ざ・やどや〜姉さん、事件です!

■ショートシナリオ


担当:小田切さほ

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月06日〜06月11日

リプレイ公開日:2007年06月19日

●オープニング

『姉さん、俺がオヤジの旅籠「夫羅屯(ぷらとん)」をついでから3ヶ月がたちました。
 俺は旅人への接待と、風呂の世話を一手に引き受ける風呂人(ふろんと、と呼びます。この宿屋独特の呼び方で、ほぼ「番頭さん」レベルの地位に相当)に就任し、忙しい日々を送っています。
 京都へ来られた旅人をもてなし、疲れを癒していただけるよう、精一杯笑顔で応対する。
 そんな平穏な日々ですが、ある日、シフール便で団体のお客様のご予約が入り‥‥』

 江戸に嫁いだ姉に手紙をしたためていた、旅籠「夫羅屯(ぷらとん)」風呂人の一平は、宿泊予約を告げるシフール便を受け取った。
 一平は、サービス精神の塊のような人物で、常にお客様第一である。
 腰が低く、クレームに対してすら笑顔を絶やさないのだが‥‥
 シフール便に目を通した一平は、
「こっ‥‥これは!」
 青ざめた。
 その予約は、去年も夫羅屯に宿泊したことのある、大阪‥‥それも大阪を南に下ったところにある、「和泉」あるいは「泉州」と呼ばれる地方からの、いわゆる筋金入りの「なにわの商人」の団体だったのである。
 しかも彼らは、去年に引き続き、妻を初めとする家族同伴で来るという。
 一平は思わず頭を抱えた。
「ま、また去年の悪夢がっ‥‥!」

 「なにわの商人」様ご一行――
 彼らは、「こんにちは」の代わりに「もうかりまっか?」を挨拶にする、恐るべきお金大好き民族である。
 節約精神が骨の髄まで染み付いており、「もらうものは病でも嬉しい、出すものは舌でも出したくない」と豪語する人物すらいるほどである。
 その傾向は特に、商人本人よりもその妻‥‥いわゆる「なにわのおばはん」と呼ばれる‥‥に顕著である。
 その恐るべき「おばはん」族は、去年宿泊した際、夫羅屯の備品を全て持ち帰ってしまったのである。
 宿泊室に備え付けてあった、手水用の桶と柄杓。手ぬぐい。湯殿に置いていた垢すり用のへちま。
 果ては料理に添えてあった醤(ひしお)や湯のみ茶碗まで。
 それぞれ手荷物一つで泊まりに訪れたはずの彼らは、帰りしなには大きな唐草模様の風呂敷包みを背負っている始末。
「あの、お客様そっそれは」
 さすがに慌てて引きとめようとする一平に、
「何やのん、せっかく高いオカネ使うてとまりに来てんねんから、モト取らなウチら気ぃすまへんし。気に入らんのやったら、『この旅籠はぼったくりや』って言いふらすで!」
 幾年月を経た「おばはん」のひと睨みに、さすがの一平もなすすべがなかった。

 一平は、早速他の「夫羅屯」で働く奉公人たちを集め、会議を開いた。
「お断りしてはどうでしょう」
 若い奉公人が提案した。
 一平は、長い顔に逡巡の色を浮かべてしばらくの間黙っていたが、
「いや、お断りすれば夫羅屯の名がすたります。それよりも、新しい形のサービスを提供して、お客様に、『備品を持ち帰らなくても十分トクした』と思って頂くことにしよう」
 サービス精神の塊たる一平は、断言した。
 
 
 しかしサービス精神の割りに他力本願の一平は、すぐさま冒険者ギルドに訪れて、依頼掲示を申し込んだ。
「お願いです、お客様が備品を持ち帰らないように手助けをーー」
 そして、一平はお客様にいつもそうする時のように、深々と頭を下げたのだった。

●今回の参加者

 ea1309 仔神 傀竜(35歳・♂・僧侶・人間・華仙教大国)
 ea9840 シルキー・ファリュウ(33歳・♀・バード・人間・ノルマン王国)
 eb2404 明王院 未楡(35歳・♀・ファイター・人間・華仙教大国)
 ec2999 風月 疾風(26歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●解決! おばはんバスターズ!?
 旅籠「夫羅屯」ーー都を少し離れた場所にある、小さな雑木林の中のそこへ、真っ先にたどり着いたのは、たおやかな美女ながら「韋駄天の草履」を白い脚に装着した明王院未楡(eb2404)だった。
「一足‥‥早く、準備のお手伝いに参りましたの‥‥(にこっ)」
 見かけによらず実は子持ちという未楡は、従業員達へ一通り挨拶を済ませると、てきぱきと行動を開始した。
 まずは宴会場の広さや、次に風呂場では自らの理美容術を生かしマッサージなどが出来るか、構造をチェックする。そして、マッサージと風呂に使う、香草や菜種油を用意してもらえるか一平に頼み、お客サービスの下準備を整えた。
 そうこうするうちに、残る2名、仔神傀竜(ea1309)とシルキー・ファリュウ(ea9840)
が訪れた。
 華奢な美形の傀竜が、実は男性で、しかも話術と人当たりのよさともちろん容姿を生かし、夕食時の宴会でおばはん達の生贄‥‥じゃなかった、酒の相手を務めましょうというので、一平を始めとする従業員たちは色めきたった。
「た‥‥助かりますよ! ナニワのご婦人方の生贄‥‥じゃなかった、話し相手を務めて下さるなんて! 去年は、酔いが回ってくると仕事で忙しいのに従業員達を引き止めて愚痴やら自慢話を延々と聞かせられたもんで、今年も同じような目に遭ったらどうしようかと思ってたんです!」
 ばんざーい♪ と、従業員一同、まるで重い枷から解き放たれたような騒ぎ。
「ちょっとぉ!? 今、不吉な響きが聞こえたような気がしたけど‥‥生贄とかなんとか」
 一瞬、自らの役割を後悔しかける傀竜だったが、「まあお気になさらず」と、従業員達の手でササッと僧服を着替えさせられ、男性用の着流しを着付けさせられる。
 シルキーと未楡は、手分けをして下準備に取り掛かった。
 シルキーは、廊下を飾る月道渡来のものらしい、高価そうな壷などに目を留め、
「こういう高そうなものは隠し‥‥ておいた方がいいと思うんだけどどうだろ?」
と指摘する。
「でも、それじゃガランとした感じになりませんか? あんまり貧乏くさいとそれはそれで言われるんですよね」
 と一平は悩むが、未楡の提案で、ざっくりと切った竹筒をくりぬき、そこに庭に咲いていた季節の花を活けこむことにする。
「お金をかけなくても‥‥歓迎の気持ちを表す方法は、いくらでも‥‥」
 にっこりする未楡。家事の達人人妻は、節約上手でもあるのだ。
 細工は流々といったところで、日が暮れた。
 夕刻になって、問題のご一行様が到着した。
「しばらく世話になるでぇ〜」
「あー疲れた。食事は十分用意あるんやろね、子供もお腹空いてるさかいなあ」
 おばはん達の、亭主や子供を叱りなれたしゃがれ声に、従業員達は震え上がる。
 が、
「い、いらっしゃいませ。お部屋の方へご案内させていただきます」
 かしこまって挨拶をする一平の横から、傀竜が華麗に登場。
「こんばんは、今宵はどうぞ「夫羅屯」でごゆるりとおくつろぎくださいませ」
 白銀の髪をゆったりと束ね、普段の女っぽい口調を封印して、甘い声で挨拶をおくると、一瞬おばはん客達が石のように固まった。
「お荷物、お持ちしましょう」
 傀竜の差し出す手に‥‥このとき彼の笑顔の中で、白い歯がキラリーンと輝いた‥‥おばはん達は半分夢でも見ているような表情で荷物を預ける。
「あらー、えらい気ぃ効くやないのー。うちら旅の疲れでヘトヘトやってんわ」
 と、次々に荷物を預け、しかも厚かましく目の前の美青年に、
「あーほんまに疲れたわー」
 ともたれかかる輩までいる。傀竜の笑顔に脂汗がにじんだように思えるのは気のせいか。
 一行が奥の部屋へと通され、荷物を解いた頃を見計らって、部屋のふすまがすっと開いた。
「失礼‥‥いたしますわ。特製の香り湯風呂のご用意が‥‥できました」
 一平に貸し出された、旅籠の従業員用のお仕着せである、筒袖に縞模様の地味な着物をまとった未楡が笑顔と共に案内の言葉を述べる。
 既に持ち帰る備品を物色しているのか、部屋の机や手水のひしゃくなどをいじくりまわしていたおばはん客と、その家族が香り湯という言葉に興味を示した。
「香り湯って、何やのん?」
「はい‥‥季節柄の菖蒲を、少し‥‥それから血のめぐりがよくなるよう、生姜の薄切りを浮かべた特別製のお風呂、ですわ‥‥旅の疲れと、むくみに効果が‥‥あります‥‥」
 にこにこと説明する未楡の、少し胸高めに帯を締めた腰のくびれに、おばはん客達の視線が集中する。むくみを取ればウチらもあんな風に。とおばはん達が勘違いしたかどうかは知らないが、
 どどどどど‥‥
 さながら水を求めて移動する牛の群れのごとく、おばはん客が群れをなして風呂場に突入して行く。
 彼女らに風呂場を占拠され、子供達と亭主族は手持ち無沙汰げに部屋でいる。
「こんばんはー。夕飯まで間があるんだけど、物語でもどうですか?」
 愛用の竪琴を抱えたシルキーがそこへ訪れる。
 疲れている上にお腹が空いて、不機嫌この上ない子供達‥‥十代の少年一人、7,8歳程度の女の子二人‥‥はさして期待していない様子ながら、一応聞いてもいいよ、と承諾した。
「ありがとう、それじゃいくね。まずは『湖の国の姫と雲の上の騎士』これはね、イギリス王国に昔から伝わる物語‥‥」
 水の国の姫君が、風の妖精に叶わぬ恋をして何度も生まれ変わり、ついには結ばれる物語をシルキーが語り始めると、子供達も亭主たちもだんだん引き込まれて、彼女の周りにぐるっと輪になって座り込んで耳を傾ける。
 シルキーが、歌いながらこっそりメロディーの魔法を使ったせいも、少しはあるのだが、旅先の開放感もあり、子供も娯楽を求めていたものだろう。
 語り終えると、拍手が送られた。
「ねーねー、もう一つ、おはなしー」
 少女達がねだるが、シルキーがそっと頭を撫でて止めた。
「うん、もうそろそろご飯が出来上がったみたいだから、また後でね。お酒も出るから、歌いたい人には、竪琴で伴奏をしてあげる」
「そんなサービスもありますのんか!? えらい進化した宿やのう」
 亭主族が、日ごろ宴会で鍛えたノドを披露しようと言うのか、嬉しそう。
 一方、風呂場のおばはん達はといえば、
 どっぼ〜〜ん!
「くぁーっ、ええお湯やわぁ〜」
 生姜のスパイシーな香りと、花の香りが混ざる香湯に存分につかり、温まって上がると、脱衣所に一平が作った、簡素なマッサージ部屋‥‥すのこの上に畳を敷いて、そのまた上に布団を並べただけだが‥‥で未楡が待ち受けている。
「どうぞ‥‥こちらに‥‥背中を上に‥‥横になって下さいな(にこっ)」
 美しき人妻の薦めるままに横になれば、香りのいい油をうっすらと塗られ、ゆっくり疲れた筋肉を細い指でほぐしてもらえる。
「はー、極楽極楽‥‥何やの、このええ香り?」
「はい、菜種油に‥‥ベルモットで香りをつけたものですわ‥‥ベルモットはほんの少し、香り付け程度ですから‥‥お肌に沁みないと思いますけれど‥‥いかがでしょう」
「いや、疲れが取れてええわぁ〜」
 うっとり状態のおばはん達に、未楡がやわらか〜く釘を刺す。
「お客様たちは‥‥幸運ですわ‥‥皆様手荷物一つで御泊りに来られたと伺ってますから。これが大荷物を抱えての御帰りなんて事になったら‥‥すぐにも血行不良で元の木阿弥‥‥折角むくみの取れた足もパンパンに‥‥なんて、何とも勿体無い事になるところでしたから‥‥さすが浪速の豪商の奥様方は、賢夫人で‥‥いらっしゃいますこと」
「そうそう、そうなんよ〜。未楡さん、あんた人見る目在るやないの〜。やっぱり旅の荷物は最小限がええんよ〜」
 と、おばはん達は去年の備品強奪っぷりをころりと忘れ去っている。
 おだてりゃ木に登る好例といえよう。
 さて風呂上りのおばはん達と、物語で退屈を忘れて、機嫌を直した子供達と亭主族が円満に食卓を囲む時間となった。
「奥様方の湯上り姿はなまめかしいですね。一杯、いかがです?」
 酒を運んできた傀竜が囁く。
「んも〜、人妻酔わせてどうするつもり?」
「ちょっと、こっちにも酌してや!」
 ひっぱりだこ状態。
「慣れないけど、これも仕事の内ね。ってゆーか、一回やってみたかったのよね〜☆」
 心配する一平に、傀竜は茶目っぽく片目をつぶってみせる。
 未楡の出した華国料理‥‥蒸した魚に葱の刻んだものと、ごま油をたっぷりかけまわしたもの‥‥がメインとなる料理も好評で、和やかに食事が進み、大人たちは酒、子供達は木苺のデザートをもらって満足げ。
「それでは宴もたけなわというところで、本日のメインッエベント! わが夫羅屯の誇る歌姫と、ハンサムボーイが歌&演奏サービスをさせていただきます!」
 一平の紹介を受けて、シルキーが歌と竪琴演奏を、傀竜が舞いと笛演奏を披露する。
 酒の入ったおばはん達や亭主、それにお腹がふくれてご機嫌な上に旅先でハイになっている子供達はノリノリで唱和し始め、大合唱。
 大人たちの中には羽目を外しすぎて、酔いつぶれて廊下で寝たり、気分が悪くなって座り込む者が出たり。
 しかしそんな酔っ払いには、なぜだかシルキーが毛布を掛けたり水を飲ませたり、妙に慣れた様子で世話をするのだった。
「京都の大宴会以来、酔った人の介抱に慣れてきたみたいなんだ。ヘンな酒癖のある人っているよね、いきなり即興の歌を歌いだす人とか‥‥」
 感心する一平に、彼女は言っていたという。
 そして一方、
「ほんでな未楡さん、姑が小意地悪ぅて‥‥うぅぅ〜」
「まあ‥‥でも‥‥お姑様も‥‥お孫さんが大切だからつい干渉されるのですわ‥‥」
 奥様お悩み相談室状態の未楡。酔ってクダ巻くおばはんのなだめ役である。
「わかるわ〜女同士って時々キツイのよね。もう、今夜は飲んじゃえ飲んじゃえ! 飲んで忘れちゃうのがいいわよ‥‥じゃなくて、いいですよ、奥様」
 自らも酔いが回って女言葉に時々戻ってるが、逆に話が盛り上がって結果オーライの傀竜。
 さしもの商人様ご一行も、楽しさと満足感、おトク感で脳内がいっぱいになり、備品を持ち帰ることなど遠い世界に置いてきたかのようである。

 結局‥‥
「いや、ええ旅籠やったわ」
「ほんま、サービス良うてね。楽しいし」
 ナニワの商人様ご一行は、そんな言葉を交わしながらにこにこして旅立っていった。
 冒険者達もほっと胸を撫で下ろす。
「人数が少ないから、どうなることかと思いましたが‥‥『思い』があって、それに見合う行動があれば、なんとかなるものなのですね」
 一平が言った。
 そして今日は、冒険者達がここでの仕事を終えて、新たな冒険へと旅立つ日でもあった。
「本当に、ありがとうございましたー!」
「今度は、お客としていらしてくださいね! 皆さんみたいに上手にはやれないかもしれないですけど、精一杯おもてなししますから」
 従業員達のはなむけの言葉を背に受けつつ、未楡、シルキー、そして傀竜は夫羅屯を後にしたのだった。

●ピンナップ

明王院 未楡(eb2404


PCシングルピンナップ
Illusted by 津奈サチ