【近所迷惑物語】酒飲み天国、それとも地獄

■ショートシナリオ


担当:小田切さほ

対応レベル:2〜6lv

難易度:易しい

成功報酬:1 G 36 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月18日〜09月23日

リプレイ公開日:2005年09月28日

●オープニング

 それは穏やかな、うらうらと晴れた日であった。
 キャメロット市内にある某エールハウスでは、今日もゆったりとした時間が流れていた。
 客達はのんびりと食事を楽しみ。
 店の経営者エイシャ君は、
「そろそろ新しいメニューを開発しようかなあ」
 などと、楽しい空想にひたる。
 しかし突然。
「うっ!? なんだ、この匂いは!?」
 一人の客が叫んだ。
「うっ‥‥ぐあ!」
 パンをほおばっていた別な客が胸をおさえる。
 続いて‥‥
「こんちは〜、エイシャ君いる〜?」
 まのびした声とともに、店の常連の一人で、エイシャ君の親友でもあるエルフのマシュー君が大きなツボを抱えて入ってきた。
「うっ! こ、これは‥‥!」
 エイシャ君も、周囲の客も、その壷から漂ってくる強い香にのけぞった。悪臭ではない。むしろ芳香に入るだろう。しかし、強すぎる。しかも酒だ。
 エールの酔いがかすり傷だとしたら、この酒の酔いはスタンアタックくらいの効果がありそうだ。
「その壷は、一体?」
「ん、これー? スタミナドリンク造ろうと思って、穀物とか果物とか一緒くたに入れてそのまま忘れてたら、発酵して酒になってたー。試しにみんなで飲んでもらおうと思ってー」
 マシュー君はのんびりと応える。マシュー君は植物学者で、研究のかたわら果物や野菜で飲み物を作ったりして楽しんでいるが、時折大胆不敵な過ちを犯す。
 みたことのないキノコをとりあえず試食して、あやうく天使が迎えにきそうになったこともあるとか。
 それを思えば、今回はまだしもOKというべきか。
「ずいぶん強烈なお酒を造ったもんだね。しかもマシューって下戸じゃなかったっけ」
 エイシャ君は多少の眩暈をおぼえながら言った。
「そうなんだよねー。そういえばなんか歩いてくるときー、フラフラしてさー、走ってくる馬に激突してさー。胸とかに血、ダラダラ出ちゃったよー」
「へー、そうなんだ。‥‥って、大変じゃないかーっ! すみません誰か、薬草薬草! 包帯包帯!」
 幸いマシュー君の怪我は深刻なものではなかった。
 しかし、と考えこむエイシャ君。
 この店は食事中心のメニューが売りなので、下戸の客も多い。そうした客達が酒の匂いで酔ってしまい、テーブルに突っ伏して寝てしまった者までいる。
 恐るべし、マシューの酒。
「せっかく出来たお酒だし、どんなお酒になったのか興味があるしー、試飲会やろうよー」
 客達からブーイングが起きた。
「だめよっ。そんな強いお酒飲んで、酔いつぶれたら誰が介抱してくれるのよ。そこらへんのむくつけき男どもじゃ、何されるかわかんないわっ」
 と発言したのは、自身も「むくつけき男」、なのに「心は乙女よ。私は間違って男の体に生まれてきた乙女なの!」と主張する34歳のおっさん、ゴルドワ氏。
「ハハッ、大丈夫さ。君が酔いつぶれたら、皆が生ゴミと一緒に放り出してくれるよ」
 と、笑い飛ばすのは24歳の美青年‥‥に見えるが男装の女性で、特に美少女が好きなナンパ魔のイーヴ。
 性別逆転のこの二人、犬猿の仲である。
「なんですってぇ!?」
「まあまあ、変態同士仲良くしたらどないやねん。それこそ酒でも酌み交わしてやな」
 常連客のおばはんがなだめ、
「誰が変態同士なのよ(だ!)」
 二人がハモって怒声をあげる。
 カンカンガクガクの議論の末、「強烈なお酒試飲会」は以下のルールに従って行われることとなった。

 一、チーム別に役割分担
 チームは
 「酒飲みチーム」‥‥名の通り、飲む。
 「救護チーム」‥‥酒飲みチームが酔ったら介抱する。たとえ暴れて刃物を振り回しても命がけで介抱する。ただしチームの性質上、戦闘スキルの使用はやむをえないものとする。
 「調理チーム」‥‥強烈なお酒にあうつまみを調理、提供する。ただしつまみにクレームがついたら否応なしに即酒飲みチームに編入される。

 二、試飲会中、店の外へ出ない。壷の中の酒がなくなるまで密室状態。

 三、酒のお持ち帰りはなしとする。

 ‥‥以上。

「ハイハイ、あたし、救護チーム!」
「いや、僕だ僕!」
 なにやら不純な動機を持っていそうなイーヴとゴルドワが競って手をあげる。だが、手当てのスキルがないため二人とも他の客のブーイングにより却下。しぶしぶ酒飲みチームにまわることとなった。
 だが二人がどんな酒癖を持っているのか詳細を知る人はいない。
 エイシャ青年はどうやら調理チームにまわりそうだが、クレームに戦々恐々である。
 と、試飲会は、まさに酒飲みデスマッチと言えそうな展開を予測させるのであった。

●今回の参加者

 ea0258 ロソギヌス・ジブリーノレ(32歳・♀・レンジャー・人間・エジプト)
 ea0314 エレナ・アースエイム(34歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea0787 リゼル・シーハート(23歳・♂・バード・エルフ・イギリス王国)
 ea7578 ジーン・インパルス(31歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea9840 シルキー・ファリュウ(33歳・♀・バード・人間・ノルマン王国)
 eb1503 フレア・カーマイン(38歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb2322 武楼軒 玖羅牟(36歳・♀・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 eb2628 アザート・イヲ・マズナ(28歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・インドゥーラ国)

●リプレイ本文

●始まりは処女のごとく
 店内には、既に強烈な酒の香が漂っていた。
 店主エイシャ青年は、恋人のシルキー・ファリュウ(ea9840)を、マシューに紹介している。
「マシューさんは初めて会った気がしないなあ。よろしくね」
「へえ、アシュリーにこんな可愛い彼女がねぇ‥‥」
 シルキーと握手した後、マシューはちょっぴり羨ましげな様子で、テーブルについた。が、隣席にいるロソギヌス・ジブリーノレ(ea0258)を見て、その不幸の香りが共感を呼んだのか、挨拶を送った。
「初めまして〜。今日はよろしくです〜」
「初めまして。おや、包帯されてますけど、大丈夫ですか?」
「馬に衝突した傷なんです〜。ほら、傷口〜」
「まぁ、これは見事な打撲傷。私は去年、オークに顔踏んづけられました‥‥」
 ツイてない者同士、意気投合した模様。
 会話は弾んでいるが、二人の頭上には鬼火が漂ってきそうだ。
 試飲会開始前に、安全に飲むための心得を、レスキューの達人ジーン・インパルス(ea7578)が語る。
 彼と同じく救護班のアザート・イヲ・マズナ(eb2628)は濡れた布で口と鼻を覆い、さながら決死隊。
 酒の匂いでよってしまわないための防御策ということらしい。
「強烈な酒らしいから、絶対空腹で飲むのは禁物! 豆とか肉とか、腹持ちのよさそうなものと一緒に飲むこと。それから気分悪くなったらじたばたしないで俺達救護班を呼べ。後は‥‥」
 ところがその話の途中既に、無敵の酒豪エレナ・アースエイム(ea0314)が、配られたカップの酒を飲み干している。
「おーい、もうないぞ〜。このカップ、小さすぎないか?」
「こらーっ、俺の話を聞いとらんのかい!!」
 ジーンに叱られてもどこ吹く風のエレナさん、既に三杯目を干した。しかも仕切る。
「そろそろつまみがほしいな。調理班、頼む」
 指をパチリと鳴らすと、リゼル・シーハート(ea0787)がエイシャ君と武楼軒玖羅牟(eb2322)の作った料理を手に、厨房から出てきた。銀髪を束ねて純白のエプロンをつけたリゼルに店内の注目が集まる。
「そんなに見るなよ‥‥女装っぽくてなんか恥ずかしいんだ、これ」
 リゼルは居心地悪そうだ。しかしエイシャ君と玖羅牟は嬉しそう。
「でも、リゼルさんが給仕してくれると、料理も大切にされてるって感じがします。高級感があるというか」
 エイシャ君の作品は、フィッシュフライとチーズ入りのパイ、玖羅牟はチキンフライ、リンゴの甘煮とジャパン風の逸品。ジャパン風の逸品に注目が集まる。木の葉の上に味噌を載せ、葉ごとあぶった料理。蛇の料理を出す予定だったが、店主が長いモノ嫌いのため断念。その代わりに、ジャパンで買うより20倍もの値段の付いた月道輸入の味噌を、エイシャ君がわざわざ購入したのだ。
「これ、何? 懐かしい感じのいい香り」
「焼きミソっていうんだ。以前、結婚式の宴席に出た料理を再現してみた。ジャパンでは焼き味噌はポピュラーだが、木の葉に乗せて焼くと香味が増す。シンプルだけど、木の葉の香りと味噌の相性によって随分味が違う。奥が深いレシピだ」
 飾り気はなく懐は深い、それは玖羅牟自身にも言えることかもしれない。
「ちょっとあんた、家庭的でええ感じやないの〜。ちょっと、ウチの息子と会うてみん?」
「いや、ウチの甥っ子の方と!」
 店によく来るおばはん連中が、さっそく彼女に目をつけ理想の嫁さん候補獲得合戦を繰り広げた。
 飲酒班はちびちびと強烈な酒を飲み始めた。
「うん、これは確かに、ズシンと手ごたえのある酒だ。じっくりと腰をすえて飲ませてもらうぞ、マシュー殿」
 余程酒に強いのか、端然と背筋を伸ばして座った姿勢を崩さず、エレナがマシューに微笑みかける。
「なんか楽しゅうなってきましたな〜、素敵なレディーに囲まれて飲むせいやろか」
 フレア・カーマイン(eb1503)が、優しい面立ちをほんのり染めつつ、ロソギヌスやエレナ、居合わせる女性達にちらりと視線を送る。
 盛り上がってきた宴席を、隅の席から醒めた目で見つめるのは救護担当のアザート・イヲ・マズナ。
「酒‥‥か。そんなに美味いものなのか?」
 隣にいる、同じく救護班のジーンにぽつりと問い掛ける。
「ま、気の抜けたエールよりは数段美味いだろうな。飲んでみるか?」
 飲用水の樽が店のカウンターに置かれている。アザートは喉が渇いたのか、グイとその水を飲み、首をかしげた。
「いや、俺は水でいい‥‥賑やかなのは、性にあわない‥‥ん? 何かこの水、妙にいい香りが‥‥」

●大・崩・壊
「リゼルさん、シルキー、歌をお願いします!」
 エイシャ君に請われ、エプロンを外したリゼルが、謳い上げる。
「♪友よ 宴の時を過ごさぬ」
 リゼルの歌、シルキーの演奏、異国風の珍しいツマミ。思いがけず格調高い宴会になるかと思われたその時。
 リゼルが歌い終えると、いきなり、「暑い〜」と言い出した。のみならず、着ているものを脱ぎ出した。
「うわ〜! リゼルさん、さ、最後の一枚〜!」
「あー涼しい〜。よぉーし、絶好調〜!」
 リゼルさん、肌も露にダンシング&シンギング。横からエイシャ君が布巾で少しでも彼の肌を隠そうとする。
 救護班のジーンとアザートも目が点である。もっとも、救護に入ろうにも店の常連のおばはん連中がリゼルをキャーキャー取り囲んで割り込む余地なし。
「マシュー‥‥まさか」
 エイシャ君が疑惑の目をマシューに向ける。
「うん〜。全員で飲んだらもっと楽しくなるかなと思って〜、飲み水の入った樽に〜、お酒混ぜといた〜」
 マシューが屈託なく回答する。「なぬ!?」冒険者一同に殺気が走る。
 しかしエレナがカップを手に起立して叱咤した。
「皆、だらしがないぞ! 酒は人生の友だ、恐れるな! こうなったら行きつくところまで盛り上がろうではないか。 グイッといけ、グイッと! それ、イッキ! イッキ!」
 彼女は正しい。宴会は急には止まらない。エレナの音頭取りで、ジーンを除く全員が強烈な酒を飲み、そして崩壊が始まった。
「うぃー。エレナひゃん、いい飲みっぷりらねぇ〜。だいしゅきっ!」
 救護班のはずのシルキー、誰彼構わずほっぺたチュー攻撃をしまくる。
「うわああ! シルキーが僕以外の人とっ!」
 エイシャ君、人格崩壊の危機。
「アシュリー、うるひゃいっ。そんなうるひゃい口は、こーしてふさいじゃえ!」
 シルキーがエイシャ君の唇にちゅっ。エイシャ君、別な形で一気に崩壊。
「エイシャが壊れた! 嬉しそうに踊り狂ってるぞ! アザート、スタンアタックで止めろ!」
 ジーンの要請に、暴れる酔っ払いを問答無用で眠らせる担当、アザートが駆けつける。が。
「あ‥‥あれ?」
 アザート、ぐらっと倒れ。急に動いたので酔いが回った模様。床に横すわり状態で、
「うっ、気持ち悪い‥‥」
 荒い息を吐く。束ねていた髪がほどけてはらりと横顔に流れる。おばはん連中ががぜん興奮し始めた。説明しよう。美青年・美少年は苦痛または苦悩の中にあるとき、その美形度がパワーアップするのである。
「いやっ、美少年が倒れとるやん! 介抱したらな! まずは服ゆるめて‥‥あ、しもた。つい、全部脱がしてもたわ。いやっ。この子色白やわぁ〜♪」
 介抱か美少年鑑賞会か。幸い、酔いが回ったアザートは眠りこけている。
 唯一人正常な救護班ジーンの前に、酔いで気分悪くなった人のみならず、おばはん客が長蛇の列を作る。ところが、列中にはケンブリッジ勢おばはん数名が紛れ込んでおり、キャメロット勢おばはんとの間に、壮絶バトルが勃発。
「なんやねん! ジーンちゃんはケンブリッジのアイドルや、言うてるやろ!」
「何言うてんねん、キャメロットのファンパワーを見損なわんといてもらおやないの!」
 ジーンはそれを見て(「‥‥どっちも帰れ」)と心から願う。
 一方、限りなく笑い上戸なのは玖羅牟。ナベ娘イーヴの頭をバシバシ叩きつつ。
「んはははははっ可笑しッ、ひっ、はぁっ‥‥!! お皿、転がってるぅ〜!」
 無表情だった素面のときの印象はどこへやら、子供みたいにはしゃいでいる。
 その時、不幸話に興じていたロソギヌス&マシューの眼前を、黒猫の親子連れが横断。風を入れるための小窓から、料理の匂いにつられて侵入したものか。
 それが招きよせた不幸なのか、他の酔っ払い客が二人のテーブルに突き当たり、テーブルごと二人とも横転。こぼれた料理や酒にまみれて、泣き上戸と化す二人。それぞれ過去の思い出にひたって、
「無理です師匠〜ライオンを素手でなんて倒せません〜」
「うぅ〜ベッドに毒キノコが生えちゃったよ〜」
 と右下がり人生を生きる者同士、手を取り合って泣いている。
 いくらか酒に強いはずのフレアも、酔って目測を誤ったか、乙女心おっさんゴルドワを口説いてしまい。
「ちょっと彼女、二人きりで飲みなおさへん? あ‥‥し、失礼しました!!」
「うふっ、OKよん♪」
 ゴルドワからの、フレアの必死の逃避行が始まった。
 怒涛のうちに酔っ払い地獄の一夜は明けた。
 ほぼ全員、二日酔い。マシューはどうやら自滅症候群娘ロソギヌスをいたく気に入った様子。
「キノコ狩り、いきませんか〜? 毒見は僕がしますよ〜」
 しきりに誘いをかけている。プレゼントも贈り、かなり本気のようだが、成就したらしたで心配なカップリングではある。
 もう一組の危険なカップル、シルキーとエイシャ君はまだ酔いが抜けていない。
「おいっ、エイシャ! わらひは、まだ歌い足りにゃいのら。もう一軒行くじょ!」
「ひゃいっ。どこまでれもついていきまひゅ!」
 フレアは忍び歩きでこっそり帰路へ。ジーンはおばはんバトルの仲裁に疲れ果てぐったり。玖羅牟はおばはんの魔の手からどうにか逃れたが、リゼルとアザートは部分的記憶喪失。おそらく自己防衛本能とやらのお蔭だろう。
「いやぁ、実に充実したひとときだったな。やはり宴会はいいものだ」
 エレナだけが、まことに爽やかな顔で、そんなコメントを放ったということである。