変態対決・ナベ娘VS乙女心
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■ショートシナリオ
担当:小田切さほ
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月13日〜02月18日
リプレイ公開日:2005年02月20日
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●オープニング
ギルドに珍客が訪れた。
その二人の客は互いに先を争うようにしてギルドの入り口へ突進して来、先に入ってきた方が、勝ち誇った表情で受付嬢に話し掛けた。
「依頼なんだけど、受けてもらえるかな‥‥」
その青年は、ちょっぴり女性的ではあるが整った面差しに、優しい声。加えて艶のいい栗色の髪がハラリと白皙の額に垂れかかっているときた。目の前の好青年に、受付嬢は思わず、とっておきのあまーい声で応対した。
「もちろんですわ。あの、まずはお名前と、独身かどうか、恋人の有無などうかがってからですね‥‥」
「ちょおおっと待ったっ!」
「ひぃ!」
続いて駆け入って来た客が割り込むように顔を突き出すようにしたので、受付嬢は椅子ごとからだを引いた。息を切らせてこちらをにらんでいる男を、受付嬢は知っていた。これまで二回ほど冒険者ギルドに依頼をしている男だ。名はゴルドワ、職業は防具職人。非常に女っぽいおっさんで、乙女心のオッサン職人として知られている。ゴルドワは受付の前にいる好青年に指を突きつけ叫んだ。
「だまされるんじゃないわよ! こいつはね、男の格好してるけど、立派な女よ女! 変態ナベ娘なのよ!」
「お、おん‥‥な?」
ちなみに「ナベ」とは、男装趣味の女性を指す俗語である。閑話休題。言われて受付嬢は好青年をよくよく観察した。確かに男ならあるはずののど仏の突起が‥‥ない。「ひゅるるる」と音をたてて、受付嬢の意識が遠ざかる。
「ちょっとあんた、仕事中に目あけたまま気絶するんじゃないわよ!」
ゴルドワが肩を掴んでゆさぶったので、受付嬢は我に帰った。
「‥‥は? そ、それで変態同士が一体どんな依頼を‥‥?」
「こいつはね、名前はイーヴっていうんだけど、新進の防具職人なのよ。で、あたしに挑戦状を突きつけてきたの。どっちの防具が優れているか、見本市で勝負しようって。だから、見本市で防具を身につけて客達に見せてくれる生きた見本として、冒険者さんを借りたいの。‥‥って、誰が変態同士やねん!」
遅ればせにゴルドワは怒った。だが、イーヴの方は余裕たっぷりに、
「残念だな。こんな乙女おっさんと一緒にされるなんて。君だって一度この禁断の花園に踏み込んでしまえば、きっと虜になるだろうに‥‥フッ」
髪をかきあげる仕草になんともいえない中性的な色気オーラが漂う。
受付嬢は再び、
「ひゅるるる」
そんな彼女をよそに、ゴルドワとイーヴは、
「なによ、アンタの防具はね、ゴツゴツしてるばっかりで華やかさがないわ! 優雅さのない騎士なんてサイアクよっ! 」
「フッ、ゴテゴテと飾るのが優雅かねぇ。僕はあくまで騎士に求められるのは剛健さだと思っているだけだ。強さを強調してこそ防具なのさ」
「女の癖に乙女心を否定するなんて許せないわ! 乙女心はこの世の華よ!」
「女がなんだ! この世の中を動かすのは男だ。だから僕は女を捨てて、男として防具職人のトップを目指す!」
いつ果てるともしれぬ言い争いを続けていた‥‥
●リプレイ本文
●ゴルドワ嘆く
キャメロット市街地の広場。そこで対峙する二人の職人がいた。互いが雇った冒険者に二人の防具を着せて披露目をする日である。
「悪いが勝つのは僕だな。防具は所詮、強さなのさ」
栗色の前髪をかきあげながら、イーヴ。
それに対して、ゴルドワは、得意げに自分の背後に控えて出番を待つ冒険者たちをあごでしめした。
「それはどうかしら。ほーら、あたしの見本さんはね。ゴージャスな美女に美少女‥って、アラ? あ、あなたはリスフィアちゃんじゃないの。なんでイーヴ側なのよ」
ゴルドワは、イーヴ側の防具見本となるべくイーヴの背後に控えている豊満な美女に目をとめ叫んだ。指差されたリスフィア・マーセナル(ea3747)は、前にゴルドワの防具を身につけて見本市に出て好評を得たことがある。ゴルドワも彼女を気に入っていたため、てっきり今度も自分側の見本を努めてくれるものと思っていたらしい。
「あ、あの、でも、ギルドから身内びいきはいけないと注意されて」
リスフィアは必死にフォローする。
「フッ、彼女のナイスボディーは僕の防具で包まれたがっているのさ。ね、リスフィアさん」
イーヴがさりげなくリスフィアの肩を抱こうとする。
「あ、あの、もちろん貴方の防具は気に入っています。質実剛健なものにはそれゆえの美しさがありますわ。でも、その手はお放しくださいませ」
リスフィアが避けると、イーヴは肩をすくめ、流し目を送った。
「美しいものに触れたいのは人の常さ」
なにやら怪しい雰囲気になってきた。男子禁制の禁断の花園になってはたまらんと思ったのか、黒一点のカイ・ミスト(ea1911)がぎこちなく口を挟んだ。
「し、質実剛健といえば。この右腕部分の防具は使い易そうで良いな、イーヴ殿」
「ああ、それね。ジャパン人の客から話を聞いて作ってみたのさ。東洋の血を受けている君にはよく似合う」
カイはニンジャ風に頭には漆黒のプレートヘルム、全身にチェーンレザーアーマーの鎖を強化したアーマーにところどころジャパン風の紋が入った布を巻きつけたものをまとっている。イーヴの言う通り、寡黙な雰囲気のあるカイにこそ引き立つし、防具としても鎖の強度がものをいう。やっと場の空気が落ち着いたところに、ふわりと儚げな感じの少女が近寄ってきた。
「では、そろそろはじめてよろしいでしょうか、皆さん?」
今日の出演兼司会進行役、エヴァーグリーン・シーウィンド(ea1493)である。
「ああ、お願いするよ。君はモデルとしてはゴルドワ側だったね。でも君の花びらのような唇は真実を語るのにこそふさわしい。精々僕の防具の強さを語ってくれたまえ」
イーヴに見つめられ、エヴァーグリーンは真っ赤になり、
「エ、エヴァは、し、仕事をしなくてはいけませんの〜」
イーヴの前から逃れると、ようやっとエヴァーグリーンは持ち前の甘い声を広場に響かせた。
「本日の見本市は、ゴルドワ対イーヴ、優雅と華やかさに対抗する剛健さ! 貴方のお好みはどちらですか? 生きた 見本がその全てを紹介します。ちなみに私の着ているのはゴルドワ作品です」
エヴァーグリーンは、ウサギ毛のボンボンをいっぱい縫い付けたミルク色のレザーアーマーが客によく見えるよう、くるりと回って見せた。続いてイーヴ側のカイが愛馬ヴィントを駆って登場。カイはヴィントからひらりと飛び降りて剣を抜き、かざしてみせた。そんなカイの姿を目にしたゴルドワがなぜかいたく立腹していた。
「まっ、許せないわ。あんなステキな男性を見本に雇うなんて。イーヴのヤツ」
「ああら。私たちが見本じゃ不足だとでも言うの?」
ゴルドワ側のロア・パープルストーム(ea4460)がややきつい美貌をしかめた。
「だって、失恋したばかりだからどうしても男性に目がいくのよ〜」
「フン、意外とネンネなのね‥‥いいこと、そんなの忘れるくらいド派手に行くわよ」
ロアはほっそりした長身を余裕の足取りで広場中央に運んだ。まとっているのは様々な色の薄い布を幾枚も重ねたごく軽いアーマー。胸など急所部分には、重い金属の代わりに蛇皮の太いベルトを補強兼飾りに使っている。重ねた布が虹色に透けて見え、妖しさを醸し出す。透ける衣装がはらりとなびいて、ロアの美しい脚が腿までむきだしになった。男客達が「おおっ」とそこに集中する。と、炎が男客たちの鼻先にボッ! と炸裂した。ロアがファイヤーコントロールのスクロールを開いてスケベ客を牽制したのだった。
「楽しいオモチャだわ、男って」
あちあち、と慌てる男たちを尻目にロアは楽しげに呟いた。
次にイーヴ側の琴宮茜(ea2722)が出演すると、違った意味で観客がまた沸いた。重たげな鎧を童顔の上にきゃしゃな茜が着せられているのが、子供が大人の衣装を借りたみたいで可愛いと女性客が喜んだせいだ。茜は「可愛い」という歓声に不満げに頬をふくらませた。
「この防具を着たら強そうに見えるかと思ったのですけれど」
軽めに仕立てるため薄い金属板を組み合わせ、背中に竜の背びれのようにとがった金属板を数枚植え込んだアーマー。その上にちょこんと茜の童顔がのっているのだから、まるでドラゴンの子供。と客は勝手に盛り上がる。これまた勝手にイーヴが得意になっている。
「フッ。ハードなものを合わせることで彼女のプックラしたかわいさを引き立てる、高度なテクさ」
「あ〜ら、ウチの防具なら、可愛いだけじゃなくて動きやすいのよ。それを今から、アリシアちゃんが証明するわ!」
と、ゴルドワにうながされてアリシア・シャーウッド(ea2194)が登場。アリシアはゴルドワ特製の、太いリボンを縫い縮めて作ったシンプルなコサージュを肩当て部分やベルト留め、ブーツなどにあしらったアーマー。素材は布と皮、同じくリボンで作ったフリルでいっぱいのマント付だ。ゴルドワが広場の端にある高い木の幹に下げた的に向かって、愛用の短弓を引いた。的は見事に命中。
「見事です! 皆様、アリシア嬢に拍手! さて、さきほどゴルドワさんからは動きやすさという話が出ましたが、その点いかがでしょうか、イーヴさん?」
エヴァーグリーンがイーヴ達の争いが泥沼化しないようにと先手を打って、イーヴに反論の機会を与えた。
「フッ、やはり君は可愛いだけじゃなく、気も利くんだね。ごほうびにキスを」
イーヴがまたもエヴァーグリーンに毒牙? をのばしかける。そんなイーヴの後頭部に、スコーン! と景気のいい音を立てて、木の枝が当たった。
「あ、ごめんなさい。手が滑って」
弓を手にしたアリシアが謝る。
「なぜ君の手が滑って、風も無いのに木の枝が折れて僕の頭に命中するのかな」
「えーと、それはその‥‥」
「そんなことより、リスフィア殿の出番だ」
カイの言う通り、リスフィアが広場中央に登場した。イーヴ特製のレザーアーマーを身に付けている。レザーといっても、彼女の豊満なボディをしめつけないよう、(特に胸)などのみレザーが剥き出しになっているだけで、その上から部分鎧を細めの鎖で留めるようになっている。
「フッ、どうだ。要所要所は皮と金属、二枚重ねになっているから強い。しかも他の部分は皮だけで包まれているから動きやすく軽いのさ」
イーヴがリスフィアを指して言った。黒皮で全身がぴっちりと包まれ、にぶく光る金属の部分鎧がよけいにそのラインを強調するため、リスフィアはちょっぴり恥ずかしそうである。ほお、と観客が感心した。
「フン、なにさ。こちらの最後の見本はお歌付よん。シルキーちゃん、出てらっしゃ〜い!」
ゴルドワは、先ほどから物静かに控えていたシルキー・ファリュウ(ea9840)に呼びかけた。
●イーヴ壊れる
ゴルドワの手で左右の側頭部に丸く髪を結われ、華国風の立て襟布製アーマー。銀髪を引き立てる暗い色調の布地に、光る貝殻を肩当やベルト留めに飾ってある。シルキーは、緊張気味に前へ出ると、一礼して歌い始めた。
「この世にふたつ下りた宝石
ひとつは地上に ひとつは海に
地上からは勇気が生まれ 海からは優しさが生まれた
人の心にはその二つが宿り 男と女が生まれた」
歌い終えたシルキーは拍手の中、イーヴとゴルドワを交互に見て言った。
「二人の個性もいつか一つになって、新しい作品が生まれたら最高だとおもう。ゴルドワさんのアーマーにイーヴさんのシールドを組み合わせるとか‥‥」
「いい案だけど‥‥僕は乙女おっさんという存在自体が許せないんだ」
とイーヴ。ゴルドワは、
「こっちこそ、ナベ娘なんて存在自体がやーよ!」
司会役のエヴァーグリーンはため息をついて、
「では、予定通り判定をお願いします‥‥イーヴさんの防具を支持する方、手を上げてください!」
客達に呼びかけると、決して少なくない数の客が手を上げた。
「続いて、ゴルドワさんの防具を指示する方!」
手をあげた数えてみると、ゴルドワ側の方がやや多かった。
「なぜ‥‥なぜだ!」
イーヴが客達の中に暴れこもうとする。その肩を、カイと茜、リスフィアが必死に押さえた。
「仕方ありません、今日はこちら側の見本の人数も少なかったし‥‥」
と、茜。カイも慰めた。
「それに、また見本市をやればいい。もっと冒険者を集めて。いい人材が集まるだろう。今日も私達としては楽しませてもらった」
「そうだな。その日を目標に、僕は腕を磨くことにするよ。カイ‥‥やはり君には嘘はつけない。僕は女の子にしか興味ないふりをしてきたけれど‥‥」
「やはり、そうか。‥‥自分の夢のために自分を犠牲にすることはない。女性らしく生きたとしても職人として成功する妨げには‥‥」
「違うんだ。本当は、男も女も両方、同じくらい好きなんだ!」
叫んだイーヴがどう! と怒涛のがぶり寄りでカイを押し倒した。
「やっぱり君が一番好きだ、カイー!!!」
「わーっ!?」
混乱のうちに、楽しい(?)見本市の日は幕を閉じた。