【男子厨房に乱入!?】春だから‥‥の巻

■ショートシナリオ


担当:小田切さほ

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 39 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月19日〜03月22日

リプレイ公開日:2007年03月26日

●オープニング

 それは、緑色をしていた。春の訪れを感じさせる、ややくすんだ若葉色とでも言うべきか。
 小さな診療所の待合室の、畳み二畳半分の広さに広げられた、あまりにも大量な「それ」。
 診療所の主、丹下宗哲先生はじーーっと眺めておもむろに、言った。
「ヨモギ‥‥やな、全部」
 丹下先生の助手、イギリス王国生まれのエイシャ君は言った。
「ヨモギ‥‥ですね、全部」
「どないしょう」
「どうしましょう。それにしても」
「ヨモギ‥‥やな、全部」
 さっきから、二人の会話はこの無限ループを繰り返しているのであった。

 もとはといえば、宗哲先生がほどこした、ささやかな人助け。
 宗哲先生は、京都の一角に小さな診療所を構える医師である。
 治癒魔法こそ持たないが、薬草に精通しており、その使い方に関してはまるで生き字引、加えて飄々とした人柄で、評判は決して悪くない。
 京都を通過して他国へ向かおうとする行商人が怪我をして、丹下先生の診療所へ運び込まれた。
 行商人は脚をくじいていたが、湿布と腰湯、揉み治療ですっかり回復し、丹下先生に非常に感謝してくれた。
 故郷を離れて旅しながら商いする身には、異国の医者の、「人助けじゃ」と報酬も求めない親切が身にしみたそうな。
 問題は、この行商人が、10歳と8歳の幼い兄弟を連れていたこと。
「先生、ほんとに父さんのお薬代、あれっぽっちでいいの?」
 幼い兄の重吉は、丹下先生を気遣った。
「ああ。薬草は裏の畑で育てとるものがほとんどじゃからな。たいして肥料もいらんものがほとんどじゃし、元手は大してかかっとらんのでの」
 それは本当だ。ユキノシタの軟膏やヨモギの灸などは野草から作られるので、大して薬代も高くはない。
 だが、行商人の痛む足を深夜まで擦ってくれたり、父の怪我を不安がる幼い兄弟に、気晴らしのためにと飴湯をくれたり、異国の物語を聞かせてくれたりしたエイシャ君の心遣いは、金では換えられない。と、子供心にも思ったのだろう。
「でもさー、まだ父さんの商品が売れてないからお金はあんまり払えないけど、僕と兄さんで何か先生のお手伝いがしたいよー」
 と、弟の次郎太がまぁるい頬を膨らませる。ややあって、重吉が言った。
「あっそうだ。ねえ、先生。父さんの湿布に裏の畑のヨモギ、だいぶ減っちゃったでしょ? じゃあさ、僕と弟で、川岸に行ってヨモギとってきてあげるよ」
 てなわけで。
 二人がかりとはいえ幼い子供のこと、採ってくる量も知れていると思いきや。
 この兄弟、商人の子だけあって口が達者。
「先生に恩返しがしたいのっ」
 とウルウル目で訴え、近所の農家で荷車を借りてくる。
 同情したお百姓さんが荷車押しを買って出る。
 兄弟が京都滞在中に仲良くなった遊び仲間がなんか面白そうだというのでわらわら集まる。
 その仲間がまた兄弟友達を呼んでくる。
 ‥‥
 かくして。
 川岸のヨモギ総揚げ状態。
 で、診療所に「どどーん!」と、山盛りのヨモギがあるというわけだ。

 しかも、山のようなヨモギを持ち帰った幼い兄弟は、期待に満ちた瞳で聞くのだった。
「ねえねえ、これだけヨモギがあったら、先生助かる?」
「あ‥‥ああ、そうやな。うんと助かるぞい」
 ひきつる笑顔の宗哲先生。
「わーい♪ じゃあさ、僕達の摘んできたヨモギ、どんな風に役に立つの?」
「それはですね‥‥まずは薬草酒にして、胃腸の強壮薬、あとは患者さん達のお粥に入れたり、おやつのヨモギ餅‥‥にしても‥‥このままだと百人分くらい作れそうだけど‥‥」
 エイシャ君も、あまりのヨモギの量に引きそうな自分を必死に抑えている。
「僕達の摘んできたヨモギが役に立つところ、見たいなー」
「お父さんが京都いる間に、見れるかなー」
 子供達が、寂しげにぽつりと言う。
 そこで、宗哲先生の目がキラーン!
「ようし、見せたる! おぬし達が京都にいる間に、このヨモギ全て、世のため人のため、使い切って見せるぞえ!」
 宗哲先生が、キッパリと言い切った。のはいいのだが。
「でもっ、これだけ大量を短期間にって無理ですよ。ご近所に配るとか‥‥」
「なんじゃおぬし、人任せにしようというのかっ!?」
 なんだか燃えてる宗哲先生。
「こういう場合はな、冒険者でも呼んで知恵を借りるのぢゃ!」
「って、それを人任せって言うんです!」

 結局。
 ヨモギ使いきりアイディア&お手伝い募集中。
 の掲示がギルドに貼り出されたのであった。

●今回の参加者

 ea6877 天道 狛(40歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea8904 藍 月花(26歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ea9502 白翼寺 涼哉(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ea9840 シルキー・ファリュウ(33歳・♀・バード・人間・ノルマン王国)
 eb2404 明王院 未楡(35歳・♀・ファイター・人間・華仙教大国)
 eb4605 皆本 清音(27歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●料理のココロ
「久しぶりです。おかげで妻も元気で」
 白翼寺涼哉(ea9502)、天道狛(ea6877)が仲睦まじく腕を組んで訪れたのを見て、宗哲先生がにっこり、そしてえへんとひとつ咳払いをした。
「おぉ、元気そうで何よりじゃ。相変わらず絵になる夫婦じゃで。‥‥じゃが、ひとつ言うておくぞい。今回は子供達の目があるからの。いちゃつきは禁止じゃ!」
「‥‥あ」
 宗哲の言うとおり、診療所の窓からおとなう人々をじいっと見つめる重吉・次郎太の円らな瞳に気づいて、慌てて腕を解く涼哉夫妻。
 宗哲の後ろから、エイシャ君が出てきて、初対面の皆本清音(eb4605)と藍月花(ea8904)に挨拶をする。
「初めまして。この診療所で病人食つくりを主に担当するエイシャです。今回は妻のシルキーがお世話になります」
 と、シルキー・ファリュウ(ea9840)を指しての自己紹介を聞いて、月花が言った。
「あら、お二人、ご夫婦だったの?」
「なんだ、シルキーから話してくれてなかったの?」
「だっ、だって、別に仕事に関係ないしっ‥‥」
 と、シルキーは照れているが、エイシャ君はその言葉にピキーンと来たらしく、
「あのね、人生を共にしてるんだから仕事も何もひっくるめて僕はキミの一部だと思うんですけど!?」
「だからっ、恥かしいから言わなかっただけだってば‥‥そうやって大げさに言うから余計恥かしいんだよ? 私の身にもなってよね?!」
「‥‥ごめん。そっ、そんなにポンポン言わなくても‥‥っ」
 涼哉・狛の先輩夫婦? がまるで芝居を見るように二人のやりとりを鑑賞している。
「久々に聞いたなあ、あいつらの夫婦喧嘩」
「そうね。相変わらずシルキーさんが圧倒的に強いわ」
「先生‥‥ご無沙汰しております」
 明王院未楡(eb2404)が淑やかに挨拶を送った。
「おぉ、あんたも相変わらずベッピンさんじゃの」
「まあ‥‥先生も相変わらず、お上手‥‥。早速ですが、診療所を、私達のお手伝いできる期間だけでも拡充したいのですけれど‥‥せっかくのヨモギを役立てる為にも」
 町家を借りて、ヨモギを使った薬草風呂等の治療を、一般市民に自由に使ってもらっては? という涼哉夫妻と未楡が提案する。
「私も蓬を使った治療法を試したいので‥‥」と涼哉。
 月花も、木工工作の技術を生かして風呂作りに協力すると申し出た。
「春を感じさせる蓬の香りで、皆を元気にしたいんです。宗哲先生とエイシャさんの志、無にはしません」
が、宗哲は難しい顔をした。
「うーむ、ヨモギの薬効である止血や炎症止めを必要とする患者に優先的に使わせるとなると、血や膿で汚れた湯をしょっちゅう入れ替えねばならんから、3日間ではどれほど役立てられるかのぅ‥‥。それに、木材を都合せねばならんのじゃが‥‥」
 施設を作っても、たった3日間で湯沸し、清掃、患者の介助等々、人手をカバーするのは難しい。ということで、従来の診療所内で、できる範囲のことをしてゆくことになった。
 もうひとつ残念なことに、月花は技術は達人級とはいえ、持ち合わせた大工道具は彫刻刀のみ。
「これは‥‥準備不足でした」
 と月花は謝ったが、ヨモギ風呂自体は診療所の患者にも喜ばれることとなので、近所の酒屋などから使用済みの樽や、釘の外れた戸板のたぐいを集めて、やすりをかけたり木片を継ぎ足したりして、木材を調達。大工道具は、診療所にあった最低限のものを使った。
当初、冒険者達はヨモギ蒸し風呂なども作る予定でいたが、木材が足りないので、最低限の材料で足湯用の浴槽と、履物を脱いでおく為のすのこ程度のものを作ることになった。戦乱後の復興をとげつつある町では、木材は貴重なものだった。
 風呂の規模が予定よりも小さくせざるを得なかったので、薬草酒や軟膏を作り、できるだけ広い範囲に無料で配り歩くなどすることになった。冒険者達の寄付により、酒や油などの材料を購入することが出来たのは幸いだった。
 厨房には狛、涼哉、清音が集まり、一気に賑やかになった。
「新鮮なうちに、新芽の部分はおひたしや胡麻和え。よもぎを練りこんだうどんやそばっていうのも良いかな。うどんは病人食にも使えるわね」 
 手早くヨモギの葉を、しおれかけたものと新鮮なものに仕分けしながら、清音がヨモギ尽くし料理に取り掛かる。
「生葉をいくらか取り分けて。薬草酒と軟膏はこちらの座敷で作るわね。まあ専門分野だからテキパキと‥‥と思ったのだけど‥‥こうじーっと見られるとやりにくいわね‥‥」
 狛が、窓にへばりついて料理を見物している重吉兄弟にちらりと目をやり、困った顔をした。しかも、何か道具を取り出すたびに、「それなーに?」「それで何するの?」と質問攻め。自分達の摘んできた薬草が、どんな風に役立つのかと好奇心満々なのだ。
「これはね、ヨモギをお酒につけておくと、ヨモギの成分がお酒に滲みだして、お薬になるの。しかもお酒が血行をよくするし飲みやすいから、とても体に良いのよ」
 既に母親でもある狛が子供慣れした余裕と看護人としての知識を見せて説明するが、
「せいぶん、ってなーに?」
「えぇと‥‥あるモノの中にあって、別な形に分けられるモノとでも言えばいいかしら」
「別な形ってどんなー? けっこうってなーに?」
「くうっ‥‥きりが無いわね」
 さすがの狛も質問攻めにやや疲れてくる。
「真の敵はヨモギじゃなくてガキか‥‥」
 涼哉がこっそり呟いて、狛に睨まれる。しかし彼の一言に、冒険者の誰もが納得していたのは否めない。
 一方、裏庭の隅では、トントンとリズミカルな金槌の音が響いている。月花が足湯用の風呂桶を作る音だ。こちらにも子供たちが集まってくる。
「これ、お風呂なんでしょ? なんでそんなに小さいの?」
「これは足湯といって、足だけを浸すための浴槽なのよ。近所の人から古い櫃をもらったので、それを改造するの」
「どうして足だけ漬けるの?」「お風呂って体全部つかるんじゃないのー?」
 質問攻めになる。大工作業と子供の相手で汗だくになりながら、月花は出来るだけ子供達の期待に答えるべく、丁寧に質問に答えていった。
「ええと‥‥私の生まれた国、華仙教大国での言い伝えによると、足ってね、心臓の次に大事といわれる位、ツボがあるから‥‥」
「ツボってなーに?」
「‥‥白翼寺先生〜〜っ、狛さああ〜ん!」
 答えに詰まって助けを求めに走る月花。
 けれども子供達が無心に好奇心のままに近寄ってくるのは嬉しい。
 ハーフエルフには、幼い頃には何心も無く付き合っていた遊び仲間が、周囲の大人たちに偏見を吹き込まれ、離れていく、そんなことは人生のうちにいくらもある。
(「貴方達はいつまでも、友達でいられるといいわね‥‥」)
 ジャイアントや人間やパラ、種族も様々な子供たちを見て、そう願わずにはいられなかった。

●願い
 ヨモギ餅を子供たちと一緒に作り、皆で食べる作業は、ちょっとしたお祭り気分だ。診療所の裏庭に、子供たちが鈴なりになる。
「ただでヨモギ餅にありつける。誰か誘ってくれ」
と、涼哉の人脈を生かした口コミ効果もあって、手の空いた大人も手伝いに来てくれ、もち米を蒸したり月花が拵えた台の上で打ち粉をつけたりする手間が随分助かった。ヨモギの下ごしらえをしていた清音にエイシャ君は、
「ヨモギ餅には、ちょっとした裏技があるんですよ。このハハコグサをヨモギの十分の一ほど混ぜると、蓬餅の緑色が明るい綺麗な色になるんです。友人の植物学者に教わりました」
 と、持っていた布包みから白っぽい緑色に、黄色い粒のような花のついた植物を取り出してみせ、ヨモギを湯がき終わった鍋に入れ、同じく湯がいて水滴を切る。
「友人って、あの何でも口に入れちゃう危ないエルフの人?」
 とシルキー。
「うん。あの調子でまだ無事に生きてるんだよねー(オイ)」
 エイシャ君の友達は大抵変な人らしい。清音は、
「いいですね。明るい春色のお餅を食べると、心も明るくなりそうです。これも治安維持の一環ですね」
 とにっこり。料理に治安維持が結びつくのかと尋ねるエイシャ君に、清音は、
「温かい食事は体だけでなく心も温め、ささくれ立った心を落ち着かせて、秩序の維持に寄与すると思います」
 京都見廻組雇の清音にとって、戦乱後の痛手から立ち直りきっていない庶民の姿は心を痛ませるものだった。見廻組としての活動以外でも、なんとか復興に貢献したいという清音にエイシャ君が感心すると、清音はふいっと顔を背けた。褒められるのは苦手な性質らしい。
「気に障ったらすみません。でも、清音さんは本当にいい人なんですね」とエイシャ君。
「‥‥仕事柄、当然の配慮をしているまでです!」
 怒ったような清音の返事だった。純粋すぎて不器用な性質なのだろう。
「さあ、ガキども‥‥じゃなかった、お坊ちゃまとお嬢様達。餅つきだ、手伝え」
 涼哉が蒸しあがったもち米の入った釜を、エイシャ君が餅つき用の臼と杵を裏庭に出すと、子供たちがわーっと歓声を上げてついてくる。
「みんなー、まずはこっちの井戸で手を綺麗に洗え。それから搗きたい子は順番に並べよ。つまみ食いするとあのオジサンに怒られるぞ」
 と涼哉がエイシャ君を示して言えばエイシャ君は、
「はーい、皆、あのオジサンにお餅のつきかた習おうねー」
とやり返す。
「誰がオジサンだと‥‥? 年はさほど変わらんだろうが(ゴゴゴゴ)」
「子供から見れば、絶対白翼寺先生の方がオジサンですよっ。子供いるし(ズオォォォ)」
 危うく戦争勃発しかけた二人は、
「こら、みっともない!」
 それぞれの妻‥‥狛とシルキーに叱り飛ばされるのだった。
 一方清音は、診療所の門の前で、ヨモギ粥の炊き出しをしている。
「さあ、体にいい薬草入りのヨモギ粥ですよー」
 木の枝と石ころで急ごしらえの囲炉裏を仕立て、張り切って人々を呼び込んでいる。ペットの「不思議な輝き」が後をついていくので、わりと宣伝効果にはなる。
「ええ香りどすな」
「ほんま、春の気分やね」
 京の人々の顔が和んでいく。
 炊き出しと餅、軟膏と薬草酒、足湯に、ヨモギを使うと、最初の量の4分の一ばかりが残った。この残り分をお茶用に乾燥するか、未楡の提案によりヨモギ染めに使うべきか、意見が分かれた。
 最初に何にどれくらいの分量を使うのか、蓬の配分を決めておくべきだったかもしれない。
  結局、染物に使うとしても、染めて何に使うかが定まっていなかったこと、未楡もヨモギ染めの用法に詳しくはなかった為、薬草茶にすることになった。
 「知り合いの‥‥染物屋さんに力を借りようかと‥‥思っていたのですけど‥‥」
 と未楡は残念そうだが、素材たるヨモギをどれ位使うか決めていなかった為、その量を見て決めるべき媒洗剤の購入等の下準備が間に合いそうに無い。それに染物はかなり手間のかかる作業であり、冒険者以外の人間に丸投げすることもためらわれる。
 「えっ俺の褌は? 染めて寄付せんのか?」と、褌を寄付した涼哉。
 「赤ちゃんのおしめに縫い直します。やっぱり元が褌ですから」
 エイシャ君にキッパリ言われて、あいつは褌の神聖性がわかっていないー! としばし涼哉は愚痴っていたようだが。それでも同じく彼の寄付した外套は、春とはいえまだ肌寒い季節に、貧しい人々に喜ばれたようだ。
 ヨモギ料理にヨモギの足湯の客寄せと配膳、薬草酒に軟膏の作成と、必要な人に配り歩く作業。
 やることはいくらでもあり、3日目の最終日を迎える頃には、さすがに冒険者達にも疲れの色が浮いてくる。
「なんとか、ヨモギ茶用に干してる分は別として、大半は消費できました、ね‥‥」
 思わずふーっとため息をついたエイシャ君に、作業をずっと観察していた重吉兄弟が、
「僕らのせいで疲れちゃったのー?」
 ヨモギをいっぱい摘んできたのはもしかして迷惑だったのかと、子供なりに気を使う。
「いいえ‥‥先生を喜ばせようと、自分に出来ることを精一杯考えたのは‥‥とても、素晴らしいこと‥‥ただ、次にもしヨモギを摘むなら、別の場所でと‥‥お友達に教えてあげて頂戴ね。河原など皆が使う場所の物を取り過ぎてしまったら‥‥他に使いたい人が困ってしまいますからね‥‥」
 未楡に言われた兄弟はこっくり頷いた。庭先では、足湯に浸かる人々の賑やかな声が響く。
「アシュリー、お疲れ様。せっかくだからヨモギの足湯、貴方も使って」
 シルキーがエイシャ君の手を引っ張った。
「‥‥あ、ありがとう」
「そういえば‥‥お二人の‥‥お子様は‥‥まだですの?」
 未楡に真面目に聞かれて、シルキーとエイシャ君が大慌てとなる。
「あわわわわ、な、何を突然っ!」 
「ま、まだそんなっ! 全然!」
「そうですか‥‥お二人の子供なら‥‥きっと可愛いでしょうね(にこっ)」
 並んで足を湯に浸しながら、シルキーがぽつりと言った。
「そういえば私達二人とも‥‥両親を早く亡くしてるものね。親になるってどんな気持ちなのかな‥‥」
「僕にもわからないけど、もし子供を授かったら、今以上にシルキーのことを大事にするよ。今以上に幸せにしてくれてありがとう、って‥‥あ、もちろん子供もね」
「私も‥‥同じ。私今とても幸せなんだよ。隣に大事な人がいること、家族が増えたこと‥‥すごく感謝してる」
 寄り添う二人の上に、穏やかな春の夕暮れの光が落ちていた。
 そして少し離れたところには。
「あのー先生。足湯の順番待ちしてる人がいるんですけど‥‥」
「しーっ。あの二人、今いいところじゃから、邪魔をしてはいかんのぢゃ! ‥‥おっ肩に手をかけおった、あやつ、やりおる!!」
 医者の本分を忘れてカップルをのぞきまくる宗哲先生がいたのでした☆