カタブツ改造計画
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■ショートシナリオ
担当:小田切さほ
対応レベル:フリーlv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 71 C
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月23日〜10月29日
リプレイ公開日:2005年11月03日
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●オープニング
キャメロットに、それはそれは繊細で、楚々とした風情の佳人がおりました。名はネティシアといいました。
彼女は、
「結婚前に男の人とキスするなんて、とんでもないですわっ!」
というような清らかな少女として育ち、やがて彼女と同じ位真面目な――
「靴を脱いだら必ずそろえますっ!」
というような清らかな真面目な騎士と出会い、彼の真面目なプロポーズを受けて結婚しました。
そして、やがて可愛い男の子を授かり、アーサーと名づけ、清らかに大切に育てました。
アーサーは、両親の教えを受け、すくすくと、真面目に清らかに育ちました。それはもう、両親の真面目が濃縮されたかのような真面目っぷりでした。
しかし。
アーサーは幸福にはなれなかったのです。
なぜなら‥‥
「おかーさま! またフラれてしまいました!」
「ええっ!? ま、またなの!?」
帰宅して、母の前でワッと泣き伏すアーサー君。ひたすら清く正しく育った彼も今年で20歳。お年頃だというのに、女の子にフラれっぱなし。
原因は外見では、もちろん無い。
母親の血を受け継いだ彼は、女性的な趣さえある美形である。
今回その美形が幸いしてか、彼は一目ぼれされ、その相手のお嬢さんと二人きりのデートをしたのだった。
しかし。
親から脈々と受け継いだ真面目の血が災いした、とでも言おうか。
アーサーに一目ぼれしたそのお嬢さん、二人きりになったのでのぼせあがったのか、なんといきなり服を脱ぎ、肌も露にアーサー君に迫った。しかしアーサー君は彼女を抱きしめるどころか‥‥
一生懸命、彼女が乱雑に脱ぎ捨てた服を拾っては「きちんと真四角にたたんで」いたそうな。
当然、フラれた。アーサーの右頬に真っ赤な手形を残して。
「お前‥‥この前にお付き合いした女の子とも、確か似たようなことが原因でダメになったんじゃなかったかしら」
ネティシアの口を、思わずわが子を責める言葉がついて出る。
アーサー君は泣き濡れた目をキッと上げ、
「違いますっお母さま! この前のヘンリエッタさんとうまくいかなかったのは、彼女がラブレターをくれたとき、そのラブレターがきちんと角をそろえて畳んでなかったからです!」
そうなのだ。なんでもきちんとしていなければ気のすまないアーサー君、相手のお嬢さんに返事をせっせと書いたのだ。彼女への熱い思いではなく、そのラブレターにあった誤字脱字とあわせて、きちんと畳んでいなかった旨を。
当然、フラれた。「死ねやボケ!」とだけ書かれた彼女からの手紙を最後に。
「その前のお相手の、えーと、ロレッタさんとはどうしてうまくいかなかったんだったかしら」
「ロレッタさんとお付き合いしたのは夏だったでしょ? デートの時彼女が、
『ああ、暑いわねぇ。8月こんなに暑いんだったら、12月になったらどんなに暑いかしら』
なんていうから‥‥」
そこでアーサー君、
「そうそう、8、9、10月とどんどん暑くなって12月はもう暑くて暑くて、って、なんでやねーん!」
とノリツッコミをすればよかったのであるが、いかんせんアーサー君にはギャグ道の基本中の基本ともいえる、彼女のギャグが通じなかった。真面目に、季節の違いについて一生懸命彼女に論じたのだそうな。
当然、フラれた。
「ギャグのセンスのない人は嫌いよ」
というメッセージを残して。
ギャグのセンスなし、細かいわ、色気は通じないわ、と来ては、いくら美形でも女の子が寄っては来まい。
わが子ながら、わが思うように育てた子ながら‥‥思わず、ネティシアの口を、本音がついて出た。
「お前、もうちょっとこう、柔らかくというか‥‥肩の力を抜くというか、そのカタブツっぷりをどうにかできないの?」
「何を仰るのですかおかーさま! 清く真面目に生きることこそ大切だって、そう仰ったのはおかーさまじゃありませんか!」
その通りである。
ネティシアはぐっとつまった。
(「でも、このままじゃ、アーサーは幸福にはなれないわ‥‥」)
そう思ったネティシアは翌日、密かに冒険者ギルドに依頼をした。
「カタブツ君をやわらかくしてくれる人、募集中」
ギルドにそんな依頼が掲示されたのは、それからまもなくのことである‥‥。
●リプレイ本文
●奇妙なお茶会
「新しいお友達を紹介しますからね」
と、母親に言われて出席したお茶会。アーサーは目を丸くしっぱなしであった。
これまでなら、母が紹介してくれる友達は、皆いかにも良家の子女といった感じで、大人しく真面目、なのだが。今回は妙だった。何しろそのメンバーというのが、「遠い親戚の息子さん」だと紹介されたハーフエルフのカイン・リュシエル(eb3587)、やけにかしこまっているジャパン人の少年、酒井貴次(eb3367)、やたらなついてくるドワーフの少年ヲーク・シン(ea5984)、やたら元気のいいクリムゾン・コスタクルス(ea3075)、しょっぱなからずっと小鳥のようにお喋りを囀り続けているチェルシー・ファリュウ(eb1155)。
アーサーが馴染めそうなのは眉間にたてじわを寄せて何やら悩んでいるセドリック・ナルセス(ea5278)、大人しそうな美少女のラシェル・カルセドニー(eb1248)くらいなものだ。
「あーっと‥‥のまねーのかよ? じゃなかった、お飲みなさい、アーサー‥‥さん」
「年頃のお嬢さんがそんなに肌を出して‥‥!」とネティシアに卒倒されそうになり、やむなくドレスを借りて着たものの、窮屈そうなクリムゾンが「ブン!」と言う感じで茶器を差し出す。珊瑚色のドレスが日焼けした健康な肌に映えているが、動作が荒っぽいのはどうしようもない。アーサーの顔から血の気が引いた。
「この胡桃のはちみつがけ、おいしーよ。おねーちゃんもほめてくれたんだよー」
余程姉と仲がいいのか、「おねーちゃん」を連発して手作りのお菓子を差し出すチェルシー。ヲークに至っては、アーサーの母親のネティシアに、
「年齢を感じさせない肌、母性と優しさをたたえた蒼い瞳‥‥その優しさで俺のロンリーハートを包み込んでくれ〜!」
と口説きをかけ、右頬を紫色に腫らして席に戻ってきた。
「いかん、美女を見ると年の差と人妻ということを忘れて反射的に口説いてしまった」
と呟きながら。
「なんと対照的な‥‥ヲークさんとアーサーさんはまさに両極というところか。あんな真面目な息子さんに育てるために、どのような教育を行ったか教えて頂けますか? ‥‥あの、その‥‥参考に‥‥」
パラの学者、セドリックがネティシアに聞いている。
「特に意識したわけではないのでしょうけれど、やはりカエルの子はカエル、なのでしょうね。そういえば、セドリックさんにはお子さんがおられるのでしたね。貴方のお子さんなら、さぞ可愛らしいことでしょうね」
「いや、それほどでも。しかし近所ではもっぱらそのように噂されているようです」
言いつつ顔がにこぱ〜っと溶けかけているセドリック。
一方、人妻(しかもかなり年上)を口説くヲークに目が点になっているアーサーは、ヲークに、
「いや〜、あんな綺麗なお母さんでうらやましいよな〜。理想が高くなってなかなか彼女できないんじゃねーの?」
なれなれしく髪の毛をくしゃくしゃされ、青筋がこめかみにぴくぴく状態。
「仮にも人の妻に対してなんという言動ですかっ!? それに僕の頭を弄るのはやめてくださいっ!」
「僕だって、好きになったら、たとえ人妻だろうととりあえず口説いてみるけどなあ。だって、僕のママはいつも教えてくれたよ。心を偽っちゃダメだって」
と赤毛の美少年カインが猫めいた笑みを送る。15歳の少年とはいえ、プレイボーイの素質推して知るべしと言うところだ。
「女性だってさ、口説かれて悪い気はしないはずだぜ。なっ」
「なっ」と話をいきなり振られて、ラシェルが目をぱちくりさせる。
「えっ? ‥‥あの‥‥私はそんな経験ありませんけど‥‥でも、好きって言われたら嬉しいでしょうね、きっと‥‥」
頬にさっと朱色をのぼせるラシェルには、さすがのアーサーもガラス細工を見るように眩しそうだ。だが、アーサーは尚も言い募る。
「でも、女性に思いを打ち明ける時にも、やはり礼儀を失するべきではないと‥‥」
「そーだよねそーだよね! まして好きな女の子に夜中までお酒飲ませるなんて絶対ダメだよね! だってさ、おねーちゃんの彼氏なんてね、こないだ夜中にね!」
とチェルシーが割り込んできた。
「あのな。チェルシー。あんたの話は後でゆっくり聞いてやっから。な?」
クリムゾンに肩を「ぽむ」され、不満そうに頬をふくらませて引き下がるチェルシー。クリムゾンはアーサーに向き直り。
「あんたさ、そんな生き方しててしんどくねぇか? 真面目な部分はあたいも見習いてぇけどさ、人生にゃ心を押さえ切れない時だってあるだろ。そんなことばっかりじゃ身がもたねえぞ」
いたわるように言われて、アーサーもほろりとしたのか、「んー」と首をかしげた。なにやら「胃が‥‥」と独り言をつぶやきつつ、分析していたセドリックもさらに押す。
「それに、今までも貴方に思いを寄せた女性もいたでしょう。『真面目』とは、真剣である事、誠実である事です。あなたは作法や順序に対しては実に真剣ですが、相手から向けられた思いには、どのような対応をしましたか? 貴方の真面目さが人を傷つけるとしたら、その真面目さは間違った方向にあるのではないでしょうか?」
「頭ではわかってるんです。僕といると疲れるって友人にも言われて‥‥でも、どう変わればいいのでしょうか」
「でも、自分を否定したら何も始まりません。アーサーさんの真面目さを愛してくれる家族がいるのですから、きっとそんなアーサーさんを好きになってくれる人にも出会えると思います。アーサーさんご自身はどうなりたいのですか? 自分の生真面目さを大事にしつつ、少しやわらかくなれたらそれが一番ですよね?」
と、自身も真面目な貴次が励ます。
「僕は‥‥両親を尊敬しています。几帳面でウソのつけないところとか‥‥だから、そういう真面目さは大切にしたい。でも、人をくつろがせる優しさもあればいいな、と思っています」
アーサーの理想はちょっと難しい。でも、冒険者達との会話を通して、自身の真面目さを見つめ直せたようだ。
「んー、ちょっとレベルは高いかもね。でもそんな人ならおねーちゃんの彼氏になってもいいかもねー」
森羅万象すべてを「おねーちゃん」と言う名の窓を通して見るらしいチェルシーが呟いた。
「優しさってのは強さだぜ! まずは心を鍛えることだ!」
と、なぜかアーサーを剣のけいこに誘い出すヲーク。
「うっしゃ! 手伝うぜ」
席を立ちかけたクリムゾンは、しかし。
「ああ、クリムゾンさんは残って。お化粧の仕方、髪の整え方をみっちり教えて差し上げますわ」
ネティシアに留められ、
「‥‥げっ、まじかよ‥‥じゃなかった、ご親切痛み入るでございます‥‥」
ぎこちない答えとともに残らざるを得なくなった。
「ま、頑張ってね。僕はもう少し、お茶を頂いていこうかな‥‥美しいネティシアさんの姿でも眺めながら、ね」
相変わらず猫っぽい笑みとともに言うカインはあくまで不真面目推奨派代表というところか。依頼のためにキャラクターを演じているとのことだが、怜悧な外見とマッチしすぎて怖いものがある。
●イケイケボーイズ!?
やがて。アーサーの家の庭でなぜか雨の中、泥だらけになって剣の素振りや回避術を繰り返しつつ熱く語り合うヲーク&アーサー師弟がいた。
「風邪でも引かれるといけませんよね。止めた方がよくないですか? あの‥‥真面目さをやわらげるなら、楽器でもお教えしようかと思っていたんですけど」
稽古を見守りつつ気をもむラシェル。
「でもっ。男同士の熱い姿ってかっこいいですよね! アーサーさんのあんな一面を知ったら、そこを好きになる女の人もいるかも!」
となんだか感動している貴次。
「遠くから見て美しい景色も、支えているのは土だ」
とヲークの教えに、アーサーはかしこまって返事をする。
「はいっ、先生!」
「この木々も地中深くに根を張っているからこそ、風雪に耐え此処まで成長出来た。君は女性が服を脱いだ時、服の方を見た。それは女性に対して真面目に向き合ったと言えるのか? 手紙の折り方も‥‥何故、相手の女性の手が震えた『理由』を思い遣る事が出来ない? 君の真面目さは表面的な物だ、地に根を張っては‥‥いない。しっかりと現実を見据え、常にその奥を想像するんだ!」
「はいっ、先生」
「つまりこれは、服を着た女性を見たらすかさずそのバストサイズがどれくらいかを想像するということでもある」
「‥‥???」
「『優しさ』を培う第一段階、それは女性の美しさを鑑賞する技術を養うことだ。ゆえにこれから泥を洗い流し、ナンパへ行こう!」
「はっ? ‥‥はい‥‥先生!」
熱い男の姿に見とれていた貴次が、呆然と見送るのを取り残し、野郎二人はひたすら女子探求の道へと繰り出すのであった。
ともあれ、ヲークの熱い語りに心酔したアーサーは、素直に日々ナンパに励んでいるということだ。真面目なだけに、転向しても熱心なのである。
「前言撤回っ。アーサーさんも絶対おねーちゃんには紹介しないよ」
チェルシーはきっぱり断言したという。
とはいえこれも、彼の真面目の壁を打破する第一段階と言えるのかもしれないが‥‥
一方。
「っくあ〜〜〜! これ以上窮屈なのぁ我慢できねー!」
ネティシアに髪をカールされ薄化粧された美々しい姿ながら、ストレスてんこ盛り状態となったクリムゾンは、人気のない場所で、ガンガン壁を蹴りつけていたのだった。