【近所迷惑物語】防災訓練ハラヒレホレハレ
|
■ショートシナリオ
担当:小田切さほ
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:0 G 39 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月17日〜07月20日
リプレイ公開日:2005年07月26日
|
●オープニング
そのエールハウスは、今日も人々で賑わっていた。エールハウスの経営者は、人と出会うことが何より好きという、アシュリー・エイシャという名の青年。
が、今日は少し趣きが違う。いつもなら、給仕に料理に忙しいはずのエイシャ青年は、右手に包帯を巻いてテーブルについている。
人々はそれぞれ手酌で、エールを飲んでいる。いつもの常連客に混じり、様々な商売を営むご近所さんが、今日はそろって来店しているようである。
そして、テーブルの中心には、このエールハウスの常連客である靴屋のおっさんが立ち、演説を始めた。髪の毛は薄いが、きわめて陽気で気のいいおっさんである。
「え〜、ほな、始めさせてもらいまっせ。
‥‥皆さんご承知のとおり、先日、このエールハウスで小さなボヤ騒ぎがありまして、経営者のエイシャ君がこの通りヤケドを負いました」
すかさずツッコミが入る。
靴屋のおっさんと同じく常連の、ジャイアントの仕立て屋のおっさんだ。
「ちょっと待った。エイシャ君はただ、新メニューの開発のために火を大きくして料理してただけやで。それをアンタが勘違いしてやな。慌てて水差しと間違えて油壷ひっつかんで油ぶっかけたさかいに、ボヤ騒ぎになったんやがな」
あぶないおっさんがいたものである。火に油を注いだら消火どころか火事にもなりかねない。
「いいんですよ。ガトーさんは僕を助けようとしてがんばってくださったんですから」
エイシャ青年がなだめに入り、靴屋のおっさんの演説が再開した。
「えー、それでやね。ワシは思ったんやが、こういう不測の火事に備えて、隣近所力をあわせて、火事を消し止める訓練ちゅうのんをしといた方がええんちゃうかと。万一の時、動揺してしもては危険やさかいね」
(「あんたが言うな!!!」)
全員が心の内でツッコんだ。が、その時一人の客が発言した。
「それって、ありがたいかもしれないわ。あたしなんか、女の一人暮らしでしょ。イザというときどうしましょって時々思うもの」
『女の』!?
と、彼を良く知らないものなら、叫びたくなったかもしれない。なにせ、発言の主は、30前後のいかついおっさんなのである。
「神様が間違って乙女の魂を男の体に入れちゃったのよ」
と公言してはばからぬ、乙女心のおっさんだ。職業・防具職人。名はゴルドワ。
「フッ、殺しても死なないような顔してよく言うよ」
と、鼻で笑ったのは同じく防具職人のイーヴ。金髪の繊細な美青年‥‥と見えるが、実は男装の女性つまりナベ娘。きわめてナンパな性格。同業者ではあるが、ゴルドワとイーヴは当然といおうか‥‥あるいは意外といおうか‥‥犬猿の仲だ。
「またまた、そこの二人はほんまに仲悪いなあ。変態同士仲良くしたらどやねんな」
エールハウスの元常連、おばはん族代表ワッツ夫人が言いにくいことをスッパリ言う。
「誰が変態同士だ(なのよ)!」
怒るイーヴとゴルドワ。が、靴屋のおっさんのガラガラ声が割り込む。
「静かに! ほな、防火訓練をすることに、反対意見はおまへんな? ‥ほな、当日はこのメンバーで、この店で宴会しとる最中に台所から出火したっちゅう設定でいこか」
「それええやん! また酒飲めるやん!」
(「‥って、皆さんもしかして、宴会開く口実が欲しかっただけってことはないですよね‥」)
こっそり心の中でツッコむエイシャ青年。
「なあなあ、ウチらヒロインが炎の中に取り残されて、それを王子様が助け出してくれるっちゅうような設定でやってみん?」
ワッツ夫人が嬉しそうに発言するに及んでは、
(「お芝居するんじゃないんですから〜!」)
泣きが入る始末だ。こんな面々に任せておいてはどこまで会議が暴走するやらわからない。エイシャ青年は必死に割って入った。
「皆さん、とにかくっ! 本当の火事が起こった時に役立つような訓練でないと意味ないですから。冒険者ギルドに頼んで、救助の経験のある人や応急処置の知識のある人を派遣してもらいましょう。その人達に勘所を教えてもらいませんか?」
「それもそやな。宴会は人数多い方が楽しいで、なあ」
「宴会はあくまで演出ですから!」
エイシャ青年の悲鳴に近いツッコミはおっさん達の心に届いたものやら。
●リプレイ本文
●初・体・験!?
「おぉっ!? 熟年婦人が、ふ、増えてる!?」
何度か来ており勝手知ったる店内に入りかけて、いきなり怯えるリュイス・クラウディオス(ea8765)。それもそのはず、店内には見慣れた数より多いおばはんが詰め掛けていた。
「ごめん。原因、俺だわ」
後から入ってきたジーン・インパルス(ea7578)がげっそりした表情で呟く。聞けば、ケンブリッジの市場にある小さな食堂でボヤ騒ぎがあった時、ジーンが女将のおばはんを救出し、以来そのおばはんとその仲間に追っかけられているという。
「あーよかった。てっきりおばはんってキノコみたく雨後に増殖するのかと」
「いくらなんでも、それはないだろう。‥‥しそうだけど」
ガイン・ハイリロード(ea7487)が、応える。
「あらやだ、アデリーナじゃない? 相変わらず細いわね〜。何食べたらそんなになれるわけ?」
「まあ、ゴルドワ様。すっかり回復なさったようで何よりですわ」
知り合いであるゴルドワに声を掛けられたアデリーナ・ホワイト(ea5635)は、女同士? らしく、痩せた太った話題やら、美容の話題に花を咲かせた。もう一方の危険人物、イーヴはキッチンで甲斐甲斐しく皿を洗うリューズ・ウォルフ(ea5382)に目をつけた。
「やあ、碧い瞳の子猫ちゃん。皿を磨くより僕と恋のテクニックを磨いてみないかい」
「えっと、あの‥‥わ、私、お料理しなくちゃだから‥‥」
リューズは必死に、店内を行き来するおっさん連中の後ろに隠れる。
エイシャ青年は、想い人であるシルキー・ファリュウ(ea9840)に心配されて幸せそう。
「大丈夫? 怪我してるのに防火訓練なんて‥‥」
「うん、大丈夫だよ。利き腕じゃないしさ。それより釣りを教えてあげる約束、この怪我じゃ延期しなきゃね。ごめん」
「そんなの、いいってば‥‥。アシュリーは人に気使いすぎだよ」
怪我人エイシャ青年に代わり、用意された食材を手際よく調理しているデュノン・ヴォルフガリオ(ea5352)はそんな恋人達がちょっぴりまぶしそうだ。黒衣の長身には威圧感が漂うが、中身はパン焼きの得意ないたって好青年である。
「俺もいつか恋人欲しいな〜。出来たら毎日焼きたてのパンを彼女の口元に、『あ〜ん』してあげたいな〜」
黒ずくめで独り言を呟く姿はちょっと怪しかったりするが。
「全員揃ったな? では、訓練を始めようか?」
ジーンが顔を引き締めて呼びかける。名無野如月(ea1003)が、
「煙草としばしの別れだな」
口にしていた煙管の火を、粋な仕草でテーブルの上に用意されていた皿に落とす。皿には少量の炭が入れてあり、タバコの火が引火して、煙が漂い始めた。
「避難の時は煙を吸い込まないよう、布等で口や鼻をふさぐのがコツだ。できれば布はぬらしておくとベターだな」
ジーンの的確な避難指導。ところがおばはん達が好みの男性に救出されたいと騒ぎ出し、大もめ。
「ウチはリュイスちゃんにお姫様だっこで脱出したいねん!」
「ウチはジーンちゃんに人工呼吸してもらうねん!」
「静かにっ! 今、そういう場じゃないから!」
ジーンが注意するが、人の話を聞かないのがおばはん達の常。最近何か悟りを開いたらしいリュイスが進み出た。
「そういうときは、こう言うんだ。‥‥『フッ、お嬢さん達。早く逃げないと、恋の炎で焼き尽くしちゃうぞ?』」
セリフとともにウィンク一発。「ヒィ〜!」おばはん達がバタバタと失神し、一気に店内は静かになった。
「この人達、どうしましょう」
「どうせ暫く目が醒めないし、焼死体って設定でどうかしら」
エイシャ青年の質問に、ゴルドワが判断を下した。
結局、焼死体扱いとなったおばはん達に、床にそのまま寝かせておくのは不憫とて、デュノンが毛布を着せ掛けてあげた。が、それで余計死体ぽくなったのも事実である。屍もどきのおばはん達を越え訓練続行。
「じゃ次。避難の仕方だが、女性や子供を先に逃がすのが基本だ。今は子供がいないから、女性優先で‥‥」
言いかけて、一瞬迷ってしまうジーンさん。見た目も性別も正しく女性なリューズ・アデリーナ・シルキー・如月はともかく、性別は女性で心は男なイーヴ、性別は男で心は乙女なゴルドワが問題だ。
「何を悩んでいる? 僕たち男性陣で女性を守ろうじゃないか、ほらこうやって」
イーヴがすかさずリューズをお姫様抱っこで抱き上げ走り出す。
「や、やめて〜! わ、私、婚約者がいるの〜!」
リューズが必死にもがいている。それを見たゴルドワが変なライバル意識を燃やしたらしく、
「まっ! イーヴの奴、ずるいわ! あたしだってタイプな人と一緒に避難するんだから!」
「‥‥って、何で俺の手を握って走ろうとするー!」
ガインが悲鳴を上げて振りほどこうとしているが、たとえ体はおっさんでも、乙女の思い込みは一途だ。ゴルドワはそのままガインと共に戸外にダッシュ。
「誰か、止めてあげてくださーい!」
エイシャ君の呼びかけに、アデリーナがウォーターボムをイーヴに放つ。ガインは自衛本能によりゴルドワをリュートベイルで強打し、ゴルドワさん打撃により目を回して倒れる。
「丁度いい、この人を使って人工呼吸の実施訓練だ」
ジーンの発言に一同は硬直した。
「だだだ誰が相手を?」
しーん‥‥当然名乗り出る者はない。水を打ったように静まり返る空気を、エイシャ青年の震える声が破った。
「ぼ、僕が‥‥僕がやります! 僕の店の防火訓練ですから!」
シルキーが青ざめる。
「駄目、危険すぎる‥‥! アシュリー、代わりに私が!」
「いや、僕がやらなきゃいけないんだ! たとえ地獄に落ちても僕は君を守るから!」
ゴルドワにすれば、随分な言われようだ。エイシャ青年は蒼白となって前に出た。‥‥一同、エイシャ青年のために黙祷。
「あ、言うの忘れてた。直接じゃなくても、布かなんか挟んでもいけるぞ」
「ジーンさん、それを早く言って下さいぃ〜!!!」
危うくニアミス状態だったエイシャ青年は血を吐かぬばかりに詰め寄った。
ともあれ、布を隔てての決死の? 人工呼吸で、無事ゴルドワ氏は意識を回復した。次いで全員で井戸から水を汲み上げてのバケツリレーによる消火訓練。無事(?)防火訓練終了である。
●大・失・恋?
さて宴会を再開しようと言う時に、イーヴはずぶぬれになって尚、リューズを追っかける。
「ふっ、これくらいの水じゃ、僕のハートの熱さは冷めないのさ」
「ごめんなさいっ。初対面の人に、そんなに好きになってもらうなんて、ホントはすごく贅沢で、幸せなことだと思うけど‥‥私、もう心に決めた人がいるの。だから、貴女の気持ちには応えられないよ‥‥」
頬を真っ赤に染めてぴょこんと頭を下げる彼女に、イーヴがまだ何か言いかけた。すると傍らにいた如月が、火のついていない煙管でくいっとイーヴの顎を持ち上げた。
「もうその辺でやめておけ。女は火事と同じで、燃やしたい時にはなかなか燃えなくて、消したい時にはこれでもかって位燃えるもんなのさ。黒こげになる覚悟がないなら、むやみに火は付けないこった」
淡々とした物言いではあったが、『熊殺し』の異名を取る女豪傑が悠々と煙管を操りながらの警告である。イーヴは常ならぬ迫力を感じたらしく、やっと大人しくなった。ほぼ時を同じくして失神していたおばはん達がズゥンビのごとく復活した。
「誰が毛布かけてくれたん? え、アンタ? へぇ〜、見かけ怖いけど優しいやないの〜。今晩、アンタの夢見そうやわあ」
と、おばはん達に熱く迫られ、
「‥‥や、やめて〜! 夢の中で俺に何をする気だぁ〜!」
おばはんパワーに不慣れなデュノンが恐怖に壊れかけ。リュイスは都度増え行くおばはん達に取り囲まれ、その群れを、おばはん族の代表格ワッツ夫人が仕切っている。
「皆、順番に握手だけやで〜! リュイスちゃんの手を舐めたり髪の毛抜いてお守りに入れたりするのん禁止やで〜!」
悟りを開いた友の背中に呟くガイン。
「なぜかリュイスが遠い人に見える‥‥」
色んな意味で。
他方、エイシャ青年に頼まれ日常的な防災の指導をしているジーン。だが、その背後にはびっしりとケンブリッジ直送おばはんの群れが灯火に集まる蛾のごとく貼り付いている。
「ふむ、台所の道具の配置も少し変えた方がいいな。引火しやすいものを火の傍に置かないようにここの‥‥」
「やっぱジーンちゃんて頼りになるわぁ〜。ス・テ・キ」
「‥‥う‥‥だから、ここのテーブルの配置を変え‥‥って、おばちゃん! 俺のうなじに息吹きかけんのやめて!」
「ええ〜? おばちゃん達はジーンちゃんの話をできるだけ近くで聞こうとしてるだけやないの〜」
おばはん達には何を言ってもまさしく蛙の面になんとかだ。
「私‥‥あの人に、嫌われたのね! うぅっ!」
ガインに強打されたゴルドワはリューズに手当てされながら、ケガよりも失恋の痛みに泣いていた。アデリーナが優しく励ます。
「失恋は、女を磨くチャンスですわ。今回は少し性急過ぎたのかもしれませんわね。この次出会う殿がたには、乙女の恥じらいをこめてアプローチなさってはいかがでしょう?」
淑女らしいアドバイスだが、励ましている相手がおっさんであることを考えると、励まして本当に大丈夫なのかと思えなくもない。アデリーナは気にしていないようだ。大物である。
「まあ何だ、『乙女』たるもの、そう暗い顔をするものではない。笑顔でいれば何かいいことがあるさ。私の国のことわざにもある。笑う門には福来る‥‥とね」
如月は言って、人妻らしい丸みのある声で、しっとりと故国の歌を歌い始めた。それを皮切りに、その夜の宴会は大いに盛り上がったという。
その場にいた人々は、地震・雷・火事・おばはん、災難は色々あれど冒険者がいれば大丈夫だとの感を強くしたことだろう。