正しい年末の過ごし方〜黒白対抗歌合戦?〜
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■ショートシナリオ
担当:小田切さほ
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:0 G 46 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月04日〜01月07日
リプレイ公開日:2006年01月18日
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●オープニング
きっとそれは、出会わなかったほうがよかった二人なんだと思う。
なまじ出会ってしまったばかりに、二人の果てしない戦いは、始まってしまったのだ。
その二人とは――
一人は、貴族のぼんぼんにして、稀代の遊び人ケント伯爵。
今一人は、気も剣の腕も強すぎて、ちょっぴり異性に縁遠い女騎士・レオナ・ラトクリフ。
この二人を、お世話好きのおば‥‥いや熟年婦人が、縁組させようと思い立ったのが運のつき。
「こちらケント伯爵。音楽がお好きな好青年でござーますわ。
こちらはレオナ様。舞台を手がけたこともおありになりますの。
お二人とも芸術がお好きでござーますから、お話があうざんしょ」
とか言って、二人をめぐり合わせた。
それなら共通の話題で盛り上がって、めでたく婚約ってな運びになるかと思いきや、 たまたま二人とも、「芸術家のパトロン」を自認しており、しかも、無駄に負けん気が強かった。
「私は優雅にも、朝は自ら育てた吟遊詩人の歌声で目覚めるのだ。私こそが、キャメロットの明日の文化を育てるパトロンであ〜る!」
とケント伯爵が胸をはれば、
「ほほほほ、それしきの経験でパトロンだなんて。あたくしなんて、舞台を手がけたこともありますのよ。しかもその劇、ずーっと興行中満員御礼でしたわ」
レオナが鼻で笑う。
「ふん、それがどうした。真の芸術家パトロンとは私だ!」
「いいえ、あたくし!」
「私!」
「あたくし!」
‥‥‥‥細かいやりとりは省略するが、ともあれ二人はいずれも、自分こそが芸術家を育てるパトロンと主張してやまなかった。やがてその争いは、お互いの芸術的センスの優劣に及び、そして、ついには、
「この決着は、歌でつけるしかない!」
ということになった。どちらも実は結構な歌自慢ということもあって。
ケンケンガクガクの議論の末、勝負は、お互いにチームを組んで、歌い手を雇い、歌を「歌唱力・楽器演奏・詩・演出(衣装や踊り含む)」で審査員に判定させる、という形式に落ち着いた。
そしてこれもケンケンガクガクの議論の末、審査員長は、ケント伯爵の従者アベルということに落ち着いた。
こちらは歩く石像と渾名されるくらいのカタブツゆえ、公平な審査が期待できるというのである。
「どーして私がそんなことに巻き込まれなきゃならないんでしょうか」
アベルは嘆く。この人を補佐する審査員も参加を望みたいところかもしれない。
分かりやすいようにチームカラーを黒(ケント)と白(レオナ)に決めた二人は、お互いの側についてくれる歌い手を募集して当日の歌合戦に臨むこととなった。
◆
‥‥以上のような経緯を説明した上で、『二人の性格を考慮して、相性の良いチームを選び冒険者の皆さんに参加して頂きたい』とは、依頼をギルドに持ち込んだアベルの弁である。
「この歌合戦で、ケント様とレオナ様が盛り上がってくれれば、あるいはお二人が結婚して落ち着くということも考えられます! 歌の上手い下手というより、盛り上げてくれそうな方をお願いしますね」
とも。
アベルさん、余程ケントに振り回される生活に嫌気がさしているのか、必死な模様。
っていうか、そんな二人、絶対結婚しねーよ。
と、こっそり受付嬢が心の中でツッコミ入れたのは秘密‥‥である。
●リプレイ本文
●カ・イ・カ・ン?
細工は流々、仕上げをごろうじろ。
レオナは満足げに歌合戦の舞台となる部屋を見渡した。そこはもともとレオナの父親の隠居所でもあった古い教会の礼拝堂だったのだが、天井が高いため反響具合は上々、おまけに飾りつけたのが――
「すばらしい腕前でしてよ、アルフェール」
レオナは舞台を黙々とフリルつきカーテンやリボンで作った花で飾り付けているアルフェール・オルレイド(ea7522)を褒め称えた。
「なんの、歌合戦と聞いただけで気合が入るぞ。こんなもんでどうだ?」
とアルフェール。ごついドワーフの爺さんが相当な家事の腕前で教会を片付け、フリフリの装飾をやってのける様子‥‥一般的イメージから見てかなり違和感ありだが‥‥に見入っていたケント伯爵を、レオナが得意げに見やる。
「いかが? ちなみにこのアルフェールは、後で歌も披露いたしますの。もちろん、あ・た・く・しのチームで」
「うぬぬ‥‥っ」
歯噛みをしたケント伯爵、しかしかろうじて立ち直り。
「ふ、相変わらずレオナ殿の周囲は男くさい。こっちは美女チームだ」
ほ〜れ見ろ、と言わぬばかりにケント伯爵は華やかに飾り立てたシルキー・ファリュウ(ea9840)、エスナ・ウォルター(eb0752)を指し示す。
「はうぅ‥‥美女チームだなんて‥‥」
と消え入りそうな声でエスナ。
「相変わらずわけわかんないね、ケント伯爵ってば」
小声で旧知らしいケント伯爵の従者にして、今回の審査員でもあるアベルに話しかけるシルキー。アベルは震え声で目を潤ませている。
「わ‥‥わかってもらえます!? 私の苦労を!!」
そんな二人、エスナは水色のドレスに淡いピンクのリボンで髪をまとめあげ、シルキーは長い銀髪をゆるく編んで右脇に垂らし、襟ぐりの広いマゼンタのドレスを引き立て、とおのおの目いっぱい着飾らされている。
「あのドレスちょっといーなー‥‥」
ちょっぴりうらやましげに見つめている、忍者とはいえ芳紀17歳の女の子・空流馬ひのき(eb0981)。
「今からでも私のチームに来ぬか?」
早速ケントに声をかけられ、同時にレオナに「裏切る気!?」といわぬばかりにギロリンと睨まれる。
「いえあの、結構でございますっ。レオナさんのチームでパワフルに、というか、下手でも元気よく歌うつもりよ」
とはいえ、ひのきも黒のミニドレスに真紅のリボンと、地味寄りながらも可愛く装っているのは、なんだか衣装と舞台に懲りまくっているアルフェールお爺ちゃんのおかげである。
「もちろん結構。歌の技術だけが審査対象じゃないですからね。パフォーマンスや衣装など総合しての評価を競うんですから」
アベルがまとめのコメントを放ち、いよいよ教会の鐘の音とともに、歌合戦スタートである。
●歌の大事件!?
一番最初はひのき。作詞作曲:レオナ・ラトクリフ、タイトルは「あなたのハートに蹴りいれて」。一応、ラブソングだそうである。
「もっともっと あなたを もっともっと 蹴りたい 早よせんかい キスぐらい もったいぶらんと早よせんかい〜」
ひのきが上手とはいえないまでも、素直な発声でかわいく歌うだけに怖い歌である。
「こ、この歌は一応ラブソングなんですよね、ナサニエルさん」
「こ、こういう愛の形もあるということだな」
カイン・リュシエル(eb3587)とナサニエル・エヴァンス(eb3860)の審査員コンビの掛け合いコメントもちょっぴり引き気味。
二番手、エスナ。見るからに緊張気味で、お辞儀の仕方もなんだかぎこちなく、かくかくしているのが初々しい。深呼吸して、胸の前でぎゅっと手を握り締める。唇が小さく、何かつぶやいたようだ。ケ・イ・ンと動いたようだと、後で誰かが噂した。
「はぅぅ‥‥えと‥‥エスナ・ウォルター、です‥‥がんばって、歌い‥‥ます‥‥」
自己紹介は、聞き取れないほどためらいがちな細い声。だが、深呼吸して歌い始めると迷いはなかった。
『あなたと出逢って 初めて知ったね
夢を諦めないこと 勇気を出して踏み出すこと
今は二人違う道を歩むけど 目指すものは同じと信じて
いつの日か一緒に歩めるその日が来たら
あなたらしく わたしらしく 二人で奏でるメロディ
この空の下 響き渡らせよう‥‥』
「誰か大切な人に歌いかけるような眼差しだな。カイン、これは衣装・歌唱ともポイントが高いな」
「そうですね。アベルさん、ハンカチをどうぞ」
「あっ‥‥すみません、つい感動の涙が。あまりにも正統派の恋歌を聞けたもので」
三番手。アルフェール爺さん。
「うむぅ久方ぶりだ。‥‥どれ、一丁うなるとするか」
勇ましい戦歌を、ラージクレイモアを振り上げつつ朗々と響かせ。抵抗勢力ケントもこぶし振り上げモンでノッている。
「うーむ、こういう歌も悪くはない。もっとも、私ならばもっとコスチュームを派手な甲冑にして見所を増やすのだが。芸術家のパトロンたる者、そういうセンスがなくてはならぬ」
と、なんだかレオナを挑発しているケント伯爵。レオナはすでに勝利を確信してか、鼻で笑うのみである。
「どうも両陣営のスポンサー同士が仲が悪いようですね、ナサニエルさん」
「まったくだ。お互いに芸術好きでそれを支援するという、同じ志、似た魂を持つもの同士ではないか。下らん見栄の張り合いなどやめるべきだと思うが」
カインとナサニエルがそれとなく二人をコメントでいさめる。
「とんでもない、こんな軽い遊び人とわたくしのような志の高いパトロネスが似たもの同士だなんて!?」
とレオナが気色ばむ。
「こっちこそ、こんながさつな手合いと一緒にしてもらっては困る」
とケント。ちっとも歩み寄らない二人にいささかカイン達もがっくりだが、そこは年の功で、アルフェールが何事か計画しているようだ。
「まあまあ、時を待っておけ。人間、空腹なときと満腹なときではまた違う顔が見えるものだ」
と、秘策ありげに二人をなだめる。ちなみにアルフェールさん、フリフリのエプロン姿である。
ラストの出場歌手は、シルキーである。
「大切な人を思って‥‥作った歌です。タイトルは『星の輝き』」
異国に旅立つ恋人に向けた歌詞で、またもアベルの涙を誘う。見上げるといつも空に輝いている星のように私も貴方を見守っていたい、という内容。
以上で出場歌手すべてが演目を披露し終わり、カイン、ナサニエル、アベル達の討議により、どちらが勝ったかを決めることになった。別室で討議中の三人を待つ間、またしてもケントとレオナがいがみ合う。
「ところでケントさん、まさか審査員に袖の下なんて送っていないでしょうね」
「そんなことするかっ。私の選んだ歌い手と衣装が負けるはずはないのだ!」
「こらこら、楽しい宴の前に争うでない。少し早いが、歌合戦の打ち上げじゃ」
と、アルフェールが豪華な料理を持った皿を、ドン! と礼拝堂のテーブルに置く。
「おっ、これは気が利く。よい料理にはよい酒だな」
ケントが喜んで、高価なハーブワインを抜き、全員に振舞った。
その後はもはや収拾不可能な宴会モードへ‥‥
「少しはいけるのだろう、シルキー。飲まんか?」
「いえ私はそんな、でも味見だけなら‥‥くいっ、うーん、おいひ〜。おいケント、もっとがばっと注がんかい。そいから、おまいひゃんアベルひゃんにあんまり苦労かけんりゃないよ?」
アバレ歌姫MAXと化したシルキーさんがケント伯爵に説教してたり。
「ひのきひゃん。お酒って楽ひいれすね〜、うふふふふ」
「そうらね〜、エスナひゃん。もっとのまにゃい〜?」
「もう飲めにゃいですぅ〜。といいながら、あれ〜? いつのまにかカップが空ですぅ〜」
「‥‥ってエスナひゃん。あーた結構、いける口?」
「ふにゃふにゃふにゃふにゃ。今度こそ本当に、もう飲めにゃいですぅ〜」
「そんなこと言わずに飲みなさいっ、エスナとやら。あたくし、貴女の歌にとても興味があってよ。貴女、今度は舞台に出る気はなくて? 役柄は貴女そのままの恋する少女で‥‥」
「‥‥くかー‥‥」
レオナの話の途中で、酔いつぶれて爆睡するエスナがいたり。
そのとき、別室から、緊張の面持ちで出てきた審査員達。
「審査結果を発表いたしますっ。歌合戦は、ケント伯爵陣営の勝ちとします‥‥って、誰も聞いてないみたいですけど」
すでに和やかな? どんちゃん騒ぎ状態へ突入していた会場を見て、唖然とする審査員達であった。
そんな審査員達にも、すでに酔いのまわったメンバー達が近寄ってきて‥‥
「カイン、あなた、あたくしの酌をまさか断りはしないわね?」
「ナサニエルとか言ったな。審査ご苦労だった。ってことで、さあ飲め」
おのおの、嫌というほどハーブワインを飲まされる羽目に。
だが確かに歌合戦は盛り上がり、レオナとケントの仲もちょっぴり和やかになったのだから、おおむねよしとすべき結果といえよう。当然、会場は散らかり放題だったが‥‥
翌朝。
「まったく近頃の若いもんは、酒の飲み方を加減するということを知らんようだ」
ぶつぶつ言いながら、アルフェール爺さんが一人、フリフリのエプロン姿でお掃除していたということだ。