【男子厨房に乱入!?】健康を食せよ!
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■ショートシナリオ
担当:小田切さほ
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:0 G 39 C
参加人数:8人
サポート参加人数:4人
冒険期間:03月06日〜03月09日
リプレイ公開日:2006年03月19日
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●オープニング
わしは丹下宗哲、京都に小さな診療所をかまえる医者ぢゃ。
くれりっくとは違うが、薬草にはちと詳しゅうての。わしの作った薬は効くぞえ。
いやいや高い金はとらぬよ。
しかし診療所の裏庭を耕して薬草畑にし、そこで取れる草を主に使うゆえな。
そんなわけで薬代に難儀する者からは、強いて金をとろうとせぬ。そんなわしを、「仏の宗哲」と呼ぶ患者もおるようぢゃな。
ほっほっ‥‥この宗哲が仏だなどと。いや悪い気はせぬがのう。
ところで最近、えげれすから来た若者がわしに弟子入りを希望してのう。ほれ、背の高い奴がそこで胡麻油でユキノシタの葉を練って軟膏を作っておろう?
そう、名前は栄作。え? 「エイシャです」とな? うるさいわい、舌を噛みそうな名前を言わせおって。 わしが舌でも噛んだらどうするのぢゃ。栄作にしとけ。
ん?
「さっきから厨房にこもって、何をしておられるのですか」とな?
おおそうぢゃ栄作。ちょうど薬草茶を作っておったのぢゃ、お前にも飲ませてしんぜよう。
「いりませんっ!!」
これ、なぜ後ずさる。しかもなぜわしをそんなに睨むのぢゃ。飲めと言うに。体にええんじゃぞ、これは。「延命草」と言うてな、滋養と強壮に最適な薬草を煮出した‥‥
「そんなに仰るなら、ご自分で飲まれたらいかがですか」
ん? 自分で‥‥とな?
いやそれはその、ちょっとアレぢゃ。
それにしても弟子の癖に冷たい奴ぢゃのう。わしの作った健康茶一つ味見してくれぬとはっ。しくしくしく。
「泣きまねしてもだめです! 僕はこないだのセンブリ茶で懲りましたよっ」
ああ、アレね。
センブリというのはの、千回振り出してもまだ苦いことから名づけられた薬草ぢゃて。しかし滋養強壮には効くぞい。
栄作がここで働き出してすぐの頃、畑耕しやら薪割りでずいぶん疲れておったようだから、わしが親切に『飲みなはれ。疲れに効くぞい』というて飲ませてやったんぢゃ。
栄作め、喜んでイッキに飲みおったわい。何の意味かは知らぬが腰に手を当てて。
飲み終わって、
『ごほっごほっごほっ。ど、毒ですか、これ!?』
涙目で言いおったわい。くひひひ。
この「延命草茶」も苦いぞえ〜。飲み込んでも青臭〜い後味が残るのぢゃ。
む、しかし、栄作の奴は味見には使えぬようぢゃな‥‥わしを睨んでおるわい。
「いーもん。冒険者ぎるどに持って行って、冒険者に味見してもらうもんね」
わしが言って、健康茶を壷に流し込み、持って出ようとするとまた栄作がうるさいのぢゃ。
「それって迷惑がられますよ!」
「なぜぢゃ。冒険者といえば体が資本。健康にいいものを飲ませて何が悪い」
「健康にいいものなら、もっと美味しいものだってあるじゃないですか! くるみ餅とか、桑の実酒とか、柿の葉茶とか!」
ん? ‥‥そうぢゃったかのう。でもそれでは面白くないのぢゃ。
「何が面白くないんですか?」
‥‥こやつ、若者をいぢめる年寄りの楽しみをどうしてわかってくれぬのかのう。
冒険者が「ぎゃー」とか「ひえー」とか悲鳴をあげるようなもんを食わせてこそ楽しいのぢゃ。
しかしわしはきょとんとした栄作の顔を見て、いいことを思いついたのぢゃ。
わしはオホンと咳をすると、おごそかな口調で言ってやった。
「あのな、良薬は口に苦し、というぢゃろ? だから体にいいことがわかってても、なかなか自ら口にしようとせぬ人が多い」
「はあ、それはそうですよね」
「せやからわしは考えた。ひごろジャパンの安全のために働く冒険者に、苦い薬草茶を口にする機会を作ってやろうと。そこでな、冒険者を招待して「坊主めくり」をして、『坊主』をひいた人がこの延命草茶を飲むという趣向ぢゃ。
もちろん「姫」を引いた人は、おいしい健康食を一種類選んで食べる。
つまりこれは、楽しく遊んでその上、健康にいい食を、幅広く試食させる機会をつくろうという、超親切な企画なのぢゃ。わしの親心ともいう」
「‥‥はあ。そうなんですか?‥‥何か煙に巻かれたような気もしますが‥‥」
うひひひ。栄作ごとき言いくるめるのはお手のもんぢゃわい。
もちろんおいしい健康食も用意するが、少なめに。
薬草茶はたーっぷり用意しとこうっと。
冒険者が「姫」とか「侍」ばっかりひきあてそうだったら、わしの特技の手品(達人級)で そっと「坊主」札と入れ替えてやろーっと。
うひょひょひょひょひょ。たーのーしーみー♪
☆補足データ(人物)
丹下宗哲‥‥京都に小さな診療所を構える医者。若者をからかうのが大好き。元忍者だが、その事実はエイシャ君と本人しか知らない。
エイシャ君‥‥宗哲先生の弟子。本名が発音しにくいという理由で宗哲先生には「栄作」と呼ばれている。かなりなお人よし。
☆補足データ(おいしい健康食)
くるみ餅‥‥すりつぶしたくるみで和えたまろやかな味の餅。病後の体力回復等に最適。
柿の葉茶‥‥柿の葉を乾燥させ、蒸した葉でいれたお茶。ほのかに甘く香ばしい
桑の実酒‥‥夏に実った桑の実を漬け込んだ果実酒。濃紫色で、甘く香りが良い
☆補足データ(謎の健康茶)
延命草茶‥‥エイシャ君が涙した激苦な、お茶と呼ぶのも辛いものがあるお茶。
●リプレイ本文
●センセイのたくらみ
たっぷりの健康茶と少量ずつのおいしい健康食を用意して、宗哲先生がてぐすね引いて待ち構える中。
「こんにちはーっ」
パラーリア・ゲラー(eb2257)を筆頭に、冒険者たちが診療所を訪れた。
「今日はジャパンの遊びを教わって、お茶会も楽しめるって聞いてきたの☆すっごい楽しみー! おじいちゃん、いい人だねっ」
と宗哲先生に抱きつくパラーリア。この無邪気さよ。彼女の純粋さに宗哲先生が少しは罪悪感を起こしてくれればいいのだが。
「はじめまして、お邪魔します。坊主めくりは初めてですが、楽しめるといいですね」
覚えたてのジャパン語で挨拶するシルフィリア・カノス(eb2823)の服装は、なぜか「まるごとホエール」だ。しかも決してウケを狙っているのではない。自分が気に入って快適であればそれでよく、人目など気にしない人なのである。先般別な仕事で清楚な着物姿を披露し殿方達を悩殺したのもまた然り。
他の冒険者たちには礼儀正しく「上着を預かりましょうか?」と声をかけるエイシャ君も、彼女を前にしては思わず沈黙してしまった。しかし明王院未楡(eb2404)とサトリィン・オーナス(ea7814)の姿を見て、早速駆け寄り礼を述べる。
「あ、先般は大変お世話になりました‥‥今日はゆっくり遊んでいって下さいね‥‥坊主引いた時は別ですけど」
「ええ‥‥坊主めくりは昔、遊んだことが‥‥かすかに覚えている程度ですけれど‥‥」
と未楡。
「ジャパンに慣れるにはいい機会だと思って来たの。遊びを覚えるのは職業柄、必要なことだしね。ところで‥‥健康茶ってずいぶん苦いそうね。でも、少なくとも体にはいいわけだから、アレよりはましよね‥‥」
と何やら恐怖体験に思いを馳せるらしいサトリィン。
いつも変わらずおっとりと、優雅にドレスをなびかせつつ現れたアデリーナ・ホワイト(ea5635)は、初対面の宗哲先生と旧知のエイシャ君に上品な挨拶を送ると、質問した。
「ボーズが出た場合には苦いお茶ですのね。ではサムライが出た場合には「切腹」ですの?」
「そんな危険な遊びじゃありません」とエイシャ君。
「あら‥‥ではヒメが出た場合、『そこの誰と誰。わらわの目の前でキスせよ』とか、何でも誰にでも好きなことを命令できるとか言うルールでしたかしら」
「ない、ない」
全員否定。「思い違いでしたかしら」と美しい首を傾げるアデリーナはかなりの天然である。他に若き実力者ゼルス・ウィンディ(ea1661)、金髪碧眼ながら心は京都人な緒環瑞巴(eb2033)、男前な女騎士アルフォンシーナ・リドルフィ(eb3449)、といった面々が座敷に通され、円陣状に並べられた座布団に座る。
ゲーム開始。皆の中央に積まれた札の山から、一人ひとり、緊張の面持ちで札を引いていく。最初、ゼルス。侍の札。ゼルスはなぜかひどくがっかりしている。次、アデリーナ。侍の札。サトリィン、侍。次、瑞巴‥‥坊主。最初は、けなげに自分を励ましつつ。
「大丈夫、苦いって言ってもお茶だしっ。ごくっ‥‥にっにが! 苦いよ! 毒! 絶対これ毒だよ! こんなの飲むなら健康いらない‥‥」
飲んだ後は真実毒を飲まされたかのように壁をかきむしり、一同を恐怖のどん底に陥れた。早速、友人のアディアール・アドが胃薬を手渡している。
「さあさ、げーむ再開ぢゃ」
瑞巴のリアクションを横目に、楽しげに宣言する宗哲先生。
次、まるごとクマさん姿に鉢巻で気合を入れ挑んでいたパラーリア‥‥姫。
「わあいっ♪ じゃあ柿の葉茶! 瑞巴ちゃんごめんね‥‥」
百年凍った根雪も溶かしそうなとびっきりの笑顔で、美味しい柿の葉茶を堪能するパラーリア。しかしその後彼女が体験する地獄を誰が予知できたであろうか。
次、未楡。侍の札。次、シルフィリア‥‥坊主。一同が固唾を呑んで見守る中、シルフィリアはマイペースでおっとり口に健康茶を運ぶ。飲み終えて、何やら考えこみ。
「んーこの苦味‥‥粗食には慣れているのですがやはり薬成分の苦味は格別で、この‥‥どさっ」
解説中、苦味がようやく脳に到達したのか、一拍置いていきなり気絶。またも一同は恐怖のどん底である。
シルフィリアの手伝いに来ていた佐上 瑞紀が助け起こし、クライドル・アシュレーンが活を入れ、風月 明日菜が口直しの水を運んで駆けつける。
「け、健康にはいいお茶なんだよね? 毒じゃないよね?」
パラーリアが宗哲先生にすがりつき、声を震わせて確認しているが。宗哲先生、
「むろんぢゃ、目がさめたら前より元気になっとるわい」
飄々としたものである。なおも坊主めくり再開。
次、アルフォンシーナ‥‥坊主。
「苦難にあうは騎士の宿命、ましてお茶ごとき、この私は逃げも隠れもせぬ!」
きりりと言い置いてお茶を潔くイッキ飲み。
なんともいえぬ沈黙がおりた。
「不味い! しかもこの不味さ度を越えている‥‥子供にも飲みやすい薬を調合するのが医者というものだろう!」
あわや愛剣の柄に手をかけなんとするアルフォンシーナを、エイシャ君が捨て身で止めた。スタンアタックだったら誰も止めなかったかもしれない。
再開して次、ゼルス。
姫札を引いた彼はなぜか落胆した様子でくるみ餅を選び、首をかしげて、
「ふむ‥‥確かに美味しいのですが、何かこう、インパクトに欠けるというか‥‥」
ともったいないことをのたまい、瑞巴やシルフィリア達に血涙を流させた。
「いえ、ちょうど江戸から歩いて戻ったばかりなので、少し疲れがたまっていまして。健康茶をご馳走になりたいものだと‥‥」
「め、滅相なこと言っちゃだめだよ! ほら、宗哲先生がにったり笑ったよ! あのおじさん絶対、性格悪いよ! 」
瑞巴が声をひそめて止めるも、宗哲先生は、ゼルスの言葉を聞き逃さなかった。
「ほほー、よい心がけじゃ。ゼルス殿もきっと、この次こそ坊主の札を引こうぞ」
にったりにったり。
次、アデリーナ‥‥またも坊主。お茶を愛する優雅かつ気高き婦人の名にかけて、アデリーナはいつもと変わらぬ優雅な笑顔で健康茶を飲み干した‥‥多少、こめかみあたりがひくついた笑顔だったが。しかもその後、そよ風のようにさりげなく席をはずしたアデリーナが、診療所の裏で泡をふいてしばし気絶していたことを誰が知ろう。あるいは気を取り直した彼女が人目のある場所に戻った途端、鉄のごとき自律心で平静に戻ったことを。
美しく生まれついたということは、ある意味特殊な苦難を背負うことでもあるのだ。
アデリーナの次に札を引いたサトリィンは‥‥侍。さすが気丈な彼女も、多少気疲れしてきた模様。
次‥‥瑞巴。おびえきって、手がふるふると震えている。
「姫様、お願い、姫様出して〜! あのお茶、二杯も飲んだら致死量だよ‥‥」
引いた札は‥‥侍。瑞巴は気力尽き果てたらしく、その場でばたっと気絶した。
●淑女のたくらみ・ぷらす
「それにしても‥‥なぜこんなに‥‥姫の札が少ないのでしょう?」
未楡がもっともな疑問を口にした。
「んーなんでじゃろうのう。たまたま籤運の悪い者が一同に会したのやもしれんのう」
そ知らぬ顔で言う宗哲先生‥‥しかし後ろ手で、何やら座布団の下に「ささっ」と何かを隠すのを、しっかり目撃したサトリィン。
「時の流れよ、宗哲先生の傍で憩え、動きを止めよ‥‥コアギュレイト!」
コアギュレイトで宗哲先生を金縛りにした。
未楡が宗哲先生の座布団の下を探ったところ、おびただしい侍と姫の札が。
「二組のかるたを用意しておいて‥‥侍と姫の半数以上を、もう一組の坊主札と‥‥入れ替えておいたようですわね‥‥」
と、いたずらっぽい笑いとともにからくりを見抜いた未楡。
「まあ、そのようないたずらを‥‥おかげで私たちは気絶するやらはらはらするやら、大変な目にあったわけですわね」
と、おっとり微笑みながらアデリーナ。エイシャ君が、遠慮がちに口を挟んだ。
「ところであのー、ゲームのほうはどうされます?」
「そうねえ。もう坊主めくりのルールは十分わかったし‥‥それよりも坊主続きでどうやら美味しい健康食が余りそうでもったいないわね」
とサトリィン。しかし、それ以上に多量に残っているのが例の毒‥‥いやちがった、健康茶。それをどうするかと話題が転じたとき、アデリーナが手を打った。
「それはもう、今回の一番の世話人でもあることですし、やはりご老体を一番に労わりませんと‥‥このように健康茶をイッキ飲みしていただくことで」
言うや細い指を金縛りになってる宗哲先生の口の両横にひっかけ、うにーんと開きまくったその口中へ、残りの健康茶をすべてざあっと流し込んだ。
「うほっごほっぶほっ」
宗哲先生、次の日は咳き込みながら一日中寝込んだとか。その横で、冒険者たちは桑の実酒とくるみ餅、柿の葉茶でささやかな宴で盛り上がったそうだ。
「ああっ普通のお茶ってなんてすばらしいんだろ〜。くるみ餅が泣くほど美味しいよ」
特に瑞巴は、真実涙を流しつつ、感嘆したとのこと。
●後門のオオカミ‥‥?
ところが。災難はそれで終わらなかった。ゼルスが数日後、再び診療所の門を叩いたのである。健康茶を飲んで、あのときの仲間たちのような面白いリアクションがしてみたいのだという。
「健康茶を飲まれた時の皆さんのあの表情‥‥。あれを出せるようになるまでは‥‥先生、エイシャ殿、おつきあいください」
と礼儀正しく申し込まれては、宗哲先生もエイシャ君も断るわけにも行かない。
坊主を引くのをわくわくして待っているゼルスはいいとして、
「先生が悪いんですよっ。あんな苦いの作るから‥‥」
「やかましいわい、栄作。おぬしは弟子じゃから、わしが坊主引いたら代わりに健康茶を飲めぃ」
「そ、そんな〜!!」
戦々恐々として今度はいかさまなしの札を引く、師弟コンビであった。