集え! へっぽこ聖歌隊

■ショートシナリオ&プロモート


担当:小田切さほ

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月23日〜01月28日

リプレイ公開日:2005年02月01日

●オープニング

 その奇妙な二人連れは、とびきり寒い日にやってきた。僧服に身を包んだ二人連れである。一人は、流れるような黒髪に、質素な僧服を着せておくのが惜しいような秀麗な面差しの若い修道僧と、まだ少年っぽい丸い頬をした修道僧。
 黒髪の方が、受付嬢に丁寧に挨拶をした。
「はじめまして。ブラザー・ネイトと申します」
「あっ、これはどうもご丁寧に」
 受付嬢もあわてて椅子から立ち上がり、お辞儀を返した。
「あなたに神のご加護がありますように。それでは‥‥」
「って帰ってどうするんです。ブラザー・ネイト!」
 少年僧が叱るように声を張り上げた。
「あ。そうだった。依頼に来たのでしたね」
 ブラザー・ネイトは春のひだまりのような穏やかな微笑を浮かべて頭をかいた。
「私はネイト、こちらはブラザー・ロメイ。彼はまだこの若さなのに、私よりしっかり者で何かと助かっております。 先日なども私が古文書の解読に熱中するあまり夜の祈りを忘れておりましたら‥‥」
 ロメイがしきりに咳払いをする。話が横道にそれたのをネイトに気づかせたかったようだが、
「おや。どうしました、ブラザー・ロメイ? 風邪でもひきましたか?」
「違いますっ!」
 ネイトの超マイペースぶりにがまんの緒が切れたブラザー・ロメイは、自分で話しはじめた。
 二人は、キャメロットから二日ほどの距離にある修道院に所属する僧。その修道院、由緒はあるが規模は小さいし少々不便なところにある。その上、最近、近辺には貴族の寄付により大きな修道院がいくつもでき、そちらに信者たちが殺到し、修道院はさびれるばかり。さらに痛いことには、去年修道院長に指名されたばかりのブラザー・ネイトは人柄と学識こそ一流だが、世間知らずでお金のやりくりや信者あつめには赤ちゃんなみに無能。
「うちだけですよ、屋根に穴があきっぱなしで、祭壇に雪がつもる修道院なんて。しかもブラザー・ネイトはうれしそうにその雪で雪ダルマ作ってるし」
 とロメイは嘆いた。
 そこで、修道僧たちは額を寄せ集めて考えた。なんとかこの修道院に人を集め、寄付金を集める方法を。そして、出たアイディアが「聖歌隊」だったのである。
「わが修道院には、昔から伝わる賛美歌を記した文書などが多く保存されています。それを歌って信者のみなさんに聞かせてあげれば、きっと皆さん、喜んで礼拝に通ってくださるようになるでしょう。ただ、われわれは音楽的には未熟ですから歌に自信のある方、それに指揮のおできになる方の力をお借りしたいと」
「あら、ブラザー・ネイトは指揮はなさらないんですか? 指揮だけは院長がなさったほうがよろしいのでは?」
 受付嬢がたずねると、ロメイの表情が「ガガーン!」と音がしそうなくらい暗く落ち込んだ。
「それが‥‥実はブラザー・ネイトは音痴なのです!」
 その音痴ぶりたるや、聞いた人間が立ちくらみを起こしてしまうほどだという。ネイトは切れ長な青い瞳を受付嬢に向けて不満そうに言った。
「自分ではそんなにひどくないと思うんですよね。よければ今歌ってみますから貴女、判定していただけませんか?」
「い、いーです! 私、この後も仕事しなくちゃなりませんから」
 ともあれ、修道院では、他に音楽の指導方法のわかる人間もおらず、方針は決まったものの、行動が起こせないままに修道僧たちは困り果てているという。
「こちらには、音楽に精通した人もいると聞いております。いえ、歌はもちろん上手いにこしたことはありませんが、この際大事なのは人が集まるかどうかです。聞かせようにも、人が集まらねば話になりませんからね。歌以外にも人を集める魅力とか、特技をお持ちの方もいてくださったほうがよろしいかと。あ、たいしたお礼はできませんが、こちらに保存してある薬草などがお役に立つようなら差し上げることができます」
 と、しっかり者のロメイはさすがに気が回る。しかし、ブラザー・ネイトはどうしても納得できないらしい。
「人集めはともかく、やっぱり私が代表者ですし、主旋律を歌うのが筋だと思うのですが、どうして皆、嫌がるのでしょう‥‥ためしに歌ってみますか? ラララ〜〜〜」
「はうあっ!?」
 受付嬢、ロメイ、その他ギルドにいた数名が強烈なめまいを起こした‥‥

●今回の参加者

 ea1716 トリア・サテッレウス(28歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea2593 リン・ティニア(27歳・♂・バード・人間・イスパニア王国)
 ea3071 ユーリユーラス・リグリット(22歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 ea5619 ミケーラ・クイン(30歳・♀・ファイター・ドワーフ・フランク王国)
 ea5898 アルテス・リアレイ(17歳・♂・神聖騎士・エルフ・イギリス王国)
 ea6089 ミルフィー・アクエリ(28歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea7487 ガイン・ハイリロード(30歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea8765 リュイス・クラウディオス(25歳・♂・バード・ハーフエルフ・ロシア王国)

●リプレイ本文

●最初の奇蹟?
 依頼主の待つ教会を訪れた冒険者達は、あまりのボロさにわが目を疑った。
「おお、聞きしにまさる荒れっぷり。修理のしがいがありそうだな」
 小柄なミケーラ・クイン(ea5619)は言った。
「おほめいただいて恐縮です」
 出迎えたブラザー・ネイトは早速天然なセリフを吐く。ミケーラは迷わず、『変な奴』のレッテルをネイトに貼った。一方、そんなネイトと意気投合したのはアルテス・リアレイ(ea5898)である。女性に見まがうばかりの優しい姿をしたアルテスは、おっとり言った。
「うわあ、寒いですね。こう寒くてはお話もしにくいから、お茶でも入れてまずはあったまりましょう?」
「そうですね。ときに、貴方は薄い方がお好きですか、それとも濃いほうが?(ほっこり)」
「うーん、こういう冬の日には濃い方がおいしいですね(にっこり)」
 ほわわんとした空気が教会内に漂う。春の陽だまりキャラが二人そろってしまった。このままでは緊張感がなくなると見たのか、リュイス・クラウディオス(ea8765)が口を挟んだ。
「おい、茶も悪かないけどよ、時間もないことだし、練習に入る前に曲目選びだけでも済ませとこうぜ。讃美歌集はこの書棚か?」
「か、勝手に蔵書を触るな!」
 教会内で一番若くてしっかり者のブラザー・ロメイがハーフエルフに気を許すなとばかり警戒心たっぷりにリュイスをさえぎろうとしたが、リュイスは長い腕をひょいと伸ばして本をとり、ぱらぱらめくりながら、
「ほう、なかなかバラエティーに富んでるようだな。こんな感じでどうだ? 一曲めから二曲めは元気のいいこれとこれ、合間にこの修道院の由緒なんかを語る。その後に荘厳な感じのこれ。締めはまた元気よくこっちの曲で。ナンパと一緒で歌なんてのはな、意表をつくほうが盛り上がるもんだ」
「はあ、勉強になります」
 いつのまにかリュイスのペースに巻き込まれているロメイであった。しかし、ロメイとネイト以外の修道僧たちは、大半が老僧ということもあって、半ばあきらめムードのようだ。
「手伝いに来てもらってなんじゃが、今更聖歌隊なんか作ってものう‥‥」
 この貧乏教会の苦境が救えるものか、といいたげなその老僧の中の一人の手を、ミルフィー・アクエリ(ea6089)がぎゅっ! と握り締めた。
「あきらめちゃダメですぅ! 私も他のみんなも、体中の元気をぜーんぶ使い切るまで応援しますからっ!」
「む、うむ‥‥」
 老僧達はこそこそと囁きあった。
『いいもんですな、若い娘の瞳がウルウルしているのを見るのは』『あれには勝てませんな』『我々も少しはがんばるとしますか』
 まるで古ぼけた教会に明るい日差しが差し込んだように、少しだけ活気付き始めた。ネイトがうれしそうに言った。
「それじゃ最初はやはり、発声練習からですか? ア〜ア〜ア〜ア〜♪なんてね」
「ぐわっ!?」
 ネイトの音痴な声が響き渡り、僧たちも含め、全員が思わず悲鳴をあげた。
「や‥‥やっぱり、練習より何より、ネイトさんの音痴を治すのが最優先みたい。僕‥‥力を貸してあげるよ。みんなとは別の部屋で、特訓しようね」
 リン・ティニア(ea2593)のけなげな発言に、心を打たれない者はいなかった。
「おおっ。あの子勇気あるぞ。院長に個人練習をさせるとは」
 特に老僧達は、絶望していたネイトの音痴に治る可能性ありと聞いて、奮い立った。
 ミルフィーが心配してついていこうとしたが、リンはあくまで、一人でネイトの音痴と対決する決意だった。しばらく二人は別室にこもり、残る僧達の音楽指導が早速始まった。
 ところが僧たちには礼拝の一環として歌った経験はあるものの、人を楽しませるというような感覚に欠けている。歌い方が一本調子で、表情などの表現力に欠けるのである。
「う〜もっとこう、伸び伸びと歌えないのかな〜」
 ユーリユーラス・リグリット(ea3071)は歌う僧達の間を飛び回って指導していたが、疲れたようにそうため息をついた。
「だって、上手にならなくてはと思うと、あせるばかりで‥‥」
 ロメイが口をとがらす。アルテスがそんなロメイに微笑みかけた。
「いくら技術的に一流でも、気持ちがこもっていなくては歌で人の心を打つことはできません。気持ちを込めて歌うことを考えましょう。気持ちを相手に伝えるように歌えば、誰だって人を感動させることはできるはずです」
 目からうろこが落ちたという表情で、僧達はうなずいた。
「そう‥‥それに、この近くの教会にも大きな聖歌隊があるから、そっちに負けないような、この教会だけの特別な何かがあるといいんだけどな〜。何がいいかな、リュイスさん。ってコラ、寝るなー!」
 祭壇に頬杖をついて居眠りを決め込んでいたリュイスを、ユーリユーラスが髪の毛をひっぱって起こした。
「んっ? ‥‥あ、ああ、こんなとこで寝ては風邪を引くな」
「そういう問題じゃなくって〜」
「そうだ、他所の聖歌隊には楽器の上手な人が少ないですぅ! 皆さん、楽器演奏つき聖歌隊を目指しましょー!」
 ミルフィーが元気よく提案した。幸い教会には古いが傷んでいない竪琴が4つばかりあった。僧達はしり込みしたが、ミルフィーの瞳ウルウル説得とユーリユーラスの有無を言わさぬ指導(体罰もアリ)で、ロメイを始め4人の僧たちが竪琴四重奏をすることとなった。
 その日の夜遅く‥ようやく個人レッスンを終えたネイトがリンと一緒に別室から出てきた。
「私は音楽の何たるかに目覚めました!」
 興奮気味ながら元気なネイトと対照的に、リンは体力気力ともに限界だったようだ。
「み、みんな‥‥ネイトさんの音痴はもう心配ない‥‥よ‥‥ひるるる(魂の抜ける音)」
 リンが失神して倒れたので、しばらく彼の介抱に走り回るにわか聖歌隊であった。

●天使な天然
 さて、当日。前の晩も夜遅くまで練習したせいで、眠い目をこすりながら僧達は起きだした。そして、一斉に驚きの声をあげた。教会は内外の傷んでいた箇所がきれいに修繕され、色とりどりのリボンなどで飾られていた。ミケーラの心づかいだった。
 僧達は口々にミケーラに礼を述べた。ミケーラは豪快な笑いで応えた。
「はっはっは、歌では協力できんからな。その代わりにしたまでだ」
 その一方で、
「これで、客寄せがしやすくなりました」
 とはりきるのはトリア・サテッレウス(ea1716)。首から胸と背中に「本日聖歌隊公演あり さながら天使の歌声! 聞けばもれなく天国に!」と書かれた看板を下げ、顔の真ん中には大きく十字架を描き、駄目押しに頭には天使の羽根をかたどった布製の飾りをひらひらなびかせるという、かなりひょうきんな格好である。その格好で、近くの村まで、宣伝に行くという。
「ほんっと〜に、その格好で行くのか?」
 恥ずかしくないのかとミケーラが念を押したのだが、「行きます」と笑顔で答えるトリアだった。
「寄ってらっしゃい見てらっしゃい! ブラザー達が真心こめて歌います、天使の歌!」
 しばらくするとトリアの宣伝活動よろしきを得てか、あるいは教会の庭で焚き火をたき、酒をふるまうミケーラのもてなしっぷりに惹かれてか、続々と人々が教会に流れ込んできた。ネイトとアルテスのコンビ司会で、聖歌隊のお披露目は始まった。まずはネイトが、
「え〜本日は、私たち聖歌隊の歌を聴きに来てくださり、ありがとうございます(のんびり)」
「庭では少々ですが、お酒も振舞っております。教会だからといって身構えることなく、ゆるりとお過ごしくださいね(まったり)」
 二人分の春の陽だまりオーラが緊張感を溶かしてゆく。
 早速ロメイ達竪琴組が前へ出て、前奏を奏でる。高らかに聖歌隊は歌った。
「聞けや歌声 空へと響く 我等の歌声は この全てへ 響き渡る 諸人立ちて 共に祈り 神は我等と いつも共にあり 栄えあれよと 人々は歌う」
 高い声での独唱部分は、ミルフィーが受け持った。
「悲しみも涙も 喜びに変え 禍も恵みにと祈らん」
 歌姫騎士の異名を取るだけあって、高く澄んだ歌声に観客たちは曲が終わってもしばし拍手を忘れて余韻を味わっていた。だがその背後では、
『ミルちゃんに男の視線が集まってしまうぞい!』『ミルちゃんはワシらだけのアイドルじゃい!』『ミルちゃんに地上の男は誰も近づけまいぞ!』『おお!』
 老僧たちが目と目を見交わし、本人の預かり知らぬところで迷惑な決意を固めていた。高らかに歌い上げる曲で、観客たちの気分が高揚したところで、しんみりとネイトが教会の由来を語った。ただ語るだけではなく、アルテスの横笛伴奏付だ。
 荘厳な曲でぐっと引き締め、最後はまた高らかな曲で盛り上げる。そのときには観客たちまで総立ちになって、拍手だけではなく一緒に歌う客もいて、一層にぎやかだった。
 そして聖歌隊お披露目の一日が終わってみれば予想をはるかに上回る献金が集まっており、さすがにおっとりしたネイトも感激していた。
「あなたが最初に奇蹟を起こしてくれたんですね、リン君。私を変えてくれたのだから」
 ネイトはリンに微笑みかけた。リンは少女のようにまろやかな頬をほんのり染めて答えた。
「奇蹟だなんて‥‥優しい心を持った人なら誰でも、その優しさを歌にのせて人々に届けることができる。それだけのことなの。ネイトさんの気持ちが皆に届いただけだよ」
「ご謙遜を。今日の貴方たちは、私達にとってまさに天使ですよ」
「ううん。天使なんかじゃない」
 ひらひらと飛ぶユーリユーラスが首を横に振った。
「リンちゃんの言う通り、奇蹟でも天使のお蔭でもない。これはね、教会のみんなの力です。僕達はきっかけを作っただけ。ただし、僕達が帰った後も‥‥ちゃんと練習やるですよ?」
 教会いっぱいに、僧たちと冒険者達の笑い声が響く。聖歌隊の思い出は、冒険者たちそれぞれに、今後の祝福となる‥‥かもしれない。