おとこ修業
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■ショートシナリオ
担当:小田切さほ
対応レベル:フリーlv
難易度:やや易
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月06日〜12月11日
リプレイ公開日:2004年12月14日
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●オープニング
「ぼ‥‥ぼくを、ぼくを男にしてくださいっ!」
そういって飛び込んできた人物をひとめみた冒険者ギルドの受付嬢は目を疑った。
目の前にいるのは、年のころはたちになるやならずの、栗色の髪をばら色のスカーフでまとめ、同じ色のドレスに身を包んだ、美少女ではないか‥‥
「あ、あの。落ち着いて。まず、お水をいっぱい飲んではいかが?」
受付嬢は、職業柄いろんな人間の応対をしているので、比較的冷静にそう応じた。しかし、
「ぼく、正気ですっ!」
少女は言うがはやいが、ドレスの胸のボタンをはずし、クリーム色のなめらかな肌をあらわにしてみせた。
「きゃっ! ‥‥て‥‥えっ?」
受付嬢は目を両手で覆いかけたが、すぐに気づいて、まじまじとそのあらわになった胸を見た。乳房のふくらみはなく、まさにそれは少年の胸だった。
あらためて少年は、ジラルドと名乗ると、身の上を話し始めた。
「ぼくの親父がいい年をして占いが大好きでして‥‥。ぼくが生まれたとき、お抱え占い師に見てもらったら、
『男の子だったら17歳になるまでに死ぬ。女の子なら長生きできる』
と言われたそうなんです。それでぼくの親父は、生まれてきた男の子のぼくを、女として育てたんですよ」
「はあ‥‥」
どうりで女装が板についているわけだ。受付嬢は納得した。でもこのジラルド君、少年の姿になったとしたら‥‥相当の美少年に違いない。
少し面長の顔に、大きく澄んだすみれ色の瞳、やや薄い唇も形よくひきしまって‥‥
「でも、その占い師、とんでもないヤツだったんです。最近になって親父の財産の一部を持ち逃げして姿を消しました。それでようやく、親父もぼくを男に戻してくれる決心をしたんです‥‥なのに、なのに!」
少年は、悲しげに身をよじった。
「生まれてすぐ女として育てられたから、どうしても男らしくなれないんですっ! つい内股で歩いちゃうし、笑うときについ口元に手をあてちゃうし、このままじゃ‥‥」
いいさして、ジラルドは悲鳴をあげて受付嬢に抱きついた。
「きゃっ、今、そこにゴキブリがっ!」
「あ、あの、ジラルドくん?」
受付嬢が遠慮がちにそう名を呼ぶと、ジラルドはわれに返って、こんな自分が嫌なんだと言う風にそれはそれは悲しげなため息をついた。
「どうしたら男らしくなれるか、教えてほしいんです」
ジラルドはお願いします! とスカーフをひらひらさせて頭を下げた。
●リプレイ本文
●アクション劇場
今回の依頼者であるジラルドと冒険者たちは、冒険者ギルドで待ちあわせていた。やがて現れたジラルドに冒険者たちは一瞬唖然となった。
「は、はじめまして。ジラルドです。よろしくお願いします」
あまりにも似合いすぎる女装。どう見ても美少女だ。最初に理性を取り戻したのは、リオン・ラーディナス(ea1458)。
「(‥‥く、ここで萌えちゃイカン!)い、いや〜。ギルドから聞いてはいたけどあまりにも美少女だからびっくりしちゃって」
おずおずとジラルドが質問する。
「あの、今日は8人来られると聞いていたのですが、あとお3人は?」
「ああ、あいつらね。向こうで変装、じゃなかった、色々と準備があって」
リオンがごまかした。ジョセフ・ギールケ(ea2165)が、つくづくとジラルドを見つめながら、
「ところで、君はどうして男になりたいと思ったのかな? 本気で男になりたいのなら、今も男の格好をしてきたんじゃないのかな。心の奥底では、女性のままでいたいと願っているのではないだろうね?」
「ち、違います。ただ、いきなり男に戻ると、母が寂しがるので。娘が欲しかったようなのです、母は‥‥でも、僕は、男と生まれたからには、家族を守る存在に成長したいと思っています」
「ほう。その意気だ。その言葉忘れるなよ‥‥しかし勿体無い。こんな美少女が消えて男になるとは」
美少女好きのジョセフがため息をついたとき、彼らの背後に黒い影が迫った。
「フフフ、我らにキミたちの度胸を見せてみたまえ!」
顔中包帯を巻いた怪しい男(実は天那岐蒼司(ea0763))と、
「さもなくばその女をもらおう!」
とジラルドを指差す怪しい覆面の男(実は黄安成(ea2253))。二人の素早い動きでの峰打ち(のフリ)に、冒険者たちは次々と倒される(フリ)。一人残ったジラルドは、たちまち腰を黄に抱え上げられ、それでも必死に黄を蹴りつけたり抵抗した。が、かなうものではない。出家前は山賊として活躍(?)していた黄の面目躍如である。
「見苦しいまねは、よさぬか!」
凛とした声がかかった。背の高い青年‥‥実は人遁の術で姿を変えた大隈えれーな(ea2929)である。
ビュッ! と大隈の体が二人の賊の間を通り抜けたと見るや、バタバタと二人の悪漢(天那岐と黄)は声も上げずに失神して倒れた(フリ)。
「また、つまらぬものを切ってしまったか」
ジラルドを助け起こしつつ、男の声を作って呟く大隈に、ジラルドは頬を染めながら、その腕にすがりついた。
「あ、ありがとうございます。あの、ぼ、ぼく、あなたのように強くなりたくて‥‥戦い方を、教えてくださいっ」
「すまぬ。旅の途中ゆえ、そなたに指南することはかなわぬ。だが、そなたの瞳の光は男。精進次第で、強き男になれようぞ」
微笑するや、これにて御免! と、大隈は走り去っていった。疾走の術を自らにかけていたので風のように速い。実はこの悪漢騒動、ジラルドをおとこ修行に目覚めさせるため冒険者たちが仕組んだものだ。
「精進次第‥‥」
呟くジラルドの瞳に、強い意志の光が加わってきたようだ。
●思い込んだら(ジラルドの自宅にて)
「ま、少しずつでも練習を続けることだな。剣術を習熟すれば、さっきみたいな悪漢なんかに負『けん』! なんつって」
びゅうううう‥‥。リオンのギャグにともなうさむーい風とともにジラルドの特訓は始まった。リオン達がジラルドのためにみつくろって用意していた木刀や、一通りの防具など渡されたジラルドは戸惑い気味にうなずく。
「そして、わしのように体を鍛えれば、怖いものなしじゃあああっ!」
いきなりセイヤー・コナンバッハ(ea8738)が風にも負けず服を脱ぎ捨て、60歳には見えぬ筋肉を見せ付ける。
「キャッ!」
まだ女の子が抜けきっていないジラルドが男性の裸に目を覆う。が、セイヤーが丁寧に筋肉の鍛え方を指導するうち、興味がわいたらしく、素直に腕立てふせなどをこなし始めた。
「なかなかの根性ぞ。その調子で、どんなに辛くてもあきらめることなく筋トレを続けていけば、いつか必ず、筋骨たくましい真の男になれる! その時が来るまで、決してあきらめてはいかんぞ」
セイヤーが、弱音を吐かずにがんばるジラルドに温かい眼差しを注ぐ。
「しかし美少女がいきなり筋肉隆々の男になるのも‥‥」
本を読みながら見物しているジョセフが悲しげに呟く。それを待っていたように村雨月姫(ea2346)がすすみでた。
「では、私の演舞を見ていただいてはどうでしょう?」
後で感想をお願いしますね、と微笑んで、村雨は少し距離をおくと、剣を抜いてゆっくりと、次第に早く剣術の型を見せ始めた。しなやかな動作で刀を返すかと思うと、鋭く薙ぎ払う。たおやかながら緊張感ある動作を一通り終えると、ゆるやかに刃の輝きをいとおしむようにすらりと鞘に収める。
「ふう‥‥どうでした?」
村雨に聞かれて、夢から覚めたような表情でジラルドが答えた。
「美しいです。全身の力を使わなければできない所作なのに、まるで重さなんてないみたいに軽やかで‥‥」
「男らしさというものにも同じことが言えるやもしれぬな」
こちらも変装を解いて合流した黄安成が呟く。悪役の扮装を解いた彼は、黒のシャツの上に、鮮やかな赤い紋様を描いた白い上着を着ている。身軽でありながら礼節を感じる姿だ。落ち着いた所作とあいまって、名のある武道家あるいは武士のように見えなくもない。
「そうですね。女性側から見ても、あまりに男らしくあろうと肩肘張っておられる方はかえって男らしく映らないものです。ジャパンでは、冷静で文武に優れている人が男らしいとされていますね」
村雨が優しい口調でジラルドに教えた。難しそうだなあ、と困った顔をしているジラルドに、御蔵忠司(ea0904)が穏やかにたずねた。
「貴方にとって男らしさってどんなことですか?」
「よくわからないんです。漠然と、強くなりたいって思ってたことに気づきました。御蔵さんはどう思いますか?」
「僕ですか? 僕が答えるなら『逃げないこと』です」
落ち着いていながらきっぱりとした口調で、御蔵は答えた。ジャパン出身ながらかなり達者なイギリス語をあやつり、仲間たちの通訳も務めてくれる御蔵に親近感を覚えていたジラルドは、その答えにも感銘を受けたようだった。
「ぼくはずっと、逃げていたのかもしれない。父のせいで女の格好をさせられてるとか、そのせいで男らしくなれないんだとか‥‥人のせいにして、自分のやるべきことから逃げていたのかも‥‥」
●哀愁酒場
おとこ修業とくれば、後は女性との付き合い方! と主張するリオンの指導(希望?)により、一同はジラルドを酒場に連れて行った。ジラルドに軽い飲み物をおごってくれて、リオンいわく、
「好きな人を見つけるのも、男らしさのために必要なのさ」
「そりゃリオンさんは名の知れた冒険者だし、十分男らしくてモテますよ。ぼく‥‥女性に男としてみてもらえるか不安なんです」
ジラルドが不安そうに言う。大丈夫ですよ、と村雨や大隈が微笑む。彼女たちが、ジョセフらの助言を入れながら、ジラルドの長い髪を切り、少年らしく整えてやったのだった。防具の身につけ方など、男らしい服装の着付け方は男性陣が教えた。なので、かなり少年らしく見えるジラルドだったが、ちょっと内股気味の歩き方などは改善の余地がありそうな‥‥
「いやあそんな、もてるだなんて。あっ、可愛い子発見――っ」
ジラルドに憧れられて盛り上がるリオンは、女の子を見つけて早速突撃して声をかけ、断られてしおしおと戻ってきた。
「ぅく! これにて6人目、か‥‥」
と、うなだれるリオン。だが、ジラルドは、やっぱりリオンさんはすごいです、と大きな目でリオンを見つめた。
「好きだと思ったら迷わずにまっすぐ突き進むって、なかなかできないことです」
「‥‥それじゃあンたもナンパしてみるかい?」
リオンに憧れるあまりジラルドがリオンそっくりになったら困るとでも思ったのか、天那岐がからかうように言うと、ジラルドは少し考えて頬を染めて首を横に振った。
「いえ‥‥それはできそうにないです。昔から、好きになるのに時間がかかるほうですから‥‥これって、男らしくないかな‥‥」
「いや。それが自分の価値観なら、それを貫くことだな。大切なのは自分の価値観を貫く意思だ。漢が漢たる要素‥‥それは自身の行動に揺らぎを持たない確固たる決意と信念のことさ」
「ありがとうございますっ。ぼくは、ぼくでいいんですね」
ジラルドがすみれ色の大きな瞳で天那岐を見つめた。
「ま、異性の一人でも好きになったときが一番男を男らしくするんだがね」
天那岐自身も初恋さえまだのくせにちょっぴり兄貴風を吹かせて言う。
「まあ、『らしさ』なんて後からついてくるものさ。今は深く考えなくてもいいんじゃないかな。とりあえず、出来ることからがんばって行こう?」
リオンがぱしっとジラルドの細い肩を叩いた。
すかさずセイヤーが割り込んだ。
「そうそう、筋トレは毎日、忘れずにのぉ!」
「はい。そして、いつか‥‥あの、悪漢からぼく達を助けてくれた旅のお方のように、強くなりたいです」
とジラルド。つつましく飲み物を口にしていた大隈えれーながあやうくむせかけた。
「みなさん、本当にありがとうございます。みなさんと一緒に過ごしたお蔭で、ほんとの男らしさがわかってきたような気がしま‥‥」
ジラルドが感動的にこの場を締めくくろうとしたとき、リオンがいきなり立ち上がった。
「あっ、綺麗なお姉さん発見――っ!」
ジラルド他数名が椅子から「カクッ」とずり落ちた‥‥
その後もジラルドは時たま冒険者たちにおとこ修行の相談に来る。ジラルドのおとこ修業の先は遠いが、彼に楽しい友達数名ができたことは確かなようだ。