らぶみそ。
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■ショートシナリオ
担当:小田切さほ
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:5人
サポート参加人数:1人
冒険期間:11月25日〜11月30日
リプレイ公開日:2007年12月10日
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●オープニング
秋が深まる今日この頃は、大豆の収穫時期でもある。
そして大豆を使った保存食の代表として、味噌がある。
晩秋は、大豆をつぶし、「こうじ」をまぜて発酵させ、ゆっくりと熟成させ味噌を作るには良い時期なのだ。
味噌を作り、それを商うのが生業の『良武屋(らぶや)』では、店の主人の娘である4人姉妹が、味噌作りの下準備にかかっていた。
収穫した大豆を庭に広げた「ござ」の上に広げ、傷んだものや未熟なものがないかを調べる。
手ぬぐいで髪を覆い、姉さん被りにした4人姉妹は作業の合間も、かしましくおしゃべりに興じる。
「ねぇ〜、今年はおとっつあんもおっかさんもいないからぁ、結構大変かもでしょぉ? 冒険者ギルドでぇ、男手借りてくるぅ?」
と、のんびり口調で提案するのは、長女お陽。のんびり口調ながら、一番しっかりしていて計画的なのだ。
そして、「おとっつあんがいない」というのは、店の主人である彼女らの父親が、京都の町にある小さな診療所にしばらく逗留することになったためである。
父親が現在療養中、母親はその看病につきっきりとあって、今年初めて、4人姉妹だけで味噌作りを敢行することになったのだった。
「けどよぉ陽姉。見も知らない他人が俺たちの手伝いなんて、オヤジ達、きっと余計に心配するぜ」
と、次女・お蓮(れん)。口調は乱暴で男っぽいが、根は親思いで優しい娘なのだ。
だがお陽はあくまで、のんびりまったりと主張する。
「でもぉ〜、冒険者ギルドだったらぁ〜、そうそう変な人は寄越さないと思うのよねぇ〜。結構イケてる人がぁ〜、多いみたいだしぃ〜」
「‥‥未来‥‥すなわち無限の可能性‥‥です」
四女・お滝が関係あるのかどうかわからない台詞を呟く。
このお滝、西洋風に目のぱっちりとした美形だが、何を考えてるのやらよくわからない人。手習いは上手くて賢いのだが、そういう秀才っぷりと常識とはまた別なのらしく。
「それとぉ‥‥やっぱりぃ〜、おとっつあんが言ってたじゃないぃ? おとっつあんとおっかさんがぁ〜、お互い好き同士になったのもぉ〜、おっかさんの味噌作りを、たまたまおとっつあんが手伝いに来たのがぁ、きっかけだったてぇ。そろそろ〜、私たちもぉ〜、お年頃だしぃ〜」
「やっだー☆おねーちゃんたら、もしかして味噌作り手伝いに来てもらって、その人を恋人にするつもりなんだぁ。それで結婚したらまさに『ぬかみそ臭い女房』じゃな〜い?」
ひょうきんものの三女・お利津がはやし立てる。
お陽は胸を張って、お利津を諭す。
「でもぉ〜、男の人ってぇ〜、結局はぁ、美味しいお味噌汁を作ってくれる女の人にぃ〜、弱いんじゃないかしらぁ〜。
たとえ『ぬかみそ臭い』って言われたってぇ〜、私はぁ〜、結婚したらぁ〜、毎日旦那様にぃ〜、美味しいお味噌汁作ってぇ〜、飲ませてあげたいって思うものぉ〜」
「そのためにも、俺達の花婿候補にゃ、味噌作りの基本を叩き込んでおかなきゃってことだな。
‥‥あ、そうか!
なんたってこの作業にゃ体力も気配りも必要だし、考えてみりゃ、味噌作りって花婿選びの試験にゃもってこいじゃねーか!」
と、お蓮は指をぱちんと鳴らす。
「きゃはっ☆なんだか楽しくなってきた〜〜! あたし頑張っちゃうー!」
「‥‥んだよ、利津ってば。いつもはサボってばっかりのクセによぉ」
「‥‥諸行無常‥‥です」
三人の妹たちがそれぞれの口調で賛同? するのを受けて、お陽はにっこり。
「それじゃ〜、意見がまとまったところでぇ〜、冒険者ギルドにぃ〜、依頼出してくるわねぇ〜」
「待って、お‥‥俺も行く!」とお蓮。
「ずるぅい〜、あたしも行くぅ!」
「‥‥一蓮托生‥‥です‥‥」
にぎやかな4人姉妹の依頼が、まもなくギルドに掲示されたのだった。
●「良武屋」4姉妹について
○長女・お陽(23歳)‥‥正統派の日本的美人。口調はのた〜〜っとしてるが、考えるのに時間がかかるだけで性格は落ち着いていて、発言内容は真面目で率直である。
○次女・お蓮(21才)‥‥色が浅黒く、猫顔の野生的美人。ぶっきらぼうでほぼ男口調。でも内面は意外と繊細で親切者。
○三女・お利津(18才)‥‥美人姉妹の中で最もファニーフェイス。自分でもそれを気にしていて、わざと道化役を買って出る‥‥が素でかなりのおっちょこちょいでもある。
○四女・お滝(16才)‥‥西洋ぽいテイストの入った、お目目ぱっちりのお人形風美少女。内面はかなり不思議ちゃんである。
●味噌づくりについて
味噌作りの作業の概略は下記の通りです。
一、大豆選別・・・※これは既に4人姉妹が作業済みです。
二、こうじの塩きり・・大豆を発酵させるのに使う、麦や米についた「カビ」に塩を混ぜる作業
三、大豆を洗い、水に一晩ひたす
四、大豆を煮る
五、水を切り、つぶす
六、つぶした大豆にこうじを混ぜ込む
七、密封して熟成させる
二と六は特に丁寧な指先作業が必要。五六のつぶす作業は力と根気のいる仕事です。
一〜七とは別に、大豆を洗ったり浸したり煮たりするのに使う水汲み(井戸水なので結構な力仕事)や火をおこす、熟成させるとき使う重石の石を運ぶ、等の作業が必要となります。
●リプレイ本文
●らぶ&麹
風に初冬の冷たさを感じる、神無月‥‥
「オスっ! ギルドに頼まれて手伝いに来た冒険者っすー!」
どんどんと「良武屋」の木戸が叩かれる。
「まあ〜、5人も来て下さったのぉ〜。奥へどうぞぉ〜」
顔を出したのは長女のお陽。のーんびりと冒険者達を奥へ誘う。
入り口から続く座敷の外、縁側には麹が茣蓙の上に広げられ、塩切作業の準備が整っている。
「自分は『フトシたん』こと太丹(たいたん)っす。よろしくっす! ‥‥味噌のいい匂いが家中にするっすねえ」
前半はきりりと、後半はよだれをたらさんばかりにせりふを吐くフトシたんこと太丹(eb0334)は生業・大食いという謎の好青年。
「なあ、あんた、異国の人だろ? 味噌の匂いは平気か?」
次女のお蓮が冒険者の一人に心配そうに問いかける。その女性冒険者は、わりに達者なジャパン語で応えた。
「うん、大丈夫♪ 家ではもっといろんな薬草の匂いとかしてたりするし。あの‥‥旦那さん‥‥がね、診療所の薬作る仕事してるから」
「ああ、もしかして宗哲先生のとこで薬作ってる人の奥さんか?」
お蓮が素っ頓狂な声を上げたので、シルキー・ファリュウ(ea9840)は恥ずかしそうにあいまいに頷いた。
四人姉妹の父親が逗留している診療所で夫が働いているという意外なご縁があったので、しばらくその話で盛り上がる。
幼い女の子を抱いて白翼寺 涼哉が挨拶に来た。
「お初にお目にかかる。娘がこちらの手伝いに来たご縁もあることだし、こちらの店主を見舞いに行かせてもらおうと思う。幸い、知り合いの診療所でもあるしな」
「まあ〜、白翼寺先生に診て頂けるなんてぇ〜娘としても安心ですわぁ〜」
「あらぁ〜、可愛いおちびちゃんがパパのお尻に隠れてるわあ〜!」
お利津が涼哉の着物を引っ張りその背に隠れてちらちらと姉妹を見ている白翼寺花綾(eb4021)を発見し、素っ頓狂な声をあげた。
こっちへおいでーとお利津がひっぱっておやつ代わりの味噌豆を差し出すと、ぽおーっと顔を染めながら、蚊の鳴くような声で言った。
「おっ、おっ、おっ、お姉様が4人っ! きれいですぅ〜」
「まあ〜、可愛い〜(なでなで)」
「正直なガキだな!(ぐりぐり)」
「お滝のお友達になってやってねー」
「‥‥あ‥‥瞳‥‥色違う‥‥」
4姉妹にかいぐりかいぐりされペット状態になる花綾。涼哉は挨拶を終えると、早速診療所へ向かった。その途端白翼寺先生って初めて見たけどずいぶん若い父親ね、とか、奥様と離れてると他所の女がほっとかないんじゃないかとか姉妹はかしましく噂したが、花綾のためにもお陽がたしなめた。
「にしても、いろんな人がいるのねぇ〜、ギルドってぇ〜。お坊様もお手伝い下さるなんてぇ〜、申し訳ないみたい〜」
「いや、これも良い修行となるかも知れませんからね。覚えておいて損はないでしょう。味噌は精進料理には欠かせぬ素材ですし」
と、静かに合掌して伏神亮(eb2990)は言った。
「で、何から手伝えばよいかな?」
と明王院浄炎(eb2373)はたくましい腕を袖まくりする。
「ん〜それでは〜早速で悪いですけれどぉ〜シルキーさんとぉ花綾ちゃんはぁ麹の塩切をお願いできるかしらぁ〜。男の人はぁ井戸水を汲んでぇ大豆を洗っていただきたいのぉ」
長女らしくお陽が指示を出す。
「オス、力仕事なら任せてくれっす!」
太丹がすっくと立ち上がる。この寒空に筋肉の盛り上がった腕をさらけ出して釣瓶を引きつめたい水を何度も汲みあげ大豆を洗う姿はかいがいしくも凛々しい。しかも、大きなざるや桶をよいしょと運んでこようとするお陽の手から、
「お陽さん、大丈夫っすか?」
白い歯をキラーンとさせつつ荷物を受け取ったり。お陽は「あらぁ〜」と照れつつまんざらでもない表情で彼を見る。
一方、女性陣は麹の塩切をしつつおしゃべり。手も口も忙しい。
「へぇ、おめぇのおっかさん旅に出たのかい。そりゃ寂しいなあ」
「はい。お父様もいつもお仕事忙しくって‥‥でも、お休みの日とか、一緒に歩いてると、若くてきれいなお兄様‥‥って言われるですぅ」
花綾が愛らしく自慢する。
「シルキーさんはぁ〜ご主人とぉどんな出会いだったのぉ?」
「えーと‥‥彼はギルドの仕事の依頼者だったんだよね。それでなんとなく‥‥でも最初大変だったよ、妹が私を取られちゃうみたいに思ったらしくて大騒ぎして‥‥」
「わかるわぁ〜! 私もぉ男の子の友達が出来るとぉあの人は軽いとかぁ妹達がぁ牽制するのよねぇ〜」
お陽は同じく、妹の面倒を見る姉としての苦労を語りだす。お蓮が割り込んだ。
「俺はそんなことしねぇからな、陽姉」
シルキーが長女の貫禄を見せて、すかさずお蓮を優しく叱る。
「ねえ、お蓮さん。自分のこと『俺』って言うのやめない? お蓮さんって気配りとか仕草はすっごく優しくて女の子っぽいのになんだか勿体無い」
「へっ? 俺が女の子っぽいってか? ははっ」
照れたお蓮は、洗った大豆を運んできた亮と目が合う。亮が反射的ににっこりしたため、お蓮はうろたえたように目をそらした。
大豆をたっぷりの水で浸して、本日分の作業は終了。後の時間は浄炎の提案でお茶を飲みつつ休憩時間となる。浄炎が食糧をお茶請けに提供しようかと申し出たが、冒険者の貴重な保存食を消費してはもったいないと、四人姉妹が心づくしの、味噌を使ったそれぞれの手料理を差し出した。お陽の『なめろう』、お蓮の蕎麦味噌、お利津の京野菜麹漬け、お滝のみそ焼きおにぎり。
「ほわ〜、美味しいご飯は人を幸せにするっすよ!」
事実幸せそうな太丹は、全部いっぺんに口に放り込み、どんぐりをほおばる栗鼠のようなほっぺたになっている。
「はふっ、はふっ‥‥おいしい‥‥ですぅ‥‥」
味噌汁の味に母を思い出したか花綾がぽろぽろ涙をこぼし、四姉妹がお菓子をすすめたりと、慌ててなぐさめる。
「花綾ちゃんもお姉さんなのでしょ? 妹のためにも笑顔でいなくちゃ」
「はいっ、お利津お姉さま〜」
涙を拭き拭きする花綾。
「うぅ〜〜ん、もう、なんて健気なのっ!(むぎゅ〜)」
「うにゅう〜苦しいですぅ〜」
「お利津さんが一番子供の扱いが上手みたいだね」
すっかり保護者気分で、そんな姉妹と花綾の様子を目を細くして見守っている浄炎に、シルキーはそっと囁いた。
「うむ、日ごろあの娘が人に道化ておるのは、ある意味ではな、献身の賜物だと俺は思うぞ。笑顔をもたらす道化役はな、なろうと思っても早々なれる者ではない。そこを見抜く男がおればよいが」
「うん。自分では美人じゃないって言うけど、笑顔が素敵なんだよね。それに映える化粧をお手伝いできたら‥‥」
そんな二人をよそに、
「おかわり下さいっす!!」
十何回目‥‥いや、何十回目のフトシたんの声が。
冒険者達と交流して話の弾む姉達をよそに、不思議ちゃんのお滝は同じように盛り上がれずぽつんとしている。そんなお滝の肩を、泣き止んだ花綾がつんつんとつついた。
「うにゅっ、お滝姉様お人形さんみたいですぅ」
バックパックから京染めの振袖を取り出し、着せ替えてみたいと申し出る。お滝も「‥‥馬子にも‥‥衣装‥‥です」と呟きつつ、嬉しそうに袖を通した。地味な普段着の紺絣を着ていた時とはずいぶん印象が異なる。
シルキーがお滝のはっきりした目鼻立ちに似合うよう西洋風に化粧をほどこすと、少女というより既に美女といいたいようなほのかな色気さえ加わって、冒険者達も思わず声をあげた。
「わあ〜♪ お滝お姉様素敵ですぅ〜〜(ぱちぱち)」
「うおぉ、どこの姫君かと思うっすよ!」
またも白い歯キラーン☆ するフトシたん。お滝の、無表情な白い頬がちょっぴり赤らんだようで‥‥
波乱の予感?
●らぶ&大豆
翌日‥‥
水に浸してやわらかくなった大豆を大なべで湯がき、水を切ってひたすら細かくつぶす作業。
「美味しい味噌を作るためなら、力いっぱい手伝うっす!」
と太丹はすりこ木片手に気合一杯だが、
「(ボキッ)‥‥あれ?」
「キャーッすりこ木が折れた〜」
浄炎と亮が黙々と作業しているのと対照的に、常に嵐を呼ぶ男状態。
「どうぞ、交代で休憩なさってねぇ〜」とお陽が言うので、亮が年長者に先を譲って浄炎が縁側に休憩に出る。
と、庭の井戸の冷たい水でひたすらすりこぎや鍋を洗うお蓮が見えた。
「おぬし、手が真っ赤ではないか。辛い作業を人知れず引き受ける姿勢は感心だが、もっとおのれを労るがよいぞ。年頃の娘なのだから装いを凝らすとか‥‥」
「いいよ、俺は、色黒いし、性格もお利津みたいにかわいくねえし」
「それは己を知らぬことだな」
浄炎は縁側に置いた自分の荷物から、水晶のティアラを取り出し、お蓮にそっとかぶせてみる。
「良く似合ってるぞ。見ている者は見ている‥‥と言う事だ。もっと自信を持て」
「えっ、こ、こんな綺麗なもの、もらえねぇよ!」
お蓮をそのままに、浄炎はそそくさと作業に戻る。入れ替わりに亮が休憩に訪れた。
ティアラを戴いたお蓮を見て、亮がほう、と言うように目を見張る。
「こ、これは浄炎さんが似合うからって無理やり‥‥でも、後で返す。俺なんかに勿体ねえし」
「浄炎さんがそうおっしゃるなら、素直にもらっておくことですよ。本当にお似合いなのだから」
「嘘だろ? 俺ってがさつだし‥‥」
見つめられて、お蓮はもじもじしている。亮は軽く笑って否定した。
「いや、確かに飾り気はないけれど、それだけに一緒にいて変に気取らずに居れますし。
それでいて、女性らしい細やかな気遣いもして下さっている。おかげで余分な肩の力を抜いて仕事をさせて貰っています」
「‥‥ば、バカ言え! ったく、どいつもこいつもわけわかんねえよ!」
お蓮は乱暴に言って、さっさと洗い物を片付けて部屋に戻る。
実際の所、お蓮としては生まれて初めて男性から女性らしいと褒められたので、急に亮を異性として意識するようになってしまい、どうしていいかわからなくなっただけなのだ。
それに、お蓮としては手伝いに来てくれた男性冒険者は婿候補と姉に聞かされているのでなお更ぎこちなくなってしまうのだ。しかし、問題は当の亮が、この依頼が普通に味噌作り手伝いの依頼としか聞かされていなかったこと。
(「何か気に触ったのでしょうか?」)
亮は縁側で首を傾げていた。
● らぶ&‥‥?
一方、味噌作りはいよいよ佳境。味噌に麹を混ぜ込み、蓋つきの壷に入れて発酵させるための味噌蔵へ運ぶ作業。
フトシたんと浄炎が重し用の石を拾ってきて、藁で包み、壷に入れた味噌の上にしっかりと乗せる。そして味噌蔵へ壷ごとよいしょと運べば、味噌作り第一期完了。
後は春先に一度「天地返し」‥‥味噌を上下入れ替えるように混ぜ返して全体が均等に発酵できるようにしてまた保存するのだとお陽が説明した。
だが、いよいよ冒険者達が「良武屋」を後にする段になり、トラブル勃発。
お滝がフトシたんに連絡先を教えてほしいとせがみ、そこへお陽が割り込んだのだ。
フトシたん、お滝にもお陽にも優しくして、誤解させたらしく。
「女の子はぁ〜、誰かのぉ〜、特別な一人にぃなりたいものよぉ〜。お滝かぁ私、どっちかぁ選んでほしいです〜」
のんびりまったり口調だが、決然とお陽はフトシたんに詰め寄る。
「二兎を追うもの、一兎をも得ず‥‥です」
と、お滝。
「私をぉ選ぶならぁいつでもぉ『なめろう』食べさせてあげるけどぉ」
「私なら‥‥焼き味噌おにぎり‥‥です‥‥」
「んーーんーー‥‥じゃ、両方っ!」
バリバリバリバリッ!
左右から姉妹の引っかき攻撃が炸裂。
フトシたんの顔面に派手な絣模様が出来たことは言うまでもない。
一方‥‥
「おい亮。ちょっと来いよ」
亮の袖を引っ張って、物陰に呼ぶお蓮。
「これ‥‥俺、じゃねえ、私からのお礼!」
亮の手に甘酒を押し付ける。
「はっ? お礼‥‥?」
「ほんと言うとさ‥‥おめぇ‥‥じゃねぇ、貴方が褒めてくれたの、ちょっとだけ嬉しかったんだぜ。だから‥‥あ、甘酒は風邪予防にもいいんだぜ」
と、ぎこちなくも、好意を伝えようとするお蓮。
「そうですか、良かった。てっきり怒っておられるのかと思いましたよ。でも、甘酒もいいですが貴女の味噌汁は美味かったです。また、食べさせていただきたいですが」
「そ、そうか? 味噌汁くらい、いつでも食わせてやるよ」
相変わらず男口調ながら、ちょっと瞳はうるるんで頬がぽおっなお蓮。
こちらのカップル? は、多少温度差はあるものの、とりあえずお友達レベルの親密度にはなれた模様。
「また、色々姉としての苦労を語り合いましょうねぇ〜」
「うん、お陽さんも頑張ってね!」
長女同士のエール交換なお陽とシルキー。シルキーは旦那様に迎えに来てもらうというのでしばらく良武屋で待ち合わせ。
「花綾ちゃん、また遊びにいらっしゃいねっ! 約束よっ!」
「白翼寺先生にもよろしくな。おっかさんがいねぇからって泣くんじゃねぇぞ」
「うみゅ〜。お蓮お姉さま、髪の毛ひっぱらないで下さいですぅ〜」
子供大好きお利津をはじめ、すっかりペット扱いな花綾は、浄炎に送られて帰ってゆく。見送るお利津はどうやらシルキーに教わった化粧法なのか、眉を細めにととのえてほのかに口紅を差し、いつもより洗練された表情。
「浄炎さん、お蓮にいいものをぉ下さってぇありがとうございましたぁ〜。あの子もぉやっとぉ身なりに気を使う気にぃなったみたいでぇ〜次はぁお婿さん選びの相談に乗っていただけると嬉しいですぅ」
お陽に礼を述べられた浄炎は、
「いや、構わぬ。お陽さんにも、近いうちにきっと良き伴侶が見付かるだろうて」
と励ましつつ内心、
(「あと数年もすると、娘達からも婿選びの相談を受けることになるのやもしれぬな‥‥」)
よき父親たる身としては、ちょっぴり複雑だったりも。
そして最後に良武屋をあとにした冒険者は‥‥
「皆ぁ〜ま‥‥待っへくれぇ〜〜〜」
引っかき傷でぼろんちょんのフトシたんでした☆