「ウィンドミル、ちょっと荷物がいっぱいですけれど頑張ってください」
依頼の品や仲間の荷物をいっぱいに載せた馬を、筆記用具を手にしたヴェルブリーズ・クロシェット(ea9537)がやさしくさすると、馬は小さくいなないて主人に応えた。
「ほな、行こうか!」
アリオーシュ・アルセイデス(ea9009)が仲間をうながす。
都市から延びた石の道は土の道となり、やがて雪の道となる。そして、このあたりまでくると、土砂崩れや、雪崩で道が寸断され、あるいは道に雪で隠れた落とし穴まである始末である。
一夜、野営をしたが、問題もなく朝を迎えた。
翌朝、まだ陽は昇りきらず、雪が舞う中、簡単な朝食をとる。寒さのあまり、石のように硬くなったパンを、イーサ・アルギース(eb0704)がスープにいれ、柔らかくして、皆に渡したのだ。
「今日もまた、ある程度地域を区切って被害の具合を把握するようにします」
毛布を肩から羽織り、パンの入ったスープをすすりながら式倉浪殊(ea9634)が街道沿いの地図の写しを片手に仲間たちと街道調査と荷物運びの打ち合わせをする。
その日の道中は、予想以上に困難をきわめた。この周辺はフィールドドラゴンが暴れた場所だと聞いていたが、伝聞していたよりも、ひどいことになっていたのである。
標識はなぎ倒され、木々は折れて道をふさぎ、それをなんとか越えたかと思うと、こんどは橋がつぶされている。地図のおかげで、なんとか脇道は見つかったものの、こちらの道も状況は最悪。ぬかるんだ道に足をとられ、暴れそうになる馬たちを押さえながら、ほうほうの態で集落に近づく頃には、誰もかれもがどろどろの顔になっていた。
しかも、立ち寄った村では半壊した建物が立ち並ぶ光景を見ることとなる。
「誰もいないのか?」
その声に返事はなく、風の音だけがむなしく響く。
村のはずれで、ようやく人影を見つけた。
老いた者たちが数人、半壊した家に集まって暮らしていたのである。
まだ援助の手がさしのばされてはいないと老婆が嘆く。もともと冬に備えて蓄えがあったので、しばらくはなんとかやっているが、それもどこまで持つか……そう老人がいっていた。若者やツテのある者たちは早々に村を捨て、ドレスタットへ旅だったのだという。そんな、役人さえ見捨てた、このような僻地にドレスタットの救援がくることはないだろうと自嘲する者さえいた。
そんな老人たちに、吟遊詩人のアリオーシュがせめてもの歌を贈る。オカリナを時々吹いているセシルを誘っての音楽は、老人はもちろん、仲間たちの心も癒す。
しかし、そんな光景はさらにつづいた。
ある村など、人の気配はまるでなく、ただ木をさしただけの墓がならんでいて、その前にはうつぶせになった子供がひとり雪をかぶっていた。すでに息はない。
いつしか冒険者たちの口には言葉ひとつのぼらなくなっていた。
「このあたりで休まない?」
童顔のせいで、そうとは見えないのだが、このパーティーの年長者であるエイジス・レーヴァティン(ea9907)がそうとだけ言えたのは、すでに暗くなりかけてからのことであった。
「それでは、皆様の給仕をさせていただきます」
イーサが火を焚き、夕食の準備をする。そして、食事ができ皆が座った時である。
地面に矢がつきささり、
「やい、その食べ物をよこしやがれ!」
という声が森の中から聞こえた。
「思っていたよりも早いですね」
式倉が立ちあがると、深赤の襟巻きがはらりと膝のあたりまで落ちる。
冒険者たちのまわりを数人の男たちが囲んでいた。
剣を抜き、矢をかまえる。
「な、な、なんだ! 抵抗するのか、てめえ、こっちだって何日も食ってねえんだ!? メシの分け前くらいよこしたっていいじゃねえか! ちきしょうめ、やっちまえ!」
そんな脅しは効かない。
「できたら、おとなしく降参してくれると嬉しいんだけど……無理みたいだね。じゃあ、さようなら――」
突っ込んできたひとりをいなすように切り捨てると、うつろな瞳をしたエイジスの白い頬に飛び散った鮮血がかかる。
かくしてはじまった戦いは、盗賊にとってこそ災難であった。
この状況を予知していた冒険者たちにとって、腹をすかせたあまり彼我の力量すら考えぬまま襲ってきた盗賊など恐ろしい相手ではなかったし、なによりも当たりどころのない怒りの矛先を向けるにはうってつけの相手であった。
アリオーシュの呪歌が仲間を鼓舞する中、エイジスとセシルが剣をふるい、短刀を逆手持ちした式倉が盗賊の胸元に入りこむ。イーサの放った矢が仲間を襲うとしたふたりの盗賊の腕を同時に貫く。つぎの瞬間、エイジスとセシルの刃がその首を落とす。少しでも先の見えるものは早々と引き上げ、最後に残った盗賊の胸に短剣がつきささると、
「目指すのは風のような速さ、動きとしなやかさです……まだまだ未熟ですが頑張りますよ」
短剣を投げたヴェルブリーズは、そうつぶやき、戦いが終わった。
ふたたび、夜がふけ、日が昇り、食事が終わると、短剣や使えそうな矢を回収してから出発となる。脇道から街道に戻る。式倉の地図をのぞけば、目的地まで、あと半日というところだ。このあたりになると、街道の村の様子もだいぶマシになってくる。立ち寄った村では、冬の陽光の中、老人たちが村の教会の前に集まって笑いながら雑談しているし、若者たちがドラゴンの襲来のさいつぶれたという家を直している。村から外れた野原では、雪を手にした子供たちが走り回っていた。
しばらく、そんな景色がつづくと硬かった口もしだいに開いてくる。
「ん〜、やっぱり泣いているより、笑っているほうがいいよね。盗賊は倒したし、あとはゴブリンがおとなしいって言うのが気になるね。ひょっとして、もっと厄介なヤツが居着いたせいだったりして」
昨晩の戦闘の時の鬼神と化した様相など嘘のような、緊張感を感じさせないエイジスの軽口である。
遠くに依頼人の屋敷が見えてきた。
森を抜けたら、そこまであとわずかだ。
森に入り、しばらく歩いていると、アリオーシュの表情から笑顔が消えていく。血の匂いがしてきたのだ。
「これは……」
そして、一同が森の中で見つけたものは、散逸するゴブリンの無数の残骸と死体の山であった。
「なにかと戦った後ですな」
イーサが冷静に言う。
「しかし、これだけの数のゴブリンを倒したということは……」
式倉の言葉に、一同は顔を青くした。
遠くに、その声を聞いたのだ!
「隠れましょう!」
倒せない敵と出会った時には逃げることにしていたセシルが叫んだ。
とっさに木々の影に隠れる。と、あたりは急に暗くなる。見上げれば、巨大な影が木々の梢をかすめ、翼をはためかせたドラゴンが遠くの空へ飛んでいくのが目に入った。
「そうですか……」
脇道の様子とドラゴン来襲の話を聞き終えたフューベンバッハは目蓋を閉じ、シモンはいらだたしげにカップをあおって茶を飲み干した。港からもってきた茶は、冒険者たちにもふるまわれたが、はたして、その味を堪能できたどうかはわからない。
「なんにしろ、状況は我々が考えていた通り、あるいはそれ以上に悪いな。ドラゴン対策ばかりに頭がいっていたが、復興についても、やはり閣下に対策を申請しよう」
深いため息をつきシモンは頭をふりながら立ちあがると、仲間の協力のもとヴェルブリーズの書き記した書類を片手に足早に部屋を出ていった。
かくして、冒険者たちの調査報告を重くみたシモンの発案で、いくつかの策――その、ひとつひとつが冒険となるのであろう――が実行されることになるのであるが、それは、また別の物語である。