女が強くて何が悪いのっ!? IN京都

■ショートシナリオ


担当:小田切さほ

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 71 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:04月25日〜05月01日

リプレイ公開日:2006年05月03日

●オープニング

 女騎士レオナ・ラトクリフ、28歳。
 彼氏無し。
 ただいまイギリスからジャパンへ物見遊山に来て滞在中。
 彼女の使命(と本人が勝手に思っている)は、女性は男性が思うほど、か弱く頼りないものではなく、強くりりしく、美しい存在であると世に知らしめることである。
 故郷イギリス王国からはるばる京都に旅して来たのも、多分それが目的と思われる。
 しかし。
 レオナの思い込みが激しすぎるのか、世の男性が鈍すぎるのか。
 女性は強い。そして強い女性こそ美しい。モテるべき(“特にこのあ・た・く・しがモテないなんて絶対おかしーわっ!”)。
 ‥‥という彼女の信念は、世の逆風にあうことが多い。
 今日も今日とて‥‥
 
「それは一体どーゆうことなのっ!!!」
 レオナは怒っていた。美しい金髪を振り乱し、青筋立てて。
「ど、どーゆうことと申されましても」
 レオナに胸倉つかまれて、眼を白黒させているのは一人の講談師。
 レオナは京都見物の一環として、逗留している宿屋に講談師を呼び、当世人気の講談である、世に名高い剣豪の生涯についての物語を聞いていたのだが‥‥
 その、講談の内容が、いたくレオナの信念に反したらしく。
「説明なさいっ! その剣豪とやらはなぜ、
『剣の道に女は邪魔だ』
 とか言って、自分を慕う女を捨てて修行の旅に出るの!?
 なぜ女が修行の邪魔になるのかしらっ!?
 それになぜ、捨てられた女は、えさをもらえない子犬のようにその男の後を付いてゆくのっ?
 しかも最後はガンリュー島とやらで、その男ともう一人の剣豪が強さを競って剣の勝負、女はそのころ心配のあまり病で寝込んでいるっですってぇー!?
 どこまで女性をバカにした物語なのかしらっ!
一体どーゆーことなのか、聞かせていただこーじゃないのっ!」
 叫びつつ、レオナはゆっさゆっさと胸倉つかんだ講談師の体を揺さぶる。
 講談師はがっくんがっくん揺れながら、
「そ れ は そ の ‥‥だって女性は元来かよわい存在でっ‥‥ぐはっ」
 憐れな講談師は、怒り心頭のレオナによって、宿屋の玄関からぽいと投げ捨てられた。
 レオナはもはや、新たな目的に向かって走り出していたのであった。
 彼女が向かった先は、言わずと知れた冒険者ギルド。
 「あたくし、こう見えても文才と舞台づくりの才能に恵まれておりますの。
 じゃぱんの民は、どうやら女性がか弱いものだなんていう筋の物語に惑わされているようだから、彼らを啓蒙するために、新作芝居の興行を打つつもりよ。
 そこで、あたくしの意に沿う演技をしていただける冒険者を探しているの。
 次のような粗筋のお芝居をするから、きちんと依頼を掲示してちょうだい」
 レオナは、あっけにとられるギルド係員を前に、自信たっぷりに言い放った。

 『京都の町に、一人の女剣術士がいた。
 彼女は剣を極めるため、修行の旅に出る。
 その旅立ちを阻もうとする、女剣士を恋い慕う美少年。
 しかし、すがりつく美少年を蹴倒して(オイ)女剣士は修行の旅へ。それでも、美少年は子犬のように女剣士の後を追い、旅に出る。
 一方、女剣士は他の剣士たち(これも女性)とめぐり合い、次々に打ち勝ってゆく。
 中でも抜群の強さを持ち、互いに宿命のライバルと認め合うもう一人の若き女剣士と、とある無人島で決戦することに。
 戦いの末、女剣士はライバルに勝つ。
 威風堂々帰還する女剣士。
 その頃、女剣士を心配するあまり、彼女を慕う美少年は病の床に‥‥
 そして、女剣士の帰りを待つことなく、儚く息を引き取るのであった』
 ‥‥アレ?
 
「これってもしかして」
 かの有名な剣豪の伝記のパクリじゃないですか、とギルドの係員は言いたかったらしいが、レオナの眼光が怖くてとてもじゃないが言えなかった。
「美しくてあえかな美少年、そして強くて美しい女性達を待っているわよ。おほほほ」
 レオナは高笑いとともに去っていった。

●今回の参加者

 ea0085 天螺月 律吏(36歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea0424 カシム・ヴォルフィード(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea1003 名無野 如月(38歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea2001 佐上 瑞紀(36歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea4141 鷹波 穂狼(36歳・♀・志士・ジャイアント・ジャパン)
 eb1421 リアナ・レジーネス(28歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 eb3449 アルフォンシーナ・リドルフィ(31歳・♀・ナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 eb4467 安里 真由(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)

●サポート参加者

レイヴァント・シロウ(ea2207

●リプレイ本文

●古今東西女は強い!?
作・演出=レオナ・ラトクリフ
タイトル=「ある女剣士の生涯」
演出補・メイク他色々=レイヴァント・シロウ
 はじまり、はじまり‥‥

「どうしてですか? 剣術修行の旅に出るなんて」
 と、いたいけな美少年っぷりのカシム・ヴォルフィード(ea0424)を、女剣豪・佐上瑞紀(ea2001)は、冷たく突き放した。
「そうね、退屈な幸福よりも、刺激的な不幸の方が好きだからかしら」
「でもっ‥‥僕、あなたが心配で‥‥お願い、行かないでっ」
「今の私には、優しさなんて必要ないのよっ!」
 瑞紀はすがるカシムを蹴り倒す(しかもなぜか回し蹴り。一説によると今回の役で彼女の中の女王様が目覚めた)。
 カシムが、風に吹かれた秋草のように倒れる。背を向け去っていく瑞紀であった。
 旅に出た瑞紀は、早速異国の剣士・アルフォンシーナ・リドルフィ(eb3449)の挑戦を受ける。
「そこな女人。身のこなし、その刀‥‥かなりの使い手と見た。一手のご指南をお願い申し上げる」
「異国の剣術‥‥面白そうね」
 ためらいも無く真剣での試合となる二人。試合場所は海岸。なぜか亀(セット)に乗って登場するアルフォンシーナ。
「試合の前に一つ聞きたいわ。なぜ、亀なの?」
「‥‥気分だ」
 という哲学的な問答の後立会いが始まった。
 アルフォンシーナのオーラソードが青白く輝く。一方瑞紀は自らの背よりも長い刀身の日本刀を軽やかに操る。
 勝負あり! 二人の体が入れ替わる一瞬のうちに、瑞紀がわずかに早くアルフォンシーナの急所を斬った。
「見事‥‥遠路はるばる、ジャパンまで来ただけの甲斐はあった‥‥」
 アルフォンシーナは呟き‥‥そして倒れた。
 旅を続ける瑞紀に、突然、名無野如月(ea1003)が斬りかかる。
 如月は元々同じ剣術道場で技を磨きあう仲だった剣術士だった。しかも恋敵でもあった。道場のアイドルだったカシムを競い合い、そして瑞紀が剣術と恋、両方の勝利者となっていたのだ。
 未練を断ち切ろうと、剣の修行に励んだ如月。だがどうしても瑞紀に勝てない苛立ちが、妖刀「春来んねん」につけこまれ、魂をのっとられていたのであった。 
「くっくっく‥‥この妖刀『春来んねん』が、貴様の血を吸いたいと哭いておるわ!! この刀さえあれば、カシムちゃんを貴様に奪われた恨みなど、一刀両断!」
 目を妖しく輝かせて刀を抜く如月が含み笑うが、
「っていうか、『恨み』がどうのこうの言ってる時点で未練があることを語るに落ちてると思うわ」
瑞紀の冷静なツッコミとともに、
「‥‥くうっ! ‥‥私の恋には春‥‥来んねん‥‥」 
あえなくその攻撃を旋風のように回転してくる長刀に受け流され、斬られてしまうのであった。
 レオナからの、『ツッコミの女王』の異名に恥じない演技を、今回も期待しているわっ! というプレッシャーが効いたものかどうかはわからないが、素晴らしいキレっぷりの演技を魅せる如月であった。しかし人妻がそれでいいのかという疑問が湧かなくもない。
 もしかしてご主人には秘密ですか(何)。
 一方、カシムは瑞紀恋しさに、病弱な体を押して彼女の足跡を追い、旅に出る。
 旅先で病んで倒れたカシムを、一人の剣士が救う。
「随分疲れているようだ。ここで養生したらどうだい? 遠慮はいらないよ」
 さばさばと言う中条流の志士・鷹波穂狼(ea4141)。きれいな褐色に日焼けし、男装がすっかり板についた大柄な体と鍛えられた筋肉は、男顔負けだが声は優しい。
 恋人を追っているというカシムに、心打たれ、惹かれる穂狼。しかし、ある日訪れた道場破りが、触れ合いつつあった二人の心に終止符を打った。
「町で評判を聞いて来たわ。一手のご指南をお願い申します」
 訪れたのは、瑞紀だった。道場に身を寄せるカシムと会い、驚くが、瑞紀は「故郷の村に戻りなさい」と、カシムを突き放す。
「威勢のいい嬢ちゃんだな。私が相手になってやるぜ」
 と、長身に鷹羽をあしらった鎧をまとい、威風堂々と受けて立つ穂狼。長身から振り下ろされる凄まじい初太刀を、瑞紀は舞うように長刀を手前に突き出し、受け流した。穂狼のニ撃目は、ひらりと跳んでかわす。
「やるなお前! 私の二太刀目をかわすとは」
 しかし、わずかな隙をついて懐に飛び込み、腹を直撃した瑞紀の剣を受け、穂狼はゆっくりと倒れた。
駆け寄るカシムに穂狼は、強いて微笑を浮かべた。
「あれが君の想い人か。あの人について行くには、君にも覚悟が必要だろう‥‥それでも行くのか?」
 頷くカシムに、「そうか‥‥そんなにあの人を‥‥」寂しげな微笑とともに、穂狼は息絶えた。
 旅を続けようと道場を出た瑞紀の前に、リアナ・レジーネス(eb1421)が立ちふさがる。
「どうして、そんなにも誰かを踏み台にして駆け上がることがお上手なんですか? すばらしいこと!」
 淑やかな美貌に邪笑を浮かべ、ふわりと宙返りで空中を舞いつつ(リトルフライ+細いロープで舞台の梁から吊られている)、細身の剣を抜くリアナ。
「珍しい剣術を使うわね。で、何が望みなの?」
「ふふふ‥‥。どうぞ私のことも踏み台になさいませ。私悪い人が好きですのよ? でも、どうかお気をつけあそばせ――血まみれの道はたいそう滑りやすいものでしてよ!」
 不吉な警告を放つと共に、リアナが宙から落下しつつ、短剣で瑞紀の急所を狙う。見たことも無い攻撃に、一瞬瑞紀の構えが遅れる。間一髪かわした瑞紀の着物の肩が切り裂かれた。
「今度もかわせますかしら」
 美しい微笑とともにリアナが言い、またも瑞紀に向かい疾走する。その途中またふわりと空中に浮かび、脳天から短剣を突き刺そうとするが‥‥
 瑞紀が構えた長太刀を回転させ、宙に縫いとめるようにリアナを突く。まさに我流ならではの技だった。
「ばかな‥‥ッ。そんな剣技があるなんて‥‥」
 大輪の華が散り崩れるようにリアナが地に落下し、倒れる。

 瑞紀はまた歩き始める。
 病から回復しきっていないカシムは、追いつけず、ただ精一杯の声で、瑞紀に呼びかけるのだった。
「貴女が剣とともに生きるなら‥‥僕はこの体を捨てて、その剣に宿る魂になりたい!」
 切ない言葉に一瞬立ち止まりかけて、それでも宿敵・天螺月律吏(ea0085)との果し合いの場へ向かう。
 律吏とは、まだ剣の修行を始めた頃からの知り合いであった。
 律吏は古い家柄の跡取り娘だった。幼い頃両親をなくし、家名を守るという重すぎる義務のもと、心を削るようにして剣の修行に励んだ。
奔放に我流の剣を磨く瑞紀とは、他流試合に訪れた道場で出会ったが、互いに決して相容れないものがあった。やがて互いに「いつか敗るべき敵」とみなすようになったのは、宿命だろうか。
  
 律吏もまた、恋を断ち切り戦いの場に臨んだ。
 恋人の美少年(=安里真由(eb4467))は、
「勝ってください‥‥僕は、貴方の無事のためなら、どんなことでもします!」
 たとえば瑞紀の大切な人をかどわかして人質に取ることも辞さないと言い切った。だが、
「いや、卑怯な真似をして勝つ位ならば、私は腹を切る。おまえも私の恋人ならば、誇りを持て」
 律吏は叱るように言いつつ、その髪を優しく撫でた。
 長い髪の華奢な美少年・真由は、
「必ず無事で戻って下さいね! でないと、僕‥‥」
 必ず戻る、と指きりをして欲しいとすがる。律吏は一瞬ためらうが、やがて強いて笑顔を作る。
「わかった。約束だ」
そして律吏は出発した。

「久しぶり‥‥というのも変かな。決闘の前の挨拶としては」
 律吏が剣を構えつつ、微笑む。
「知り合ってから結構経つ訳だけど‥‥今回で決着をつけましょうか」
 先に決闘の場で待っていた瑞紀が、食事の誘いのように淡々と言う。
「やあぁぁっ!」
 律吏が太い業物を振り下ろす。瑞紀の長太刀が、はじき返す。
「もらった!」
 律吏が笑みつつ、オーラソードを発動させる。瑞紀は長太刀の反動で、すぐには切り返せない――と思いきや、瑞紀のソニックブームが発動し、律吏を後ろざまに突き倒す。次の瞬間、律吏のスキに体勢を立て直した長太刀がその胸を貫いた。
 律吏の黒の着物が風になびき、そして‥‥倒れた。
(「ごめん‥‥真由。でも私にとっては‥‥いい最後だったよ‥‥」)
その唇はかすかに笑みを浮かべている。瑞紀は瞑目し、言った。
 「あなたと‥‥いえ、今日この日に至るまでに戦った全ての人と戦えた事を誇りに思うわ」
 戦いを通して無敵の剣を会得して、故郷に帰り着いた瑞紀を待っていたのは、カシムの死という哀しい報せだった。
 目を閉じ、唇を噛む瑞紀。そっと刀を抱きしめる。
「貴方の魂、私の剣に宿ってくれたかしら? これからは永遠に一緒よ」
 リィン‥‥かすかな鍔鳴りが、応えるように響いた。

●ともあれ打ち上げ
「皆、すばらしかったわ。ご苦労様」
 興行打ち上げの宴。レオナは超御機嫌である。
「いや、確かに女が強いことに反発する輩は多い。実り多い経験だったよ」
 律吏が遠慮なく杯を重ねつつ言った。紫煙をくゆらす如月が同意する。
「まったく、相変わらず世の男どもの目は節穴ばかりだからな。情けないこった」
「それに、剣豪の伝記に女性が活躍するなんてほとんど無いものね。このお芝居で、女性剣士達が発奮してくれるといいと思うわ」
 すっかりレオナと意気投合したらしい瑞紀も、なんだか熱い口調で言う。
「カシム君の衣装が地味すぎたことだけは残念ね。ドレスの生地が間に合わなくて」
 というレオナの言葉に、カシムが表情を引き締めて向き直る。  
「レオナさん、今日こそ分かってもらいます。僕は男ですから女装なんてしませんっ!」
「シロウさん、ちょっとカシム君の手足を押さえてて下さる? せめてお化粧をして差し上げますわ」
「あっ何を‥‥嫌だって言ってるのにーっ!」
 がんばれ、強い女性達。違う方面にだけど、美少年もがんばれ。