素敵に用心棒 〜乙女心を取り返せ!〜

■ショートシナリオ


担当:小田切さほ

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月20日〜03月25日

リプレイ公開日:2005年03月28日

●オープニング

●親方と弟子
 その防具職人の工房は、活気であふれていた。
「あー忙しいわあ。ちょっとぉ、甲冑の合わせ部分を止めるリベットがどっか行っちゃったわ! ‥‥ってアタシが耳に挟んでたんだった。いやん☆」
 ボケをかましつつ、忙しく働く男がその工房の主である。名はゴルドワ、いかついおっさんながら非常に女っぽく、業界では乙女心を持つおっさん職人として珍獣、いや珍重されている。今、上得意客であるシャロウ男爵から、一人息子が留学するので、その壮行会をかねて防具の見本市をしてもらいたいと依頼されており、その準備に張り切っている。
「ガゼロちゃん、そっちのシールド、磨き終わったあ?」
「へえ。もうちっとで終わるべ」
 布で盾を磨いていた若者が顔をあげた。そばかすだらけの童顔だが、なかなかに愛嬌のある顔だ。乙女心のおっさん職人の初めての弟子であった。近在の農家の生まれだが、なぜかゴルドワの防具にほれ込み、自ら希望して弟子入りしたという貴重な存在。まだ言葉の訛りは抜けないが、なかなかに熱心な弟子で、覚えもいいとゴルドワは期待をふくらませている。
 ややあって、ゴルドワは出かける用意をして立ち上がった。
「それじゃガゼロちゃん、後頼んだわね。ギルドに依頼出しに行って来るわ」
「親方、ギルドへお使いに行くぐらいの用事なら俺がいくべ」
「いえ、いいのよ。だってギルドに行けばまたあの人に‥‥むふふふふ〜」
 不気味に笑って、ゴルドワは工房を後にした。

●襲撃
 ギルドへ向かうゴルドワの姿を見て、街角の楡の木の影に隠れてゴルドワの工房を見張っていた若い男が、傍らの人相の悪い男に声をかけた。
「あいつだ。人気の無いところでやってくれ」
 無言で、人相の悪い男がうなずく。
「わかりやした。弟子のほうはどうしたしやす?」
「田舎くさい小僧だし、心配ないだろう。とりあえず、ゴルドワのヤツを思い切り痛めつけてやってくれればいい。職人として使い物にならない位にな」
 若い男がこともなげに言い放つと、もう一度、人相の悪い男がうなずいた。
「わかりやした。その前に、報酬は前払いでいただきやすよ、セダさん」 

 人気の少ない路地裏で、頭から血を流して倒れているゴルドワが発見されたのは、それからすぐ後のことだった。

●親方と弟子・その後
 後日‥‥
 冒険者ギルドに二人の客が訪れた。
 そのうちの一人、ゴルドワの顔を見て、受付係は声をかけた。
「おや、ゴルドワのおっちゃん。こないだは差し入れをどーも」
 ゴルドワは何度かギルドに依頼をしたことがある。なので受付係とは既に顔なじみだ。が、ゴルドワはぼんやりとした表情で受付係を見返すと、ぼそぼそと言った。
「あなた誰ですか? ここ、どこなんです?」
「またまたゴルドワさんたら」
 ふざけているものと思い、ツッコミを入れようとした受付係に、ゴルドワに付き添ってきた若者がすがるように言った。
「どうか親方を助けてくろ! 親方は頭さ打たれて、何もかも忘れてしまったんだっぺ!」
 わっと泣き伏す若者をなだめて受付係は事情を聞きだした。
「記憶喪失!?」
「んだ。ここへ見本市の手伝いを頼みに来る途中、何者かに後ろから頭さ、ぶん殴られて‥‥倒れてるところを、近所の人が見つけてくれたべ。命に別状ないそうだけんど、親方が親方じゃなくなっちまったべ! ただのおっさんになっちまったんだべ!」
 ゴルドワさんの場合、おっさんに「なった」と言うべきか「戻った」というべきか迷うところだと受付係は思ったが、そんなところにツッコミを入れている場合では、どうやらなさそうだ。
「強盗か何かが襲ったのか?」
「いんや。財布も盗られてなかったべ。きっと、親方を殴ったのは、セダの野郎か、その手下だべ! セダの野郎、親方に上得意客だったシャロウ男爵を取られたのを根に持って、前からいろんな嫌がらせさ、してたべや」
「うーむ‥‥しかし証拠がないんじゃ‥‥」
 受付係は腕組をして考え込んだが、ガゼロはなにやら決意を固めている様子だ。
「んだば、シャロウ男爵の見本市に、冒険者さんを何人か貸してくろ。親方の記憶が戻らなくても、オラが代わりに見本市さ、やりとげて見せるべ!」
 ゴルドワは、今度のシャロウ男爵の見本市の仕事を楽しみにしていた。だから、その見本市が実現するところを見れば、記憶が戻るのではないか、とガゼロは言うのだった。
「それに、犯人がセダの野郎なら、見本市を邪魔しようとまたいろんな事さしかけてくるべ。そこをみんなに協力してもらって、捕まえるんだべ! 一石二鳥だべや!」
 興奮してまくしたてるガゼロの傍には、ぼんやりした目でただ彼を不思議そうに見守るゴルドワがいた。
 いつもなら、
『まっ、なあにそのセンス。服にお金かけりゃおしゃれになるってもんじゃないのよ。あなた、お洋服に着られちゃってるっていうのよ、そういうの!』
 と、出会った人の服装センスチェックを欠かせないゴルドワが髪の乱れもそのままに、ノーアクセサリーで突っ立っている姿を見ると、受付係の心に忘れ物をしたような寂しさがこみ上げてくる。
「よし、わかった。まずは助っ人を募集だな」
 受付係はガゼロの依頼を記入すべく、羊皮紙とペンを取り出した。

●今回の参加者

 ea0314 エレナ・アースエイム(34歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea1389 ユパウル・ランスロット(23歳・♂・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea4683 カナ・デ・ハルミーヤ(17歳・♀・バード・シフール・イスパニア王国)
 ea5635 アデリーナ・ホワイト(28歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb0753 バーゼリオ・バレルスキー(29歳・♂・バード・人間・ロシア王国)

●リプレイ本文

●影武者
 森に囲まれた、普段は静かなシャロウ男爵の領地は、その日大勢の人間が詰め掛けていた。男爵の親族や知人が見本市を見ようとやって来たためだ。
「今日は気候が良いせいか、客も多い。皆々期待しておるぞ、ゴルドワ」
 既に会場となる中庭の見物席にいたシャロウ男爵は、挨拶に訪れたゴルドワとその弟子ガゼロ、それに見本を務める冒険者達の顔を見渡して満足そうに言った。
「お任せ下さいな。優秀な弟子もついたしパワーアップですのよ」
『ゴルドワ』がいつもの乙女言葉で言った。
「それより、そのローブの下の顔の傷は相当深いのか? 挨拶の折にもフードを脱げぬとは」
 男爵が不審そうに、目深にフードをかぶった『ゴルドワ』を覗き込む。
「いいえ、傷ついた顔を皆さんの前にさらすなんてあたしの乙女心が許しませんの」
「はは、相変わらずだな、ゴルドワ」
 シャロウ男爵は笑い、冒険者達に目を向けた。
「その少年、騎士と見たが、どこぞ騎士団に属しておるのか?」
 聞かれたのはエレナ・アースエイム(ea0314)。エレナはれっきとした女性である。ただし、引き締まった体つきと意思の強そうな顔立ちから異性に間違われることは多い。そのせいか、エレナは男爵の間違いを訂正しようともせず、礼儀正しく挨拶をした。
「いいえ、男爵様。このような場で剣舞を披露させていただくこと、真に光栄であります」
「うむ、今回も頼もしき面々のようだな」
 男爵は楽しげに目を細めた。
 
「さすが、男爵もバーゼリオさんの声色にすっかり騙されてたべ」
 見本市の準備のため男爵の館へと歩きながら、ガゼロが『ゴルドワ』に話し掛けた。
「セダとやらも、うまく引っかかってくれるといいですね。ゴルドワ殿が無事でいたと思い、再度襲撃してくれば、そこを捕らえられます」
 『ゴルドワ』‥‥実はフード付ローブで変装したバーゼリオ・バレルスキー(eb0753)が応える。冒険者の一人を装って、プレートメイルを着ているのが本物のゴルドワだ。顔が見えないように面頬までかぶっているが、歩く姿もどこか頼りなげだ。ガゼロが心配そうにその腕を引いている。
「親方、大好きだった見本市だっぺ? まだ何も思い出せねか?」
「美しい師弟愛ですわね」
 一行の一番後ろを歩いているエルフのレディ、アデリーナ・ホワイト(ea5635)が品の良い声音で言った。ほろりと来たらしく、目頭を押さえている。
「ゴルドワ様、元気になられるとよろしいですわね。それがキャメロットの平和につながるのかどうかは別にして‥‥」
 アデリーナの上品な口調で意味深な発言。だがツッコミを入れている暇はない。見物客は既に集まっているのだから。冒険者達は見本市の支度を急いだ。

●気合の見本市
 最初の見本、シフールの少女カナ・デ・ハルミーヤ(ea4683)が軽やかに観客達の前に飛び出した。虹色のアーマーをまとっている。
 実は虹色と見えたのは七色のビーズを布製アーマーにランダムに縫い付けたもので、カナの小さな体が動くにつれ、色が違って見えるのだった。
 カナの青い髪に白すみれの花を挿しているのが愛らしく、見物客達の目には、カナがシフールの少女というよりはまるで春の花が羽根を生やして動き出したかのように映った。
「それでは、ゴルドワ&ガゼロの防具見本市、始まりやがりまーす。音楽もぷおーっと吹きやがります!」
 カナは飛びながら横笛を取り出し、たくみに優しげな曲を奏で始めた。見物客たちが中庭の西方にある池を指差して驚きの声をあげた。
 アデリーナがウォーターウォークで、水上を歩いて登場したのだった。
 華奢な体躯にまとうのは春風に溶けてしまいそうな薄碧色のローブ。それだけでは防具とはいえないが、額と胴部に、瞳と同じ碧色の極小のビーズをつらねた美しい帯を巻いている。神秘な姿を強調するように、それぞれの帯の端に結ばれた鈴が、アデリーナの歩みごとに涼しく鳴った。
 アデリーナが女神が祝福を与えるように右手をあげ、後ろを示した。花嫁風の白いベールをまとった女性がゆっくりと歩いてくる。花嫁はベールに包まれた顔を伏せたまま、しずしずと中庭の中央まで歩み出る。と、花嫁は突然ベールを脱ぎ捨てた。下は白のレザーアーマー。膝上までの短丈にしてあり、ブーツと細いベルトでつながっている。金髪をなびかせて細身の剣を抜き、剣舞を演じるエレナを見て、見物客の若い女性達がなにやらきゃあきゃあ言いながら最前列に席を占めようと押し合っている。どうやらエレナを女装の美少年と勘違いして騒いでいるらしい。
 続いて、ユパウル・ランスロット(ea1389)が大きな樫の木陰からひらりと漆黒のマントを翻しながら、現れた。
 白皙の額に漆黒の鉢金、中央には三日月型のブローチが輝いている。
 漆黒のレザーアーマーには、よく見ると銀色の糸で竜の輪郭が刺繍してあり、その竜は光の加減によって現れたり消えたりした。
 ユパウルとエレナは互いに切り結ぶようにポーズをとった。くるりと体を入れ替え、白と黒の二人は光と影法師の戦いのように切り結んでは離れ、舞った。
「みなさーん、お楽しみいただいているかしらあ?」
 と、ローブをまとった偽ゴルドワのバーゼリオが中庭中央に現れ、それぞれの衣装の細工や素材などを説明した。
「あら? 何でしょうか、あの光りは?」
 仲間達の剣舞を見ていたアデリーナが、見物客の中を見て、首をかしげた。ひゅう! と空を裂いて一条の矢が『ゴルドワ』めがけて飛んできた。
「‥‥危なかった‥‥」
 ユパウルがほーっと息をついた。彼が万一を想定してバーゼリオの周囲にホーリーフィールドを発生させていたお蔭で、矢はぽろりと結界の外側に落ちただけだった。
「逃げやがりますよ!」
 カナが素早く見物席をあわてて立ち去ろうとする一人の男を見つけて知らせた。ほどなく、エレナとユパウルが男に追いつき、捕まえて中庭に引っ立てた。ゴルドワを背後から襲ったことから見ても、腕前のたいしたこと無い刺客だったようだ。エレナがニヤリとユパウルを見、
「私達の剣舞を間近で見られるなんて、最初で最後だろうしなあ。手を抜いては失礼だ。そう思うだろ? ユパウル」
「だな。折角の機会だから、大盤振る舞いと行こう」
 ‥‥さほど痛めつけられてもいないのに、刺客はあっさりと白状した。
「ひぃっ、お、俺は頼まれただけなんだ。セ、セダに」
「で、セダは今どこにいる?」
 刺客は、周囲を見回すと、こそこそと出口へと向かおうとする一人の男を指差した。
「逃がしませんよ。カナ殿、協力してくれますね?」
「頑張りやがります!」
 10秒後‥‥バーゼリオとカナのファンタズムによる幻影がセダの眼前に出現した。その幻影とは、ゴルドワのどアップ顔面像だった‥‥セダは失神した。

●後日談
「見本市で記憶を取り戻すのは無理だったようだな」
 エレナが言った。
 冒険者達は、見本市の疲れを労いあうため、ギルド近くのエールハウスに集まり、それぞれ好きな飲み物を傾けていた。
「それでも『親方の伝えてくれた技を大切に、工房を続ける』とけなげに仰ってましたわね。お気の毒ですわ」
 アデリーナがため息とともに言った。
「焦っても仕方ないと分かっているんだろう」
 器用に縫い物をしながらユパウルが言った。見本市当日、刺客が少しばかり抵抗したため破れたマントを器用な手つきでつくろっている。
「自分も時折、彼を見舞うつもりです。名物の一つが消えるのは寂しいですからね」
 とバーゼリオ。その言葉が終わるか終わらないうちに、バーン! と激しくエールハウスの扉が開いた。
「ああっ! いたいた! あんたたちね、あたしに無断で見本市を演ったのは! シャロウ男爵様の見本市、あたしの知らない間に終わってたなんてひどいわ」
 髪振り乱して冒険者達に迫ってくるのは‥‥
「ゴ、ゴルドワさん?」
 唖然とする冒険者達に、ゴルドワについて入ってきたガゼロが説明する。
「びっくりさせてしまったべ。オラにも訳わかんね。今朝目覚めたらいきなりもとの親方に戻ってたべ」
 人間の記憶の仕組みは複雑だ。ガゼロが色々頑張ったにもかかわらず戻らなかったゴルドワの記憶は、自然体で暮らしている最中に突然回復したらしい。
「親方、冒険者さんたちが勝手にしたんではねえべ。オラが親方のためにやったことなんだべ」
 ガゼロがなだめ、説明しても、ゴルドワは不思議そうな顔のままだ。
「そういえば、最近セダのヤツを見ないわね‥‥本当にそんなことがあったの?」
 失った記憶が戻ると、記憶を失っていた間のことは忘れてしまうらしい。
「ガゼロが弟子で、良かったんだぜ。神は頑張るものにはきちんと報酬をくれるものさ。親方思いなガゼロを神が見てたんだろうよ」
 ユパウルが白い歯を見せてゴルドワに笑いかけると、
「まっ、あなたっていい方ね。一目ぼれしてしまいそう」
 ゴルドワが上目遣いにすり寄った。
「いや‥‥れ、恋愛感情はともかく、いつか仕事でコラボレーションできるといいな、なっ、ガゼロ」
「んもう、目を逸らしちゃイヤッ」
 ユパウルに一所懸命絡んでいるゴルドワを横目に、カナとエレナ、アデリーナ、バーゼリオが低い声で相談しあっていた。
「セダがゴルドワさんの幻影を見て気絶したってことは」
「永久に秘密にしといたほうがよさそうだな」
「ガゼロ殿、口止めを忘れずお願いしますよ」
「セダさんと刺客の殿方は、未だに夢に見て怯えるそうですわ。二度とゴルドワ様を襲ったりなさいませんでしょうね」
「あのとき見物客までが何人か失神したのは計算外だったが」
「でも、そのお蔭で他の商売敵にも親方を襲おうなんてヤツはいなくなるから結果オーライだべ(いいのか?)。あ、そうそう。これオラの試作品の鉢金だべ。びっくりさせたお詫びに、欲しい人にあげるべさ。欲しい人手あげて!」
 ともあれ名物? ゴルドワ復活! ビバ、乙女心!