恐怖の年末商戦〜最強のおばはん伝説!?

■ショートシナリオ


担当:小田切さほ

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 31 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:12月03日〜12月06日

リプレイ公開日:2005年12月14日

●オープニング

 きっと、僕がいけなかったんです。
 僕の不用意な行動が、あんな惨劇を起こすなんて‥‥。
 だけど僕は知らなかったんだ、オバ‥‥いや、熟年婦人達があんな恐ろしい生物だったなんて‥‥。

 冒険者ギルドに相談に来た、その純朴そうな若者は、入る早々、そう口走り泣き崩れた。
 彼の名はイシュト、装飾品作りの若き職人。細工の細かさとセンスを見込まれ、可愛がってくれた親方のもとから独立したばかり。
 だが独立したはいいが、まだまだ客は親方のもとにいたころからの顔見知りがほとんどで、なかなか新規顧客は来ない。腕は確かと評判はあるものの、このご時世、ぜいたく品である装飾品はそうそうバカ売れすることなどない。
「やっぱり宣伝が必要かな。もうすぐ聖夜祭だし、なんかおめでたいことがしたいしな‥‥そうだ!」
 道行く恋人同士のカップルの姿を見て、思いついたのだという。
 名づけて「聖夜祭前情熱値引きセール」。
 商品を作りためておき、聖夜祭を前にして、市場に出回っているよりもやや安い価格で販売するのだ。
 いくらお買い得セールとはいえ、客がこなくては元も子もないので、よく人が出入りしそうな顔見知りの店などに、噂を通しての宣伝を頼んだ。
「12月某日より、年末値引き大特価格。早い者勝ち、お得な賞品ばかりです」
 その宣伝が効きすぎたものか‥‥。
 いつの頃からか、ギラン! と怪しい光りがイシュトの店の周囲で明滅し始めた。
「聞〜い〜た〜で〜」
「値引きセールやて?」
「早いもの勝ちやて?」
 ‥‥それに、早く気付いていればよかったのだが‥‥。
 ◆
 イシュトが値引きデーの準備にいそしんでいた、ある早朝のこと。
「イシュトさ〜ん、お店の周りでオバ‥‥いや、熟年婦人が流血してますよ!」
 近所の人の恐怖の声で、イシュトが飛び出してみれば。
 一対のモンスター、いや、熟年婦人がつかみあいの真っ最中。
 チャララ〜ラ、チャララッララ♪と音楽が流れてきそうな緊迫したムードである。
 聞けば、「値引きセールの日の朝、どっちが先に店の前に並ぶか」をめぐって、血で血を洗う闘いが始まったのだという。二人のオバいや熟年婦人は、あつかましさでは近所でも有名なワッツ夫人とダギリー夫人。
「ワッツ夫人はもともとキャメロットでは最強のおばはんとして恐れられていたけど、最近ケンブリッジあたりから越してきたダギリー夫人も新興勢力として、徐々に取りまきをふやしてワッツ夫人のなわばりを脅かしていたらしい」
 そんなヤジウマたちの噂話とともに、イシュトの耳に入ってきたのは、ワッツ夫人とダギリー夫人の争う、血も凍るばかりの声。
「ウチが先並ぶっちゅうねん! ウチ、この店の前に昨夜からこの毛布で場所取ってねんから!」
 と、ワッツ夫人の金切り声。
「ふっ、それがどないしたん。ウチなんか三日も前からこの店の前で亭主が寝泊りして場所とってんねんから!」
 と新興勢力の覇者ダギリー夫人。彼女の指差す方向をみれば、確かにしょぼくれた中年男が毛布にくるまって寒そうにうずくまっている。誰かの置き忘れた荷物の包みか何かに見えていたが、ダギリー夫人の亭主だったらしい。
 二人の熟年婦人は、家族や近所の人が仲裁に入ったおかげで、それ以上激しい争いにはならずにすんだが、ワッツ夫人がダギリー夫人をにらみつけ、
「当日、覚えときや!」
 と吐き捨てたのは、きっと当日のお買い得ゲット争いに、二人の闘争が持ち越されるという予告に違いない。
 熟年婦人達の物欲というか執念に、眩暈すら覚えたイシュトだが、今更恐ろしさに負けて値引きデーの企画をやめるわけにはいかない。いや、むしろ中止などという事態になったら、怒りに燃えたおばはんが店に殺到し、イシュトもろとも店は破壊されるに違いない。

「お願いしますぅう〜! 値引きデーに押しかけるオバ‥‥いや熟年婦人の群れが暴れて死傷者が出ないように、警護してくださいぃ〜!」
 もはやパニック状態のイシュトはそう叫び、またしても泣き崩れたのであった‥‥。

●今回の参加者

 ea0424 カシム・ヴォルフィード(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea1303 マルティナ・ジェルジンスク(21歳・♀・レンジャー・シフール・フランク王国)
 ea1542 ディーネ・ノート(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea6089 ミルフィー・アクエリ(28歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea6144 田原 右之助(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea9840 シルキー・ファリュウ(33歳・♀・バード・人間・ノルマン王国)
 eb1248 ラシェル・カルセドニー(21歳・♀・バード・エルフ・フランク王国)
 eb3587 カイン・リュシエル(20歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

ティアラ・フォーリスト(ea7222)/ 柿本 源夜(eb3612

●リプレイ本文

●真っ赤な情熱?
 値引きセール当日。
 イシュトの店の前には、一種異様な熱気が立ち込めていた。
「お母さん達がいっぱいいるですぅ」
 ミルフィー・アクエリ(ea6089)が無邪気に感嘆の声を上げるが、店内でセールの用意をしているイシュトはもうガタブル状態。同数の狼の群れに襲われてもここまでおびえるまい。
「ひぃいい! あ、あんなにおば‥‥いや、熟年レディ達が並んでるぅ〜!」
「それだけあなたの商品は人気があるってことじゃない? 喜ばなくちゃ! 怖い気持ちもすこーし、わかるけど‥‥」
 と、小柄なディーネ・ノート(ea1542)が窓からちらりと外のおばはんの群れをのぞき見る。
「でもさ、少なくともモンスター相手じゃないわけだし、私達でなんとか、穏やかな気持ちになってもらえるよう、メロディー使ってみるから、ね?」
 とおばはん退治経験者? シルキー・ファリュウ(ea9840)。しかし、ラシェル・カルセドニー(eb1248)は不安げだ。
「大丈夫でしょうか‥‥オバ‥‥いえ、奥様方って下手なモンスターより怖いって噂もありますし」
 ともあれシルキーとラシェル、それにミルフィーとディーネ、ディーネの協力者である柿本源夜が看板娘よろしく店の前に出て、笑顔で呼びかける。
「本日はセールにようこそ!」
「お客様に感謝して、歌を一曲ささげたいと思いまーす」
「歌なんからええから、さっさと店開けてやっ」
 すかさずそんな怒声が行列から洩れたが、耳の早いディーネが駆けつけ、なだめに回る。
 なんとか唄い終えたシルキー達は、行列の中にそれぞれ顔見知りを見つけた。
 ミルフィーは、18歳くらいの少年におずおずと声をかけられ。
「覚えてる? 俺のこと。今日は母さんの代理で来たんだ」
「ジグ君でしょ!? もちろん覚えてますぅ! ミアちゃんやララちゃんも、皆元気ですかあ?」
 嬉しそうに近況を語り合う二人。しかし少年は、ミルフィーがすでに人妻となったことを聞き、
「そ‥‥そうなんだ‥‥おめでとう‥‥は‥‥はは‥‥ど、どうりで綺麗になったと思った〜」
(「〜せっかく恋歌の練習してたのにぃ〜! 嘘だ〜! 早すぎるぅ! 誰か嘘だと言って〜!」)
 ひきつった笑顔で祝いの言葉を述べつつ、少年が胸の奥底で叫んでいたことを誰も知らない‥‥。
 一方、ロープを手にして、行列をきちんと整理しにかかっていたカシム・ヴォルフィード(ea0424)は、背の高い女騎士風の客に声をかけられた。
「こんな仕事よりも、あたくし専属の女優になる気なくて? あたくしまた劇のアイディアを暖めているの」
「レオナさん‥‥何度も言いましたけど、男ですから。僕は」
 悲しげに、しかし決然と拒否するカシムであった。その女騎士は、同じく行列を整理していたカイン・リュシエル(eb3587)にも口説きをかけていた。
「あら、先日別の舞台でも見かけたわね。演技力も舞台度胸がついたようだし、今度はもっと濃厚なラブシーンにトライしてみる気はなくて?」
「あの〜本来はノーマルなんだよね、僕‥‥」
「年が明けたら〜恋人いない暦が136年目なので〜お洒落に気合を入れます〜」
 ダークなムード漂うエルフ女性に話しかけられるラシェル。女性の周囲に漂う寒い風に震えつつ、
「がんばって下さい! 大人っぽいデザインのも、奥の方にありましたよ」
 シルキーは学者風のエルフ青年に。
「あ〜。シルキーさんだ〜。なんかね〜最近アシュリーが悩んでるからまた声かけてやってね〜」
「あ‥‥うん。マシューさんもやたらキノコの珍種のためし食いとかしちゃだめだよ」
 と、その時くらいまでは、こんな平和な会話が成立するほどに、メロディーが効いたせいか、おばはん達の群れは、ウソのように大人しくロープで作った通路の中に整えられていたのである。
 ほっとして、カシムが店の扉を開く。
「では皆さん、お待たせしました。開店しま‥‥!?」
 突然、整えられていたはずのおばはんの群れが乱れはじめた。
「ちょいとごめん。はい失礼」
 とダギリー夫人が現れ、いきなり列の一番前に割り込んで来た。きちんと並んでいたワッツ夫人はじめ、おばはんたちは非難ごうごうである。
「何やの!? アンタ割り込まんといてんかっ」
「何ゆーてんのん。せやからウチは旦那が場所取りしてんねん」
 と言うダギリー夫人の足元を見れば、おばはんたちに踏みつけられつつ耐えている小柄なおっさんがいる。
「オバ‥‥いやもといお客さん。きちんと並んでくれねぇと店は開けられねーぜ。それに買う本人が並ぶのが正しい行列のあり方ってもんだろ? ‥‥ま、旦那の、奥方への愛情に免じて、5番目位に並びなおしてもらうってのあどうだい」
 と、田原右之助(ea6144)が勇敢にもおばはん戦の仲裁を買って出たためなんとかその場はおさまった。右之助はダギリー夫人の旦那を慰めに回る。
「男ってのは辛ぇよな‥‥けど、おっさん。奥方達も、きっと旦那に着飾ったとこ見せたくてこういう店に行列‥‥だー!」
 右之助&旦那、商品を目の当たりにして目を輝かせつつ突進するおばはんたちの群れに押し潰される。
「お、押さないで押さないで。皆さん、落ち着きましょう」
 ぎこちない笑顔でカシムが整理にかかるが、多分誰も聞いていない。美少年と分かればまた効果は違うのだろうが、多分女の子だと思われているのだろう。
「ふっ、奥様方。僕が貴女だけに似合う逸品を見立てて差し上げましょう」
 カインは美形を生かしておばはん達の女心をくすぐりつつ、同じ品に集中しすぎないよう気を配るが、ハーフエルフを警戒するおばはんも多く、苦戦している。
「あ、いえ、それもお似合いになってますわよ♪ もちろんこちらの商品も。そうですねぇ。はいはい。いえ、とーんでもございませんわ。おほほほ(うわ、この人話長っ! 誰か他の人に押し付け‥‥ってみんななぜ目をそらすのぉ〜)」
 苦情処理を買って出たディーネも、おばはんの長話に付き合わされてストレスの限界に来たせいか、目が泳いできた。
 そのとき、おばはん達の下敷きになっていた右之助がようやく復活して、混乱整理にかかった。
「ぜーはー‥‥やっと抜け出した‥‥おい、安いからってガサガサ買い込んでんじゃねえ! 一つ一つ、ここにいるイシュトの気持ちがこもってんだぜ! せめて、旦那方の意見聞いて選んだらどうなんだよ? 誰のために着飾るんだ、誰のために綺麗になりてーんだ? それを忘れんな!」
 右之助の怒鳴る言葉に、さすがのおばはん達もしーんとなって耳を傾けた。激したためところどころジャパン語が混じる彼の言葉をティアラ・フォーリストがより感動的に通訳したのも功を奏した。しかしそれも一瞬のこと、まもなくまた別種の、恐ろしい混乱が起こり始めた。おばはん達の群れが方向を変え、右之助にわらわらと群がり始めたのである。
「兄ちゃん、ええこと言うわ。いっぺんうちらとじっくり話せえへん? おばちゃんらを女と見てくれるなんて、ええとこあるやないのー」
「いやっ、若いだけにお肌も綺麗やわあ☆ ささ、あっちに深夜まで飲めるええ店あんねん」
「や‥‥やめろ! 俺はそんなつもりじゃ! うわっ、な、撫で回すな〜!」
「そやってテレとるとこがまた、カ・ワ・イ・イ」
 田原右之助、おばはん達の群れに拉致され、消息を絶つ。さようなら右之助。君の尊い犠牲は忘れない(マテ)。
 おばはん達の群れの約半数がこうして無血のうちに駆除されたのであった。

●天国に一番近い店
 おばはんの総数が減ったとはいえ、商品も買い上げられて少なくなるにつれ、おばはん達のゲット争いは容赦がなくなってきた。
 シルキーがメロディーで事態をおさめようとしたが、竪琴を取り出す前に顔見知りのエルフ青年がおばはん達の下敷きになって踏まれているのに気付き、救出に回った。
 ディーネもおばはん達の苦情を聞かされ、しかもおばはん達の話は長くてくどい上に結局堂堂巡りになっていたりして、神経が参ってきたようだ。
「ちょ‥‥ちょっとお話を整理させてもらえますか? えーと息子さんのお嫁さんがそのお父さんのお姉さんに借金があって‥‥じゃなくて息子さんのお父さんのお嫁さん? あれ?」
 しかしダギリー夫人とワッツ夫人の確執にはすさまじい物があり、
「お客様〜。つかみあいの喧嘩はおやめください‥‥きゃ!?」
 ラシェルがその争いに巻き込まれそうになり悲鳴を上げる事態も。
 イシュトがしまいにキレ、恐怖を忘れて注意した。
「いい加減にして下さい! おば‥‥いや、熟年婦人同士の争いに若い女性を巻き込むのは! 皆、迷惑してるじゃないですか!」
「何ゆーてんねん。この綺麗なおねーちゃん達かて結婚したらうちらみたいなおばはん道まっしぐらやで?」
「せやせや。生活かかってきたら女は皆、おばはんになるねんて」
 こともなげに言い捨てるダギリー夫人。おばはん群の同意の言葉が駄目押しとなった。
「私も〜将来こういうおば‥‥いや熟年婦人になるのでしょうかぁ‥‥」
 若いながらも既に人妻であるミルフィーはひそかに内省していた。
 その時ラシェル、シルキー、ディーネの傍にいた者は何かが壊れる「ぱっきーん」という音を聞いたという。多分、結婚への甘い夢が破壊された音だ。その時から、阿鼻叫喚地獄は始まった。
「ふっふっふ‥‥よくも言うたな熟年婦人ども。ムーンアローでお仕置きよっ!」
「ダメですシルキーさん、とどめは私が!」
「ほーらほら、アイスコフィンで、これ以上年取らないようにしてあげるわ〜♪」
 この騒乱によりイシュトは気絶、しかしかろうじて理性を保っていたらしいカシムとカインとが止めに入ったためもあり、店と彼自身の安全は、(一応)死守されたのであった。

※尚、この報告書は、未婚女性への閲覧禁止が検討されている旨、書き添えておく。