モーニング詩人。ぷろじぇくと!?

■ショートシナリオ


担当:小田切さほ

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月22日〜04月27日

リプレイ公開日:2005年04月29日

●オープニング

 とろけるように暖かい春のある日のこと。
 天蓋つきの柔らかなベッドの上でぐっすりと眠っていたケント伯爵(20歳、ヒゲなし、恋人募集中)は、
「ケ――ン――ト――様! もう昼でございますよ。早く起きてください!!」
 無粋なほどに大きな声で眠りを破られた。
「うう‥‥耳元で怒鳴るな、アベル」
 耳鳴りががんがん響く頭を抱えながら起きだす。このケント伯爵、父が隠退したので当主を継いだばかりで、超がつくほどの遊び好きである。頭が痛いのは、大声で起こされたせいよりも二日酔いの方に分がありそうだ。ほっぺたに派手な色の紅がついているのは、どこやらの遊び女(あそびめ)につけられたものか。
「怒鳴らずにおられますか。もう昼ですよ昼! ほんとにもう、夜遊びはほどほどにしていただきませんと。毎日毎日 夜更かしの朝寝坊では、お父上にはもちろん、この家で働く皆々に示しがつきませぬ!」
 やさしげな女顔に似合わぬ厳しさで、ケント伯爵の耳元で怒鳴りつけるのは若き従者、アベル。通称「歩く石像」「しゃべる律法書」――つまり超カタブツ。父親の代からケント家に仕える従者で、しかも彼がいなくてはケント家の財産管理は成り立たないというくらい有能とあっては、強気で主人をしかりつけても当然というところだが。
「うー、わかった。あと50数える間寝かせて‥‥」
「いけません!!!」
 アベルは青筋をたてて怒鳴りつけた。ケントは耳を押さえて、飛び起きた。
「あー、もうウンザリだ。もうお前の怒鳴り声と説教で起こされるのはたくさんだ!」
 ケント伯爵はアベルに怒鳴り返した。ならば明日からはちゃんと早起きするのかと思いきや、稀代の遊び人ケント伯爵の発想はいささか違った。
「なにか、もっとさわやかに目覚める方法はないのか?」
「夜遊びをお控えなさいませ」
 アベルは木で鼻をくくったような返事をよこしたが、ケント伯爵に黙殺された。
 真面目人間のアベルはストレス倍増。だが主従関係には逆らえない。アベルは提案した。
「そうですね。いろいろとありますが、香りのいい花を寝台のそばに置くとさわやかな気分で目覚められるのではないでしょうか」
「んなもん、クシャミが出てかなわん。私は香りに敏感なのだ。知っておろう」
 つくづくワガママな主人だ。だが、子供のころからケント伯爵につかえているお蔭で人間ができているアベルは、すぐに次善の策を打ち出した。
「香りがおいやならば、美しい音楽はいかがでしょう。昔の異国の貴族は、朝目覚めるたびに楽士達に音楽を演奏させたとか申します」
 ケント伯爵の瞳がキラーンと輝いた。
「それだ!! 音楽で目覚める、これほどさわやかな朝はない! しかし楽士なんてのは色気がなさ過ぎるな。女性吟遊詩人を7〜8人雇って、そろいの可愛い衣装なんかも作って、ダンスしながら合唱してもらうとか。
 毎朝が楽しみで、眠れなくなりそうだ。いや、毎回全員でなくてもいいな。小柄な女のコ四人組を作ったり、ちょっと年上のアネゴ肌の女の子はソロでジャパンのキモノ着せて歌わせたり、慣れてきた女の子は『卒業』ってことで、独立した歌い手としてあらためて雇って、また新しい女の子を次々入れ替えたりなんかして」
 うきうきと計画するケント伯爵。
 だが、すかさずアベルが冷た〜い水を注す。
「それはよろしいですね。早速、詩人を募集いたしましょう。老若男女を問わず」
「え? 老若男女を‥‥問わんのか?(テンション半減)」
「もちろん。芸術に年齢・男女の差はありませぬ!!(ゴオオオ!)」
 背中に炎をしょって断言するアベル。続けて、
「それに、もしケント様のお好きなちょっと年上のおねえさんを採用しようものなら、朝起きるどころかベッドの中に引っ張り込む気でしょうが!」
 大正解〜。
 決め付けられて言葉もないケント伯爵は心の中でアベルへ正解の拍手を送った。
 アベルには、遊びまわってはその尻拭いを押し付けている弱みもある。
「それに、ケント様の朝寝坊を起こすのは至難のわざですから! 慣れた私ですら毎朝大変な思いをしてる位です。それでなくても私の仕事は一杯あるんです! だから音楽でスッチャカ起こしてたのじゃ、間に合わない場合にそなえて、強烈な一発芸の持ち主なんかも雇ったらどうですか!?」
 ビシビシとアベルは言い募る。
 またも図星を指されて、ケントは形勢不利である。
「う‥‥わ、わかった。その代わり、パフォーマンスが私の気に入らなければ採用はせんぞ!」
 精一杯威厳を保ちつつ、言い渡したケント。だが、
「結構ですとも! その代わり朝早く起きられたら、父上がしていらしたように、ラテン語のお勉強と剣の稽古を、かかさずしていただきますからね!」
 またしてもアベルにぽんぽんとやり込められるのであった。

●今回の参加者

 ea0370 水野 伊堵(28歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea1877 ケイティ・アザリス(34歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 ea5635 アデリーナ・ホワイト(28歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea7487 ガイン・ハイリロード(30歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea7693 マルス・ティン(41歳・♂・バード・人間・ロシア王国)
 ea9840 シルキー・ファリュウ(33歳・♀・バード・人間・ノルマン王国)
 eb0732 ルルー・ティン(21歳・♀・バード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb0753 バーゼリオ・バレルスキー(29歳・♂・バード・人間・ロシア王国)

●リプレイ本文

●踊る伯爵御殿!?
 居並ぶ冒険者達(通称「モーニング冒険者」)を前に、ケント伯爵はおもむろに言い渡した。
「皆、ようこそわが館へ。キミたちのためハイセンスな衣装を用意してある」
 と、侍女達を呼んで衣装を冒険者達に配らせた。その衣装、鮮やかな茜色に統一されていて朝日のイメージにふさわしいといえばそうなのだが、男性モードはともかく、女性モードが問題だ。
「この、動いたら肩からスルッと脱げてしまいそうな襟ぐりはなんですの!? 私承知いたしかねますことよ」
 誇り高きお嬢様ルルー・ティン(eb0732)がつき返したのももっともな位、丈は短いわ胸のあきが尋常ではないくらい大きいわというシロモノ。
「動きやすさが身上なのだ。踊る時に脚を上げたりする動作も自由自在だぞ?」
 ケント伯爵は鼻の下をのばして、ジプシーの踊り手ケイティ・アザリス(ea1877)の、服の下からすらりと伸びた脚線を見ている。
「こういう具合にかしら?」
 すかさずスッ! と脚をのばして蹴り上げる仕草をするケイティ。
「がふっ!?」
「あ〜らごめんなさい。ま〜ったくの偶〜然なんだけど、伯爵様のあごを蹴り上げてしまったわ」
 という偶発的事故? と全員のブーイングにより、衣装は早々仕立て直すことになった。
 さて翌朝‥‥というかまだ第一日の真夜中といいたい時間だが、
「みなさ〜ん、起きてくださ〜い」
 アベルが豪快に鉄製のナベをガンガン薪で叩きながら冒険者達を起こして回る。
「くっ‥‥頭に響くぅ。早起きってある意味すげい大変なのですね」
 額を押さえながら水野伊堵(ea0370)が起きだす。
「あっ、伊堵さん。おはようござ‥‥あっ、む、胸の合わせが緩んじゃってますよ」
 ちょっぴり伊堵が気になるらしいアベルが、色っぽい寝起き姿に赤くなって目をそらす。
 かくしてアベルによって冒険者達はベッドから引きずり出され、目をこすりながらリハーサルに突入するのであった。
 女性達のヘアメイク担当はアデリーナ・ホワイト(ea5635)、ダンスはケイティ中心、他の女性陣は歌(フリつき)、男性陣はおもに伴奏。あらゆる楽器を使いこなすバーゼリオ・バレルスキー(eb0753)は伴奏と作詞作曲を兼ねてまさに八面六臂の活躍だ。
「横笛、オカリナ、竪琴、太鼓と4種も使いこなすのですか? どうやって練習したんですか?」
 アベルも目を丸くして思わず聞いたほどに、曲と曲調によって楽器を使い分ける器用さだ。
「好きこそ物の上手なれ‥‥ですよ。毎朝違う楽器を演奏して伯爵様に楽しんでいただこうと思います」
 さらりと答えるバーゼリオ。実は伯爵にパトロンになってもらい吟遊詩人集団としてメジャーの階段を駆け上がろうという夢が一見冷静な外見の内側で炎と燃えているのだった。
 その後本番。
「朝日を呼ぶHERO それはモーニング冒険者♪」
 テンポのいいオリジナルソングである。ケント伯爵は「う〜ん」と唸りながら薄目を開けた。
 すると伊堵がすかさず、アベルに持ってこさせた朝食を、口に運んでやる。
「伯爵様。はい、あ〜ん」
「う〜む。これまで生きてきた中で一番快適な目覚めだ」
 鼻の下を伸ばして喜ぶ伯爵であった。
 朝食の後、話術の達者なマルス・ティン(ea7693)がケント伯爵を誘い出した。
「朝の散歩に出かけませんか? 鳥のさえずりなど聞けば一層爽やかな気分になれますよ」
 と、朝の快適さを教えようとするが、ついてきたアベルが、マルスにあれこれ相談をもちかける。
「来週友人の婚約式なんですけど何を着ていけば? ‥‥お祝い品はどんなものが?」
「そうですね、落ち着いた色の正装が一番です。お祝いは少々値が張りますが、ジャパンの香辛料が喜ばれるでしょうね」
 ワガママで世間知らずのケントより、控えめながら落ち着いて頼りになるマルスに相談するのは理の当然だが、ケントは、
「お前らばっかり話がはずんで面白くない」
 とすねて、さっさと屋敷へ戻ってしまった。それならと博識のアデリーナが伯爵に勉強を教えることになったが、
「もっと近くで教えてくれんと勉強する気が起こらぬ。もそっと近う」
 と命じ、仕方なく近寄るアデリーナをぐいと抱き寄せようとする。もちろん避けるアデリーナだが、帯を掴まれ、
「ア〜レ〜」
 クルクルクルクル。糸巻き棒のごとく回転しているところをアベルに助け出された。
「少しは冒険者達を労おうと言う気にならないんですかっ!?」
 アベルに叱り飛ばされたケント伯爵は、奥の部屋に姿を消した。
「ふん。そんなに言うなら、労っちゃるわい」
 そこでは早起きの苦手なシルキー・ファリュウ(ea9840)が、睡眠不足を取り戻すため爆お昼寝中。
「う〜ん‥‥朝日なんて来なくていい〜」
 何やら弱い朝の悪夢にうなされるシルキーの隣に、
「おっ、うなされているな。添い寝して慰めてやろう」
 とかなんとか言って入り込もうとするケント伯爵。
「こらぁ! 何やってんだーっ!?」
 たまたまお昼寝場所物色中だったガイン・ハイリロード(ea7487)が見つけて叱り飛ばしたため、難を逃れた。
「ちっ、またジャマが入ったか‥‥女性冒険者に手を出すのは難しいようだ」
「あったりまえだろーが。しかし伯爵さん、あんた女遊びより、他に楽しみ見つけたら? 俺だってそりゃ女の子は好きだけど、音楽で人を喜ばすのも結構楽しいし好きだぜ。そうだ、あんたも楽器やらないか? なんだったらここにいる間、教えてやるぜ」
 健康的に日焼けして少年ぽい顔立ちのガインが、楽器演奏の達人だけあって音楽のことになると目を輝かせ夢中で語る。そのさまをじーっと見ていたケント伯爵は、
「うん、わかった」
「わかってくれたか!? んじゃさっそく練習してみるか?」
「いや、女遊びだけじゃなくて男相手もたまにはいいかななんて。お前、私に添い寝してみんか?」
「こるぁ――! 何を聞いてたんだぁっ!」
 ガインがツッコミの代わりに高速詠唱でオーラショットを放ちまくっているところへ、使用人及び騒ぎに目を覚ましたシルキーによって最悪の事態は免れた。
 
●戦慄の旋律
 冒険者達は毎朝アベルにたたき起こされ、昼寝してもケント伯爵が何かとちょっかい出してくるという悲惨な状態。特に女性陣はスキあらば口説かれるので気が休まらない(かといって男性陣も油断はできないが)。
 ケイティなどは飾り気が無さ過ぎるからと伯爵にアクセサリーをプレゼントされるものの、
「踊りのジャマになるものはあんまり好きじゃないのよね」
 と当惑顔だ。何より、伯爵が起きてくれないのが空しい。最後の日の朝も、冒険者達の熱演にもかかわらず伯爵は寝ていた。
「は・く・しゃ・く。起きてくださらないとさみしぃ〜ん」
 シルキーが耳元であま〜く囁いてみるが、起きない。
「仕方ねいですね。次の手段」
 伊堵がこちょこちょとくすぐってみるが、起きない。
「マルスさん、イリュージョンで伯爵好みの年上のおねえさんの幻でも送り込んで頂けませんか」
 アベルが途方にくれて言う。
「それより、水浴びが効果的かと思いますわ」
 アデリーナが用意してきた水桶の水にウォーターコントロールを唱えかけると、伯爵ががばっ、と起きた。
「おいおい。風邪を引かせる気か」
「あっ。もしかして今のは狸寝入り?!」
「まさか‥‥今日だけじゃなくて前の日もその前も?」
 冒険者一同、怒らずにおらりょうか。伯爵がなだめた。
「まあ、そう怒るなって。キミ達の音楽と起こし方があまりにも快適だったので、ついいつまでも身をゆだねてしまいたくなったのだ。それに、今日は最終日ゆえ特別に新しい衣装を用意してある。ジャパン直輸入の超高級生地で作ったのだぞ」
 伯爵が指を鳴らすと、侍女達がまたまた衣装を運んで現れた。薄絹仕立てのそれは、男性モードはまだ下に普通の生地が重ねてあるから色が透けて見え涼しげでおしゃれだが、女性モードは‥‥最低限の箇所のみちょっと濃い色の薄絹が重ねてあるだけ。つまり、
「これ‥‥いわゆるスケスケではございませんこと?」
 そんな下賎な言葉は口にしたくもないといった語調でルルーが言う。
「これから暑くなるし、涼しげでよかろう? キミ達のダンスも一層映え‥‥はわっ!?」
 顔面に冷たい水をかぶった伯爵。ウォーターコントロールを使ったアデリーナが品よく笑う。
「ほほ、失礼致しました。てっきり寝ぼけておいでかと思い、洗顔の手間をはぶいてさしあげました」
 ぶちっ。スケスケ衣装を引き裂く音がした。伊堵だ。
「今回は可愛く歌と踊りに徹しようと思ってたのに‥‥『最凶プリンセス』、『賞金首狩りのイド』の封印を解いた罪、その体に刻み込んでくれるわっ!」
「凍れる月の光の矢、あらゆる障壁を貫いて飛べ! ムーンアロー!」
「私にも蹴らせて!」
 寝不足の上、昼寝中にすらちょっかいを出され、狸寝入りで欺かれ、あげくスケスケ衣装でおちょくられて溜まりに溜まった冒険者達のストレスが暴発した。伊堵、シルキー、ケイティの連続攻撃である。ケント伯爵は血相変えて逃げ回る。
「ああん、わたくし、どうかしてしまったのかしらぁん‥‥」
 少女らしからぬ色っぽい声と仕草でルルーがアベルに抱きつく。その瞳が紅くなっていることに気づいてアベルは大慌て。ストレスを暴発させたルルーは狂化してしまったようだ。
「ル、ルルーさん! 気を、気を確かに〜」
「う〜ん。伯爵様のセンスは今ひとつのようですね。真の音楽を理解できる、他のパトロンを探すとしますか」
 一人冷静に首をかしげるバーゼリオ。
 
 その日、ケント伯爵家では、領地内に住む農夫達の証言によると、
「ばっしゃーん」「ひゅるるるる」「ちゅどーん」「がすっべきっどかっ」
 等の激しい騒音が相次いで起こったという。
 ともあれ、その日を境にケント伯爵が、夜明け近くなると悪夢にうなされて早起きできるようになったというのはめでたいことではある(んじゃないかな)。