逆・男性天国!

■ショートシナリオ


担当:小田切さほ

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月09日〜04月14日

リプレイ公開日:2005年04月18日

●オープニング

 これは、正義のため自らを鍛えぬく若者たちの物語である。
 若者達は、世の人を脅かす犯罪やモンスターに立ち向かうべく、まだ無名ながら最強の騎士団を結成しようとしていた。
 そして己の心身の極限を追及するべく、自分たちだけで、キャメロットから2日ほど離れた場所にある森の中に小屋を立て、一定期間サバイバル生活をすることに決めたのだった。
 しかし。
 思えば、それこそが崩壊の序曲であった‥‥

 それは、合宿五日目の朝のことであった。
「センパイ。また今日のメシも、ごった煮っすか。自分、家のメシがマジで恋しくなってきたっす」
「やかましい! 文句を言うやつは森の中をランニング十周!」
「ひいい〜」
「それより、今日の洗濯係、何を洗濯籠の前で考え込んでる? さっさと洗濯しろよ、汗臭くてかなわん」
「センパイ! 洗濯籠の上に書置きが!!」
 今日の洗濯係である後輩騎士の一人が、走り書きで「皆さんへ」と書かれた羊皮紙片を持って、リーダー格の若者のところへ走ってきた。
「なになに、『私達はこのような生活にもう堪えられません。さようなら』‥‥って、出て行った者の署名が後に連なっているが、メンバーの半数じゃないか! っておまけに、剣術指南役を買って出てくれたちょっと有名な先輩騎士様の名前まで!」
 残されたメンバーは、絶望にうちひしがれた。

 最初の、あの熱い志はどこへ行ってしまったのだろうか。
 夜空に輝く星を見上げて、
「僕達の友情は、あの星が輝き続ける限り永遠だ!」
 と誓い合ったあの日。この、春の強化合宿で、最強の騎士となり、騎士団を結成する約束をしたあの日。
 いったい、何がいけなかったというのだろうか。
 残されたメンバーは思いを馳せた。そういえばここ数日、出て行ったメンバーだけではない、みんな、いつもの元気がなかった。
 原因はおそらく‥‥
 男。男。また男。どっちを向いても男ばかりというある意味での極限状態と、家事炊事のわずらわしさ。
「だ、ダメだ‥ここでこのまま激マズなメシを食い続けていたら、オレは人間じゃなくなってしまう‥」
「って今日の炊事担当はお前じゃないか。頑張れ、自分の味付けに自信を持つんだ」
「お前も食ってないじゃないか!!」
 そんな会話を、幾度交わしたことか。
 かてて加えて「にほひ」。
 洗濯が面倒くさくて、二、三日同じ服でもまあいいっか、と全員着たきりすずめを試みたところ、周囲一帯に摩訶不思議な香気が発生し、全員が目を回して倒れてしまったことがあった。これじゃいかんというので全員一丸となって洗濯に専念したので、以来さすがにほとんど香気は失せた。
 が、少しでも油断すればあの香気が発生してしまうという緊迫感は常に皆の心の片隅を締め付けていた。
 そんな、些細な(でもないか)出来事の積み重ねが、仲間達の心身を追い詰めていったのだろうか‥‥

「ダ、ダメっす。自分たちは、もう、最強の騎士団にはなれないっす!」
 残されたメンバーの一人が、がくりと床に膝をついた。
「剣術指南がいないんじゃ、訓練もできないっす‥‥」
 他の者達も、絶望と取り残された寂寥感からか、かすかに嗚咽を漏らすものもいる。
 リーダー格の若者がすっくと立ち上がり、皆を励ました。
「皆、元気を出せ! 新たな指南役を雇おう!」
「そ、そんなことが出来るっすか!?」
「おう。脱走者が出たおかげで、合宿費用が少し浮いた。ついでに、残りの金で、家事を担当してくれる者を雇おう! 反対する者はいないな? 人間らしい生活こそが正義の志の基本だと、皆気づいたことと思う!」
「超オッケーっす!」
 賛成の大合唱が巻き起こる。
「さらに‥‥」
 リーダーは期待をあおるかのように、声を低めた。後輩騎士たちがごくりと唾を飲み込む。
「指南役、家事担当者ともに、女性でも可、としよう!!!」
「オオオーッ!」
 もはや喜びの声なんてものじゃない、雄叫びである。リーダーは続けた。
「その代わり、紳士的に接することも我々の修行の一環と知るべし! この間、久しく女性に接していないからといって、たまたま森の中を通りがかった野菜の行商のおばはんに襲い掛かった者が数名いたが、そのよーなことは決してしないように」
 おいおい、そんな状況で女性を雇ってはいかん。だがこの極限状況で、誰からそんなまともな意見が聞けるだろうか。
「押忍!」
 嬉々としてメンバー全員が賛成を謳う。
 その日の夕刻、リーダー格の若者が森を出た。
 冒険者ギルドを尋ね、剣術指南役と家事担当者を紹介してもらうために‥‥。

●今回の参加者

 ea0314 エレナ・アースエイム(34歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea1332 クリムゾン・テンペスト(35歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea3664 ガンド・グランザム(57歳・♂・ジプシー・ドワーフ・ビザンチン帝国)
 ea5838 レテ・ルーヴェンス(25歳・♀・ファイター・エルフ・イギリス王国)
 ea8544 エンジェル・ハート(33歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea9840 シルキー・ファリュウ(33歳・♀・バード・人間・ノルマン王国)
 eb0832 巫覡 彌涼(35歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb1774 天城 真白(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●悩殺と秒殺の間に
 6人も女性が加入したとあって、騎士団未満の若者達は色めきたった。
「みなさ〜ん。ヨロシクね」
 エンジェル・ハート(ea8544)がウィンクと共に挨拶を送る。出るべきところは豊かに出て、引っ込むところは透き通るように華奢という、見事なプロポーションの持ち主である。そのエンジェルが、剣の持ち方などの基礎訓練を行うことになった。当然手も触れ合ったりすることになり、若者達の興奮を誘ったが、
「もっと力を抜いて、こうよ。あん、そんなところ触っちゃダメ。ダメよ。ダメだったら。ダメ。って言うとんじゃドガッッッ(殴打音)!!!」
 鼻血をなびかせて草の上に倒れる若者数名。というようなことがあってから、安易に彼女に襲い掛かる愚か者はいなくなった。気を取り直して訓練再開。
「空腹で体力が持たないだと? だったら気力で補え! それくらいの覚悟なしで一流の騎士にはなれると思うなよ!」
 エレナ・アースエイム(ea0314)が叱咤する。背筋を伸ばして一直線に立つ姿は女性というよりむしろりりしい少年騎士のようだ。
「防御もしっかり学んでね。自分の命を大事にすることがまず第一歩よ」
 癒し系剣術指導とも言うべき訓練を施すのは巫覡彌涼(eb0832)。引き締まった肢体と豊かな胸を、若者達はまぶしげにちらちら見ているが、彌涼自身はそんな視線などものともせず、剣術指南役に徹している。
「では、アタシが仕掛けるから、防御してごらんなさい」
 彼女が言い渡すと、
「えっ。自分たちが襲われるッスか?! 彌涼さんになら、どこからでも襲われたいっす!」
 勘違いして嬉しそうに瞳を閉じて唇を差し出す輩もいたりする。
 そんな輩はすかさず、クリムゾン・テンペスト(ea1332)に
「そ〜ら、プレゼントだ!」
 ファイヤーボムを足元に炸裂させられ、
「あちあちあち」
 踊るハメになった。
「ったく‥‥どいつも節制が足りんな」
 ため息をつくエレナは、よく少年に間違われることもあって、自分だけは襲われまいとタカをくくっている。が、
「今から休憩してよし!」
 と言い渡して、金髪をかきあげ白いうなじをさらして汗をぬぐった途端に、
「男勝りの中にのぞく女っぽさが、た、たまんないっす!」
 と背後から抱きつかれるのであった。慣れぬこととて手加減抜きで殴り飛ばしてしまい、傷者数名。
「お疲れさまー。どう? 本格的な訓練を始めた感想は」
 シルキー・ファリュウ(ea9840)とガンド・グランザム(ea3664)がお茶を差し入れにやって来た。
「皆さん綺麗な顔してきびしいっスね〜。ほら、彌涼さんに木刀で打たれてアザが出来たっす」
 プロの歌い手であるシルキーの柔らかな雰囲気に誘われて、一人の若者が愚痴をこぼす。
「皆、あなた達を強くしてあげたいから厳しくするんだよ。頑張って。私も応援してる」
 何気なくシルキーが肩を叩いて励ますと、
「不公平っす! コイツだけにそんな優しい言葉をかけるなんて! 自分もシルキーさんに『頑張れ』って言ってほしいっす!!」
「何ぃ、俺が先だ俺が!」「自分っす!」
 他の若者達が、順番をめぐってつかみ合いを始める始末。
「なんでこうなるの?」
 シルキーは男達の気迫に半泣き顔だ。
「これこれ、騎士を目指す若者とも在ろうものが、お嬢さんを怯えさせてどうする?」
 年の功でガンドがおどけて割って入り、事なきを得たが、つかみ合いをした若者達はクリムゾンに「シルキーを泣かせた罰」とて、ファイヤーボムで踊らされるのであった。

●第一次欲求の悲劇
 訓練を終えて全員寝所(若者達が手作りした簡素な木の小屋)に戻る。と、小屋の前で、夕日を背に浴びて一人の少女が野の花を摘んでいる。天城真白(eb1774)だ。
「何にするんだ、その花?」
 団長格の若者が尋ねる。
「部屋をお掃除したんだけどなんだか殺風景だろ。お花でも飾ったら、なごむかなと思ってさ」
 振り返ってあどけない笑顔を見せる真白。その無防備なまでの無垢さが約一名の若者の胸をキューン!と射抜いた。
「そ、そんなものより、自分の誕生日くらい祝ったらどうだ。ギルドのオヤジさんが言ってたぞ。年頃なのになんで誕生日に仕事入れるんだろうって」
 と、団長は無骨な手で、自分の手荷物からマグカップを差し出す。
「ここにはこんなものしかないが、こ、この強化合宿が終わったら食事にでも‥‥い、言っておくが‥‥オレは、オレはロリコンじゃないぞー!」
 団長は真っ赤になりながら、夕日に向かって走っていった。
「これでも11日で18歳になるんだぞ」
 可愛い唇を尖らせ立ち尽くす真白であった。
「さて。食事の前に、今日は何を学んだのか、見せてもらうわよ」
 レテ・ルーヴェンス(ea5838)が艶めいた笑みとともに腕を組んだ。今日の予定をこなせていない人は食事抜きだから、と言い渡されて、皆料理の匂いにヨダレを垂らしながら必死で素振りや型を見せた。
「ん‥‥まあまあってとこね。食べてよし」
 レテの言葉で、全員が「ワン!」と鳴かんばかりに食事に飛びついた。
「そんなにがっつかなくても皆の分あるわよ」
 作ったレテもあきれるばかりの勢いで平らげていく。
「う、うまいっす。やっぱ女の人の手料理は違うっす!!」
 と涙さえ流してありがたがられ、
「手料理たって、ありあわせの野菜煮込みなんだけど。今まで一体何を食べてきたのかしらね」
 逆に心配したレテが綺麗な眉をひそめて仲間に囁いたほどだ。
 夕食の後、反省会とクリムゾンによる魔法戦略講義。
「諸君、授業を始めよう」
 もともと端正な顔立ちに加えて、なぜかエンジェルに化粧させたクリムゾンの美男度は約二割アップである(挑発?)。妖しさと羨ましさで若者達は口を開けて見惚れている。
 一日の予定が全て終了し、次の日に備えて熟睡‥‥となるはずだが、女性加入により興奮した若者達はそれどころではない。
「か、彼女達の寝姿を想像するだけで体の一部が(自主規制)」
 冒険者達は不測の事故?に備えて、小屋内ではなく持参の簡易テントなどで小屋の外で眠ることにしていた。そこへ忍んでいこうとする不埒者が9名中約9名。9名の野獣が美女の眠るテントへ‥‥が、なぜか若者達と小屋に寝起きしているクリムゾンの所へしのんでいく奴も。
「こ、こら、間違うな。私だ私!」
「間違ってないっす。自分、クリムゾン先生が超タイプっす!」
 しかしあえなくクリムゾンに窓から蹴り出され、ファイヤーボムを投下されるのであった。
 加えて美女達とてただものではない。勇んでテントに飛び込もうとする若者達の足元に、土に埋め込んであった細引き縄がからんだ。真白が女性陣の安全のため仕掛けておいた罠だ。
「いて!」
「ぐわっ!」
「あちゃ!」
 闇を裂いて悲鳴が響く。
 が、執念のたまものか、一人の男がすべての罠をかわして、一つのテントにたどり着いた。
「さ、早速キスを‥‥んっ!?」
「いや〜ん」
 テントの中の冒険者が身を起こした。片方の脚の膝をたて、胸をそらした色っぽい姿態である。
 性急に顔を寄せ唇を奪おうとした男は凍りついた。なぜ姫君のあごにヒゲがあるのだろうか。
「だからいやんと言うておろうが」
 ガンドである。
「ひぃい〜っ!」
 男はテントの外に飛び出した。さて女性陣はその時。
「あら、また勝っちゃった。ごめんなさいね」
「くぅ、レテさん強い〜!」
「何? すると私は二連敗かっ!?」
「ねえ、もうひと勝負しましょ?」
「やるやる!」
 エンジェルのテントに集まり、彼女の教えたトランプのゲームに興じていた。トランプは若者達が娯楽用に持参していたものを没収した。夜闇に和やかな笑い声が響く。伴奏のように、罠に捕らえられて動けもせず眠れもしない若者達の悲鳴がこだまする。
「た〜す〜け〜て〜」
 しかし、その悲鳴に答えるのはどこからか遠く聞こえてくる山犬の遠吠えのみ‥‥「ワォ〜〜ン」。自業自得、ではある。

●文明開化?!
 昼間の訓練の成果か、はたまた夜、なんとかして女性達の寝所に忍び込もうと実らぬ努力を続けたせいか、若者達の剣術と体力は4日間の間に急上昇だ。
 剣術訓練も、最終日になると、より実戦的なものになった。
「さあ、打ち込んで! 今よ! ‥‥痛っ‥‥」
「だ、大丈夫っすか?」
「これしきのこと、なんでもないわ。それより今の突き、いい間合いだったわ。今の調子でもう一度いくわよ!」
 模擬戦の相手をしている彌涼が、少しは打ち込まれるようになった。
 エレナの剣先も、時にはかわされるようになった。
「みんな、顔つきがしっかりしてきたみたい。気のせいかな」
 真白が兄を気遣う妹のように、小首をかしげる。
「そうね、ほんの少しだけ騎士らしくなってきたわ。もちろん最強には程遠いけど」
 冷静なレテがそう評価した。
 最後の夜は宴会となった。男どもが買い出しにゆき、酒を少々仕入れてきた。小屋の前で焚き火を囲んで酌み交わすうち、
「どれ、疲れを癒す手伝いでもさせてもらおうかの」
 ゆらりとガンドが立ち上がり、指を鳴らしながらそのリズムのみで軽く踊り始めた。テンポは速くはない。が、器用な指先が感情を持つ生き物のようにうねり広がり、ガンド自身褐色の炎と化したかのようにゆらめきながら踊る。シルキーがガンドの舞いにあわせ、即興で歌い始めた。
「妖しい花は夜にしか咲かない
 月明かりにしか正体を見せないわ」
 ‥‥踊りと歌の時間が終わると、若者達は口々に言った。
「初めて芸術の楽しみに触れたっすよ。今までオレたち、目の前の楽しみばっかり追及してたっす。それじゃケダモノと一緒っすよね」
(「やっとそれに気づいたんかい」)とツッコミたい冒険者の面々であったが、もはやそれは言うまい。
 未来は彼らの努力次第。
 冒険者達は、一つの思いを胸に、彼らの旅立ちを見守った。
『成長しよう、と思うことが大事なんだよね』
 と。