美白の女王様!?

■ショートシナリオ


担当:小田切さほ

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 31 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月03日〜04月06日

リプレイ公開日:2005年04月13日

●オープニング

「マダム・ミラとの出会い〜18歳・家事手伝い・R.Yさん(仮名)
 私は、本当に暗〜い女の子でした。顔一面のニキビがコンプレックスで、男のコと出会うチャンスがあってもろくにお話も出来ませんでした。でも、マダム・ミラの美肌サロンに通うようになって、人生が変わりました! お肌ピカピカのツルツル、自分に自信がもてるようになり、続けて三人の男のコから告白されてビックリ! もちろん、三人とも超ハンサムでお金持ち! マダム・ミラと出会えて、ホントーによかった!」

「マダム・ミラに感謝! 〜23歳・神聖騎士・ヒデオ君(仮名)
 今までのボクは、若いのに顔に日焼けシミが出来て、年よりずーっと老けて見え、当然まったくモテませんでした。でもマダム・ミラに出会ったおかげで今はこんなにイケメンです(肖像画参照)。感謝を込めて超可愛い彼女とのツーショット肖像画を送ります」

「こぉおんなモンでたらめよっ!」
 ビリィィ!
 宣伝文句が踊る羊皮紙を、怒りに任せてその女性の一人は真っ二つに引き裂いた。
「み、皆さん、お、落ち着いて‥‥で、マダム・ミラの美肌サロンとやらの調査をギルドに頼みたいということでよろしいでしょうか?」
 ギルドの新米受付係の青年は、女性達の憤りに怯えつつ、問い掛けた。
「調査なんてヌルいわよ! ミラおばはんを思いっきりぶん殴って頂戴! 何よ、さんざアレ食べるなこれ食べるなって説教タレといて、あたしのソバカス全然消せてないじゃないのよーっ!」
 げしっ!
 破り捨てた羊皮紙をまだ怒りが収まらないというように女性達は踏んづけた。
「私のカラスの足跡(注:ある程度の年齢の女性の目じりにあらわれる三本くらいの小じわ。通常は『笑いじわ』と呼ぶことになっている)も消えてないわよっ!!」
「あたしのダイエットもダメだったわ! あのおばはん、詐欺よ詐欺!」
 げしげしっ!
「で、でもですね。実際、マダム・ミラの美肌サロンっていっぱいお客さんが来てよく流行っているようですから、効果がまったく無いって言うことはないんじゃないかな。それでなくても、いきなり冒険者が一般女性であるマダムを痛めつけたりするのはちょっと公序良俗に反するっていうか」
「何よあんた。あのおばはんの味方するの?」
「いえそうじゃなくて。そ、それに、この広告にちゃんと『効果には個人差があります』って謳ってありますからこの広告ひとつ取り上げて詐欺っていうのは難しいと思います‥‥が‥‥」
「あ〜ら。そうなの?」
 ゴオオオオ。
 女性達の背後で憤怒の炎が燃え盛るかに見えた。炎をしょった女性達は無言で受付係に詰め寄る。受付係は必死にデスクで体をかばいつつ、悲鳴のように言った。
「だっ、第一にですねっ。み、皆さん、僕には、まぶしすぎるくらい、お美しく見えますよ!?」
 途端に空気が一変した。
 さっきまで噴火直前の火山のようだったギルドに、春風が吹く。女性達はころりと女神の微笑みを取り戻した。
「あら。まあ。そうかしら?」
「いやだわ、あたし達ったら高望みしてたかしら。これ以上美しくなんて。おほほほほほほ」
(「‥‥よ、よかったあ‥‥今日も、生きて帰れる‥‥」)
 新人受付係、背中を流れる冷たい汗を感じながら先輩から学んだ接客術に感謝した。
 が、女性達は完全に納得したわけではないらしく、
「でもぉ、詐欺じゃないっていうんだったら、ちゃんとあたし達が納得いくように調査して欲しいわよねえ。いくら客がたくさん入っているっていっても、サクラかもしれないしぃ」
「そうよね。まず、調査報告。それで、あのおばはんが詐欺だってわかったら、死なない程度にブチのめしてからあたし達に引き渡して頂戴(怖)」
「なんなら冒険者さんたちがサロンを体験してみて、調査報告をまとめてくれるとか。サロンの体験費用は初回だけなら出してもいいわ。ただーし! その分報酬は少なくなるけどいいわよね?」
 女性達は、口々に言った。美を求めつつ、がめつ‥‥いや、金銭感覚がしっかりしているのは世の女性の常であろうか。
「はいはい。結構ですとも。それで、他に詳しい情報があったらうかがいます」
 受付係は命が惜しかったので、素直に羊皮紙とペンを取り出した。
 マダム・ミラは女性達の主張によると年齢不詳の美女で、物腰柔らかで、彼女の経営する店‥‥「美肌サロン」をほとんど一人で切り盛りしているのだという。(何人か、予約受付係のシフールや警備担当者などを雇ってはいるようであるが)。
 美肌サロンでは、マダムが独自に研究したという美しくなるためのパック術やマッサージ、化粧指導などが行われている。肌の状態や体型によっては食事指導もある。
 マダムはもともと裕福な貿易商人の未亡人で、その遺産を元手に今の商売を始めたらしいのだが‥‥
「でも、その財産を別にしても、今の商売で相当儲かってるらしいのよね。あたし達みたいな商人の娘だけじゃなく、最近じゃ貴族の令嬢なんかもお忍びで出入りしているとか」
「それがあたしたちみたいな被害者からのぼったくりのお蔭だったら、許せないと思わない?! 思うわよね!?」
「は、はい。思います、腹のそこから思いますっ。で、では、とにかく実態調査から入るということで。では後は我々ギルドにまかせて、皆さんは安心してデートにでもいらっしゃってください。いや、ホントならボクがお誘いしたくらいなんですけど、きっと皆さんモテモテだから、順番待ち状態ですよね」
 内心怯えつつ、受付係はゴマをすった。
「おーほほほ! 謙虚な坊やだこと。ま、そのうち気が向いたら誘ってあげてもよくってよ」
 自らの美貌? に自信を取り戻した女性達はしゃなりしゃなりと帰っていった。
「づ、づかれた‥‥」
 女性達が去った後、新人受付係はぐったりと椅子にもたれかかった。

●今回の参加者

 ea0210 アリエス・アリア(27歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea0356 レフェツィア・セヴェナ(22歳・♀・クレリック・エルフ・フランク王国)
 ea2065 藤宮 深雪(27歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea5635 アデリーナ・ホワイト(28歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea7509 淋 麗(62歳・♀・クレリック・エルフ・華仙教大国)
 ea7694 ティズ・ティン(21歳・♀・ナイト・人間・ロシア王国)
 eb0759 椎名 十太郎(33歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb0835 ロゼッタ・メイリー(23歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

●美白のオキテ〜女たち
 マダム・ミラの美肌サロンは、今日も繁盛していた。だが、マダムはいつもより多忙ではない。新たなスタッフが三人もいるからだ。受付には、年のころ12歳ばかりの黒髪の美少女。
「いらっしゃいませ。今日はどのコースになさいますか?」
 品のよさと言葉使いの正しさから、どこか名家の令嬢の礼儀作法の修行らしい、と客達が噂している。受付でコースを選び、書類にサインをすると、次は銀色の髪のエルフの女性がコースの説明などをしてくれる。
「お好きな香料をお選びくださいませ。お勧めはバラの花びら入りですわ‥‥ってお客様、これは飲むのではございませんのよ」
 どこかひょうきんなところと上品な美貌とのギャップが好評である。
「マダム、マッサージルームのお掃除終わりました」
 ジャパン人の娘が、ゆっくりとした優しい口調でマダムに報告する。
「ああ、ありがとう深雪ちゃん。少し休憩したら?」
「じゃあ、マダムにもお茶をお持ちしましょうか?」
「本当に気が効くのね貴女‥‥でも、本当に少しは休憩して頂戴ね」
 マダムは満悦のていである。昨日、自ら雇って欲しいと売り込んできた「優秀な新入りスタッフ達」‥‥実はサロンを探りに来た冒険者だとは夢にも思わなかった。受付の美少女はロゼッタ・メイリー(eb0835)、エルフの美女はアデリーナ・ホワイト(ea5635)、掃除に美容剤作りにと大活躍なのが藤宮深雪(ea2065)。
 そしてマダムは、新たな客を迎えた。
 紅い瞳に銀髪のエルフの少女、もう一人は、珍しい純白の髪を紺色のリボンで束ねた青い瞳の少女。これも実は冒険者のレフェツィア・セヴェナ(ea0356)、ティズ・ティン(ea7694)である。
 マダムは、ぴちぴち(死語)の19歳のレフェツイア、わずか11歳のティズを交互に見て首をかしげて微笑みかけた。
「まあ可愛らしいお嬢さん達。私の美肌術なんて必要なさそうだけど?」
 まして、着やせする上童顔のティズは7、8歳に見える。
「でも素敵な恋をしたいのは年齢なんて関係ないよ。それに最近、護衛の仕事で戦闘が多くてお肌が心配なんだ」
 ティズの発言に、同室にいた若い? 女性達が彼女をぎろりとにらんだ。だが、マダムは笑顔のまま、
「ほほほ、確かにそうね。では、貴方達には正しい洗顔方法をお教えして、仕上げにちょっぴりお化粧もしてさしあげましょう」
 ‥‥というわけで、ティズとレフェツィアの前に、適温の湯と冷水、それに小麦粉らしきものが運ばれてきた。湯と冷水で交互に洗顔すると、肌が引き締まり血色も良くなるという。では小麦粉の用途はというと。
「まはむ〜。はっくがらんらんははまってひはほ〜」
 こってりと水で溶いた小麦粉を顔に塗りたくられたティズが声をあげた。「パックが固まってきましたって? ええ、乾ききったら水でもう一度洗顔。それで肌の汚れが完璧に取れますのよ」
 その後、マダムは二人に軽くお化粧をしてくれた。
「今日は可愛いお客様に特別サービス。これは遠い遠い異国から仕入れた炭の粉、これで目をふちどると瞳が引き立つわ」
「うわあ、なんだかティズ、目がくっきりした分大人っぽいよ?」
「ホント!? これで、素敵な王子様が迎えに来てくれるかな!?」
 初めてのお化粧にはしゃぐ少女達を嬉しげに見つめるマダムの様子に、レフェツィアは思った。
(「この人、悪い人じゃない。きっと」)
 ちなみにレフェツィアは帰り道、はしゃぎすぎて転んだ。
 ‥‥次にマダムの前に来た客は、一見年のころ30代前半の華国人のレディ。これも実は冒険者、淋麗(ea7509)である。
「私のような年齢でも大丈夫でしょうか?」
 と、麗が自分の年齢を言うと、マダムは驚いて目を見張った。
「まあ‥‥とても見えませんことよ。逆に私のほうがお客様に美容法を伺いたいくらい」
 麗がさほど特別な美容をしているわけではないというと、
「それでは、素敵な恋をなさっているのでは? お肌は心を映す鏡ですもの」
「そ、そんな!」
 麗のいつもは血の気の少ない頬が赤く染まった。だが秘めた恋を抱く麗には、肌が心を映すという言葉には共感できるものがあった。麗は気づかれないようにリードシンキングを使ってマダムの意識をのぞいたが、施術の手順とそれぞれの効果が、きっちりと並んでいただけで詐欺らしき事柄はない。
「この、マッサージですけれどどのような効果が?」
「血の流れを良くするものですわ。お客様はいつも貧血でお困りなのではありません? 長年こうして人様の体を触っていると、なんとなくわかりますのよ」
 なるほどマダムの施術は確かなようだった。疲れが取れていくような感じがする。マッサージ後マダムに銅鏡を渡されて覗き込むと、いつもより明るいばら色の頬をした麗が映っていた。
(「この顔を見たら、ジョウさんはなんて言うかしら?」)
 仕事を一瞬忘れて、恋しい人の反応を見たくなった麗だった。

●美白のオキテ〜男達
 夜になると、従業員たちとマダムは帰宅した。無人になるはずのサロンに、今夜は二つの影が動いていた。椎名十太郎(eb0759)とアリエス・アリア(ea0210)である。夕方、ひそかに深雪達が招き入れ、薬草貯蔵室に隠しておいた冒険者仲間だ。紅い髪をきりっと束ねたアリエスは猫のようにしのび歩く。その後を、肩幅広くたくましい椎名がゆく。
「アデリーナさん達の話によると、こちらがマッサージルームとやらですね」
 アリエスがしなやかな足取りで、少し広い間取りの部屋に先に入った。
 灯りで、ずらりと並べられた美容剤らしきものの壷を照らし出しながら、椎名が嘆息した。
「真珠の粉や子牛の軟骨なんてのまである。ずいぶんと並べたもんだな。死んだじいちゃんが女は肌の張りと年と甘いものの話しかしないって言ってたが、肌にかける執念は大したもんだ」
「‥‥あっ、椎名さん。マダムはここにあるもの全部、自分の顔で試してるみたいですよ。この羊皮紙にずらっとその感想とか効果を書いてあります。とすると‥‥ますます詐欺の可能性は薄くなりますね」
 と、棚にあった羊皮紙を広げて読んでいる、闇に浮かぶほの白いアリエスの横顔を見て椎名がふとため息をついた。
(「美白、か。そんな努力をしなくても、こんな美形ならばさぞかしモテような‥‥」)
「どうかしましたか椎名さん?」
 いぶかしげに問うアリエスの視線に、知らず知らず自分のざらついた頬を両手で撫でていた椎名はわれに返った。
「い、いや。なんでもない。それより、ここに並んだ化粧品を少しずつ持ち帰り、我々も試してみるというのはどうだ」
「えっ!! 椎名さん、お化粧に興味あるんですか!!!」
 アリエスの青い瞳がまんまるに見開かれた。
「ち、違―――う! 俺達忍者というのはだな、七方出といって、最低七通りの変装をこなさなければならないのだ。それで変装するのにだな、肌がざらざらだとやりにくいこともあるのだ。その参考だ参考!!」
 椎名がなぜか必死に説明する。
「ニンジャって大変なんですね。私も美容にはそんなに関心ないけど、椎名さんみたいに男っぽい人は羨ましいと思います。私はよく女の子に間違われるんですよ」
 花びらのような唇からほうっとため息をつくアリエス。贅沢な悩みではある。椎名は複雑な表情で聞いていた。
 やがて使命を果たした二人は、闇にまぎれてサロンを出た。

●美白の罪
 翌朝、サロンへと出勤したマダムは、違和感を覚えた。従業員の深雪、アデリーナ、ロゼッタが並んで自分を待ち受けていた。
「あら、ずいぶん早いのね、あなたたち‥‥!?」
 笑いかけて、奥へと入りかけたマダムの足が止まった。カーテンの後ろから、昨日客としてきた少女二人と華国人の女性が出てきたからだ。
 それに紅い髪の美少年と、筋骨たくましいジャパン人までが‥‥
「ごめんなさい。私たちは、実はあなたとこのサロンを調べに来た者なのです。最後にどうしても、貴女の口から真実を尋ねたくて待っていました」
 麗が口火を切った。落ち着いた口調で、依頼主達が詐欺と決め付けていること、依頼を受けて捜査をすることになったことを説明していく。マダムは驚きに目を見開いたが、やがてほうっと深いため息をついた。
「私の説明の仕方がいけなかったのでしょうね‥‥そのお客様達には、『最低一ヶ月はサロンを続けなければ効果は出ない』と説明したのですが、彼女たちはそれを『一ヶ月続ければ目に見える効果が出るはず』と取り違えてしまったのでしょう」
 それもこれも、『美』に対する女性達の期待が大きいことを、計算に入れなかった自分のミスだとマダムは反省した。そして、誠意を持って女性達に謝罪すること、もしそれでも納得できなければ、料金をすべて返すと約束した。物静かなロゼッタが進み出て、言った。
「そんなにご自分を責めないで。私、働きながら化粧品や美容術のこと色々マダムに質問しましたよね。でもマダム、全部きちんと答えてくれたでしょう? 誠実にお仕事されてるって感じました」
「それに、マダムは私達を雇うときおっしゃいましたわね。一緒に世の女性達が自信を持つお手伝いをしましょうって。その言葉、信じておりますわ」
 とアデリーナ。
「だから、よろしければ、私たち、マダムへの誤解を解くお手伝いをしたいと思っています」
 と深雪。マダムは冒険者達に深く礼を述べた。
「いいえ、責任は私一人にあります。それにあなた達がサロンの効果を証明して下さったことで、私はもっと自信を持って仕事ができるわ」
 マダムは冒険者全員に「私への励まし料ね」と笑ってお金を少々くれた。
 そして‥‥
 マダム・ミラのサロンは相変わらず盛況である。女性客の中、一人、たくましい体をちぢ込めるようにして通うジャパン人の男がいる。男は、女性達から怪訝な目で見られるたびに、
「仕事のためだ仕事の!」
 と叫んでいたという。