恐怖のおばはん包囲網!?
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■ショートシナリオ
担当:小田切さほ
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月25日〜05月30日
リプレイ公開日:2005年06月05日
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●オープニング
ケンブリッジは、言うまでもなく、学生たちの町。とはいえ、ある種の熟年婦人――いわゆる「おばはん」達とまったく無縁なわけではない。
食堂の調理係、図書館の清掃員、食堂に野菜をおさめにくる近隣農家のおばはんもいる。
結婚、出産、子育てという女性の人生における怒涛の時期を卒業し、そこから得た図太さを鎧のごとくまとった、そんな彼女達の楽しみは、
「美形ウォッチング」
である。ここケンブリッジは、当然将来有望な若者達の集う場所であり、おばはんたちにとってはまさしく絶好のウォッチングスポットだ。
おばはん達が入学式の様を校舎の窓にへばりついて覗き込み、好みのタイプの美少年を物色する様も春の風物詩の一つ(でもないか)。
「ちょっと、最前列左端のあのコ、ええんちゃう?」
「でも3列目前から16番目のあのコも捨てがたいでぇ〜」
おばはん達は地声がでかいので、会話は学生たち及び先生にも筒抜けであるが、ヘタに絡まないほうが安全、と知っているから、先生も生徒たちも見て見ぬふりを通す。
しかし、おばはん達の「お気に入り」となった生徒の方はたまったものではない。今年のお気に入りは、サミュエル・アーク君、通称サミー。17歳、フォレスト・オブ・ローズ生徒。
色白で線は細いほう、未亡人の母と寄り添うように生きてきたとあって、少々マザコンの気配あり、と、まさにおばはん達に好かれる要素てんこ盛り。というサミー君の個性もさることながら、昨今のおばはん達の美少年おっかけ行為の過熱化は、何らかの天変地異の前触れではないかと専門家(誰だ)は分析している。
サミー君が入学して数日後、学生食堂で昼食をとろうと並んでいると、調理担当のおばはんが厨房から顔を出し、
「ちょいっ、ちょいっ。サミー君、こっち来」
と呼ぶ。サミー君が近寄ると、
「あんた、毎日食堂でゴハン食べてるやろ? あかんあかん、栄養偏るで。そんな細い体して。はい、これ。ウチの特製弁当やで」
と、でっかい弁当箱の包みを渡してくれるではないか。
ずっしり重いその中身をおそるおそるのぞいてみると、きのこの煮付けやら焼き魚やらがびっしり詰まっていて、しかも「何人前やねん」とツッコミたくなるような量である。
「こんなに、食べられませんっ」
とサミー君が弁当を返そうとすると、
「ええねんて。遠慮せんといて。ウチのおごりやし」
おばはんは寛大な微笑を浮かべて言った。
「違う、違うんですぅ〜」
サミー君が声を嗄らして説明したところで、おばはん達は基本的に人の話を聞かない。というか、都合のいいことしか聞こえてないという苛酷な現実を思い知らされただけであった。
それからというもの毎日食堂のおばはんは昼時となるとサミー君を探して特製弁当を押し付け、サミー君は胃もたれと隠れ場所に悩む羽目となった。
それだけではない。戦闘訓練の授業中、
「はアッ!」
「とうッ!」
丁々発止と剣の応酬実技を行っていたところ。
「誰やーっ!? サミー君にケガさす奴はぁっ!」
図書館の清掃係のおばはんが、ホウキをふりかざして生徒達の間に踊りこんできたではないか。
「授業の邪魔です! 出て行って下さい!」
先生に叱られても、おばはんは逆に食って掛かる。
「ちょっとあんた、サミー君はこんな美少年やし、か細いねんから、加減したってや!? ウチらのアイドルにケガでもさしたら承知せえへんで、ホンマ!」
‥‥おばはんには、先生すら歯が立たなかった‥‥。
そんな事件がなくとも、食堂のおばはん、図書館の清掃係のおばはん、校庭の草むしりをする庭師のおばはん等々に四六時中注目されるだけでも相当なストレスと言えよう。まさにおばはんによる四面楚歌、おばはん包囲網である。そればかりか、サミー君が何かするごとに、おばはん達は寄り集まってこそこそ噂を繰り広げる。こそこそといっても様子がそうなだけで、声は十分でかい。
「いや〜、あのコ出てきやったで〜」
「またあの先輩と一緒やで。デキてるんちゃうか、あの二人」
「いやっ。男同士で? けどそんなん最近多いらしいなあ」
注意したところで、相手には悪意がないので、かえってやっかいだ。
「えっ? ウチら、な〜んも悪いことしてへんで?」
などと、受け流されるだけだ。前述したように、おばはん達に人の都合に傾ける耳はない。
疲れ果てたサミー君はギルドに依頼を持ち込んだ。
「も、もうこんな生活はイヤだ〜。あのおばはんたちをなんとかしてくれ〜」
てなわけで、今ギルドでは人の話を聞かない・遠慮がない・反省しないという恐るべき処世術をあやつる若者最大の敵? おばはんに立ち向かってくれる勇者を募集している‥‥。
●リプレイ本文
●おばはんより愛をこめて
サミー君は、おばはんの気配に怯えながら学生食堂に向かっていた。しかし、今日は冒険者のジーン・インパルス(ea7578)が一緒なのでいつもほどひどく怯えているわけではない。
「そう心配すんなよ。ま、なんだったら俺が代わりにおばはんのアイドル引き受けてやってもいいぜ? もっとも俺とあんたじゃ、タイプ違いすぎるから無理だろうけどな」
「ジーンさんっ、離れないでくださいっ! お、おばはんと目があったら最後なんですぅ!」
サミー君、学生食堂が近づくにつれ異常に緊張している。苦笑しながらジーンが先に立って食堂に入った。
ジーンの言う通り、ジーンはおばはん好みの甘い美少年ではない。体つきは筋肉質だし、口より手が早い荒っぽい面もある。いわばジーンはサミー君の護衛のつもりで食堂についてきているのである。
「あっ、サミー君やん〜。今日もオバチャンの弁当食べてや〜」
ジーンの影に隠れようというサミー君の努力も空しく、食堂のおばはんがサミー君の気配をかぎつけ、厨房から飛び出そうとした。
揚げ物作成中のおばはん、熱した油を満たしたナベを持ったまま出てこようとして、油がかまどにこぼれ、ぼぉ! とすごい炎が立ち上がった。おばはんの前髪に炎が引火する。
「ひやぁ〜! た、助けて〜」
おばはんの悲鳴。それが終わるか終わらないうちに、赤い髪をなびかせた影が、厨房に飛び込み、炎を脱ぎ捨てたローブで叩いて鎮めた。
ついでにおばはんの前髪に燃え移った炎を手で払い、
「怪我、ねぇか?」
「だ、大丈夫や‥‥おおきに、兄ちゃん」
夢見るような瞳でおばはんはジーンを見つめている。
そして、サミー君に手渡そうとしていた弁当を、ジーンに押し付け、
「お、おばちゃんの愛情弁当やで。食べてや」
「へえ? もらっとくぜ、ありがとうよ」
笑うと鋭い目が和んで、少年の顔になるジーンである。
ぴしゅっ! とおばはんの胸に恋の矢が刺さった。
その日から、おばはんの標的は変わった。
特大はみだしサイズのパイの上に、すり下ろしたニンジンで「LOVE」と書いてあったりする、重量ばかりかセンス的にも恐ろしい弁当が、毎日ジーンの元に‥‥。ジーンの苦悩の日々が始まった。
「うぇっ‥‥こ、これはさすがの俺でも食い切れねえ‥‥」
胃もたれ患者、一名急増中。
同じ日の昼下がり、エルフの少女レテ・ルシェイメア(ea7234)が庭に座りこみ、花占いをしていた。一輪の花びらをちぎりつつ、
「好き、嫌い、好き、嫌い‥‥」
庭仕事をしていたおばはんが、興味津々という様子で近づいて来る。
「どないしたん? 恋の悩みか?」
「好きな人がいるの‥‥でも、なかなか振り向いてもらえそうになくて」
レテ、なかなかの演技力ではにかみながら、ほほにかかる銀色の髪をかきあげてみせる。いもしない想い人をでっちあげ、恋の相談でおばはんの気を引こうという作戦である。
「告白したら? どんな人なん、相手?」
「へっ? ‥‥あ、相手? ‥‥それは、言えません!」
「なんで隠すのん? ‥‥わかった、さては不倫やな!?」
「はっ?」
突然の論理の飛躍に、きょとんとするレテ。
「それで堂々と相談できひんねやろ? 可愛い顔して、なんで不倫なんかすんのん!? わかった、オバチャンにまかしとき! まだ若いねんから、新しい恋を探しなはれ! 手伝うたるわ!」
「いえ、あの、私‥‥実は‥‥きゃあ!」
抵抗空しく、おばはんに手をひっぱられて連行されたレテは、その日の夕刻、おばはん達に囲まれて、校庭を歩き回っていた。
「この娘ぁ〜いらんかね〜エリート限定やで〜。小鳥より見事に歌う〜エルフの娘とぉ〜結婚を前提とした清いお付き合いせんかね〜」
でかい声で物売りのごとく呼ばわるおばはん。
レテは恥ずかしさに頬を真っ赤にしてうつむいている。
だがおばはん達はそんな彼女の精神的苦痛など知ったこっちゃなく、若い男が通りかかれば、
「あんた、独身か? そんであんた長男? 持ち家はどんくらいの広さ?」
おばはんならではの厚顔さをフル活用して調査しまくり、さながらレテ専用結婚相談所といった趣きである。
「おばはんって、やっぱり、何をやっても勝てない存在なのですよね‥‥」
とほぞを噛みつつ恥らうレテの姿がかえって人気を呼び、おばはん臨時結婚相談所には希望者の男性が長蛇の列をなしたが、今のレテの心境では、たいした救いにはならなかったようである。
●おばはんは永遠に
翌日。清掃係のおばはんは、図書館で、テーブルに本やらペンやらを取り散らかして、難しそうな本を読んでいる女性を見つけ、注意した。
「ちょっとアンタ。掃除の邪魔になるやないの」
「あ‥‥すみません」
素直に謝る女性を見れば、血の気は少ないが、金色の髪をきっちりと束ね、細い首すじに重そうなネックレスをかけた美女である。しかし本を片付けるその手際は、決して達人級とはいえないようだ。
「アンタもしかして、片付けヘタやな?」
見かねたおばはん、いきなり失礼な質問をぶつける。しかし若い女性は怒りもせずに、答えた。
「ええ、私、恥ずかしながら家事全般が苦手でございまして。どなたか懇切丁寧に教えてくださる方がいたらと常々思っておりますの」
実はこれも、おばはんからサミー君を引き離す作戦に自ら打って出た冒険者、ユルドゥズ・カーヌーン(eb0602)。
「いや〜。習おうと思うてるだけ、アンタはえらい! ウチのヨメみたいな極悪ヨメとえらい違いや! よっしゃ、ウチが師匠になったるわ!」
清掃係のおばはん、ゴオオ! と燃える炎をしょって断言する。
「あ、ありがとうございます。まず、手始めに何を始めたらよろしいでしょうか」
「まず、服装やな。アンタ、今の服もよう似合うてるけど、家事をうまいこと片付けようと思たら、ウチらみたいな服装やないと」
と、おばはん、ポケットがやたらついて重たそうなエプロンに、ズボンの裾を半端に折り返した服装を指差す。ついでにエプロンの紐には、ハタキにホウキ、チリトリまではさみ、背中からそれらが生えてるみたいな、言わば絵に描いたように「だっさい」スタイルである。
「わ‥‥私にもそのような服装をしろと」
さすがのユルドゥズも少々青ざめた。
「そやで」
おばはんはこともなげに答えた。
その後しばらくして、妙にすらりとした、妙に上品な感じの、しかし掃除の手際は不慣れな清掃係のおばはん? が出没することとなった。
「そやそや、あんた大分手つき良うなってきたやん」
掃除術を指導してくれるおばはんに褒められながら、
「もしかしたら、おばはんに対抗するには、おばはんに同化するしかないのでしょうか‥‥?」
という一つの真理を発見したユルドゥズであった。
夕暮れ時。学園内で働くおばはん達の退け時である。
「今晩おかず何にしはんのん?」
と尋ねあいつつ、仕事を終えて家路につく。
そんなおばはん達の集団が夕暮れの道を歩き出そうとしたとき、ポロロン‥‥竪琴の音が響いた。
「オゥ、レディのみなさァん。ミーの歌を聴いてくださァい。」
鼻にかかった甘い声の主は、こちらも冒険者のコーダ・タンホイザー(ea8444)。ダンディなおじさまエルフの魅力でおばはん達を惹きつけようという作戦である。
「なんぼ?」
「お金、いりませーん。ミーのボランティアでェす」
「そんなこと言うて、後で請求書来るんちゃうん」
「来ませェん!」
という会話の後、やっと歌を聞いてもらえたコーダ。
メロディーでおばはんの心を掴もうとするが、魔法を使うとどうしても全身発光してしまうため、まだ疑い深そうな目で見つめているおばはん達の前では使いにくい。
「俺はいかねばならない
あなたのためにぃ
俺は大きな漢になる
そして、あなたの元へと帰るぅ」
壮大な節回しを弾き語る。
おばはん達、意外にも静かに聞いている。
(「ミーの魅力でおばはん達、メロメーロでェす!」)
一瞬、心中で快哉を叫んだコーダだが‥‥すぐさまおばはん達はなにやら相談しあい始めた。
「ええ声しとるやけど、プロとしてもっと上に行こうと思たら、もっと目立つこと考えなあかんわ。髪型をこうトンガリにするとかやな」
「せやなあ。服もちょっと地味すぎるし。もっとこう、ヒカリモノが欲しいわ。せっかく男前やねんから」
「ちょ、ちょっと。そんなど派手な格好をしたら、ミーの大人の魅力が台無しでェす! オーノー!」
おばはん達によって強制連行されるコーダ。
瞳の色にあわせて、シックな濃ブルーの衣装を着込んでいたコーダは、おばはん達好みのビーズをしこたま縫い付けた、背中に鳥の羽をしょったど派手な衣装を押し付けられ、
「これでええわ。ほら、ここの石段の上で歌ってや〜」
ともかくもおばはん達の気を引くことができたのだからこれはこれで作戦としては成功なんだろうかと考えているうちに、おばはん達のプロデュースによる、コーダの野外ライブが実現される。
「今からこの男前のバードが歌うで〜」
「しかも無料やで、無料〜。本日限定〜」
「男前」「無料」‥‥これほどおばはんの心をとらえる言葉があったであろうか。コーダはまもなく、雨後のキノコのごとくわいて出たおばはんの大群を前に、その迫力に怯えながら歌うハメになった。
彼は新たなおばはん間のアイドルとして長く歴史に名を残すであろう‥‥本人の意向は別にして。
サミー君をおばはんから引き離すという目的を、少人数で見事達成した冒険者達。しかし4人それぞれが別な作戦を立て個々に行動するのではなく、4人が連携しておばはん達にあたっていたら、これほど冒険者達を苦悩させる事態には陥らなかったのではないだろうか‥‥と、おばはん研究家(誰だ)は後に語ったものである。