変っ‥‥身!?

■ショートシナリオ


担当:小田切さほ

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや易

成功報酬:1 G 87 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月11日〜11月17日

リプレイ公開日:2005年11月22日

●オープニング

 押忍!!
 オレ達はまだまだ駆け出しの弱小若手劇団ッス。
 野郎ばっかりで構成してるうえ、格闘大好きな連中ばっかりだもんで、当然演目は戦いを中心とした英雄伝説なんかッス。
 おかげで筋肉マニアなお客は入るけど、なかなか客層が広がらないッス。
 今日も野郎ばっかで、より見栄えのする格闘シーンを演出するため水の入った樽を持ち上げたり下ろしたり、仲間同士で組み打ちやってたりして筋肉鍛えてるッス。
 今年のクリスマスも、こうやって男同士で「もっと腹の底から力を込めろー!」「ドォーッ!」とかやってるうちに過ぎてゆきそうッス。
 寒風がひときわ身に沁みるッス‥‥トホホ‥‥
 とはいえ、オレ達だって、せっかく鍛えたこの体、女性に見てもらわなくてどうするって、最近考えてるッス!
 けど、オレたちの芝居見てくれるような女性って、あんまりいないッス。
「筋肉ムキムキ男ばっかりの芝居って見る気しなーい」
 とか、
「なんか女性見る目がギラギラしてて帰りに襲われそう」
 とか言って、もっと美少年系の役者さんが出てる芝居に走ってしまわれるッス! くぅ〜!!
 襲われるだなんてとんでもないッスよ!
 オレ達こう見えても結構紳士ッス!
 筋肉を鍛えてるのは、正義と感動を世の中に芝居を通して伝えるためッス。まあ確かに、鍛錬しすぎて目つきが悪くなったかもしんないッスけど‥‥トホホ。
 でも、オレ達は女性ばかりでなくもっと、幅広い客層――たとえば未来をになう子供達――にオレ達の芝居を見てもらいたい。
 そんな願いを込めて、オレ達一生懸命、新しい芝居を考えたッス!
 でもオレ達だけじゃうまくいかないとこもあるんで、ぜひ冒険者の皆さんに協力してもらいたいッスよ!!
 タイトルは「変身騎士」ッス!
 今んとこ考えてる設定としては、弱弱しいヒーローが神から授かった鎧を身にまとうと、途端にパワーアップしてバッタバッタと敵をやっつけるって感じッス。
 その、神から賜った鎧をまとうシーンを、二人一役の早変わりで見せるッスよ。つまり、ヒーロー役が舞台装置の影などに飛び込み、すぐに同じ場所に潜んでいた、鎧をまとったもう一人のヒーロー役が入れ替わりに飛び出すってことッス!
 うまくいけば、本当にヒーローが一瞬にして鎧を身に着けて「変身」したように見えると思うッス。
 美少年系が弱い変身前のヒーローを演じてくれたら、女性達だってきっと、ハラハラドキドキ応援してくれるッス! オレ達じゃあどうやっても女性客がハラハラドキドキ見守るような、弱弱しいヒーローになんないッスから‥‥トホホ‥‥
 もとい。
 変身前のヒーローとか、襲われる役は冒険者の皆さんに一任したいッス。
 俺たちは変身後の、鎧の騎士をやってもよし、それも冒険者さんが演ってくださるなら、できれば敵役の「ダークマッチョ団」としてヒーローやヒロインの皆さんに襲い掛かりたいとか思ってるッス。
 あ、お、襲うといっても芝居の上でのことッス!
 まさかマジであんなことやこんなことをやったりは、決して!
 いくらオレ達が淋しい筋肉男集団だからって、それは絶対ないッス。
 それはもう天地神明に誓って。
 とにかく、依頼掲示してくださいッス!
 個性的な冒険者さんを、オレ達一同胸をムキムキさせて、じゃなかった、胸をドキドキさせてお待ちしてるッス!!

●今回の参加者

 ea5884 セレス・ハイゼンベルク(36歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea6954 翼 天翔(33歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea9144 虞 百花(24歳・♀・僧侶・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb2002 山吹 葵(48歳・♂・陰陽師・ジャイアント・ジャパン)
 eb2849 沙渡 深結(29歳・♀・忍者・パラ・ジャパン)
 eb3349 カメノフ・セーニン(62歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb3587 カイン・リュシエル(20歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

●剣と心と
 舞台は町の広場の一部で行われた。大きな樫の木をそのまま舞台の中央に据え、その左右に幕を張る形で。
 変身前ヒーロー役カイン・リュシエル(eb3587)と恋人役の翼天翔(ea6954)がデートしている場面から。
 日ごろいろっぽ過ぎる天翔も、さすがに子供向け舞台のヒロイン役とあって、金髪を編んで垂らし、灰色のスカートに白いブラウス姿と地味な服装。だがかえって不思議な色気をかもし出す結果となっている。
 カインは、修行中の少年騎士という設定で、懸命に剣の素振りを練習しており、天翔はそれを見守っているところである。女性観客の目は、細身のカインが、手のひらで額の汗を拭う仕草に、集中している。
 天翔がカインの腕にもたれかかるようにして甘く言う。
「ねぇ、少しは休憩しない?」
「でも、僕は、もっと強くなりたいんだ。そして騎士として、困っている人たちを助けなくちゃ」
「真面目なのねぇ‥‥でも、私はそういう貴方が、好き」
 清純な乙女が言えば初々しい告白なのかもしれないが、天翔が口にすれば聖者もニャ〜とその豊かな胸に甘えて行きそうな誘惑の言葉に聴こえる。カインもちょっと目が泳いだが、舞台という衆人環境の中でもあり、ぐっと表情を引き締めて。
「き、君の心に応えるためにも、僕はもっと強くなりたい。お師匠様ー! どうしたらもっと強くなれますか!?」
 剣術のお師匠様役、山吹葵(eb2002)が、寒風の中、なぜか上半身裸で「ふん! ふんっ!」と拳を突きだしつつ登場。
 「ムキッ」とポーズをとりつつ、
「葵ちゃんの筋肉占い‥‥愛を守るために強さを願う、おぬしの心は既に強き『騎士』。その心を大切にするならば、おのずと道は開かれるでござる」
 占いで鳴らした重々しい声音で言うせりふ回しは、なかなかのものだ。ポーズと姿はともかくとして。
 と、そこへ、いたいけな子供役の沙渡深結(eb2849)が、買い物篭を手に下げ、フリフリのワンピースに純白のエプロンをつけた愛らしい姿で登場。
「おかーさん、行ってきまーす! うん、おじいちゃんにちゃんとこのお薬を届けるよ! らんららんららーん♪」
 ちょっぴり説明ぽいセリフではあるものの、小柄な体に細身を生かしてとても19歳には見えない少女らしさである。
 そこへ‥‥
「わーっははは! 我々は悪の筋肉軍団『ダークマッチョ団』!」
 客席の間や舞台袖からバラバラと黒皮のぴっちりした衣装‥‥ぴちぴちのベストに半ズボン‥‥の、筋肉ムキムキの怪しい集団が登場。子供役の深結を捕まえ。
「くっくっく、我々の生贄にぴったりの子供だ」
「きゃー!!」
 カインが止めに入る。
「いたいけな子供に、何をするんだ!」
 だが、ダークマッチョ団頭領(?)の、とりわけ見事な筋肉に鎧われた男が、子供を救おうと男達につかみかかるカインの腕をむんずと掴み、ねじ上げる。と、別な筋肉男がカインの両足を軽々と持ち上げ、投げ飛ばした。
「うああっ!」
 整った顔から舞台に落ちるカインの姿に、女性観客の悲鳴が上がる。
「ならば私が!」
 葵が「ムキッ」と筋肉をみせつけつつ進み出るが、マッチョ団の群れを縫うようにして、虞百花(ea9144)が妖しげに登場。細身で小柄ながら、ツノが生えたような怪しいヘルムと漆黒の地にビーズを縫い付けた衣装で、十分過ぎる程怪しい存在感である。ちなみに彼女の役どころは、「邪悪な巫女」という設定である。
「ごめんやしておくれやして、おくれやっしー!」
 と、少々巻き舌なのは、本番前に緊張していた彼女に、カメノフ・セーニン(eb3349)が「景気付けじゃて」と酒を飲ませたせいだ。しかし大人しい百花の地のキャラクターでは、到底ここまで悪役にハマることはなかったであろう。
「ちょっと兄ちゃん、ええ体してるやんけ〜、この兄ちゃんもダークマッチョ団の仲間にしたり〜!」
 と百花がぱちりと指を鳴らすと、筋肉男達がロープを出し、葵をぐるぐる取り巻きながらからめとる。
「ああ〜っ、苦しい〜もっとぉ〜」
 と葵さんが悲鳴を上げつつどこか嬉しそうなのは、多分目の錯覚だ。葵と深結を連れ去り、ダークマッチョ団と怪しい巫女は姿を消す。
「お‥‥お師匠様! ‥‥くっ‥‥僕に、もっと力があれば‥‥」
 カインが拳を固めて樫の木の幹を叩いて嘆く。見守る天翔が、豊かな胸の前で指を組む。
「神様、どうか彼にお力を‥‥彼の心は十分に強いのに、どうして同時に剣の力も授けてくださらないの?」
 と、地面についた膝を崩して天を仰ぐ。すると‥‥
「ほっほっほっ。ならば心の強さに見合う力、授けて進ぜようぞ」
 リトルフライの魔法を使い、ふわふわと樫の木の陰から浮かびつつ現れる神様役・カメノフ。純白の衣装と好々爺然とした表情が相まって、結構それらしい神様に見え、観客がどよめく。
「そなたに真の正しき心があるというのなら、その剣をかざし、『変身!』と叫ぶのじゃ」
 舞台道具の輝く剣をカインの目前に差し出す。カインが膝まづいて受け取る。
「あ‥‥ありがとうございます!」
「いやいや。美しい乙女の心には応えねばのう」
 とカメノフは言いつつ、天翔のバストを「もみっ」しようとして。
「おじいちゃんたら、や・り・す・ぎ」
 低〜い声で囁く天翔に手をがしっ! と掴まれる。
「で、では存分に戦うがよい‥‥あたたた」
 手をさすりつつ、またふわふわと神様は木の枝の間に姿を消した。
「剣よ、僕に力を‥‥『変身』っ!」
 カインが樫の木の木陰に飛び込む。
 と、木の反対側から飛び出して来たのは、既に鎧姿に身を固めたセレス・ハイゼンベルク(ea5884)。背格好はほぼカインと同じ位だから、カインが瞬時に鎧を着けたように見える。観客から驚きの声が大きく上がった。しかもセレスの動きはナイトだけあって剣を扱いなれている。剣を腰に溜めてから大きく振りかざし、ポーズ。
「お師匠様! 今行きます!」
 客席から歓声が上がる。
 駆け出そうとするセレスに、天翔が近づく。
「気をつけてね。私のために、無事で戻って‥‥」
「あっあの、い、行ってきま〜す!」
 途端にぎこちない動きになりつつ、セレスは舞台袖に駆け出す。天翔も舞台袖に引き、無人となった舞台にまたダークマッチョ団と巫女、囚われの深結と葵が現れる。
「子供。ここで生贄となれぃ」
 悪のマッチョ団が深結に剣を向けた時。「待てっ!」叫びとともに、樫の木の枝からセレスが飛び降り、斬りかかる。
「いたいけな子供を攫うとは、不届き千万! その曲がった性根、正す必要がありそうだな」
 筋肉男達もナイフや斧を手に襲い掛かる。が、セレスは同時に切りかかってくる男達の中心でつむじ風のようにくるりと回転し、間合いを微妙に外す。そして相手が態勢を立て直す間に、回転した余勢を利用して、手前にいる敵へと剣攻撃を叩き込む。次に襲い掛かる敵には、心臓部へと剣を向けるとみせかけて、防御を上半身に集中させておき、腹部へ蹴りを放つ。レオン流ならではの、変幻自在の戦術である。
「ぐわっ!」「あがっ!」「フゥ〜!」
 たちまちダークマッチョ団が倒される。しかし。
「うら〜! んな所で倒れとらんと、もう一遍突っ込んでこんかい〜!」
 百花が倒れるマッチョ団員にドガッと蹴りを入れる。鼻血を抑えつつ、よろよろ起き上がるマッチョ団頭領。
「な、ならば最後の手段‥‥女を連れて来い!」
 ダークマッチョ団員数名が、天翔を捕らえて舞台袖から現れる。
「この女の命が惜しければ、剣を捨てろ」
 命じられ、セレスがためらいなく剣を置く。「へっへっへっ」と笑い、指を無気味にボキボキ鳴らしつつ、マッチョ団がセレスに迫る。
「騎士様、負けないで!」
 子供役深結が、真に迫った悲鳴を上げる。と。
「やーっ!」
 天翔が突然、腰をひねると、両側で腕を捕らえていた男達の急所に素早い膝蹴りをくれた。
 スカートがめくれ、美しい脚が太ももまで露になる。が、それに見惚れる余裕もなく、男達は涙を浮かべてぴょんぴょん跳んで痛みをこらえる名演技。‥‥ていうか、演技じゃないかもしれない。合掌。
「女だって、愛する人を守るためなら強くなれるのよ?」
 艶笑とともに言い放つ天翔。
 セレスが素早く剣を拾う。一閃させると、深結と葵を縛っていたロープがはらりと解ける。そして次に、マッチョ団に切っ先を向ける。
「ひぃ!」「ゆ、許してくださ〜い!」
 マッチョ団がひれ伏す。
「ただ体を鍛えるだけでは駄目だ。真に強き者とは、その心もまた強くなければならない。悪行などやめて、人のために働いてみてはどうだ?」
 セレスの言葉に、
「はっ! 正しい筋肉の使い道を教えて下さい!」
 マッチョ団、瞳に光るものを浮かべつつ頷く。次に悪の女頭領役、百花に視線を向けるセレス。しかし百花は。
「ふっ‥‥今日はこれくらいにしといたるわ!」
 ずるっとコケる一同を背に、悪の巫女・百花、余裕の退場。
 見事な悪役っぷりに拍手が沸く。百花、ちらりと目線を投げ、
「私に惚れるなよ!」
 言い捨てて舞台袖に消えた。
 大団円で終了となった舞台の幕が下り、鳴り止まぬ拍手に応えて、出演者全員で舞台上から挨拶をした。セレスとカインは、互いに舞台の中央の立ち位置を譲り合う。セレスは鎧を脱ぎ、団長が変身シーンの種明かしをすると、観客達の拍手はさらに大きくなった。
 二人が入れ替わりのシーンを入念に練習していたせいで、子供客などは本当に変身したと信じ込んでいたようだ。
「本当に格好いいシーンは、セレスさんが演じたんだから‥‥」
 と遠慮するカインを、セレスは一緒に並んで中央に立とうと引っ張った。
「でも、お前の変身前の演技がなかったら、お客はあんなに応援しなかったよ。聞いたかい、お前が悩むシーンで子供客が声援送ってたの?」
 剣の強さと心の強さを演じ分けたヒーロー二人は並び立ち、満場の拍手を浴びたのだった。