国際結婚ハラヒレホレハレ
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■ショートシナリオ
担当:小田切さほ
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月21日〜05月26日
リプレイ公開日:2005年05月30日
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●オープニング
銀細工職人のデック親父には、一人娘がいた。その名はレベッカ。なぜか父に似ない美少女だった。女房に先立たれたデックにとっては、娘の成長がいきがいだった。できればいつまでも、嫁になど行かずにそばにいてくれ‥‥と願うこともある。たった一人の家族である娘は、まさにデック親父にとって掌中の珠だった。
だが、ついに「その日」はやってきた。
レベッカはうららかなある春の日、デック親父に頬を染めて打ち明けたのだ。
「父さん。会ってほしい人がいるの」
デック親父は、かねて覚悟を決めていたとはいえ、ガガーン! と全身に走る衝撃をこらえることはできなかった。
「つ、つつつついに来たか、この日が‥‥あ、相手はい、一体ど、どんな奴だ」
「あのね、実は、今日、家に来てもらってるの‥‥千五郎さあん」
レベッカはデック親父の工房を兼ねた小さな家の外に向かって呼びかけた。入ってきた若者は‥‥背はそれほど高くないが、日焼けして健康そうだし、はにかんだ笑顔に少年ぽさが匂う。まず十人並み以上の男ぶりといって良いだろう。だが、その頭頂部にある、髪の独特な結い方がまず目を引いた。もちろん黒髪に黒目だ。
「ジャ、ジャパン人!?」
「そうよ、千五郎さんはね、ジャパンは京都のとある染物屋さんのご長男なの。イギリスのハーブ染めの技術を習いにイギリスに去年から来てるのよ。それで私と知り合ったんだけど、こっちの食事も口にあうし、将来的には、弟さんに家を継いでもらって、イギリスに住んでもいいって言ってくれてるの」
レベッカが嬉しそうに報告する言葉を、親父はほとんど聞いていなかった。もとより父親にとって一人娘を他人に奪われるだけでも十分ショックなのに、その上相手が異国人であるという衝撃はあまりにも大きかったのだ。
「い、いかんいかん!!」
デック親父は怒鳴った。
千五郎という若者が、ぎこちないイギリス語でなだめにかかる。
「聞いて下さい、お父さん‥‥」
「誰がお父さんぢゃ! ワシは、腐った豆を食うし、すぐハラキリしたがるジャパン人なんかの父親になった覚えはないわい!」
「父さんたらなんてこと言うの?! 腐った豆ってナットウのこと? ナットウはおいしいわ! それに、千五郎さんは侍じゃないからハラキリなんてしないわ!」
レベッカが憤然と愛する青年をかばうが、デック親父がそうすんなり納得するはずもない。なにしろデック親父、頑固職人の常で、あまり世間のことに関心が無い。必要な時しか外出することもない。ゆえにジャパン人については聞きかじりの知識しか持っていないところへ持ってきて、大事な娘を奪ってゆく男に対する敵意がそれに拍車をかけている。
しかし、レベッカの怒りもまたすさまじかった。親父に似て根は一本気な娘は、
「もう父さんとは口利かない作戦」
を二週間にわたり行使。さしも頑固なデック親父も、二週間後、ついにレベッカに頭を下げた。
「わ‥‥わかった。お前の気持ちはようわかった。ただ、千五郎さんとやらのご両親がどんな人なのか、よく腹を割って話したい。一度、ウチに来てもらって、一緒に酒を酌み交わして人柄を見てみたいんだが?」
つまり、お近づきのしるしに宴会を開こうと提案したのだった。酒好きのデック親父らしい提案ではある。
「やっとそこまで考えを変えてくれたのね! 大丈夫、千五郎さんのご両親と弟さんだもの、きっと素敵な人達よ!」
レベッカ及び千五郎の喜ぶまいことか。
「それじゃ、私達は早速、千五郎さんのご両親を迎えに行って来るわね!」
「えっ‥‥? お前達が一緒に準備をしてくれるんではないのか?」
「千五郎さんのお父様は少しだけ脚がご不自由なんですって。慣れない異国への旅は心細いだろうから、お迎えが必要でしょ。まだ千五郎さんもイギリスの事情に詳しくないし」
レベッカに言われて、デック親父は返す言葉を失った。
「じゃ、父さん。宴会の準備お願いねっ」
「よろしくです、お父さん」
レベッカと千五郎は早速、手に手をとってウキウキと出かけてしまった。
家に残ったデック親父は、一人パニックに陥っていた。
「どどど、どうしよぅ〜。ついレベッカ可愛さにあんなことを言うてしまったが、まさかワシ一人でジャパン人との酒宴の準備をせにゃならんとは‥‥ジャパン人ってナットウ以外は何食うんだ? まさかとは思うが夜中にモノ食ったら凶暴になったり、水を浴びたら数が増えたりせんだろうな? つーか、言葉も通じんのにどうやって酒を酌み交わすんだ? 手まねで会話‥‥ってものすごマヌケな光景になってしまうわい。意思の疎通がうまくいかなくて相手が怒ったりしたらヤバいなあ。怒ったらシュリケンとかいうもんを投げてくるらしいからなあ。いかんいかん、これじゃ相手の家族の人柄を見極める宴会の準備どころか、モンスター相手の戦闘準備になってしまう」
彼の考えはいずれも微妙に間違っているが、月道の開く日が間近に迫り、悩んだ果てにふと、レベッカが言い残した言葉を思い出した。
『父さん。もし、準備が手に余るようだったら、冒険者ギルドにお手伝いを頼んでね』
「‥‥そうか、困った時の冒険者ギルドか! おおぉ〜! 娘よお前は天使だ!!」
デック親父は、ギルドに向かってダッシュした。
●リプレイ本文
●デンジャラス・オヤジ
それは運命の日であった。千五郎とレベッカの国際結婚カップルの家族が初めて出会う日。ジャパンについてあまりにも無知だったデック親父は、事前に冒険者達のレクチャーを受け、さすがにジャパン人をニンジャや妖怪と混同する愚は無くしているが、一人娘を奪われる寂しさはやはり千五郎とその家族への敵意となってにじみ出る。
「はじめまして。千五郎がこちらのレベッカさんにお世話になっておりますようで」
千五郎の両親、千右衛門とお民。それに千五郎の弟千之助が丁寧に挨拶をする。しかしデック親父、表情も硬く宣言する。
「言っておくが、まだジャパン人の婿なんぞ認めたわけじゃあないぞい。今日はあくまで、お互いを知るための宴じゃ」
千右衛門も、ムッとしてやり返した。
「そら、ウチらかて別にエゲレス人の嫁なんぞもらわんでも、千五郎にはなんぼでもええ縁談がおます」
「レベッカだって、何も頭にシッポくっつけたジャパン人と結婚せいでも、なんぼでもいい縁談はあるわい!」
「頭にシッポとはなんどすねん!」
「そっちこそ、レベッカをバカにすな!」
限りなくヒートアップしそうな両オヤジを見て、レベッカと千五郎がおろおろしている。危うくつかみあいに発展しかけたとき、彼らの言葉を現代共通語で通訳していたアデリーナ・ホワイト(ea5635)がよよとばかりに泣き崩れた。
「国際結婚というすばらしいロマンスが、つまらない争いで壊れてしまうなんて、哀しゅうございます。わたくし、通訳を下りさせていただきますわ!」
エルフの淑女アデリーナ、どこかで演技を磨いたらしく、真珠の涙をこぼしつつ、立ち去ろうとする。涙は女の武器という。こうなると逆にオヤジたちがうろたえた。
「いやあの。わしらは別に」
「そうそう、ちょっとした意見の相違ぢゃ」
オヤジ達が冷静になりかけたところへ、二人のたくましい男達が立ちふさがった。
「せっかくの宴だ、楽しもうではないか。それとも、我々の用意を無にしたいというなら‥‥」
渋い低音でレインフォルス・フォルナード(ea7641)が言いつつ、バキッと不気味に指を鳴らす。筋肉隆々の陰陽師・山吹葵(eb2002)が、
「むん!」
と念を集中し、おごそかに託宣する。
「今宵は星の位置、風、すべて宴にうってつけの日。しかし争い事が起これば悪しき『気』の流れが生じ、ここにいる全員に凶事が降りかかるでござる」
「へへ〜わ、わかりました〜」
二人の巨漢の眼光に射すくめられて、オヤジ×2は大人しく宴の席についた。
すかさず、リオン・ラーディナス(ea1458)が、
「千五郎さんはそっちじゃなくて、ここに座ってよ。俺達がレベッカさんの向かいに座ってるとさ、酒より先にレベッカさんに酔っちゃうじゃん?」
と笑わせながら、デック親父に遠慮して隅に座っていた千五郎をさりげなく中心に座らせる。見たところリスみたいにはしっこい若者だが、頭の回転が速く気配りも細かいのでパーティー要員にはうってつけのリオンである。
「はいっ、アツアツカップルが向き合ったところで、両家の親睦に乾杯―っ!」
千右衛門達もエールは初めてだったが、リオン達の演出した宴会ムードにより、あまり抵抗無く飲めたようだ。
「これはええ香りの酒どすな。対抗するわけやおまへんが、これはジャパンの酒・ドブロクと、肴の山菜のニモノどす。エゲレスの皆さんに、ジャパンを知っていただくためにお持ちしたのどす」
千右衛門が土産の品を差し出した。
「ほう。これは珍しい。早速味わわせていただこう」
酒豪のエレナ・アースエイム(ea0314)が、見るからに美味そうな仕草でドブロクの注がれた杯をくいっと干した。
「うむ、口当たりはまろやかで後口はすっきりと。これはかなり吟味された一品とみました」
「あんさん若いのに、ようわかってはりますがな。ニモノも味見しなはれ」
勧められて、エレナが臆せず口にしその味を褒めると、千右衛門とお民はかなり気を良くしたようだ。
一同がジャパン・イギリス両国の酒を味わったところへ、ほっそりした長身の男性が、湯気の立つ皿を運んで現れた。
「千右衛門さん、お民さん、千之助さん、イギリスへようこそ。料理人のリカルド・シャーウッド(ea2198)です。今日はイギリスとジャパンの味覚両方を満足させる料理を試みてみました。ゆるりとお楽しみください」
千右衛門達も、珍しげな料理に最初戸惑っていたが、彩りの美しさと香りに惹かれて食べ始めた。とりわけ好評だったのは白身魚をすり潰して卵を混ぜ、プディング風に蒸し焼きにして薄味のソースをかけた一品と、デック親父の釣ってきた川魚を軽くあぶってハーブを混ぜた熱い油をかけまわしたもの。
「いやあ、エゲレスでこない美味しい魚料理が食べられるとは思いまへんでしたえ」
お民が感嘆の声をあげる。
「光栄です。試作を重ねた甲斐がありました。繊細な味覚をお持ちのジャパンのお方に褒めていただけるのは、料理人の誇りです」
「笑うと目がなくなる」
と仲間が評する笑顔で、葵に教わったジャパン風のお辞儀をするリカルド。千右衛門は彼が気に入ったらしく、今日は裏方だからと断る彼を無理矢理宴の席に引き入れた。
同じものを美味しく食べたことで、両家のオヤジ、それにお民や千之助達も大分打ち解けてきたようだ。
「飲みすぎちゃダメよん。ちゃんと向こうのご家族と、お話しなさいね。どうしても酔いたいんなら、あたしの踊り見てからにして頂戴」
ジャイアントのジプシーの女性、ターム・エリック(ea6818)が、急ピッチで酔おうとしているデック親父を優しく叱っている。踊りで鍛えた長い脚を惜しげもなく露出する衣装をまとい、常にいたずらっぽい表情を浮かべた、いわば色気の特大盛り一丁といった彼女にはさしもの頑固親父もすっかりゴロゴロと手なずけられ、酒に逃げることなく一生懸命千右衛門たちに話し掛けた。
その結果、お互いに娘と息子を手放す寂しさは同じであること、お互い職人気質であること、それに同じく釣りが趣味であることなどを発見した。
アデリーナが通訳時にひそかに言葉を補ったり、ちょっと誇張したりしたせいもあるが、すっかり雪解けムードだ。
「エゲレスもジャパンと同じ位ええところかもしれんわ。せっかく月道があるのやし、私も度々エゲレスに来ようと思いますねん。あんさんその時はまた、通訳しとくなはれ」
千右衛門はアデリーナに頼んだ。
「ええ、ぜひそうなさってくださいまし。私もジャパンのことを色々うかがいとうございますわ。特に最新式フンドーシのことなどを」
天然淑女・アデリーナの興味はちょっと変わっている。
●狂乱の宴
「僭越ながら、レベッカさんと千五郎さんの幸せを祝して、歌をささげさせていただきます」
宴たけなわとなった中、シルキー・ファリュウ(ea9840)が立ち上がった。
「新しい門出幸せの旅路
幸せになってと柔らかな風が
二人を包み込む」
高く澄んだ声が謳い上げる。
「素敵‥‥! ねえ、ぜひ私達の結婚式でも歌ってもらえない?」
レベッカ達が興奮気味にシルキーに頼み込む。
(「結婚式か‥‥私にもいつかそんな日が来るのかな」)
シルキーの心にふと、とあるエールハウス経営者の青年の面影がよぎった。今のところはいい友達だけれど、この頃気になる存在の彼。
「友達や妹さんを連れて店にきてくれるのは嬉しいけど、たまにはシルキーさんと二人だけで会いたいです」
先日、突然ぽつりと言われた。冗談かと思って笑い飛ばしたら、彼は妙に悲しそうな顔をした。
そのときのことを思い出しながら歌うと、いつもより甘く歌声が響いた。
タームが立ち上がり、シルキーのオカリナを伴奏に、ゆったりと舞い始める。次第にダンスのテンポは速まる。リズムを刻む長い脚が衣装の裾からこぼれ、彫りの深い顔にうっすらと汗がにじみ、さらに色気の特盛り状態。
「おおー、これがビザンチンの舞というもんどすか」
千右衛門達はタームの動きに見入り、歓声をあげる。
ドブロクとエールの酔いにほのかな桜色の肌となったエレナを見つめ、千之助が、
「ぼく、エレナに似合うキモノ地を染めてみたいな。エレナ、いつかジャパンへ来てくれる?」
と言い、剣を操れば男顔負けの戦士である彼女を照れさせている。
「俺もエジプトからイギリスに流れてきた余所者だが、この国は決して余所者に冷たくはないと思う。己を信じて、腕を磨くことだ」
と、千五郎を励ますレインフォルス。お民に
「同じジャパン人として、千五郎を見守っておくれやす」
と頼まれ、
「微力ながら、精々お助け申そう」
バキッ! と見事な力こぶを作っている葵。
宴はまさにジャパン・イギリスの一大異文化交流会の様相を呈して、予想外の盛会となった。ただしその後、デック好みの発泡酒やドブロクのせいで、冒険者達にも泥酔者続出。
その詳細は以下のとおりである。
宴に華を添えたバードのシ○キー・ファリュウ(あえて仮名)嬢は、
「国際結婚ってサイコ〜らね〜、デックひゃん!」
と叫びつつデック親父の薄い頭をペチペチ叩き、同席者達に取り押さえられる。若き料理人のホープ、リ○ルド・シャーウッド氏は酔いつぶれてテーブルで熟睡。それを目撃した踊り子ター○・エリック嬢は、
「いや〜ん、可愛い寝顔〜。猫ヒゲかいちゃえ」
ひそかにイタズラを敢行。
そしてデック親父の愚痴に前夜から付き合い、宴の当日も親父の酒の相手をつとめていたが、宴会途中から行方不明になり心配されていたリ○ン・ラーディナス氏は、翌朝、近在の農家の畑内でキャベツに頬擦りしつつ爆睡しているところを発見された。
いろんな意味で、出席者全員に思い出深い宴となった。
尚、レベッカと千五郎は、後日冒険者達を改めて招待し、小さな教会で永遠の愛を誓い合ったそうである。