逆・男性天国!? 〜ラブシーンを教えて〜

■ショートシナリオ


担当:小田切さほ

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや易

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月16日〜05月21日

リプレイ公開日:2005年05月25日

●オープニング

 「美」の定義とは、時代とともに移り変わるものである。
 それを痛感している男達がいた。手作りの舞台の裏で、今日も彼らは、時代の変化を嘆いていた。彼らは、旅回りで芝居を見せる小さな劇団のメンバー達である。教会の庭などを借りて野外で、あるいは教会の聖堂の一部を借り、布を張り巡らすなどして即席仕立ての芝居小屋代わりにし、一幕物の劇を見せることで収入を得ていた。だが、どうしたことか、このごろまるで客が入らないのだった。
「今日も客‥‥来ねえな‥‥」
「うん‥‥」
 ひゅぅぅぅ‥‥
 春だというのに、彼らの周囲と懐には、まだ木枯らしが吹いていた。
 かつては結構、当たりをとったこともあった。
 彼らが得意とするのは、英雄伝説などの勇壮な芝居だった。山を越え、谷を渡る旅回りの過程で身に付けた俊敏な(お猿さんなみの)運動神経と、崖から滑り落ちそうになる仲間を
「ファイトォ!」
「一発!」
 と励ましあいつつ助けあげたりして鍛え上げた筋肉。それらを駆使してみせる立ち回りは迫力満点で、客達の喝采を浴びたものだった。
 しかしいつのころからか、
「なんか筋肉ばっかで超ダサって感じ?」
 等冷たい声が客席の間から聞こえるようになり、それでも彼らは自らの筋肉と演技を信じて一途にやってきたのだが、芝居を打つたびに客は一人減り、二人減り、そして誰もいなくなった。
 客の好みが変わってきたのだ。
 それでは今は何が受けているのか、彼らはこっそり巷の流行り物を調査してみた。そして、今はどうやらラブストーリーが受けているらしい、という結果を得た。しかしラブストーリーをしようにも、この劇団には女性がいなかった。無理も無い。ひたすら筋肉を鍛え上げて、勇壮な芝居を見せようとてかなりキツい訓練をやってきたものだから、女性は脱退し、あるいは恐れをなして近づこうともしなかった。
 それではというので、「女性団員募集」の看板を並べてみたものの、もとより客も入らない劇団に、入団希望者がいるはずはなかった。まして、目をギラギラさせた筋肉男が入団受付に並んでいるときては‥‥
 仕方なく彼らは、最年少の団員に脱毛させ、カツラをかぶらせ、女装させて姫君役に仕立てて、ラブストーリーを演じてみた。しかし真の不幸は、その舞台のクライマックスに訪れた。
「おお、愛する姫!」
「ああ‥‥愛しい騎士様っ!」
 むぎゅっと抱き合う恋人同士の演技をしていた姫君役(♂)と騎士役(♂)。
 バキボキッ。
 ムードのかけらもない音がして、共演者二人は「ぐわあ!」と白目をむいてのけぞった。
 鍛えすぎた筋肉により、抱き合う演技で互いの胴を締めてしまったのだ。当然たださえ少ない客は引き潮のように去ってゆき、残った団員は額を集めて事態の収拾と解明につとめた。
「誰か、実施に女性を抱きしめたこと経験のある者、こいつらに指導してやってくれ!」
 団長の言葉に、
「し〜ん‥‥」
 全員が水を打ったように静まり返った。
「そういえば、俺達、ラブシーンどころか、本当の恋も‥‥したことないっす」
 いかつい兄さん達が顔を見合わせて頬赤らめるの図となった。
 このままではいけない。誰もがそう結論を出した。
 このままでは、ラブシーンの演技はおろか、恋の仕方も知らないまま、筋肉にかこまれてあたら青春を費やしてしまうだろう。
「な、情けないっす〜」
 団員達は、打ちひしがれて地面にがっくり膝をつく。が、どんなときも前向きな団長が皆を励ました。
「皆、元気を出せ! なんとかして俺達に『らぶしーん』の指導をしてくれる人を探そうじゃないか!」
「そんな奇特な人、どこにいるっすか?」
「冒険者ギルドに行こう! 冒険者は、困った人の味方というじゃないか!」
 団長が言い切ったので、皆の心に希望の星が生まれた。
「ももも、もしかして、女性冒険者が俺達に協力してくれたりなんかしたら‥‥」
「じょ、女性とラブシーンができるっすか!?」
「女性の体って、やわらかいんでしょうねえ」
「キスの味って、やっぱ甘いんすかね」
 ごくり。
 全員ドリームモードに突入である。
「いざ、冒険者ギルドへレッツゴーだ!」
「おおぉー!」
 どどどど(足音)。
 ‥‥というわけで、希望に燃える若者達の依頼がギルドによって受理されたのだった。

●今回の参加者

 ea5635 アデリーナ・ホワイト(28歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea8247 ショウゴ・クレナイ(33歳・♂・神聖騎士・人間・フランク王国)
 ea8255 メイシア・ラウ(24歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea8765 リュイス・クラウディオス(25歳・♂・バード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ea9840 シルキー・ファリュウ(33歳・♀・バード・人間・ノルマン王国)
 eb0117 ヴルーロウ・ライヴェン(23歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb1182 フルーレ・フルフラット(30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb1961 アリオク・バーンシュタイン(28歳・♂・神聖騎士・人間・ロシア王国)

●リプレイ本文

●美女と野獣と鬼監督
 熱く見詰め合う、たくましい騎士とバラ色の頬をした乙女。
「行かないで‥そのために死ぬとしても、貴方と離れるくらいなら‥」
 乙女のセリフに、騎士が、
「お、俺も離れたくないっす!」
 がばと乙女を抱きしめる。乙女は
「キャッ!? 何するっすかー!?」
 もがきざま騎士を見事に投げ飛ばした。
「ちょっと待ったあ!!」
 厳しい声が飛び、長い銀髪の若者が二人の間に割ってはいる。
「騎士役、セリフが違う! ここは『私は行かねばならないのです』だ! また興奮して暴走したな? それにフルーレ! 病で死にかけてる乙女が騎士を投げ飛ばすかっ!」
 ぴしぴしと決め付けるヴルーロウ・ライヴェン(eb0117)。
「今日から俺を『監督』と呼べ! ロマンスに関することなら俺に聞け」
 と宣言し、舞台監督を買って出たのはいいが、彼も恋の達人とは行かないようで‥‥
「か、監督は女性とチューしたことあるっすか?」
 劇団員の質問になぜか内股になり、
「こ、高貴な俺に、下世話な質問をするな!(涙目&顔真っ赤)」
 どっちやねんとツッコみたいところ。さて演目の内容とキャスティングは‥‥
 病に倒れた恋人を救うため妖精の王国に秘薬を求めに行った騎士が妖精国の反乱に巻き込まれるという、異国の伝説を元にアデリーナ・ホワイト(ea5635)が脚本化し、イギリス語ネイティブでない仲間達のためにセリフを簡潔にしたり大衆向けに筋を簡略化したりと工夫を重ねた。

・キャスト
 騎士:劇団員カイ
 反乱軍の将軍:劇団員オットー
 反乱軍参謀:アリオク・バーンシュタイン(eb1961)
 騎士の恋人:フルーレ・フルフラット(eb1182)
 妖精国の女王:アデリーナ
 女預言者:メイシア・ラウ(ea8255)
 魔女:ショウゴ・クレナイ(ea8247)
 歌姫:シルキー・ファリュウ(ea9840)
 妖精国の王子:ヴルーロウ
 その他:劇団員の皆さん

 リュイス・クラウディオス(ea8765)は、音楽担当と言われなぜかほっとした表情を浮かべたが、その代わり紅いバラをくわえて最初に登場、舞台口上とオープニング音楽を奏で、バラは客席に投げるよう頼まれ憮然としている。
「ええい、こうなったら開き直ってやる〜。おばはん客からしこたま搾り取るぞ!」
 一方、あくまで高飛車モードのヴルーロウ。
「ふん。俺が舞台に出たらあまりの高貴さに観客が平伏してしまうぞ」
 「それが、王様用の衣装が一枚しか残ってないし、俺達にゃサイズが細すぎるッスよ」と説得され、青い衣装でないのが気に入らんと文句を言いつつも、純白に銀糸の縫い取りの入ったマントを羽織り舞台に立つことになった。
 もっとも純白と銀は、双子の湖のごとき碧眼をいかんなく引き立て、18歳の若者とも思えぬ程の威厳を醸したのだが。
 バラ色ほっぺの元気娘フルーレは、叱られてもめげず、
「よーし、悲劇の恋人役、がんばるッスー!」
 と拳をつきあげ気合を入れている。瀕死の乙女役なんですけど、とツッコみたいところである。他の面々もそれぞれ役作りに忙しいようだ。
「私が女性役ですか? てっきり騎士の従者役でもするのかと思っていました」
 短髪の似合う、美少年めいた自分の容姿を意識してか、メイシアは言う。だが、劇団員の懇願に折れた。
「せっかく女性が来てくれたのに男性役を演るなんてもったいないっす〜」
 女性用の衣装も用意してくれていることだし、今までの劇団のイメージを払拭すべく、女性役を多くし華やかさを出したいという劇団員達の希望は切実だ。
「そうですか‥‥まあ、メイクすればなんとかなるかもしれませんね。一度、見ていただけますか?」
 と別室に一端引っ込んだメイシア。再び現れた姿を見れば、鮮やかな翠色のローブ姿。ほんのりさした紅が涼やかに整った顔立ちをひきたて、別人のように艶めいている。伊達に『花嫁マイスター』とは呼ばれぬというところだろう。途端に数人の劇団員が「しびびび〜」雷に打たれたように倒れた。少年ぽい女性が女らしく変身すると、男性達には相当な衝撃をもたらすようである。
「ぼ、僕はもう女性役はこりごりです!」
 悲鳴に近い声をあげているのはショウゴ。当初、いきなり女性相手では緊張するだろうからと、ミミクリーで女性に変身して自ら劇団員達の練習台となったショウゴ。憂いげな瞳の優男とはいえ男相手のラブシーンか、と愚痴っていた団員達だが、ショウゴの変身を一目見るや息を荒くして彼を取り囲んだものだ。潤んだ闇色の瞳、ミルクに花びらを浮かせたような肌と唇、と来ては当然かもしれないが。
「ら、らぶしーん、やらせていただきまっす!」「うぉー!」
 団員達に飛び掛られ、ストイックな神聖騎士ショウゴの理性がぷっつんと音をたてて切れたのもまた当然。
「て、貞操は死んでも守る〜!」
 ショウゴのクルスソードが舞い、危うく血の雨が降るところであった。
 だがなんと言っても女性キャスト不足であるから、この配役も受け入れざるを得ないようだ。
 参謀役アリオクは、
「まったく、客寄せだけでも忙しいのに役まで振るなんて。別ギャラもらわなきゃ」
 とちょっぴり生意気な主張をする。彼は団員たちと毎晩ナンパに買い物にと夜の街へ繰り出していた。自分もちゃっかり楽しみながら、さりげなく団員達に自信を持たせるように似合う服を選んでやったり女性相手の会話に慣らしてやったり。気ままに見えて結構気配りしているのかもしれない。
 歌姫役のシルキーは舞台で演技にチャレンジできるし歌えるということで喜んでいる。しかし反乱軍の将軍に偽りの愛を仕掛けられ、反乱に加担する役どころで、相手役にしなだれかかる演技があり、
「今回の仕事の内容、妹の耳に入らないようにしなきゃ‥‥」
 と心配している。彼女の妹は姉を自分の分身みたいに思っているので少しでも自分の理解を超えた行動をされると大騒ぎするのだ。
 そんなシルキーに、花束とハーブワインの入った小びんの差し入れが届いた。贈り物に添えられたメッセージには、
「初舞台がんばって下さい 僕も客席から応援します‥‥エイシャより」
 とあった。男友達‥‥もしかしたら彼氏候補‥‥からの贈り物らしい。
「どうしよう〜、ラブシーンが余計に恥ずかしいよ〜」
「まあ、贅沢なお悩みですこと。うんと焼きもちを焼かせておあげなさいませ」
 悩むシルキーをアデリーナがからかう。天然キャラゆえか、恋はまだ他人事と思っているらしいアデリーナ。しかし‥‥
 反乱軍の将軍役オットーが、アデリーナに打ち明けた。
「自分、すげ不安ッス。俺達に、らぶろまんすの舞台が務まるのかどうか‥‥女性客に『筋肉超ダサ』って言われたッスから」
「まあ、そんなことを仰らないでくださいまし!」
 アデリーナがほっそりした手でごつごつしたオットーの手をしっかりと握り、
「筋肉は男の華ですわ! 貴方様は筋肉の花園に咲く大輪のバラですわ。私、いつも貴方様の筋肉に見とれておりますのよ。自信をもって、私と同じ高尚な趣味をもつ女性達を魅了してくださいませ」
「ア、アデリーナさん‥‥貴女は俺の、女神だ〜」
 感涙にむせぶオットー。しかしその彼の目にキラリと危険な光が宿ったことに気づいたものはまだいなかった‥‥

●ムキムキ逃避行
 舞台当日。客入りが心配されたが蓋を開けてみれば上演場所である教会の庭に鈴なりの人だかり。アデリーナが町角のあちこちに置いた立て札、アリオクのナンパ(?)、すべてが功を奏した結果だ。舞台は教会の午後の鐘とともに開始。バラをくわえてリュイス登場。
「ひと時の夢を私どもとともにお楽しみくださいませ」
 口上とともにバラを投げると、黄色い声ならぬ茶色い声援が上がる。
「リュイスちゃ〜ん愛してるで〜!」「今日も脱いでぇ〜」
 その後、熟年女性客達の傍らに跪きタバコの火をつけたりエールを注いだりサービスにいそしむ彼の姿が見受けられた。
 舞台の幕があがる。悲劇の乙女フルーレはちょっぴり元気が良すぎたが初々しく愛らしく、騎士の剣の腕に目をつけ、妖精国の反乱に加担させようとする参謀役アリオクも長身と神聖騎士ならではの身ごなしが舞台によく映えた。預言者メイシアの警告もむなしく、騎士へのかなわぬ恋ゆえに禁断の秘薬を持ち出す女王アデリーナ。純白のマントを翻し弟王子ヴルーロウは憂いつつ姉を責め出奔する。
 女王をかばい秘薬を作った罪をかぶり処刑される魔女役ショウゴ(観客の涙を誘うが、騎士に抱き起こされる場面で(死んでるはずが)なぜか激しく抵抗)。その夜、悩む王子に歌姫シルキーが歌で油断させ毒杯をすすめる。
 王子の悲劇的な死に動揺する暇もなく、女王アデリーナに反乱軍の手が迫るといった流れになるはずだった。
「恋に死ぬ喜びのなんと甘いこと。さあ、お斬りなさい」
 とひざまずくアデリーナにざっくり切りかかるはずの将軍役オットーさん、何を思ってかアデリーナの華奢な体を抱き上げ、舞台を飛び降り猛ダッシュ。
「あらっ? あら? ‥‥ア〜レ〜!」
 何がなんだかわからぬアデリーナに、オットーさん口説きまくる。
「お、俺、舞台が終わっても、アデリーナさんを離したくないッス! このまま駆け落ちするッス!」
 筋肉ムキムキの腕にドレス姿の華奢なレディをお姫様抱っこしてひた走る姿は非常に犯罪ぽいのだが、今回はそれ以前の問題がある。
「こるぁ舞台に戻れ〜!」
 倒れていた悲劇の王子ヴルーロウが跳ね起き、鬼監督に豹変して怒鳴る。舞台袖で死んでたはずのショウゴとフルーレが生き返り? タックルしてアデリーナを奪還する。てんやわんやの舞台となった。
 しかしこの舞台、現実の恋模様が同時進行していたことが話題になって、ロマンスに憧れる女性達を大いにひきつけたという。その恋模様がどんな結果になったかは、また別の物語に語られることだろう‥‥