ほのぼの大家族・子沢山にもほどがある!?

■ショートシナリオ


担当:小田切さほ

対応レベル:1〜3lv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月09日〜11月14日

リプレイ公開日:2004年11月17日

●オープニング

 冒険者ギルドに、そのくたびれきった男が尋ねてきたのは、夕暮れどきだった。男は、左手に1歳に満たないであろう小さな赤ん坊を抱き、右手で5歳くらいの女の子の手をひき、背中と胸には、双子とおぼしき少し大きな赤ん坊を背負いあるいはくくりつけて抱いていた。
「ちょっと、すんません。カミさんがぶったおれちまって子供に手ぇ焼いてんだけど、誰か助けてくれる人、いねえかな?」
 男はおどおどとギルドを見回した。
「乳母でも探したらどうだい」
 居合わせた冒険者の一人から、からかうような声がかかった。
「そんなのこれまでに何度も頼んださ。だけどみんな逃げ出しちまうんだ。うちのガキにかかっちゃ‥‥」
 男は、ため息とともに言葉を吐き出した。
「そりゃ、若い乳母を頼んだからだろ? ちっと慣れた乳母なら、4人くらいのガキがどんなに暴れようと、びくともしねえんじゃねえか?」
「いや、それが‥‥」
 男は、自分の子供たちの顔を見つめながら、
「ここにいる4人だけじゃないんで‥‥あの、外に待たしてある20人のガキどもが‥‥」
 その途端。
 バターン! とドアが開き、20人の、6、7歳のちびから20歳くらいまでの体は大きいが顔はあどけないのまで、わらわらと子供がなだれ込んできた。
「ねー、父ちゃんー、おなかすいたー」
「オレもー」
 わらわらわらわら。
「あっ、これなに?」
 子供の一人は、居合わせた冒険者の武器をいじりたがり、
「こらーっ、オレの武器にさわっちゃいかーん!」
 慌てて冒険者がはねのけると、
「うええーん!」
 剣に触ろうとしていた女の子が泣き出した。つられて同じ年頃でそっくりの顔をした二人の女の子が泣き出す。3つ子だったらしい。
「な、泣くな、泣くな」
「あっ、赤ちゃん、おしめ濡れてる」
「なにっ!?」
 あまりのやかましさに、耳をふさぎながら冒険者たちが尋ねる。
「い、いつもこの状態なのか?」
「そうさ。カミさんが寝込むのもわかるだろ?だから誰か手伝いによこしてくんなよ。頼むっ。カミさんが元気になるまでの、何日間かでいいからさ!」
 男がふかぶかと頭を下げると、苦しくなったらしく、男が背中と胸にくくりつけていた赤ちゃんたちが「びえーっ」と火のつくような大声で泣き出した。
「どわー!」
 冒険者たちは一斉にパニックに陥った。
 ほどなく掲示板に、
「子守り急募」
 の知らせが貼られた。ギルドのメンバーが書いたとおぼしきその文字は疲れはてたようによろけていた‥‥

●今回の参加者

 ea5278 セドリック・ナルセス(42歳・♂・ウィザード・パラ・ビザンチン帝国)
 ea5555 ハギオ・ヤン(30歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea5683 葉霧 幻蔵(40歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea6004 エルネスト・ナルセス(42歳・♂・ウィザード・パラ・ビザンチン帝国)
 ea6089 ミルフィー・アクエリ(28歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

 今回の依頼主、フェル一家の食事の席はまるで戦争である。なにしろ24人の子持ち家庭で、母親が過労で寝込んでいるのだから。
 ハギオ・ヤン(ea5555)は、現在その母親がわりだ(男だけど)。
「こぼすんじゃねーぞ。静かに食えっ」
 言葉は用心棒という本来の仕事らしく荒っぽいのだが、手はてきぱきと動いてこぼれた水を拭き、他の子のスープのおかわりを入れてやり、返す刀で一家の父親であるルドの飲んだお茶の椀を片付ける。
 ミルフィー・アクエリ(ea6089)はハギオの指示のもと、スープ鍋をかきまぜている。それも一番小さな赤ん坊をおぶってだからちょっとした肉体労働である。歌姫騎士と言われているだけあって、彼女が歌ってあげれば赤ちゃんはたいてい泣きやむ。だが、まだ4ヶ月の赤ん坊なので、夜中もしょっちゅう起きる。そのたびミルフィーは歌って寝かしつけるので、当然睡眠不足である。
 この家の次男ジグがおずおずと、
「大変だろ? あの、俺、代わろうか?」
といっても、ミルフィーはけなげに首を横に振る。
「ううん! 今回は、女としての修業を兼ねて人助けですぅ! 将来ママになるための予行演習ですからっ!」
「えらいね‥‥キミって」
 とジグ。そう、ジグはミルフィーがいたくお気に入りらしい。農作業の手伝いを除いてはほとんど一日中ミルフィーにくっついている。が、ミルフィーはまったく、ジグの切なる男ごころに気づいていない様子。
「さて、ちみっ子たち。食事を終えたなら本日の鍛錬に出かけるでござる!」
 パンと手を叩いて葉霧幻蔵(ea5683)が立ち上がると、歓声を上げて10歳までくらいの男の子たちは幻蔵についていく。
 鍛錬とはいっても、ほとんど、というかほぼ全面的に幻蔵の仕事は子供たちの遊び相手である。とはいえ、分身を駆使してかくれんぼしたり、はたまた木を削って何やら作ったりと、飽きさせずにやんちゃどもをあそばせてくれるのは他の大人たちにとってはありがたい。
 セドリック・ナルセス(ea5278)と兄のエルネスト・ナルセス(ea6004)は他の冒険者仲間たちに比べれば、ずいぶん冷静である。それもそのはず、二人とも既婚者である。
「では、われわれも出かけるとしようか」
 とエルネストも立ち上がった。
 今、この大家族が平和なのはセドリックのおかげといっても過言ではない。
「仲の悪い双子たちは、なるべく別々の仕事を与えましょう。距離を置けば、冷静に相手や自分のことを把握できると思います」
 セドリックの発案で、双子たちをセドリック組とエルネスト組に分け、なるべく一緒に過ごす時間を少なくしたら、ぴたり喧嘩が減った。
「兄弟げんかについては研究済みですから」
 とはセドリックの言葉である。それにセドリックたちは、畑作業を手伝って、その合間に家族たちに文字を教えてくれたりするので、知識欲旺盛な年上の子供たちの尊敬を集めている。ミルフィーに名残を惜しみつつ、ジグもみんなと畑に出かけた。ミルフィーは赤ちゃんをおぶったまま三つ子の女の子とともに庭でベリー摘みに行く。後には‥‥奥で寝ている一家の母親と床をハイハイしてまわる1歳の双子は別にして、男二人の気まずい沈黙が残った。後片付け中のハギオと、19歳の長男ウィンと。
 ウィンは後で近くの修道院まで母親の薬をもらいにいくため、畑作業は免除である。だがハギオには実は、ウィンに話したいことがあったのである。昨夜幻蔵が、ハギオに囁いたのだ。
「ウィンどのは一生独身を貫かれるそうな。彼を慕う村の娘さんをそう言って遠ざけておるようでござる。この大家族の中で育たれたゆえ、子供はもううんざりだそうな。もったいのうござる。我らでひとつ、一緒に説得を試みるでござる。つまり、計画的にすれば子供もさほど増えぬゆえ‥‥」
「計画的に何を『スル』んだっ!」
 ハギオは幻蔵に思い切り突っ込みをかました。ちっちゃい子がどこで聞くかわからんのにそんな生々しい話できんわい。というわけで、ハギオが彼の胸のうちを聞いてみることになってしまったのである。
 悩んでいる人間を見るとほっとけない性分が、いまさらながらうらめしい。黙ってテーブルを拭いているウィンに、ハギオが話し掛けた。
「うらやましいよな」
 えっ? という表情で、ウィンがハギオの顔を見た。
「こういうにぎやかな家に、生まれてみたかったぜ」
「そういやハギオさんは‥家族は?」
「一人っきりだ。身軽だぜ」
「そのほうがうらやましいよ」
「けど、身軽ってことは、自分を粗末にしやすいってことでもあるな。死んでも悲しんでくれる人いねーし‥‥」
 ウィンが、ばつの悪そうな顔で黙り込む。
「皮肉なもんだな、無条件に甘えたり怒ったりできる家族のよさってのは、俺みたいな天涯孤独の身で一番理解できるもんらしいぜ」
 ミルフィーがあわてて駆け込んできた。
「ハギオさんっ、シアちゃんがいないですぅ」
 シアは三つ子の一人だ。7歳の女の子である。
「‥って、セドリックかエルネストのとこじゃないのか」
「でも‥いつも三つ子ちゃんは三人一緒なのに」
 ミルフィーが心配そうに大きな瞳をうるませる。
「心配ねえよ。一応セドリック達んとこへ確かめに行くか」
 ミルフィーを慰めながら、ハギオたちはシアを探しに行った。赤ちゃんたちは、フェル一家のママ、レーナに頼んだ。彼女もみんなのおかげでだいぶ回復しているのだ。
 
「おーい。セドリックー」
 キャベツの虫取りが終わり、休憩がてら自分の担当の子供達に文字を教えていたセドリックは兄の声に振り返った。 エルネストも子供たちを引き連れている。
「シアが迷子らしい。手分けして探してくれって、ミルフィーが走ってきてそう言ってた」
「シアが?」
 セドリックが立ち上がるより早く、驚いたことに、エルネストの連れていたミアとララ、セドリックと一緒にいたガラとトリ、仲の悪いはずの双子たちが手を取り合って、
「探しにいこう!」
「うん!」
 あっけにとられるセドリックに、エルネストがそっと言った。
「別行動したおかげで、かえってお互いが恋しくなったのかもしれんな。兄弟なんてそんなものだ。私たちみたいに仲がいい兄弟もいるが」
「俺はずいぶん悩みましたよ。兄さんが好きになれなかった‥というより、兄さんの自由さをどうしても持てない自分が嫌だったのかな」
「私は昔からお前のことは好きだった」
「そうですか?」
「なぜ疑うかな」
「それより、俺たちもシアを探しましょう」
 
 幻蔵は遠くで呼ばれた気がして、あたりを見回した。今は男の子たちとちゃんばらごっこの最中であるが、なぜか今女の子の声が聞こえた。
「む。何やら胸騒ぎが」
「スキありぃ!」
 ちびっこの一人がすかさず幻蔵の頭をぽかり。だが幻蔵はたんこぶが焼けた餅のようにふくらむのもかまわず走り出した。
 幻蔵のいた丘の斜面を下ると、小さな谷がある。そこで幻蔵は立ち止まった。小さいが流れの速い川の流れの中に、シアが巻き込まれている!
「シアどの! 今助けるでござる」
 幻蔵は川に飛び込んだ。
 ‥まもなく、ハギオやミルフィーたちも川に駆けつけたが、驚いたことに、幻蔵に‥ではなくて一緒に溺れかけた幻蔵の声を聞きつけて来たセドリックに助けられたシアの小さな体を真っ先に抱きしめたのは、ウィンだった。
「シア‥よかった‥怖かったろ?」
 ほらみろ、お前も家族大事じゃん?とハギオは言ってやりたかったが、今はいわないことにした。言うまでもないって気がするからだ。
 
 予想したとおり、いや、予想以上に、別れの時はつらかった。いよいよ冒険者たちが旅立つときがきた。
 中でもミルフィーの手を握り締め、ジグは男泣きに泣いた。
「ぐすっ‥俺‥毎日歌の練習するよ。時々会いに来てくれよ‥」
 エルネストが、
「やっぱり、相当好きなんだな」
 というと、
「そうなんです。ジグ君、とっても歌が好きなんですぅ」
 と、もらい泣きしながらミルフィー。ちがうんである。
 ウィンはテレくさそうな顔をしてハギオと固く握手した。
「やっぱ、悪くないや、うちの家族も」
 ウィンは言った。
 つれてって、と背中によじ登ってくる子もいて、セドリック達もとろけそうな心を引き締めるのに苦労した。だがここでおませな女の子たちの問題発言が‥
「今度はエルネストさんのおうちに行きたいなー。えー、けっこんしてるのー? じゃ、ララはひかげのおんなでいいよ」
「ど、どこで覚えたんだそんな言葉!」
「兄さんが教えたんですね!?」
「ち、ちがう! 絶対ちがう!」
 さすがのエルネストも少女たちのおませっぷりには勝てないようだ。
 幻蔵も子供たちの、
「また来るよね、ゲンちゃん? いつ来る? 明日も来てくれる?」
 質問攻めにあい‥やっぱりちょっと目が潤んでいたようだ。
 しかし冒険者達はやはり、歩き出した。次の冒険に向かって。だいぶ遠ざかった家を振り返り、ハギオはぽつりとこう言ってしまった。
「やっぱ、いいよな、家族って」
 その横顔をちらりとみた幻蔵が、いきなりハギオの手をつかんだ。
「寂しいもの同士、ギルドまで手をつないで帰るでござる」
「えっ‥やだよ、んな恥ずかしい‥っておい、まて、走るなよー!」
「夕日に向かって走るでござる!」
 わけのわからない仲間もいて、冒険者たちの忙しい数日間は終わった。