騎士よ起て! 〜乙女心再び〜
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:小田切さほ
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月09日〜01月14日
リプレイ公開日:2005年01月16日
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●オープニング
冬のある夜、凍てつく空気にもめげず、一人忙しく働く男がいた。
その名はゴルドワ。職業・防具職人。いかついおっさんながら、なぜか非常に女っぽく、乙女心を持つおっさんとして知られている。
「さて、そろそろ寝ようかしら。今日もこんなに繁盛したのも、冒険者さんたちのお蔭ね、チュッ」
作業の手を止めた彼は、冒険者ギルドの方角に投げキスを送った。
(同時刻ころ、数名の冒険者が原因不明のめまいと吐き気に襲われたという)
このゴルドワ、なかなか腕のいい防具職人としても知られているが、彼が職人として一躍名をあげたのは、冒険者ギルドのおかげなのである。その彼の工房を、一人の客が訪れた。
「あらまあ、シャロウ男爵様!」
ノックの音に、扉を開けたゴルドワが驚きの声をあげた。ゴルドワの上得意の一人、シャロウ男爵が一人の従者だけ連れて、彼の工房にお忍びらしい姿で現れたのだ。シャロウ男爵は馬を下り、工房に入った。
「おお、ゴルドワ、遅くにすまぬ。急だが、頼みたいことがあってな」
「なんなりとおっしゃってくださいまし」
シャロウ男爵は、凍えた唇で語り始めた。
「10日ほど前、息子が落馬事故にあってな‥‥」
「まあ‥‥ナイジェル様が!?」
ゴルドワは息をのんだ。シャロウ男爵の長男ナイジェルは、剣の腕前も確かなら人柄も気さくで、ゴルドワにもよく気軽に声をかけてくれていた。
ゴルドワに派手な飾りつきの甲冑を仕立てさせ、それをまとって騎士仲間の試合で活躍するのが何より好きな少年騎士だった。
「いや、命に別状はないのだが、脚がときおり痛むのと、心が‥‥騎士としての勇気が萎えてしまったのだ」
若い騎士同士の馬上試合で、ふとした気のゆるみから落馬したナイジェルは、自信を失った。乗馬も剣術も、楽しみではなく、恐ろしいものと映るようになってしまった。ただ、椅子に座ってぼんやり窓の外の景色を眺めて時間を過ごしているそうな。
「まだ18歳だというに‥‥親としてみてはおれぬ。だが、洒落者のやつのこと、甲冑にはまだいささか心を惹かれるようでな」
シャロウ男爵は、ゴルドワが以前に、見本市で、冒険者ギルドの力を借りて、冒険者たちに防具を着けさせ、生きた見本つき展示として注目を集めたことを知っていた。それと同じことを、シャロウ男爵の領地内でしてもらえないかというのだ。
生きた見本が、ゴルドワ好みの派手な防具をまとって、美しい身振りや流派の型を魅せてくれれば、ナイジェルの騎士としての心、生きる喜びもよみがえるのではないかという狙いだった。
「そう思いつくと、居ても立ってもおられず、夜分におぬしを訪ねたというわけだ」
「あたし、がんばらせていただきます。ナイジェル様のためにも‥‥今からさっそく、冒険者ギルドに行って、人を集めて参りますわ」
「おお、ゴルドワ、頼んだぞ。そうじゃ、報酬は私から出すゆえおぬしは準備に専念してくれい」
「はいっ」
ゴルドワは、一路冒険者ギルドへ向かった。そして胸のうちで、
「また冒険者さんたちに会えるのね、うふっ」
乙女心のトキメキに、うっすらひげの生えた頬を染めていた。
●リプレイ本文
シャロウ男爵依頼の甲冑見本市は、予想を越える盛況となった。シャロウ男爵の館の広い中庭に、シャロウ男爵の親戚や友人、噂を聞きつけて来た貴族や商人などが鈴なり状態である。ゴルドワは落ち着かない様子で、
「ああん、緊張するわね、ダーリン」
と、ガフガート・スペラニアス(ea1254)の腕にすがりつこうとする。
「その呼び方、やめてくれんかの。気合が萎えるわい」
「だって、昨夜のあなたの鍛冶の腕を見てたらクラッときちゃったんですもの」
鍛冶には超越レベルの腕前を持つガフガートがゴルドワの防具作りを手伝い‥‥というか、ほとんどゴルドワに鍛冶を指南するくらいだったが‥‥すっかりゴルドワがその頼もしさにほれ込んだのらしい。
「そろそろはじめるぞ。用意はできておるのか」
中庭の中央にいるシャロウ男爵がゴルドワに声をかけてきた。男爵に無理やり引っ張ってこられたらしいナイジェルは、父親の横で、むっつりとした表情のまま椅子に腰掛けている。
「はいっ‥‥って、あら? 一番手のレーヴェちゃんがいないわっ!」
ゴルドワは慌てて、レーヴェ・フェァリーレン(ea3519)の姿を探した。と、ブルル‥‥と馬の鼻息が響いた。観衆がどよめく。レーヴェが観衆たちの間を縫うように馬を駆り、椅子に腰掛けているナイジェルのまん前で止まった。
「うわああ!」
ナイジェルがおびえた表情を浮かべ逃げ腰になる。その瞬間、騎乗のままレーヴェが兜を脱いだ。
「失礼。聞かぬ気の馬でな」
ゴルドワが「氷の悪魔」をイメージしたという金属の牙を植え付けたベルトをらせん状に巻きつけた黒皮のアーマーに、ねじれた二本角をつけた兜姿。
「ふ、ふざけるなっ」
ナイジェルの顔が紅潮する。
「馬に罪はあるまい」
言い捨てて、レーヴェは馬から飛び降りると、演武を見せるべく中庭の中央へと向かった。数体の木偶人形が用意されてある。
優男に見えるレーヴェながら、持ち前のカールス流で、力技の連続である。人形を砕かんばかりの勢いで刀を振るい、その剣技と冷たい美貌に気おされたように観衆が静まり返って見守った。涼しい顔でレーヴェはゴルドワのいる席へと戻ってきた。
「レーヴェちゃんたら、荒療治のつもり? ‥‥ナイジェル様、ごめんなすわーい!」
ゴルドワがナイジェルに抱きつこうとする。はっし! と剣の鞘をその頭に投げつけて、マナウス・ドラッケン(ea0021)がそれを止めた。
「ひどい、ひどいわ〜」
「あ、あはは‥‥次、俺の出番なんで」
笑ってごまかして演武の場所へ行くマナウスであった。彼にゴルドワが着せたのは、瞳の色にあわせ、青い布製アーマーに、急所のみ金属板で覆った軽やかなもの。長い銀髪を、眉間の急所に金属板のついた青いバンドで押さえている。今にも風に溶け込みそうな位涼やかな姿だ。
はッ! と鋭い呼気とともに、マナウスが遠く離れた人形に向かって、ナイフの2連続投げを放つ。4本のナイフがすべて心臓部を円く囲うように命中する。観衆がほぉっ、とため息交じりの歓声をあげた。次にマナウスは素早く的に駆け寄ると、手にしたナイフ一撃で、全てのナイフの柄を切り落としてみせた。
ナイフのひらめきに恐怖がよみがえったのか、ナイジェルは目をそらした。
と、その彼の肩に、華奢な手が置かれた。セレスティ・ネーベルレーテ(ea8880)だ。
「恐怖は悪いことじゃありません。恐怖があるから人は強くなろうとするし、危険を避ける術を学ぶことができるのですから」
独り言のように言うと、すっと演武場に進み出た。
「セレスちゃん大丈夫かしら‥‥あのコ、気の小さいとこがあるから」
ゴルドワが心配そうに身をもむ。華奢なセレスティに合わせて、蝶をイメージした縫い取りつきのレザーアーマーに、色とりどりの鳥の羽を縫いこんだ皮製マントはともかく触覚型の飾りつき兜が重そうだ。セレスティは緊張気味に進み出ると、ごく基本的な剣の型で、木偶人形を切り倒す。途中、息が切れて呼吸を整える間があいたが、その瞬間、「頑張れ!」とナイジェルが呟いたのを、冒険者たちは耳にした。懸命な少女剣士の姿にうたれて、ナイジェルの気力が少しよみがえったのだろうか。
次に演武場に現れたのはリスフィア・マーセナル(ea3747)。客たちが(主に男だが)どよめく。彼女の姿は、右肩から吊り下げる形の胴丸アーマー。素材が皮なのでぴったりと肌について胸の形がくっきりわかり、少々セクシーすぎる。が、踊り子として度胸が鍛えられているのか彼女は舞うように軽くステップを踏みつつコナン流の剣をふるい、木偶人形の上体部を粉砕する。
「あら、失礼しました。お怪我はありません?」
木片が飛び散ったのを、客にわびて礼をしたとき、たおやかなしぐさとともに胸の谷間がのぞき、観衆が生唾を飲んだ。
次の出番を待っていた伊達和正(ea2388)が、うっとり呟く。
「リスフィアさん、鎧姿も色っぽい‥‥素敵だ」
「伊達ちゃん、鼻血、鼻血出てるっ!」
ゴルドワたちが慌てて応急処置で鼻血を止めてやり、伊達の出番である。
「ギルフォード戦隊ギルドレンジャー、ギルレッド推参!」
気合を入れるために彼が呟いたのは何の呪文であろうか。まだ東洋人が珍しい観衆たちは、興味津々だ。示現流の素早い太刀使いと、あどけなさの残る顔、小柄な体にまとった、赤い染料を塗った胴丸アーマーに金色のクワガタの様な角を生やした兜にも目を惹かれたようだ。
「OH! ジャパンの侍ボーイ」
貴族の娘たちが伊達を取り囲んで質問攻めにするやら体を触るやらで、ちょっとした騒ぎになった。
「そ、そんなに触らないでくださいっ。また鼻血が出るっ」
伊達は悲鳴をあげている。
トール・ウッド(ea1919)の出番である。自ら望んだずっしりと重量感のあるフルプレートアーマー姿。右肩には獣の牙を植え付けた太いメタルバンドが巻きつけられ、左腕には十字を描いた盾を手にしている。
「自力で立ったらどうだ」
彼は低い声で、父親に支えられて立っているナイジェルに言った。見物客が皆総立ちになってしまい、座っていたナイジェルも立たざるを得なくなったのだが、脚が痛いと訴えて父親に支えてもらっている。
「息子は、脚が‥‥」
シャロウ男爵が言いかけた。
トールは無視し、演武場へ向かった。マナウスの投げるナイフを盾で防御しつつ、木偶人形を右腕のメタルバンドで砕き、同時にもう一体をハンドアックスで一刀両断した。歓声と拍手を浴びつつ席に戻ったトールは、ナイジェルの様子をちらりと見た。頬が紅潮し、手を握り締めている。楽しんでいるようだ、と思う。そんなナイジェルを見るシャロウ男爵の表情も明るい。
(「肉親の情愛、か。フン」)
トールはそんな親子の様子が気になる自分を心の内で笑った。
次はジョセフィーヌ・マッケンジー(ea1753)。
素早い鳥をイメージしたという金属の翼のついた兜、軽やかなレザーアーマーだが、光る石をはめ込んだ金属の翼が背中についている。
彼女は得意のロングボウで、木偶人形の心臓部を離れた場所から次々に射抜いた。観衆がどよめき、活発な彼女は右手をあげて応えた。
「まだまだ、お楽しみはこれから! ゴルちゃん、この林檎を頭にのっけて、向こうへ立ってくれる?」
「え? こ、怖いわ〜っ」
打ち合わせにない行動をとらされるゴルドワはびくつきながらも従った。
「ゴルちゃんの甲冑なら、普段より力が出せるはずでしょ? 平気平気」
ひゅっ! 転瞬、ジョセフィーヌの言葉通り、ゴルドワの頭の林檎の、まん真ん中に矢が突き刺さっていた。ゴルドワが駆け寄る。
「ジョーちゃん、すごいわ〜! 好きっ!」
「私もゴルちゃん好きっ!」
二人は手を取り合ってしばらく跳ね回った。
最後の出番は、ガフガートだ。
「ダーリーン、がんばって〜〜」
「その呼び方はやめてくれというに」
ガフガートは全身を覆うフルプレートメイル姿だ。一直線な彼にふさわしく、余計な装飾はない。ただ、兜はフェイスガードが一体化したデザインで、全体が吼える獅子の顔面になっている。これだけはゴルドワがどうしても彼に着せたがったのを仕方なく受け入れたものだ。
「とあーーーっ!」
木偶人形をつかんで空中に放り投げると、右手の刀・左手の小柄を同時に一閃させた。ばらばらとその足元に、十字に切り裂かれた人形の木片が落ちる。
「うむ、流石にフルプレートは重いのう。後でもう一工夫、研究してみるかの」
呟きつつ、ゆったりとした足取りでゴルドワたちのいる控え席へ戻ってきた。
「ダーリン、ステキっ。お嫁さんにしてくれなくてもいいの、ただ傍にいさせて〜ん」
ゴルドワがうっすらひげの生えた頬に両手を当てて叫ぶ。
「ううっ、助けてくれぃ〜」
わいわいやっているところへ、シャロウ男爵の声が響き渡った。
「以上でゴルドワの甲冑披露目は終わり。みなの衆、ご苦労だった。そして見物にこられた皆様も、楽しんでくださったことを心より願いまする」
まだ興奮冷め遣らぬ観客たちは口々に感想を話し合いながら冒険者たちを見つめている。ナイジェルはその中に加わるでもなく、うつむいて何事か考え込んでいるようだ。ゴルドワが男爵に一礼して、冒険者たちとともに去ろうとした。すると、ナイジェルが叩きつけるような語勢で叫んだ。
「待て、ゴルドワ!」
あたりは水を打ったように静まり返った。ゴルドワもこわばった表情で振り返る。
「‥‥私の注文を聞いてはくれないのか?」
端正な顔を笑み崩して、ナイジェルが言う。ゴルドワは、泣き笑いの顔でナイジェルに駆け寄り、手をとった。
「今日見てものはどれも気に入った。私に合うのを見繕ってくれ」
「か、かしこまりました、ナイジェル様!」
ゴルドワは涙をふいて、冒険者たちとナイジェルに笑いかけた。