【栄光のメニュー】親孝行はスイーツで♪

■ショートシナリオ


担当:小田切さほ

対応レベル:フリーlv

難易度:難しい

成功報酬:0 G 71 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:09月26日〜10月02日

リプレイ公開日:2005年10月06日

●オープニング

「すみませ〜ん。ここって〜、冒険者酒場ですか〜?」
 今日も今日とて、冒険者達が訪れて賑わう酒場を、まのびした声がおとなう。
「そうだけど、何か?」
 応対に出たエリーゼ嬢が見たのは、薬草のような、見慣れぬ植物の束を抱えたエルフの青年。痩せ型で長い銀髪をひとつに束ねており、おっとりした品のよさそうな顔立ち。
「僕は〜、植物学者でー、マシュー・オランドといいます〜。これを使って〜、何かピンク色のメニューを〜、開発してもらえませんか〜?」
 と、マシューは抱えている植物を差し出す。それは、ハート形の葉を持つ緑色の植物で、長い茎があり、根に近い部分が鮮やかに紅い。
「これ‥‥一体なんなんだい?」
「ルバーブっていいます〜。ロシアの知り合いに種をゆずってもらって〜、僕が育てたんです〜」
「へえ? ふうん‥‥ま、香りは悪くないねえ」
 エリーゼ嬢の感想も、まんざら世辞ではないようだ。ルバーブの束は揺すられるたび、あんずの類に似た、酸味のある果物のような香気をふわりと放つのだった。野菜かと思ったが、使い道としては果物に近い食材なのかもしれない。
「これ〜、茎を煮詰めてジャムにしたりすると〜、ベリーみたいで甘酸っぱくておいしいし〜、綺麗なピンク色なんですよ〜。使ってもらえませんか〜?」
「まあ、試してみて、使えそうなら使わないこともないけどね。でも、どうしてこんな珍しいものを持ち込んで来たんだい?」
 聞かれると、のたくらした喋り方で、マシューは事情を説明した。
 マシューは植物学者。
 知識欲旺盛のあまり、危険なトライをすることもあるのだという。
 いわく、普通食べることのない雑草を美味しく食べる方法を研究したり。
 あるいは、毒のあるキノコを、なんとかして毒抜きして食べられないか調べたり。
 それらすべての実験は、当然というかなんというか、自分の体で確かめるのである。つまり、結構いきあたりばったりに、マシュー君は目に付いた植物をとりあえず食ってみる人なのである。
(「‥‥植物学者ってのはこんな人間が多いのかねぇ」)
 独特なタイプの不思議ちゃんを前に、感慨にふけるエリーゼ嬢。
「それでもー、今まで失敗したことなかったんですけどー、こないだ気合が足りなくて毒キノコに当たってー」
「大変じゃないか。それで?」
 気合の問題じゃないと思ったが、エリーゼ嬢は話の先をうながした。
「僕の母がー、近くの教会で願掛けをしてくれてー。
『マシューの命を助けて下さい。かわりに私が病気になります』
 ってー。
 そしたらほんとにー、僕は助かったんですけどー、母が病気になっちゃってー」
 こんなのたくらした語り口でなければ泣ける話なんだろうが‥‥
 エリーゼ嬢はこんな息子を持った母親に同情した。
「それでー、今看病してるんですけどー、
『もうこのまま治らなくてもかまわない。マシューの命と引き換えに死ねるなら本望だからほっといて。もうあんたの心配ばっかりする人生に疲れた』
 って言うんですよー」
「ま、まあ、その気持ちはわかるよ」
「だからー、ご飯も薬も食べてくれないんですよー。それでー、何か食べたいものはないかって聞いたんですよー。そしたらー、
『私はピンク色が好きだから、この世の思い出に、今まで見たこともないくらい、綺麗なピンク色の料理が食べてみたい』
 って言うんですよー。
 んで、ピンク色の料理を食べさせたら元気が出るかなと思ってー。
 僕の持ってる小さい畑で、ピンク色の出せる作物ったら、このルバーブくらいしかないんでー。珍しい植物だから使いこなせる人がなかなかいないみたいなんですけどー、ここだったらなんとかなると思ってー」
「ピンク色で、しかも美味しい料理ねえ‥‥。もしメニューが完成したら、女性客にうけそうだねえ」
「引き受けてくれますかー?」
「ああ、とりあえず、料理人の募集を出してみようじゃないか」
「やったー。じゃあ僕もー、他にもピンク色の出せる食材が無いか探してみますー。とりあえずー、ピンク色したキノコとか草とかクラゲとか、手当たり次第試食してみまっすー!」
「や、やめなさいいぃっ!!!」
 マシュー君の依頼を受けて、エリーゼ嬢はなぜだかグッタリ疲れていたようだ。

●今回の参加者

 ea0445 アリア・バーンスレイ(31歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea2198 リカルド・シャーウッド(37歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea3542 サリュ・エーシア(23歳・♀・クレリック・人間・神聖ローマ帝国)
 ea5115 エカテリーナ・アレクセイ(32歳・♀・神聖騎士・人間・ロシア王国)
 ea5322 尾花 満(37歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea5556 フィーナ・ウィンスレット(22歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb0020 ルチア・ラウラ(62歳・♀・クレリック・エルフ・フランク王国)
 eb0603 イリヤ・ツィスカリーゼ(20歳・♂・ナイト・人間・ロシア王国)

●サポート参加者

青柳 燕(eb1165

●リプレイ本文

●ジャムには愛がいっぱい
 その日、冒険者酒場の厨房に集まった冒険者達は、驚いた。
 病身を押して、マシューの母親のドーラが酒場にやってきたのである。椅子にもたれかかり、ひざに毛布をかけて、冒険者達に挨拶を送る。浮世離れしたマシューとは対照的に、ドーラはがっちりした、見るからに働き者の農婦といった感じの女性だ。
「座ったままで失礼しますよ。なんだかあたしのために皆さんが珍しいお料理を作ってくださるとか‥‥」
「そんなこと、ご病気なんですから当然ですわ。苦労されておられるのですものね、お母さまは‥‥」
 クレリックのルチア・ラウラ(eb0020)が言って、ずり落ちかけた毛布を直してやる。
「でも、うちの子が冒険者さんに難しいお願い事をしたって聞いて、申し訳なくって」
 と言うドーラに、リカルド・シャーウッド(ea2198)が握手を求め。
「とんでもない。むしろ料理人として、マシューさんには感謝しなくちゃいけませんね。新しい食材を研究するのはやっぱり面白い」
「ほら〜、僕の研究はちゃんと人の役に立つんだよ〜」
 母親に自慢するマシューに、エカテリーナ・アレクセイ(ea5115)がクギを刺す。
「確かに、身をもって研究される姿勢は尊敬します。でも、母上を心配させるのは感心しませんね。今度から発見したものを口に入れる前に、動物に食べさせてみるとか、安全を確認されてはどうですか」
 尾花満(ea5322)も言う。
「リカルド殿の言う通り、こと食材の開拓は、マシュー殿のような勇気ある先人の並々ならぬ労苦によるところが大きい。料理人として、幾ら感謝しても足りぬほどだが‥‥しかし、それも生命あってのこと。無茶は程々にお願い致すぞ。そうして、これからももっと色々な食材を開拓してくだされ」
 三人の忠告により、マシューにもどうにか母親と他人に迷惑をかけないで研究を続ける気になったようだ。ドーラは、満の友人の女性画家が描いたという、みずみずしいルバーブのスケッチ画をもらって喜んでいる。
 ルバーブの茎を、手早く小口に切りつつ、生の茎を味見してみているのはアリア・バーンスレイ(ea0445)。 
「んー‥‥かなり酸味が強いね。野菜ぽい後味もあって、珍しい味‥‥でも、寧ろこういう食材の方が燃えるね、いっちょ頑張ってみますか!」
 腕まくりをして取り掛かるアリアだが、目の隅では常に恋人であるリカルドを意識しているようだ。料理人として常に新境地に挑むのも、リカルドに認められたい気持ちの方が強いのかもしれない。
「そっちのお嬢さん。ずっと鍋をかきまぜているけど、暑くないかい?」
 ドーラはルバーブジャムを作成中のフィーナ・ウィンスレット(ea5556)に声をかけた。甲斐甲斐しく髪を束ねたフィーナは顔をあげ、
「大丈夫ですわ。それに、せっかくの珍しい素材のジャムですから、焦げ付かせてはいけませんものね」
 人見知りする性質なのか、ちらと微笑を浮かべると、また鍋に目線を落としてかき混ぜ続ける。聖母像のモデルを務めたこともある美女だが、学究肌らしい熱心さである。当初、交代でジャムをかき混ぜることになっていたが、ルバーブは思いのほか早く煮崩れた。
 出来上がったジャムを取り分けて、満を除く冒険者達が調理に取り掛かる。
「わあ、本当に綺麗なピンク色のジャム! 女の子の大好きな色よね。お母さまに喜んでいただけるよう、心を込めて、ピンク色のプディングを作りますね」
 サリュ・エーシア(ea3542)が大きな碧眼を輝かせ、ドーラも期待に顔をほころばせる。
 一方、満は一人、ジャパン人らしくジャパン風の菓子を作成中。柔らかく煮たそら豆を、布巾に包んで揉みほぐし、目の粗い布巾で裏ごしする。口当たりをなめらかにするためだろう。
「御母堂、のちほどジャパン国の粋をとくと味わっていただこう」
「サムライってのは、料理ともこんなに真剣に戦うものなんだね?」
 キモノの袖をたすきあげにした姿に、ドーラも見惚れている。
 ジャムが出来るまでに、既にケーキ生地を作り終えていたルチアは、ジャムを生地に混ぜて焼き窯に入れてしまうと、ドーラにお茶を入れて差し出した。
「まあ、何て気の利くお嬢さんだこと。息子じゃぁこんなこまやかに気を利かせてはくれませんよ」
 と、ドーラは、お茶を飲みながら愚痴をこぼし始めた。ルチアはあまり口を挟まず、笑顔で耳を傾けている。
 調理の経験がないため、下ごしらえ専門に全員の手伝いをしていたイリヤ・ツィスカリーゼ(eb0603)は、緊張した手つきで卵を割り、クリーム作りの準備をしている。クリームはクランブルによく合う。ロシア出身で、故国でルバーブを食べたことがあるというイリヤの提案である。
 ただし、本人いわく、  
「でも、僕食べるのが専門で作るのはぁ‥‥う〜ん‥‥えへへ‥‥だからね、僕、簡単なお手伝いをして、その代わり、手の空いた人に手伝ってもらって、自分の考えた料理を作るね」
 幼いながら冒険者として役割を果たすつもりらしく、卵と蜂蜜、粉を混ぜる彼の表情は真剣である。
 パイを焼く焼き窯をのぞきこんだエカテリーナが、
「花嫁修業をするべきだったか‥‥!」
 と叫んだ。ヨーグルトとジャムをフィリングにして焼いたパイが、ヨーグルトの水分で柔らかくなりすぎ、破れてしまったらしい。すかさず横からこぼれたヨーグルトを指ですくったイリヤが指をなめ、
「ルバーブってヨーグルトに混ぜても美味しいんだねっ」
「あっ! こらこら、全部は食べないで下さい! 一応ドーラさんにも味見してもらうのだからっ」
 無邪気に食べまくるイリヤに、エカテリーナが慌てる一幕もあった。
 
●幸せレシピ
 出来上がった料理をずらりとテーブルに並べられ、ドーラとマシューが目を丸くする。
「うわぁ〜。ルバーブでこんなに色々作れちゃうなんて〜」
「ピンク色の料理がこんなに! 見てるだけでも楽しめるよ!」
 エカテリーナの作った小麦粉のチーズ粥(ルバーブ入りでピンク色)を前菜に、イリヤが皆に手伝ってもらって作った、ルバーブでピンク色と酸味を出した珍しいロシア風シチュー「ボルシチ」、リカルドの作ったボイルドポーク。肉をゆでて余分な脂を落す段階から、ルバーブとともに煮てあるので、肉自体がほのかなピンク色で、見るからに華やかな料理だ。デザートは、ジャムと、そのジャムをフィリングにしたパイとクランブル。アリア、リカルド、フィーナ、イリヤが協力して作った。サリュの作ったプディングは、ルバーブジャムを塗った器にプディング生地を注いで焼いた。器を冷ましてひっくり返すと、ジャムがとろりと底から溶け出し、プディング全体を包み込む。ルチアのケーキにはジャムを少量混ぜ込んでさっくり混ぜてあるため、ピンクと白のマーブル模様に焼きあがっている。異彩を放っているのは、満のお手製、ルバーブの煮汁で染めたジャパン風の豆菓子。アリアが、テーブルに真っ白なクロスを広げたので、尚のこと料理の鮮やかな色彩が引き立つ。
「まあ優しい味のお粥。このボイルドポーク、とても柔らか。ボルシチだなんて珍しい。具だくさんなのに、さっぱりしているわ。このクランブルもパイも、サクサクして美味しい。これがジャパン風のお菓子? まあ心憎い、お花の形のお菓子だなんて」
 どれも嬉しそうにぱくぱく味見をするドーラを見て、エカテリーナが心配した。
「あのう、そんなに食べて大丈夫なんですか? ご病気なのに」
「大丈夫よ。きっと、マシューさんを心配しすぎたのが原因だったのね。病は気からって言うものね。でも、マシューさんの発見のおかげで、こんなステキなお菓子が出来るんだから、マシューさんのお仕事が無駄じゃないんだって心から納得できたでしょう?」
 サリュの言葉に、ドーラが苦笑しながらマシューを見やる。見るからに愛情溢れた母親の表情だ。
 賑やかに試食会が終わって、リカルドが食後にルバーブティーを出した。これは数種のハーブとともにルバーブを煮て、濾したバラ色のお茶。食後のお茶まで華やかなものにする気配りを忘れないリカルドに親子が感激の態である。
「ああ、満足。どれも綺麗な色で、美味しかった‥‥」
「これからはいくら息子さんが心配でも、しっかり食べてくださいね。美味しい物を食べれば、少しは元気を取り戻せますから‥‥」
 フィーナが言い、ドーラが娘に叱られた母親のように照れてうなずいた。
「あの‥‥ルバーブを少し、もって帰っても構いませんか?」
 何度も何度もお礼を言って、自宅に帰ろうとするマシュー親子に、アリアが駆け寄り、頼んだ。 
 ドーラが、いたずらっぽく、後片付け中のリカルドの姿を見やり。
「あの料理人さんにプレゼントかい?」
「えっ‥‥あの!」
 不意打ちでしかも図星をつかれて慌てるアリアに、ドーラが手を伸ばし、アリアの手の中に何か小さなものを押し込んだ。手あれに効くというミツロウだ。
「あんなに、美味しい物を作ってくれる彼だもの、きっと手も荒れているでしょ。お料理のプレゼントもだけど、恋人がいたわってくれるのもうれしいもんだよ。ルバーブはある分だけ使い切ってしまったから、また息子に届けさせましょうね」
「あ‥‥ありがとうございます!」
 頬にぱあっと朱の色が広がるのを感じながら、アリアは礼を言った。

「あの‥‥リカルドさん、手、出して」
 リカルドの手を握って、ささくれた手肌をいたわる。彼の体温を感じるだけでなぜこんなに嬉しいのだろうと戸惑いながら。
 多分、それはリカルドも同じだったろう。
「も、もういいですよ‥‥アリアさんこそ、がんばったんだから使えばいいのに‥‥」
 と、多少慌てながら、その手を振り解くどころか、されるままにして、アリアの横顔をじっと見つめているから。

 ともあれ、冒険者達の作った新しいレシピは、その料理を食べる人々を幸福にするだろう。
 ある意味料理は魔法よりも不思議、かもしれない。