ダークなお店で大宴会!?

■ショートシナリオ


担当:小田切さほ

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月30日〜09月04日

リプレイ公開日:2005年09月07日

●オープニング

 ひゅうぅぅ‥‥
 夏の夕方だというのに、やけに風の音が聞こえる。
「嵐でも来るのかしら?」
 受付嬢がぼやきながら、夏服の腕をさすったほどだ。
 その風の音とともに、奇妙な客がギルドを訪れたのは、夕方遅くだった。
 ギギギギ‥‥
 いつもは鳴らないギルドの扉が、その日その時に限って重たく陰気にきしんだ。
 まるで入ってくる客のキャラクターをあらわすかのように‥‥
「‥‥こ〜ん〜ば〜ん〜は〜‥‥」
 地の底を這うような声で、入ってきたその二人の客は挨拶をした。
 折りしも、近くの教会の鐘が陰にこもってものすごく、
「ゴォォォ〜‥‥ンン」
「ひぃ!?」
 受付嬢は、二人の客が漂わせる暗いムードと、シンクロした鐘の音に、思わず体を引いたほどだ。
「あ〜の〜。こ〜ち〜ら〜で〜は〜、困った人〜を〜、助けてくださると〜、聞いたのですが〜‥‥」
 客はエルフの中年の男女で、良く見ると面差しが似ている。兄妹らしい。
「は‥‥はい。確かにこちらでは、モンスター退治を始めとして、各種の難事件に冒険者を派遣しておりますが‥‥って客だったのね‥‥てっきりレイスかと思っ(自主規制)」
 独り言の後半を、客に聞こえないように飲み込んだ受付嬢であった。
「で、お悩みごとというのはどんな‥‥」
「私達は〜、エールハウスを経営しておりまして〜」
 と兄のほう。レイモンと名乗った。
「苦労の末に〜、やっと手にいれたお店なんです〜」
 と妹の方。リーガンと名乗った。
 どちらも背後から、ヒュードロドロドロと空耳で聞こえてきそうな口調である。そんな二人が、交互に事情を語った。
「そもそも私達の親が〜エールハウスを経営しており〜、私達はそのお店を継ぐのが夢だったのです〜」
「それが親戚の借金のために〜、人手に渡さざるを得なくなり〜、死に物狂いで働いて〜、爪に火を灯すほどの節約生活の末〜、やっと〜、取り戻したというわけなのです〜」
「そんなに苦労したお店なのに〜、お客が来ないのですぅ〜」
 双子だというエルフ兄妹は、わっとテーブルに泣き伏した。
「お、落ち着いて。何か思い当たる原因は?」
「そ、それが〜」
 双子のエルフ兄妹は、一瞬顔を見合わせてためらったのち、打ち明けた。
「じ〜つ〜は〜、私達は〜」
「それぞれ〜、恋人いない歴135年なのです〜」
「二人合わせて〜」
「恋人いない歴270年〜」
 びゅうぅぅう‥‥
 ものさびしい風の音が一層強くなった。
「そ‥‥そうなんですか。ま、まあ、あの〜、それだけ借金とかご苦労が多かったですから、恋人をつくる心の余裕なんて持てなかったとしても当然じゃないですか」
 受付嬢、たちこめる陰気ムードのもたらす悪寒に震えながら必死に慰める。
「そうなんですけど〜、そのことを面白おかしく噂にする人たちがいて〜、いつのまにやら〜、『あの店に入ったカップルは必ず別れる』とか〜、『あの店で飲むと〜、縁遠くなって一生恋人ができない』とか〜、評判がたってしまったんですぅ〜。それで〜、少ないお客がますます減ってしまったのですぅ〜」
「それで〜、こちらにお願いしたいのですぅ〜。私達のお店を〜、明るいムードにするお手伝いをしてほしいのですぅ〜」
「できれば〜、カップルのお客さまを派遣していただいて〜、あんな噂が消えるように〜、してもらえませんか〜?」
「お願いしますぅ〜。私達〜、キャラクターは暗いけど〜、料理の腕には〜、自信があるのですぅ〜」
「お〜〜〜ね〜〜〜が〜〜い〜〜で〜〜すぅう〜〜‥‥」
 二人交互に、無念の形相‥‥いや、必死の表情で訴えるエルフ兄妹の迫力に、受付嬢は、
「わ、わかりました〜! 依頼書、か、書きますから迷わず成仏してぇ〜〜!」
 冷たい水を浴びたように青ざめて、祈りの文句を唱えつつ急いで依頼書を書き上げたという。

●今回の参加者

 ea0445 アリア・バーンスレイ(31歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea0448 レイジュ・カザミ(29歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea0760 ケンイチ・ヤマモト(36歳・♂・バード・人間・イギリス王国)
 ea2198 リカルド・シャーウッド(37歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea8765 リュイス・クラウディオス(25歳・♂・バード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ea9840 シルキー・ファリュウ(33歳・♀・バード・人間・ノルマン王国)
 eb1248 ラシェル・カルセドニー(21歳・♀・バード・エルフ・フランク王国)
 eb1793 和久寺 圭介(31歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●風と葉っぱ
 その日、件のエールハウスはいつになく賑やかだった。
「キャメロットの生きる伝説・葉っぱ男とはこの僕の事だ! 僕が来たからには、この店は繁盛間違いなし。ま、いっちょ任せてよね?」
 前向きパワー全開のレイジュ・カザミ(ea0448)が輝く葉っぱをまきちらしつつ来店。
「こっ、このお方が〜、キャメロット最強のファイターにして聖なる葉っぱパワーの遣い手ですか〜!」
 レイモン&リーガン兄妹は初の有名人ご来店とあって、赤い敷布をコロコロと敷いてその上をレイジュに歩かせ、「へへぇ〜」と平伏しつつ奥へと通す。
 葉っぱと聞いて一瞬、なぜか恐怖に顔をひきつらせたリュイス・クラウディオス(ea8765)だが、気を取り直して店内をチェック。
「あ〜これじゃ、客来ないぜ‥‥。入り口のクモの巣くらい払えよな〜」
 クモの糸がからんだ、まさに鴉の濡れ羽色といった黒髪をぽりぽりかき回しつつ正直な感想を述べる。レイジュはてきぱきと掃除を始め、シルキー・ファリュウ(ea9840)は、
「居心地のいいお店にしようね? まずはお二人もイメージチェンジだよ」
 リーガンに薄化粧をし、レイモンの髪をきれいにくしけずり、いつもより数段洗練された印象に変える。リーガンは鏡に映る自分の変わりように目を見張ったが、ふとシルキーの手元に目をとめ。
「あ〜、誓いの指輪〜。恋人いるんですね〜、う〜ら〜や〜ましぃ〜」
 ひゅうぅ〜〜、ドロドロドロ。
「ああっ! さ、寒い〜!」
 夏服のシルキー、一瞬凍える。
「こら! 下から上目遣いに見るなよな〜、引くぞ、客が。もっとこう上向いて! 笑え!」
 リュイスの歯に布着せぬ指導とシルキーの努力により、なんとか兄妹も、明るい表情を心がけるようにはなった。が、店の奥で特別料理を作ろうと奮闘中のカップル料理人‥‥アリア・バーンスレイ(ea0445)とリカルド・シャーウッド(ea2198)が、
「メインディッシュはなんにしようか?」
「そうですね、暑いですから、さっぱりしたものにしましょうか」
 とラブラブムードで周囲を虹色に照らしつつ相談する姿が目に入ると、
「じいいいぃっっ」
 指をくわえて見つめる二人。ひゅぅうう〜〜ドロドロドロ。
「料理人は、ひとに幸せを提供する仕事でしょう。まず自分がそうでないと。苦境も笑い飛ばせる余裕を持たなくちゃ」
 リーガン達の放つ冷気に凍えるアリアに、自分のシャツを脱いで着せかけつつリカルドが注意する。
「二人とも良かったらカップル撲滅‥‥」
 なにやら怪しげな勧誘をしかけたレイジュだが、
「あ、いや、明るくしていれば、人に好かれるよ。僕みたいに。心を開いて接するのさ。世の中、僕みたいにオープンになることが大事なんだ、うん」
 色んな箇所をオープンにし過ぎていませんかという突っ込みは今回に限り無用だろう。
 しばらくすると、シルキーやレイジュ、アリア達の手により、店の内装は大幅に変わった。入り口や壁のところどころに花を飾り、窓枠はリボンで綺麗に縁取られ、テーブルには鮮やかな色のクロスが掛けられ。見違えるほど活気に満ち、陰気さの失せた店の様子に、通行人達も注目し始めた。

●音楽と誘惑
 町角で、一人の少女が歌っている。傍には黒髪の若者が、竪琴を奏でている。
「夜が来たなら逢いましょう
 小さな花とオレンジの明り
 ジョッキを満たす琥珀色」
 そのエルフの少女‥‥ラシェル・カルセドニー(eb1248)は特に派手な衣装を着ているわけでもないが目立った。澄んだ歌声が良く通るせいと、ひたむきに全身で歌いかけるような歌い振りのせいだろうか。
また、伴奏とはいえ、若者‥‥ケンイチ・ヤマモト(ea0760)の演奏の巧みさは素人にすら明白だった。指先が別な生き物のように奏でつつ、ケンイチ自身は立ち止まる客達に極自然に笑いかけたりするのだから、客達も驚きを通り越してただうっとり耳を傾けるばかりだ。人だかりが二人を包む。
 歌が終わると客達に、ラシェルは一礼し、
「暖かなお店で楽しい一夜は如何でしょう? この先にあるエールハウスが新装開店しました‥‥」
 店の案内を簡単にして、もう一度客達ににこりと笑いかける。
「音楽つきで、デートにも最適のお店ですよ」
 ケンイチがほんのり微笑みかける。数人の女性がつりこまれたようにうなずいた。
 一方お店の前では、いつもと違い活気のある様子に、好奇の視線を送る通行人達がいる。そこへ、満を持して和久寺圭介(eb1793)登場。紫の着物姿も艶やかに、黒髪をふぁさっとかき上げつつ。
「美味しい料理に、素晴らしい歌でも聞きながら‥‥後は、美しい女性がいれば最高だな。どうだろう、御一緒して頂ければ光栄だな」
 腰が砕けたような歩き方で店内にさまよいこむ女性続出。もっとも、圭介の睨んだとおり女性達の噂が噂を呼び、客が増えたのは事実である。

●サービス
「今日はこちらの店からの特別サービスで、皆さんのリクエストに答えたいと思います!」
 店の中央に立ち、華やかにベールで着飾ったシルキーが宣言すると、客達が拍手を送る。
「んじゃ、ラブソング!」
「その次、ノルマンの歌ね?」
 次々に来るリクエスト。シルキーとラシェルは交互に歌い、互いにオカリナとリュートで伴奏し合ってそれをこなした。
 なんと、いつのまにか店は満員になっていた。それどころか、入り口には行列が出来ている。
 店内が賑わうのは、給仕をしてくれる店員達のお蔭もあるようだ。
「本日の特別料理をご注文のお客様、お待たせいたしました」
 切れ長の瞳が印象的な美女が男性客をもてなす。彼女が奥に引っ込むと、入れ替わりに登場した長い黒髪の美青年が女性客をもてなす。
「ようこそマダム。今宵はシェフの特別料理がおすすめですが」
 男装女装早代わりで給仕をつとめるリュイスである。レイジュはパンやデザート作りに忙しい。今日の逸品は、中に季節のフルーツやナッツを閉じ込めて焼いたプディング。割ると、中からそれぞれ違った味のフィリングが出てくるので、女性客に大うけだ。その合間を縫って、料理にオーブンで火を通す間、大道芸を陽気にこなし、宣伝に努めている。エールの小樽を何本も宙に放りあげては、受け止め、また投げるジャグリングの技に、子供客が特に喜んだ。
「あっ! 葱のおにーさんだ!」
 という声が、見物客の中から聞かれたようだが忘れよう。
「アリアさん、またチキンロールのミントソース添え、注文です」
 料理人にウェイターを兼ねるリカルドが伝える。
「OK。やっぱり安くて美味しいが一番ねえ」
 忙しく厨房で野菜を刻みながら、笑顔で応えるアリア。近くの農家と交渉して鶏肉を安価に大量購入してメニューの値段は抑え、ソースと形の工夫で他にない料理に仕上げたのは彼女の発案である。肉を薄くスライスして野菜を巻き、表面をこんがり焼いて、ハーブの効いたソースをたっぷり添えて見た目と味に差をつける。そのソースをレイジュの焼いたパンにつけて二度楽しむのがおすすめです、とアリアも時折客席をまわり料理の説明をする。
 見るからに仲の良い二人の料理人は、主に客達の話題の的だ。
「ねえ、さっきお料理の説明してた料理人さんて、奥の厨房にいる背の高い料理人さんと恋人なんじゃない? 目が合った時、お互いニコッとしちゃったりして」
「さっき、彼女がお皿重そうに運んでたとき、男の料理人さんがさっと代わりにもってあげてたし。やっぱ、この店に来たカップルが別れるって噂、デマだよね?」
 客席は噂話で盛り上がる。
 「紫の着物の人」和久寺圭介は、
「美味な料理だ‥‥この素晴らしいメインディッシュにあうデザートは、そう、君の唇かな?」
「きゃ〜!! 圭介様ったら〜」
 妖しげオーラを放ちつつ、群がる女性客達を盛り上げる。おかげで店の空気は格段に華やかだ。圭介のテーブルだけ異質な空間になっているという噂もあるが、忘れよう。
「まぶしすぎて〜、近づけない〜ああ‥‥圭介様ぁ〜」
 ドロドロドロと陰のオーラを放ちつつ、リーガンがじいいいぃっと彼を店の隅から見つめているが、これも忘れよう。

●閉店
 そろそろ閉店の時間だ。
「こっこら! 誤解だ! 仕事のために女装してたけど俺は男だからっ!」
「それでもいいんだっ! キミの美しさは性別を越えている。すっ、好きだあ〜!」
 とリュイスがのぼせた男性客に抱きつかれたり、それを見たレイモンが、
「あ〜、リュイスさんがもててる〜。うらやましぃ〜」
 と寒い風を吹かせたり。レイモン達のこの癖は、当分治りそうもない。背負ってきた歴史が長すぎるんである。
 リーガンに、いくつかレシピを伝授し終えたリカルドが、厨房から出ると、アリアがそっと彼を呼び寄せて。
「あの‥‥これ、味見してくれない?」
 ほんのり頬を染めて、こんがり焼いたパイを差し出したり。本当はもっとずっと一緒にいたいのに、いつも心配をかけてしまうから、そのお詫びのつもりだというアリア。なのにリカルドは心のこもったパイをすぐには口に運べなくて。
「嬉しいから‥‥もうしばらく、目で楽しんでからにしますね」
 と、少年みたいな笑顔を浮かべたり。
「こんなに仕事が楽しかったのは〜、初めてです〜」
 と礼を述べるレイモン達に、シルキーが、
「レイモンさん達ががんばってお店を守って来たから、報われたんだよ。今までお疲れ様! エールハウスの経営って、大変だけど‥‥せめてこの歌で疲れを癒してこれからガンバろ?」
 希望の歌を手向けたり。
 と、様々なエピソードを残して、冒険者達はその店を去っていった。
 その後、レイモン&リーガンの店は、美味しくて静かな、時折涼しい風の吹く? お店として、なかなかの評判を得ているらしい。
 ただし、二人の恋人いない歴、尚も更新中。