【近所迷惑物語】忍者なお店で大宴会!?

■ショートシナリオ


担当:小田切さほ

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:4

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月25日〜12月28日

リプレイ公開日:2006年01月05日

●オープニング

 そこは、小さいが雰囲気はいいと言う評判の、エールハウス。
 経営者は名をエイシャ君といい、穏やかな気のいい‥‥多少「お人よし」の感は否めないが‥‥料理と釣りの得意な青年。
 そこへ立ち寄れば、一日の疲れが癒される、という常連客もいるらしい。
 ところが。
 最近、そうでもなくなってきた。

 その原因は、恐らくは最近になって彼の店に雇われた3人の従業員のせいだ。
 3人が3人とも、ただものではないっぽいのである。いずれもジャパン人。
 一人は、痩せて背の高い壮年の男。どういう過去をたどってきたものやら、猫のように素早く、しかも物音を立てず、無口。なので、少々不気味だという噂もある。気配を消して客に忍び寄り、後ろから
「‥‥エールのお客様お待たせしました」
と差し出したりする。
 もう一人は、やたら身軽である。天上から逆さにぶらさがって登場し、客を「いらっしゃいませー」と出迎え、客の度肝を抜いたりする。店が混んで来たりすると、客の注文をとってバック転で厨房にひとッ跳びで戻ったりする。
 残る一人は、女性。しかも、やたら色っぽい。くねっくねっ、とテーブルの間を縫って歩き、男性客と目が合うと、「うふぅん」と言う感じでなんとも艶っぽい目線を送る。しかもいつもキモノ姿で、襟をぐっと抜いて胸の谷間がのぞきそうな着こなしをしているので、給仕をしてもらうと目のやり場に困るともっぱらの評判だ。
 そんな3人を相手に、エイシャ君は日夜、従業員教育に腐心している。
「白雲斎さん! どうしてお客さんに注文取りに行くとき、気配を殺すんですか! 忍び寄って『ご注文は』とかいきなり言うから、お客さんがびっくりしてテーブルひっくり返したじゃないですか!
 音丸さん! バック宙で厨房に戻ってきちゃいけませーん! こないだもそうやってお客さんの頭上飛び越えたりするから、お年よりがびっくりしてあの世へ旅立ちかけたじゃないですか!
 サギリさん! 服装はちゃんとしてください! それに料理を給仕するのに、お客さんの膝に座ってどーするんです!? ここはそーいう店じゃないんですからっ」
 ‥‥といった具合。

 ◆ 

「なんとかしてくださいぃ〜! ごほっごほっ」
 エイシャ君がギルドに訪れ、そう受付嬢に泣きついたのは、そんなある日のことだった。
 しかもエイシャ君、だいぶ重症の風邪を引いているらしく、足元はふらついているし目もうつろだ。
 彼に言わせると、それも3人の従業員による苦労のたまものらしい。
「どーしてそんな人たちを雇ったんですか?」
「それはつまり」
 エイシャ君は、その事情を話した。
 ある日、彼の店に、3人のジャパン人の客が来た。
 月道のおかげで、ジャパン人の客も見慣れ始めている昨今。だがその3人は、どことなく淋しげな風情である。今まで太陽の当たる道を歩いたことなどないかのような影が感じられた。
 気になったエイシャ君は、自身がジャパン文化に憧れを抱いていたこともあって、3人に暖かいスープをふるまった。3人の注文は、エールだけだったのだが。
「寒い夜ですね。こんなときはあったかいものを口にすれば、元気がでますよ」
 そう声をかけて置いたスープを、まず最初に、壮年の男が口にした。そして、
「うむこれは。まったりとこくがあり、しかも嫌味がなく(中略)。店主殿の人柄、この一品に感じられるでござる」
 ほめられて悪い気はしない。ちょっといい気分になったエイシャ君の前に、いきなり3人ががばと膝間づいた。
「な、な、何事?」
「実は我々、主が戦を嫌い、もう侍でいたくはないと出家したため、仕えるべき筋を無くしたはぐれ忍者にござる。もはや忍び稼業から足を洗おうと決意したでござるが、なにぶんこれまで忍者として厳しい修業を受け、影としてのみ生きて来た我々ゆえ、なかなか転職先が見つからないでござる。なかなか普通の仕事になじめぬため、えげれすへ出て心機一転を図っている最中でござった。
 店主殿の人柄を見込んでお願い申す。我らを、えーるはうす従業員として雇っていただけぬか。ここでなら、心穏やかな普通の暮らしに馴染んでゆけるような気がするでござる」
「えーと、ここは小さな店で、3人も働いてもらうほどの規模じゃないんですけど」
「雇っていただけぬか。では他に行くべき道もなし、自害して果てるしか」
「わーっ! やめてください! 雇います雇います!」
 ‥‥という経緯で雇われたのが、前述の3人‥‥戸沢白雲斎、矢走(やばせ)の音丸、サギリという訳だったのである。
「それって脅迫じゃないんでしょうか」
「ごほっごほっ‥‥でも、3人とも今まで命がけで忍者修業をしてきたわけですから、なかなかその癖が抜けないのも当然でしょう。
 ただ、彼らのお蔭で普通に食事を楽しむお客さんが減って、肝試しとか曲芸でも見物する気分でとか、サギリさん目当てとか、そういうお客さんが増えて困ってるんです。
 だから、一度、うちの店で大宴会を開こうと思うんです。
 『この店は普通に飲んだり食べたりするお店ですっ!!』
 って、今一度町の皆さんにアピールするためにも。
 彼らに普通の酒場店員らしいサービスを身につけるさせるきっかけにもなるでしょうしね。冒険者の皆さんで、彼らの特技を生かしつつ、正しいエールハウス店員になれるよう、指導してあげてくれませんか? 本来なら僕の仕事なんですけど、僕の気力も体力ももう限界です‥‥ごほっごほっ」
 というわけで、忍者なお店での大宴会依頼はギルドに掲示されたのであった。

●今回の参加者

 ea0314 エレナ・アースエイム(34歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea0403 風霧 健武(31歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea0980 リオーレ・アズィーズ(38歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea6144 田原 右之助(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8765 リュイス・クラウディオス(25歳・♂・バード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ea9840 シルキー・ファリュウ(33歳・♀・バード・人間・ノルマン王国)
 eb1248 ラシェル・カルセドニー(21歳・♀・バード・エルフ・フランク王国)
 eb1987 神哭月 凛(30歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●あくまで大宴会
「やあ、店主殿。相変わらず面白い出来事に縁があるようだな。風邪の見舞いに、一番の特効薬を持ってきたぞ。そら」
 ブルーを貴重にした男装で颯爽と店に入ってきたエレナ・アースエイム(ea0314)は、一緒に入ってきたシルキー・ファリュウ(ea9840)の背中を、ぐいっとエイシャ君の方へ押し出した。
 シルキーは不意をつかれてよろよろっと、出迎えたエイシャ君の胸にもたれかかる。
「あっ、ご‥‥ごめ‥‥もうっ、エレナさんっ!!」
「こ、こっちこそごめんっっ! かっ風邪がうつるよ! そっそうしたらキミの美声が台無しだし! ‥‥う、嬉しいけど」
 真っ赤になって「わたわた」と離れる恋人同士の姿、ニンヤ☆と微笑みつつ見守るエレナ。一幅の絵のごときその情景を、一陣の風が破った。
「突き出しの貝わたあえとエールです、お待た〜!」
 と、矢走の音丸の必殺頭上からのジャンピング給仕だ。
「わ!?」「きゃっ!」
 慣れぬこととて驚いたシルキーはまたしてもエイシャ君の胸に飛び込み、エイシャ君は嬉しさとテレで溶けそうな顔を引き締めるのに必死だ。
 びゅっ、とまた飛び上がって厨房に戻ろうとする音丸を、何者かのハリセンがびしっ! と一閃!
「うああっ!?」
 音丸は床に落ちた。
「これしきのツッコミに耐えられんとは、あんたお笑いの、じゃなかった、忍びの修行をやり直す必要がありそうだな」
 エイシャ君の背後に立つ、ジャパン人の若者がハリセンを手に、冷たく言い放った。ジャパン語である。
「そ、そのハリセン!! それにその口調‥‥ま‥‥まさかあんた、あの‥‥風霧の!?」
 イギリスに住まう忍者でありかつ冒険者として名の知れた健武を、音丸達も知っていたらしい。だが音丸の言葉に、ぴしりとその若者‥‥風霧健武(ea0403)が釘を刺した。
「騒ぐな。忍びたるもの、『名を立ててなお、煙のごとく朧(おぼろ)なれ』だ。それに客の間をすり抜けるのに、今のように露骨にしのび技を駆使するのは邪道と知れ。人の流れを読み、そこに風のごとく乗り、すり足で歩く。やってみろ」
「か、かっこいい〜。あ、兄貴って呼んでいいですか!?」
 以降、音丸はすっかり健武の腰ぎんちゃく状態。 しかし、収まらないのはサギリである。
 折りしもサギリが例のせくすぃーアクションで注文をとりにきたのだが、健武が冷ややかに斬り捨てた。
「それでもくノ一か? 色気の出し方がいささか安っぽい。その証拠に、エイシャはあんたに目もくれていないぞ」
「ふん、何さ。ほっといてよ! どうせあたしは、ダメくノ一だよ!」
 サギリは拒絶の言葉を吐いて、店外に飛び出して行った。
 あまりの過剰反応に驚いている健武に、ラシェル・カルセドニー(eb1248)が耳打ちする。
「サギリさん、エイシャさんのことが好きなんじゃないでしょうか。お色気攻撃って、本命の相手にはできないものなんですね」
 ラシェルが言うには、先ほどサギリはシルキーとくっつくエイシャ君を、寂しげに見つめていたという。
「ほー‥‥あの色っぺーねーちゃんがそんな純情秘めてたとはね‥‥。男を落とせる料理でも指導してやっかなあ。ハートじゃなくて胃袋射止めて落ちる男だっているんだし」
 田原右之助(ea6144)はちびちびエールを舐めつつ感慨深げだ。
「でも、さびしいですよね。女のコなら綺麗さを恋に生かしたいところなのに、今まで仕事のためだけに使って、しかも本当に好きな相手には効かないなんて‥‥」
 ラシェルは健武の話で、忍者の厳しさを知り、サギリに同情心が湧いたようだ。話しかけたそうにそわそわしているが、ジャパン語を知らないためためらっている。
「かもな。しっかし聖夜祭といや、恋の季節ってか‥‥なのに俺はあんなキス‥‥」
 リュイス・クラウディオス(ea8765)のそれは後半部分は完全に独り言だったのだが、
「あんなキスとはどんなキスでござるか?」
 背後から囁かれ、リュイスは飛び上がる。背後にたっていたのは戸沢白雲斎だ。
「うわああ! 盗み聞きすんなー!」
「相すまぬ。しのびとしての癖にて」
「癖はその気になりゃ直せるもんだぜ。普通の幸せつかみたきゃ、修行修行。忍者修行に耐えてきたんだからできるだろ?」
 右之助の言葉に当惑顔の戸沢白雲斎。
「しかし、しのびとしてしか生きて来ず、人間としての心すら捨てねばならぬ生活でござった故、忍者を捨てたら、どうしていいのか」
「白雲斎殿はどうも接客業というものがわかっていないようだな。人間、酒を前にしてすることはひとつ。楽しい話をすることさ。思い出話でも聞かせてくれないか? 私はこれでも以前、ジャパンとイギリス間の国際結婚を手伝ったことがあって、ジャパンの酒のうまさは知っている。ジャパン人は祝い事の時、酒の他に『モチ』とか言うものを食べるそうだな?」
 と、エレナが白雲斎の前に置いたカップに、なみなみと酒を注いだ。
「いや、それがしが育った村では、餅は非常なぜいたく品でござって‥‥木の実を撞きこんだ栃餅なら、いささか口にしたことが」
 エールをなめつつ、ぽつりぽつりと話す白雲斎の肩を、リオーレ・アズィーズ(ea0980)がぽん、と叩いて励ました。
「白雲斎さん、いい! その話し方も、お話も! ちゃんと普通に、人間の心持ってるじゃないですか! そういう苦労話を聞きながら、しみじみ飲むお酒っていうのもいいもんですよ。そのまんまの貴方でお酒の相手をしてあげれば、それで十分じゃないですか?」
「左様でござるか?」
「あ、忍者の技を使うなって言ってるわけじゃないんですよ? せっかく身につけた技だし、白雲斎さんたちが生きてきた証ですものね。でも、食事の時、頭上を飛び越えられたりとか、忍び寄られると困るお客さんもいるから、
『しのび技見物席』
 っていうのを別に設けたらどうでしょうか」
「なるほど。曜日によってしのび技デーとかいうのを決めてもいいですね」
 と、いつの間にか、エイシャ君もしっかり聞き入っている。
 白雲斎は、背後からにゅっと伸びてきた手に手ぬぐいを差し出され、目を丸くして驚いた。
「アンタの気配遮断能力は、この辺りじゃ二番目だな‥‥一番が誰かは言うまでもあるまい? それはともかく、これで目を拭っておけ」
 健武の言葉に、白雲斎は初めて自分の目が潤んでいることに気づいたようだ。殺伐とした生い立ちの彼には、こんなに大勢の人間に、自分の身を気遣ってもらえることが信じられなかったのだろう。そっと目をぬぐう彼に、注目が集まらないようにするつもりか、
「あっあの皆さん、せっかくお話が盛り上がってきたんですから、歌でも歌って宴会らしくしませんか?」
 遠慮がちにラシェルが提案した。もちろんそのつもりでバード仲間が用意にかかるが、
「あれ? 凛さんがいないよ? もしかしてサギリさんのこと気にかけて、追いかけてったんじゃ‥‥」
 とシルキー。
「あいつらしーな。しかし凍えちまうぞ、こんな‥‥」
 と、何気なくカーテンをまくって窓の外を眺めたリュイスは、偶然、町をゆくおばはん集団とガッツリ視線があってしまい、おばはん集団は「餌食発見!」とばかりに店内になだれ込む。
「こ、こっちの右之助の方が体力あるし絶対お買い得だ! 意外と料理もうまいんだぞ!」
「ち、違う! こ、こいつの方が1歳若いし歌もうまいしオバ、いや奥様方にはお勧めだ!」
 と、なぜか謙虚にアイドルの座を互いに譲り合うリュイスと右之助。
「何言うてんのん。当然、両方可愛がったげるやーん♪」
「イヤ〜〜〜〜ン!!!」
 「おばはんに好かれる」という同病相哀れむ仲のリュイスと右之助は手に手を取って店を脱出し、男同士謎の逃避行となった。無事に、かどうかは残念ながら定かではない。

●明日は明日
 店の外で、所在無さそうにしょんぼり立っているサギリに、一人の女性が近づいていく。神哭月凛(eb1987)だ。
「寒くないですか?」
 声をかけられ、サギリはふと、思い切り抜いた自分の襟元に目を落とし、捨て鉢に言い捨てた。
「慣れてる。男の目を引くために何でもやるのさ‥‥あんたみたいなお嬢ちゃんとは違ってね」
「女なら誰だって、殿方の目を引きたいものです。それが女の業というものですから。サギリさんの場合は、少し極端って気もしますが‥‥決して、特別ではありませんよ」
 軽く微笑みながら言われ、サギリもふっと警戒心を解いた柔らかな表情を浮かべた。
「あたいだって、ほんとはあんたみたいになりたいさ‥‥羨ましいよ。上品で、お利巧そうで、さ」
「私のようにとは少々面映いですが、サギリさんの素の良さを引き出すお手伝いならできますよ? そうですね、紅の色はもっと淡く桜色にして‥‥歩き方は、そう、一本の線上を歩くように‥‥」

 冒険者達の指導後、
「エイシャ殿と冒険者の皆様のおかげにて、普通人として生くる道がわかり申した。長々迷惑をおかけ申した。我々は少し離れた場所で、我々なりの酒場を開くつもりでござる。」
 白雲斎たちは、そう宣言し、旅立って行った。礼のつもりか、エイシャ君に多額の金を置いて。隠居金として主君から渡された金らしい。
 風邪の癒えたエイシャ君はその金で、頼れる男を目指し、ジャパンでの料理修行に旅立つという。
「今までみたいに君に守られる男じゃなくて、君のことも妹さんのことも、しっかり守れる男になって帰ってくるつもりなんだ。ついてきて‥‥くれるかな」
 恋人シルキーにそう告げて。

 そのしばらく後、どこかの港町に、ジャパン人3人が経営する、穏やかな雰囲気の酒場が建った。そこには薄紅の似合う優しげな若い女と、落ち着いた物腰の愛想のいい若い男、それに苦労人らしいじっくりした壮年の店主がいるという。
 これにて、お人よしのエイシャ君をめぐる近所迷惑は一旦、幕を下ろすのであった。