乙女ゴコロのおっさん職人

■ショートシナリオ&プロモート


担当:小田切さほ

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月11日〜12月16日

リプレイ公開日:2004年12月17日

●オープニング

 とある工房の一室で、一人の男が、おのれの作品のできばえに酔いしれていた。
「ああん、ステキ。これをりりしい殿方が身につけてくれたら、どんなにステキかしら‥‥ああ、ドキドキしちゃう」
 男の名は、武具職人のゴルドワ、33歳。非常に女っぽいが、れっきとした男性である。しかも骨ばったいかつい体つきなので、女らしい言動は限りなく不釣合いである。だが、あくまで
「神様が間違えて、あたしの魂を男の体に入れたの。あたしの心は女」
 と公言しているアヤシイ男だ。
「でも、これをただ並べておくだけなんて、芸がなさ過ぎるわ。それに、今度の見本市では、アイツには絶対負けられないし‥‥そうだわ、いいこと思いついちゃった!」
 ゴルドワはうっすらヒゲの生えたほおに両手をあてて、
「うふっ」
 と微笑んだ。

 それからまもなく‥‥
 冒険者ギルドの受付嬢は、てきぱきとゴルドワの依頼をさばいていた。
「ええと、仕事内容は、武具の見本市でゴルドワさんの出品される商品の陳列に協力。‥‥で、どういった形で冒険者たちを働かせるのでしょうか?」
「あのね、ふつう、見本市では、職人は、ただ自分の作った商品を並べて、お客さんを呼び込むだけでしょ? でも、あたしは、ただ商品を並べるだけじゃなくて、冒険者のみなさんに身に付けてもらって、そのそばであたしがその防具について説明をするの。冒険者のみなさんは、その説明のあいだ、かっこいいポーズをとっていただくもよし、武道の型を披露していただくもよし、とにかくあたしの防具がとびきり目立ってカッコよく見えるよう、協力してほしいの」
 ゴルドワは、体をくねらせながら熱意ある口調で言った。
「なるほど‥‥じゃ、男性の冒険者のほうがよろしいのですか?」
「ううん、女のコもできるだけ参加してほしいわね。だって、これからはあたしたち女性の時代だと思うのね。そうじゃなくて?」
 ゴルドワが塩辛声で言うのに、受付嬢は、
「『あたしたち女性』ってどういうことですかーっ!?」
 と叫びだしたくなる気持ちをぐっとこらえて、
「そうですわね」
 と相槌をうった。
 そして、ゴルドワは、細い目をきらりと光らせた。
「とにかくね、あたし、アイツには絶対負けないように、あたしの作った武具が評判になるためならなんでもするつもりよ」
「そのアイツって、一体誰なんだい」
 居合わせた冒険者の一人が口を挟んだ。
「ああん、それなのよ〜。聞いてくれるぅ?」
「き、聞くから耳に息を吹きかけるなーっ!」
 ゴルドワの話によれば、そのライバルとは、防具作りの天才職人と言われるセダ。まだ若くて男前でもあり、騎士たちばかりでなくご婦人たちもセダの工房に出入りしたがるという、人気の職人。
「セダに防具つくりのイロハを教えてあげたのは、あたしなのよ! それなのにアイツったら、あたしから知識や道具だけうばっておいて、あたしが愛を告白したらいきなりトンズラよ!?」
「そ、そりゃ無理もないんじゃないか?」
 と冒険者がつぶやいたが、ゴルドワの耳には届いていなかったようだ。
「だからあたし、アイツに、いいえ、誰にも負けない一流の職人になってみせるわ! それに、今度の見本市でステキな出会いもゲットしてみせるわ! そして、薄情男のセダを見返してやるのよー!」
「と、とにかく、依頼内容は掲示しておきますから、結果待ちということで‥‥あ、あの、ゴルドワさん?」
 受付嬢が必死にその場をさばいたが、見本市に向けて燃えるゴルドワの耳には届いていなかったようだ‥‥

●今回の参加者

 ea0673 ルシフェル・クライム(32歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea3664 ガンド・グランザム(57歳・♂・ジプシー・ドワーフ・ビザンチン帝国)
 ea5459 シータ・セノモト(36歳・♀・バード・人間・イギリス王国)
 ea6151 ジョウ・エル(63歳・♂・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea7509 淋 麗(62歳・♀・クレリック・エルフ・華仙教大国)
 ea7511 マルト・ミシェ(62歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea8408 ボラル・ハグアール(23歳・♂・ジプシー・シフール・イスパニア王国)
 ea9128 ミィナ・コヅツミ(24歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

●乙女の前夜祭
 乙女の心をもつおっさん、ゴルドワは、見本市の手伝いに8人もの冒険者がきてくれたので、かなり舞い上がっていた。冒険者たちが彼の工房を訪れた日、彼は言った。
「これだけ個性的な人が集まってくださったら、もう成功したも同然って気がするわ」
「まかしときなよ、おっさん!」
 調子よく言って軽やかに羽根をひらめかせて彼の前に飛び出したのはシフールのボラル・ハグアール(ea8408)。
「まっ、おっさんなんていうコは罰として抱きしめちゃうから!」
 ゴルドワに抱きしめられてボラルは目を白黒させた。
「骨折れるからっ! 死ぬからっ! いや、だから、放せってばーっ!」
「わしに、麗、マルトと、今回の依頼には同じ年のものが多いのぉ」
 と、面々を見回しているのは落ち着いた風貌に美しいひげをたくわえたジョウ・エル(ea6151)。
「人生経験を生かしてがんばりましょう、ジョウさん」
 ジョウに寄り添うように工房に入ってきたのは淋麗(ea7509)。
「ゴルドワ殿が女性というなら、女性として接しよう」
 それが紳士というもの、と来る道々自分に言い聞かせていたルシフェル・クライム(ea0673)は、
「ああら、あたしの作った甲冑が似合いそうないい男〜」
 と、ゴルドワにウィンクされ、石のように固まっていた。
 そんな初対面のごたごたの最中、マルト・ミシェ(ea7511)が悠々とゴルドワの前に進み出た。
「さて、ゴルドワさんや。ともあれ打ち合わせがてら一献やろうじゃないか。見本市の成功を祈ってね。特に私たち女同士、おしゃべりの花が咲くってものさ」
「まっ、『女同士』? ‥‥今まで生きてきて、一番嬉しい言葉だわ」
 ゴルドワは言って、工房の一角に用意していた小さなテーブルに冒険者たちを案内した。皿や酒もほどよく用意されていて、しかもお花が挿してある。乙女心っぽい気遣いではあるが、これをしたのがおっさんというギャップには怖いものがある。
「あの、私、バードの端くれですから、見本市の出品説明によさそうなキャッチフレーズなんか考えさせてもらえませんか?」
 と、シータ・セノモト(ea5459)が発言した。そしてシータがあげたキャッチフレーズは‥‥
「ナウでヤングな今年のモード」
 ひゅうぅ‥‥工房の中にちょっぴり寒い風が吹き抜けた。ゴルドワがとりなした。
「シ、シータちゃん、後でゆっくり考えて頂戴。それより皆さん、見本市でどの防具を身につけて何をしていただくか、打ち合わせましょ」
 ガンド・グランザム(ea3664)は、
「わしは身のこなしは軽いほうじゃ。派手な立ち回りでもしてみせようかの」
「私は流派の型を披露しようかと」
 とルシフェル。
「あぁら、女性客が盛り上がりそう〜。ルシフェルさん美形だし、ガンドさんの筋肉もステキだもの〜」
「それはいいが‥‥体を撫で回すのはやめてくれんかの」
 ミィナ・コヅツミ(ea9128)は、黙々と酒や料理の給仕を手伝っていたが、ぽつりと、
「ハーフエルフの私もお客の前に出てかまいませんか? めったなことがない限り、狂化はしませんけれど‥‥」
「あら、あたしは種族なんて気にしないわ。心がすべてよ。だから、あたしも体は男でも女らしく生きるの。さあさ、『女同士』飲みましょ!」
 ゴルドワが言い切り、ミィナは初めて微笑を浮かべた。
 ゴルドワが『女同士』と言うと微妙なものがあるが、心がすべてと言い切る精神はある意味見事かもしれない。

●乙女の見本市
 当日‥‥キャメロット市街地の広場に、武具職人たちが自慢の商品をひろげ、客を呼び込むなどにぎやかだ。
「さあ、シータちゃん、がんばって頂戴。バードの腕の見せ所よ」
 ゴルドワにせっつかれて、シータが恥ずかしそうにゴルドワが商品を広げているスペースの前に出て、澄んだ声を張り上げた。
「さあさ、強くてお肌にやさしいゴルドワさんの防具。しかも今日は生きた見本が着てみせますよ〜」
 最初は、
「私は裏方でいいですっ。そんなにスタイル良くないし」
 と言い張っていた彼女だが、ゴルドワ特製リボンつき肩当てとブーツを着せられ、結構嬉しそうだ。見本市に集まっていた職人や、客たちが振り返る。ここぞとばかりに、マルトが、
「繊細にして優美な防具だよ。ほら、私みたいな老婦人でも動きやすいよ」
 ウサギの毛皮を襟飾りにあしらった鎧姿で、サイコキネシスでふわふわと肩当てなどを浮かべてお手玉のように回してみせると、他の職人たちまでが「おおっ!」と声をあげて見入った。
「マルトさんったらノリノリね。昨日は『こんなお婆が花の舞台に立っていいのかね』なんて言ってたくせに」
 ゴルドワはほくほく顔だ。
「次はわしの出番かの」
 ガンドが軽く立ち回り風に動いて見せると、その筋肉と動きに目を惹かれてか、女性客がわらわらと集まってきた。
「花なんかくわえて色っぽいわね。あら、その花を女性のお客に差し出してるわ。あらま、お客さん失神しかけてる」
 ゴルドワが防具の説明も忘れてガンドの動きを見守っている。だが、前夜のうちにゴルドワの商品説明を原稿に起こしていたシータがしっかり説明をつとめた。
「鷹をイメージした兜でございまーす。目に当たるところに光る天然石をはめて威厳と知性を表現しておりますぅ」
「次は私だな」
 ルシフェルが愛剣を抜いてすらりと立ち、踏み込み、突き、避けなど、一連の動作を披露する。女性ばかりでなく男性たちからもため息がもれた。
「キャー! 目が合ったわ〜!」「神聖騎士さまぁ〜」
 女性客が盛り上がりすぎて、男性客から「商品がよく見えん」と苦情が出始めた。
「はい、押さないで、押さないで。シフール向けに仕立てた防具の見本はこっちだよ」
 ボラルがひらひら飛びながら、小さな体につけた防具を後ろの方にいる客たちに見せに行った。
「どうじゃ、この胴衣の動きやすいこと。皮と鎖を組み合わせ、軽くて丈夫この上なし」
 ジョウが身につけた防具を現代語万能で説明する。立派な学者風の風貌のジョウだけに説得力があるのか、迷っていた客がすぐに「それください」と財布を取り出した。ゴルドワの商売はなかなか好調だ。だがそのとき、客にお釣りを差し出そうとあげたゴルドワの顔がひきつった。
「セ、セダ‥‥! いまさら何しに来たのよ!」

●乙女の戦い
 それは、かつてゴルドワの弟子であり、ゴルドワに愛を迫られて逃げ出したセダだった。一瞬つかみかかろうとしたゴルドワに、優しく声をかけたのは麗だ。それがあなたの恋の仕方ですか? と。
「愛するということは押し付けるものではありません。その人への思いと優しさこそ大切なのです」
 自らの、ジョウへの秘めた愛に裏打ちされた言葉がゴルドワの胸に届いたようだ。ゴルドワはこぶしを引っ込めた。
「彼が逃げたのは、道を極めようとすればこそ。ゴルドワ殿が目標であり、ライバルでもあるからだろう。今は許してやりたまえ」
 ルシフェルも囁く。が、セダの後ろにいる男が声を張り上げた。
「なんだなんだ、みんな、こんな女の腐ったようなおっさんの作った防具がいいのかぁ?」
 ゲラゲラと周囲の人々が笑った。セダもだ。他の職人たちがゴルドワの商品の売れ行きを見て邪魔しに来たらしい。ゴルドワの商品に群がっていた客たちがざわつき始める。恥ずかしく思ったのか、去っていく客もいた。
「何ですってえ!?」
 殴りかかろうとする彼の前に、静かにミィナが立ちふさがった。
「ほうっておおきなさい。職人は口ではなく作品で語るもの。口でゴルドワさんをおとしめようとする彼らは職人の風上にもおけません。まして見本市でそんな人たちと喧嘩をすればそれこそ最低の暴挙です」
「そうだよ、品がよけりゃ誰が作ったって関係ないよな」
 客たちが口々に言った。セダたちが痛いところを突かれたという様子で、こそこそと立ち去ってゆく。
「ありがとう、みんな」
 ゴルドワがしんみりと冒険者たちに礼を言った。マルトはそんなゴルドワをほめた。
「偉かったね。職人にとって苦労して作った防具は子供も同然。あそこでつかみかかっていたら、その子供の未来を台無しにしてしまうところだった。でもあんたはホンモノの職人さ」
「それに、アンタの男見る目を養ういい経験になっただろ? あんなココロ狭い男なんて、腕をどんどん磨いて見返せばいいじゃん」
 ボラルも励ました。ゴルドワは目に涙を光らせながら微笑んだ。
「そうよね‥‥あたしには愛する人はいなくても愛する仕事があるんだわ。あたし、セダを恨まないわ。だって、皆さんのお蔭で、どうやら今日の売上はセダよりずっといいみたいよ」

●乙女の抱擁
 見本市の忙しい一日は終わった。かなりの売上金を手にしたゴルドワは、冒険者たちに心から礼を言った。
「ほんとにあたし、なんてお礼を言っていいか。お蔭で、大成功よ」
「いや、おぬしの職人としての腕が一番の功績者じゃ。わしも後で、娘に合いそうな防具を選ばせてもらおうかの」
 ジョウが言うと、ゴルドワは感激した。
「うれしいわ。あたしの作品を認めてくださったのね。皆さんが来てくれてほんとによかった。できたらみんなに、あたしの専属モデルになってもらいたいくらいよ。でも、それは無理よね。だから、せめて‥‥あなたたちみんなを、一人ずつ、ぎゅーーっと抱きしめさせて頂戴!」
「ひょえー!!!」
 逃げる冒険者たち。騒ぎのかたわら、麗がジョウを見つめて微笑んだ。
「ジョウさん、愛することって、難しいですね」
「うん? 何か言ったかの? ところで麗、武具など無縁なわしらが武具を売るのもおかしな話じゃったのぉ」
 とジョウには、そちらのほうが気になるようだった。
「いいじゃないですか。恋する者のプライドを守ってあげることができたのだから‥‥」
 麗のその言葉が、ジョウへの深い愛から発したものとは、まだジョウには伝わらないようだった。