女が強くて何が悪いのっ!?

■ショートシナリオ


担当:小田切さほ

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月12日〜10月17日

リプレイ公開日:2005年10月23日

●オープニング

 女騎士・レオナ・ラトクリフ、28歳。
 剣の腕は達人級。口も達者。つまり体も心も強い女性、ということだ。
冒険者でもある彼女には、そこそこの稼ぎもある。一応、恵まれた境遇にある、と見ていいだろう。
 それなのに‥‥
 今日も彼女は叫んでいた。
「女が強くて何が悪いのっ!?」
 なぜなら、彼女は7人目の彼氏にフラれたばかりだった。
 7人目の彼、エドワードは言った。
「決してキミが嫌いって訳じゃないんだ。でも、結婚するなら、もう少し一緒にいて落ち着ける女性の方がいいって母が言うんだよねぇ。キミは、ちょっとキツイっていうか、結婚して母と同居したら多分嫁姑戦争が耐えなさそうっていうか、ちょっとアレなんで。バイバイ」
 その前の彼、ジェームスは言った。
「キミさ、もう少し女らしくしたほうがいいよ。いくら剣の腕が強くたって、スリを捕まえていきなり蹴りいれるなんて、それ女の子のやること? 幻滅。っていうか怖いし。バイバイ」
 その前の彼、パーシーは言った。
「女の癖に幽霊とかゴキブリとか泥棒とか、怖がらないなんて、君、可愛くないよ。守ってあげたいって気にさせない女なんて、バイバイ」
 その前の彼氏も、その前のも、そのまた前の彼氏も‥‥
 多少の差こそあれ、似たような捨てセリフとともに去っていった。
「ふっふっふっ‥‥ついに7回もフラれてしまったわ‥‥ふっ‥‥わかったわ。皆、あたくしが強すぎるのがいけないって言うのね」
 自虐的な微笑みで頬をひきつらせるレオナ。では、自分をしとやかに、可愛く見せる技でも磨くかと思いきや。
 彼女は自分が大好きだったので、こう考えた。
「今こそ、世の男性達の意識改革をすべきなのよ!」

 彼女はその日のうちに、冒険者ギルドを訪れた。
 そして始まる大演説。
「世の男性達は間違った価値観に縛られて、本当の女性の美しさを感じ取れなくなっているのよ。あたくしはそれを治してあげようと、思い立ったわけなの」
「はあ‥‥」
 受付嬢も、レオナのあまりの勢いに、戸惑い顔である。なおもレオナは演説を続けた。
「例えば男性達は、付き合っている女性の収入が自分より多かった時、非常にプライドを傷つけられたと感じるわ。もしかしたら、それが彼女と別れる原因になったりとか」
「‥‥ぽろっ」
 受付嬢がなぜか、痛いものが刺さったかのように、羽ペンを取り落とした。
「それというのも、男性は女性が自分よりも常に弱く、劣った存在であるべしという間違った観念に囚われているからなの。男性達は、その間違いに気づいて、強い女性に美しさを感じるべきだわ。そこで!」
 レオナの考えたのは、強い女性の美しさをアピールする芝居を流行らせることであった。
「大体、よくあるお芝居のパターンってあれでしょ? か弱い姫君をたくましい騎士が助け出したりする‥‥あれこそ、男性の勘違いを助長する大きな原因なのよ!」
 そこで、レオナはその逆の芝居を作るのだという。囚われの美少年を、凛々しく強い女性達が救い出すという、逆転ストーリー。
「いいですね! 囚われの美少年、いえもとい、凛々しいヒロイン!」
 と、なぜだか受付嬢も急に盛り上がってきたようだ。美少年、と口に出した瞬間、「じゅる」と唾を飲み込んだようなのは目の錯覚だろうか。
「そこであたくしは、凛々しいヒロイン達、そして襲われるいたいけな美少年といった役どころを演じてくれる冒険者を探しているの。もちろん悪役もね! あたくしは脚本を書くわ。あたくし、こう見えても文才がありますの。ああそうだ、ヒロインの強さ美しさを強調すべく、色々と演出アイディアも暖めてあるの。あたくしに選ばれるヒロイン達は幸運ですことよ。‥‥うふふ‥‥」
 レオナは依頼を届け出ると、もはや芝居は成功したも同然と言わぬばかりにマントを翻し、意気揚揚と去っていった。

●今回の参加者

 ea0424 カシム・ヴォルフィード(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea1003 名無野 如月(38歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea2207 レイヴァント・シロウ(23歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea3991 閃我 絶狼(33歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea5556 フィーナ・ウィンスレット(22歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb1182 フルーレ・フルフラット(30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb2744 ロイシャ・ヘムリアル(23歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 eb3587 カイン・リュシエル(20歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

●一幕目
 とある教会の庭を借り、野外劇場風に仕立てて舞台は行われた。レオナの語りとともに、幕が上がる。
『あるところに、二人の手下を従えた邪悪な女魔法使いがおりました。その魔法使いは、あまりにもダークなキャラのため恋人ができず、できないのなら育ててみようと、美少年をさらっては思い通りに仕込もうと試み、少年たちを恐怖に陥れるのでした』
 魔女役フィーナ・ウィンスレット(ea5556)が手下達とともに登場。黒いベールをまとい小道具の黒い羽扇を操りつつ。
「クックック‥‥今日こそ少年たちを、私の従順な奴隷に変えてさしあげますわ」
 その邪笑の怪しいこと、ベースが端正な美貌だけにコメディ要素はかけらもなく効果倍増。
 客席最前列の子供、本気で怯えてますから。舞台袖ではレオナが、
「フィーナ・ウィンスレット‥‥恐ろしい子ッ!」
 天性の女優発見とて感動に震えている。
 両脇に立つ手下役、レイヴァント・シロウ(ea2207)が、縄で後ろ手に縛られた囚われの美少年達、ロイシャ・ヘムリアル(eb2744)とカイン・リュシエル(eb3587)を舞台袖から縄の先を握って引きずり出す。
「やはり秋の味覚は美少年に尽きますな。今宵も囚われの美少年達にあんなことやこんなこと、とにかく明言したら一般人に石を投げられるようなことをして楽しみましょうぞ」
 本気ですごく楽しそうである。素晴らしい演技力だ。演技ですよね。
「それはさておき、絶狼どの。何やら不穏な動きがあるそうです。わたくしのたくらみを阻もうとする、生意気な女騎士がいるとか」
 フィーナが女ボス的貫禄を演じつつ、もう一人の手下役閃我絶狼(ea3991)に水を向ける。絶狼は
「はっ。ですが、ご安心を。そのような輩、この俺が切って捨てましょうほどに‥‥」
 不気味に低く言いつつ剣をかざして見せる。剣の扱いに慣れているせいか、中々の迫力だ。
「楽しみにしています」
 にやり、と妖艶な笑みを残してフィーナが手下と共に退場。今度はその艶笑に、男性客達がぞくぞくぅ、と震えたようである。
 舞台上には、囚われの美少年役、ロイシャとカイン。頼りなげに身を寄せ合いつつ、
「俺達、魔女の奴隷にされちゃうんだ‥‥」
「泣かないで、きっと助けが来る」
 ロイシャの肩を、少し背も年も上のカインが抱いて慰める。カインは茶色の目に涙を浮かべているあたり、なかなかの演技である。そこへレオナのナレーション。
『囚われの美少年達の間には、いつしか禁断の愛が芽生えていたのでした』
「ええぇ!?」
 あんまりなアドリブにぶったまげる美少年役二人だが、レオナが舞台袖から叱り飛ばす。
「その方が女性客にウケるのよっ! いいからもっと近寄りなさい!」
 ぎこちなくすり寄る二人。
「あ、愛してる‥‥」
「い、いけない‥‥ああっダメだよそんなこと‥‥」
 残念ながら(?)、ここで幕が下り場面が変わる。

●二幕目
 客席の間を縫って、元気よくフルーレ・フルフラット(eb1182)、続いてカシム・ヴォルフィード(ea0424)が登場。
『そんな美少年達の危機に、立ち上がったのは勇ましい戦乙女、そして美少女魔法使いでした』
 レオナのナレーションに、れっきとした美「少年」カシムがひきつった笑顔を浮かべる。
「‥‥よく間違われるけど、男ですから。僕は」
 レオナに再三間違われているらしいカシム、訂正するのをやや諦めている様子。一方、フルーレはあくまで元気よく、
「あれが、男の子達をさらった悪い魔女の城ッスね。早速美少年達を助けに行くッス!」
「でも、魔女には、剣の達人の手下が二人もいるそうですよ。しかも男です。貴方の腕で敵うものかどうか」
 気弱な魔法使い役らしいせりふまわしで、カシムが心配そうにフルーレを引き止める。線の細い容貌に、似合いの役どころである。
「敵わなくても、正義の為に前に進むッス! 困ってる人を見過ごしたら女がすたるッス!」
「そのせりふ、気に入った。女がすたる、か」
 放浪の女剣士役、名無野如月(ea1003)がゆらりと木陰から煙管をくゆらしつつ現れる。
「貴女は‥‥?」
「ちと剣の腕が立ちすぎて、居場所をなくした放浪の身さ。世の中には、自分より強い女が嫌いな男が多いらしくてな」
 如月のせりふに、とっさに目を伏せた客席の男、多数。
「ええっ!? 強い女はモテないッスか!?」
 素でショックを受けているフルーレ。
「いや、そんな根性無しな野郎どもとは、縁がないってことさ。ハナっからな。どこかにそういう、強いお前さんを必要として、お前さんじゃなきゃダメなんだって奴がどこかにいるはずさ」
 客席から、主に女性達による拍手が聞こえた。如月のせりふは、彼女がレオナを励まして言った言葉がベースになっている。レオナが感激して脚本に書き加えたらしいが、舞台上でのせりふになると、強い女性全般に対する応援歌ともとれる。
 カシムとフルーレのコンビに、如月が加わり、一行は悪い魔女の城を目指すのであった。しかし城の入り口には、マスカレードをまとった絶狼の姿が‥‥!
「くくく‥‥貴様らが我が主の下にたどり着く事は無い、何故ならここが貴様らの墓場だからだ」
「たとえ叶わなくても、囚われた人達だけでも救うッス!」
 頬を紅潮させ、フルーレが小道具の剣で切りかかる。その攻撃を、絶狼は右に左にかわし、決定的なダメージを与えられない。しかしカシムのウインドスラッシュで絶狼の刃(実際には張りぼての小道具)を吹き飛ばし。
「やああああッ!」
 気合を込めた一閃。絶狼は一瞬動きをとめ、ゆっくりと地に倒れるのだった。
「ぐうわあああ! ‥‥き、貴様等ごときに‥‥無念」
 目をあけたまま死んだふりをするナイス演技。戦士としての経験がものを言った。リアルさに客席がしーんと静まり返る。
 進む一行の前に、今度は蝶の形の耽美なマスクをつけたシロウが立ちはだかる。
「ふははは、ここから先はこの、ダーク&セクシーな悪役志望、今は悪の手下だがそのうち夜の帝王として全ての射程範囲内の女性――もしかしたら一部美少年も含む――の上に君臨する予定のシロウがお相手してみんとす」
 その危険人物っぷりに引いているフルーレ達。シロウの一見貴族的風貌と身ごなしに「おっ?」と一瞬期待した女性客も引き潮のように引いていく。しぶく戦い倒れた絶狼とは好対照もいいとこである。フルーレが気を取り直して予定のせりふを言う。
「と、閉じ込められてる人達を返してもらうッス!」
「面白い! やってみたまえ、さあ狙えここだフォ〜ッ!」
 妖しく腰を振って挑発するシロウさん。フルーレとカシムが赤面して固まる。客席も含め金縛り状態の中、ただ一人如月が電光石火の攻撃!
 すぱかーん!!!
 気持ちよくスマッシュ‥‥ではない。煙管によるツッコミが決まった。
「ええ加減にしなっさーい!」
「ひゅるるる〜」
 悪役その2、舞台上空に吹っ飛ぶ。レオナの発案による、あらかじめ背中に通してあった細いロープで吊られて浮く仕掛けである。引き上げ時、舞台装置のいくつかにぶつかってどん! がん! と音がしたようだが大丈夫だろうか。シロウがアクション演出用にとオーラボディを使用した模様なのでおそらく大丈夫だろう。
 最後に、縄で縛めた美少年二人を足元にはべらせフィーナさん登場。
「この私を怒らせるとは、運の悪い方たちですね‥‥」
 不気味に言い放ち、ウインドスラッシュを唱える。といっても舞台上のことなので、フルーレやカシム、如月達の立ち位置を計算して舞台周辺の木や舞台装置の垂れ幕に命中させ、攻撃しているように見せかけるのである。のちの共演者達の証言によれば、目が本気でかなり怖かったとのことである。客席の子供がついに泣き出した。
「助けて、ください! 強くて格好良い、お姉さん!」
 囚われの美少年ロイシャの悲痛な声が上がる。
「あんなに怯えてる‥‥あの子たちの体は縛れても、心は決して貴女のものにはならないッスよ!?」
 フルーレの言葉に、ふと眼差しをさまよわせ、寂しさを滲ませるフィーナ。
「いいえ‥‥もうここまで堕ちてしまったのだから後戻りはできない。覚悟!」
 と放った攻撃は、しかし得意の魔法ではなく、小道具の剣でフルーレ達に斬りかかる。だが、細身の体での力いっぱいの攻撃は如月の剛剣によりあっさりと阻止され、魔女の胸にその剣が刺さる。
「わざとスキだらけの攻撃をしたな‥‥? なぜ‥‥」
「私は‥‥待っていたのかもしれない、誰かが止めてくれるのを‥‥」
 淋しい微笑を浮かべ、フィーナが静かに目を閉じた。
 悪役ながら潔い最期に、客席からため息がもれた。ひらひらと、舞台上空から花びらが降る。これもレオナの演出である。ちなみに先ほど倒された悪役二名、絶狼とシロウも教会の礼拝堂の屋根に登り鋭意協力中で秋咲く花をちぎっては降らせている。
「ありがとうございます、助けてくれて!」
 縄をとかれた美少年ロイシャの賞賛の声。
『こうして美少年達を救った強い戦乙女、そして美少女魔法使い、放浪の女剣士たちは、報酬を求めることもなく、ただ正義のために戦い去ってゆくのでした』
 レオナのナレーションと同時に幕が一端下ろされる。そして再び幕が上がると、客席がどよめいた。先ほど舞台の上で活躍した女性陣(なぜかカシムも含む)が華やかにドレスアップして客席に笑顔を振り撒いたのだ。華やかな若草色のドレス姿のフルーレ、大胆に肩を出した黒いドレスの如月、一転してお嬢様風紫のドレス姿のフィーナ。
「いいんだ別に。僕一人が我慢すれば丸くおさまるんだから」
 半ば居直ったカシムは、女性用のブルーのドレスを着せられぶつぶつ自分に言い聞かせている。ともあれ舞台は大反響を呼び、連日客席は満席となった。ただしなぜか、15歳以下の子供は出入り禁止となったそうである。