らぶみそおかわり。

■ショートシナリオ


担当:小田切さほ

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:01月25日〜01月30日

リプレイ公開日:2008年02月04日

●オープニング

 京都の町並みにある、さして大きくはないがまっとうな仕事ぶりで定評のある味噌屋「良武屋」。
 そこは夫婦と、その娘である4人姉妹で切り盛りしているのだが、去年の秋から店主が体調を崩し、診療所に逗留中。
 その看病でお内儀も毎日診療所通いで忙しい。
 そんな中、4人姉妹は冒険者ギルドの手を借りて、なんとか大量の大豆をやわらかく煮、すりつぶして麹をまぜる‥‥といった、晩秋の味噌作り作業をこなしたのだが‥‥
                        ☆
「けほっけほっ‥‥けほっ、お蓮ったらぁ、ちゃんとぉ、お粥食べなきゃ〜、治らないわよぉ〜」
「そういう陽姉だって、ごほっごほっ‥‥半分も食べてねぇじゃねえか」
 4人姉妹の上二人‥‥おっとりスローモーだが責任感の強い「お陽」、男勝りで口は悪いが家族思いの熱血娘「お蓮」がたちの悪い風邪に倒れてすでに七日目。
「困ったわあ〜、二人とも食欲が戻らないなんて」
「‥‥万事休す‥‥です」
 看病するのは、4人姉妹の下二人‥‥三番目の姉妹の中ではちょっとファニーフェースだが子供好きでお茶目なお利津と、末っ子で不思議ちゃんで何を考えてるかよくわからないが、美人度では姉妹中ナンバーワンなお滝。
 お正月のあいさつ回りなどをすませた途端、その疲れが出たのかお陽とお蓮の二人が倒れてしまい、熱はどうにか微熱程度にさがったものの、食欲が戻らず体力がつかず、寝たり起きたりの生活。
 店の仕事が出来る状態ではない。
 商売ものが味噌だけあって、料理はそこそこに出来るお利津とお滝だが、食べ遺されたお粥を見ては、顔を見合わせてため息をつく。
「どうしよう、お滝‥‥そろそろ甘酒作らないとね」
 さすがにひょうきんなお利津も困り顔。
「‥‥前途多難‥‥です」
 美少女ナンバーワンのお滝も、一番年下だけに心細そうだ。
 いつものこの時期の「良武屋」なら、味噌作りであまった麹で、甘酒や酢をつくり、売り物にする。
 秋に仕込んだ味噌が売り物になるほどに美味しく熟成されるまでの、いわばサイドビジネスというわけである。
 だが、寝込んでいるお陽・お蓮はもちろんのこと、お利津とお滝も姉たちが心配で、甘酒売りはおろか、甘酒をつくる作業にもかかれないでいる。
 相変わらず父は診療所に逗留続き、母には当面、そちらの看病優先してもらっているため、何もかもお利津とお滝でやりとおさねばならないというのにだ。
「お、俺達なら‥‥ごほっごほっ‥‥大丈夫、だから‥‥ごほっごほっ、お前らもいい加減に寝ろよな、ごほっ」
 お蓮は咳こみつつ、看病疲れの見え始めた妹達を逆に心配する。
「蓮姉ったら、そんな咳しながら言われても、説得力ないわぁ〜」
 お利津はさらに困り顔。そんな妹達を見て、お陽が提案した。
「いっそのことぉ〜、けほっけほっ、この前みたくぅ〜、けほっ、冒険者ギルドにぃ〜、けほっけほっけほっ、頼んでぇ〜‥‥」
「冒険者さん達にまた、手伝いに来てもらうのね?」
 ただでさえスローモーなお陽の言葉は、咳のせいでさっぱり進まない。焦れたお利津が‥‥なぜか、ぱっと顔を輝かせつつ‥‥言葉を補うと、お陽は盛大に咳き込みながら頷いた。
 お滝も悪くない提案だというように頷く。
 去年の秋、味噌の仕込みのために、冒険者達の手を借りて、賑やかに作業を進めた記憶は、4人姉妹にとってとても楽しいものだった。
 そしてすでに、
「きゃはっ☆もし、ステキな冒険者さんが手伝いに来てくれたらぁ、今度こそ私にも恋のチャンスがおとずれちゃったりするかも☆」
 と、お利津は夢見る乙女モード。
 実は4人姉妹の両親が夫婦になった馴れ初めというのが、味噌屋の一人娘だった母のもとへ、浪人だった父が手伝いに借り出されたのがきっかけだった。
 そのことを小さな頃から聞かされて育っているため、4人姉妹は、店の手伝いに人を呼ぶ=(イコール)恋のきっかけかもしれない、となんとなく期待しているのだ。
 まして娘達は全員、いいお年頃である。
 前回の味噌作りの手伝いに来てもらった冒険者とは、残念ながら恋に発展することはなかったが、今度こそ、とそれぞれに期待している。
「じゃっ、さっそくギルドに行ってきまーす☆行こっ、お滝!」
「‥‥義を見てせざるは勇無きなり‥‥です‥‥」
「こら、お利津っ、財布、財布〜〜〜ごほっごほっ」
 おっちょこちょいのお利津がはしゃぎながら飛び出すのを、咳き込みながら追いかけるお蓮だった。


●「良武屋」4人姉妹について
○長女:お陽(23歳)‥‥正統派和風美人でおっとりまったりキャラ。前回、ある冒険者にちょっとホレかけたが、相手が恋愛感情無しのため不成立。長女(姉)ならではの色々な責任に悩んでいる。
○次女:お蓮(21歳)‥‥男勝りでズケズケ言いだが、家族思いな熱血娘。前回、ある冒険者と男友達レベルには仲良くなれたが、恋愛発展はまだなし。その影響と、別なある冒険者の助言でちょっぴりオシャレに目覚めた。
○三女:お利津(18歳)‥‥お茶目でおっちょこちょい、子供好きの陽気娘。ファニーフェイスを気にしているが、前回、ある冒険者にお化粧指導され、やや容貌に自信を持ち始めている。
○四女:お滝(16歳)‥‥欧州風に彫の深い美少女。ぽつんぽつんと意味不明発言をする不思議ちゃん。前回、ある冒険者がちょっと気になるが、相手が恋愛感情無しのため不成立。不思議ちゃんゆえ女友達が少ない。

※姉妹それぞれの言動や性格など、詳しくは「らぶみそ。」リプレイをご覧下さい(読まなくても行動に支障ありません)。
 ※仲の良い姉妹ではありますが、それぞれに競争心やコンプレックスなどもありますので、ご注意下さい。


●「麹」&甘酒つくりについて
 「麹(こうじ)」は米や麦などの穀物にカビをつけ、いい感じに発酵させたもの。これを大豆に混ぜることで味噌が出来たり、もち米に混ぜることで甘酒が出来たりします。イワシを漬け込んで保存食にも出来ます。
冒険者さんの間で寺田屋さんの甘酒がかなり好評ですが、それに負けない味をと四人姉妹もがんばっているようです。

●今回の参加者

 ea0314 エレナ・アースエイム(34歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea1057 氷雨 鳳(37歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea7578 ジーン・インパルス(31歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea9840 シルキー・ファリュウ(33歳・♀・バード・人間・ノルマン王国)
 eb2404 明王院 未楡(35歳・♀・ファイター・人間・華仙教大国)
 eb2990 伏神 亮(28歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 eb3305 レオン・ウォレス(37歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 eb4021 白翼寺 花綾(22歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)

●サポート参加者

白翼寺 涼哉(ea9502)/ 明王院 浄炎(eb2373

●リプレイ本文

● お見舞い戦士登場
「ごめん下さーい」
 良武屋の店先を誰かが訪れた。
「は‥‥はいっ?」
 看病と家事の疲れでうとうとしていたお利津ははっと起きて店の出入り口へ。
「お利津さん、大丈夫?」
 シルキー・ファリュウ(ea9840)の顔を見たお利津は、ぱっと疲れた顔に笑顔を浮かべた。
「わあ☆シルキーさんもお手伝いに来てくれたのぉ?」
「甘酒つくりはやったことないけど、歌で宣伝なら力になれると思って‥‥」
4人姉妹と既に知り合いの明王院浄炎が、妻の明王院未楡(eb2404)を引き合わせる。
「着替えなど、男では手助けのしにくい用事もあろうかと思ってな。それに妻はお陽さんと気が合いそうな気がするのだ」
「まあ〜、初めましてぇ」
 父親の白翼寺涼哉に手を引かれて訪れた白翼寺花綾(eb4021)の姿を発見し、お滝は、お利津の後ろからひょこっと顔を出す。
「一期一会‥‥です」
 一応、歓迎しているつもりらしい。花綾は心配そうに目をうるるとさせて駆け寄り、
「お滝姉様‥‥大きい方のお姉様、倒れちゃったですかっ!」
「内憂外患‥‥です」
 微妙な会話。つか会話にすらなってないが二人の間にはなぜか和やかなものが漂う。涼哉は「俺の部下だ」と、ジーン・インパルス(ea7578)をお利津お滝に引き合わせ、姉妹の父親の診療所へ見舞いに。
「ほぉ、これがジャパンの酒作り道具か‥‥」
 ジャパン風の家屋を珍しげに見回すエレナ・アースエイム(ea0314)。
「新撰組十番隊隊士、氷雨鳳(ea1057)。今回は1人の冒険者として貴女方を助けよう‥‥宜しく頼む」
 羽織の男装姿で颯爽と入ってきた鳳を見て、お滝の目がキラリと輝いた。
「あ‥‥刀‥‥」
 一方、伏神亮(eb2990)の姿を発見したお利津は、その袖をひっぱった。
「お蓮姉、奥の部屋で寝てるからっ☆早く早く」
「し、しかし女人の臥せっている部屋に踏み込んで良いものかどうか」
 とどぎまぎしている亮だが、どうせ人手が足りないんだからとお利津に押し切られ、お蓮とお陽の寝ている部屋に押し込まれる。
「病人看護には、男手の方がいいこともあるんだ。助け起こしたり力仕事もつきもんだしな」
 生業・救命士のジーンが慣れた様子でローブの紐を引いて袖をまくり、さっと台所の水でさっと手を清めて病人部屋へ。ところが障子を開けた途端、
「キャアアア!?」
 長女お陽の悲鳴。
「ごっごめん!」
 大げさな悲鳴に思わず立ちすくんだジーンだが、よく見ればお陽は裸で汗をぬぐっていたわけでもなんでもなく、ただ髪をほどいて未楡に梳いてもらっているだけ。
「な、なんだよ、脅かしやがって」
「入る前に、一声かけていただかなくては‥‥年頃の女性の寝所ですから‥‥」
 と、未楡にまったり叱られる。
「女性にはぁ〜髪型の決まっていない姿をぉ〜見られるのはぁ〜屈辱的なんです〜!」
 お陽は熱で火照った頬をさらに赤くしてまったりと反論する。
「どうだっていいだろ、風邪引いてんだから(←フォロー発言のつもり)。髪型なんぞどうでも、ちゃんと寝て治さないと、治るもんも治らねえぜ?」。
「『どうだっていい』っですってぇ〜!? それって私がぁ〜どうオシャレしてもぉ代わり映えしないってぇ〜言いたいのぉ〜?」
「なんでそうなる!?」
 亮とお蓮はといえば。
「どうして知らせてくれなかったんです? 大切なお蓮さんが臥せっていると知っていたら、依頼云々抜きで手伝いにきたものを」
「あ‥‥ありがとな‥‥おめぇっていいヤツだな‥‥ごほっごほっ」
「私で出来る事がありましたら何でも気軽に言いつけて下さい。遠慮とかはするものじゃありませんよ」
「すまねえな‥‥妹達をよろしく頼むぜ」
 と友情を暖める。
「お蓮姉ったらせっかく男友達がお見舞いに来てくれたんだし、もう少し女の子ぽい反応すればいいのに」
 と、影で見守りつつお利津は焦れているが、真面目人間の亮と男っぽいお蓮ではもう少し時間がかかりそう。
 てんやわんやの中、ともかくも甘酒を造ることになる。
 
●らぶあまざけ。
 さて、甘酒つくりの第一歩。火を使うのでたっぷりと薪がいるが、レオン・ウォレス(eb3305)が、力仕事を引き受ける。
「力仕事とか雑用は俺たちに任せておけばいい。 無理をしておぬし達まで倒れたら、取り返しがつかないんだからな。と言う訳で指示をしてくれ。俺はまるっきりの素人だからな」
「はっ、はいっ。えと、じゃあ‥‥蔵から麹の桶を運び出してくれますぅ?」
「ほいきた」
 お利津は父親といっても良い年頃のレオンに遠慮がちに指示するが、笑顔で引き受けてもらえると安心した表情を浮かべた。女性陣は麹を指先で細かくほぐしておく。もちろんおしゃべりに興じつつ。病人達の食事をお利津は心配するが、
「料理、洗濯など…家事は私が行いますから、皆さんはお店の事に専念して貰って平気ですよ。
判らない事は、お陽さん達の様子を伺いながら尋ねますし‥‥」
 と未楡が引き受けて。真白な前掛けを腰に結び、髪を束ねた姿に、
「未楡様がっ‥‥母様だったら‥‥いいのにぃっ‥‥」
 花綾が母親に甘えたくなったか呟き、未楡はころころと笑う。
「あらあら‥‥こんなに可愛い娘が一人増えたら‥‥構いすぎて仕事する間も‥‥なくなりそう」
「ねぇねぇ、お陽姉とジーンさん、すっごい喧嘩してたけど大丈夫かしら〜?」
 お利津の心配に、未楡がくすっと笑った。
「喧嘩も‥‥時には一番わかりあえる方法ですから‥‥」
「うん、若いのは良いな‥‥私はもう今年で30になるが」
 鳳のお姐さん然とした微笑に、お利津は鳳にあれこれ質問し、彼女に夫婦約束のある恋人がいると聞き出した挙句、嘆息する。
「あーあ、私にも誰かいい人いないかなあ‥‥」
「ま、そう焦るな。大切な誰かを見つけるには、まず自分をよく見つめ、自分を知り、ありのままの自分でいられることが大切だからな」
 エレナが笑ってお利津を励ます。
「敬天愛人‥‥です」
「あら、お滝はまだ早いでしょ」
 じっと鳳を見つめて呟くお滝にお利津は言ったが、鳳は首を横に振る。
「恋愛は早めにするに越したことはない。まあ、焦ることもないんだが、その分思い出も作れるからな‥‥重要なのはそれを守りきれるかどうかだ」
「人‥‥守る‥‥剣‥‥」
 呟くお滝は、なぜか鳳にかなり興味を持っている様子。
 続いてもち米を固めの粥状に炊き上げる作業。鳳が粥の固さを見つつ鍋をかき混ぜ、 ころあいを見て麹を投入。エレナが火吹き竹片手に火加減を見る手伝い。
「伊達に酒ばっかり飲んできた訳ではない。エールとは大分醸造法は違うが、甘酒の香りも嫌いではなくてな」
 と張り切るエレナだが、料理には慣れないと見え、白い額に汗がにじむ。
「後でお風呂使ってね〜」と気遣うお利津に、エレナは笑顔を向けた。
「ありがとう。ま、苦労の後には味見の楽しみが‥‥あちっ!」
「だ、大丈夫〜〜!?」
 ジーンとレオン、亮が交互に様子を見に来て、作業が無事に進んでいる旨姉達に伝える。
 だが、ついに甘酒が完成したと聞くに及んで、お陽・お蓮も起きだし様子を見に来た。
「生姜はちゃんと入れたのぉ? けほっこほっ」
「お利津、湯飲みに注ぐ時はこぼすなよ‥‥ごほっごほっ」
 交互に咳き込みつつあれこれ心配するお陽達をジーンが一喝。
「いいからお前ら寝てろよ。末っ子のお滝ちゃんだって16、もう大人と言っていいだろ? 妹のことが気になるのは分かるけど、もっと自分のために行動していいんじゃねえか?」
「一日も早く身体を元に戻す事が下の二人にとっても一番良い事だと思う。 それに美人のやつれた顔を見ているのは誰にとっても辛いだろうしな」
 心配そうにお蓮の肩にかいまきを着せ掛けている亮をちらりと見て、レオンも笑う。
「この素直に甘えられる機会を、大切に‥‥」
 未楡に背中を押され、二人は寝所に戻っていった。
「さあ、今日はお利津さんとお滝さんが看板娘だからね」
シルキーは花綾が持参した理美容用品一式を手に、お利津に向き合った。
「でもぉ私じゃあ‥‥お蓮姉みたいに元気よく売り声掛けられないし、お滝の方が美人だし」
 としり込みするお利津を、シルキーは説き伏せた。
「お利津さんの笑顔だって魅力的だよ? お化粧もうまくなったね」
 心をこめて、お利津の唇に紅を指し、眉を長めに女らしく、彩ってゆく。
「お滝お姉さまもおめかしですっっ」
 と張り切って花綾がお滝の羽織の胸にコメットブローチをつける。
「‥‥和魂洋才‥‥です」
 やっぱり会話になってない(でも和やか)。
 とにかくそのまんま受け入れたのが吉と出たようだ。
 そんなお滝を見てお陽がぽつり。
「あの子がぁ誰かとあんなにくっついてるとこぉ、初めて見たわぁ〜。あの子ぉ、近所の子供達にいじめられてたらしいのぉ。大人しくて無口だしぃ」
 微熱続きでフラフラしながら妹の様子を気にするお陽の責任感に、ジーンも頷く。
「そうか‥‥ま、一人でも友達が出来りゃ、ああいう子はぱあっと花開くもんさ。いいから、粥食えよ」
「はぁい〜。あーん」
 素直にお陽が口をあける。ジーンは照れつつ粥の入った匙を唇に運んでやる。
「お前は鳥のヒナかっ!?」

● 甘酒はじめました
四つの花咲き誇る良武屋へどうぞ
太陽に揺らめく椿の花
足元の池に白い蓮
道端にひっそり蒲公英が
今は蕾の百合を待つ
さあすばらしい花の待つ
良武屋へようこそ♪
 
 竪琴をかき鳴らし歌う異国のバードと、彼女の旋律にハモるフェアリーアイズの少女、それに合わせて横笛を吹く黒髪の女浪人がいる。少女は歌いながら唱える。ファンタズムの魔法で、バードと女浪人の髪にきらきらと星が降る。人々はおおっと声を挙げ、足を止める。
「い、いらっしゃいませですぅ‥‥あのあのっ、熱いですから気をつけて‥‥」
すかさず、緊張気味ながら花綾が、お滝と手をつないで店の土間へ客を案内し、熱い酒を汲んで渡す。
「甘酒どうぞぉ〜。隠し味に柚子の皮を少々入れてますぅ」
 お利津も懸命に声を張り上げている。
「あれって良武屋の三番目の娘? ずいぶん綺麗になったじゃないか」
 近所のおかみさん連中が噂しているのを小耳に挟んで、歌いながらシルキーは微笑した。
「もしかして、シルキーさんの唄に出てくる花って、私達姉妹のこと‥‥? 私は蒲公英なんだ、やっぱり地味ね」
 お利津はちょっぴり憂いの表情だが。
「でもね、お利津さん。蒲公英が咲くのを見て、ああ春が来るなって、人は皆笑顔になるんだよ」
 その場で買ってすぐ飲む客のためにと、お利津達が軒先に出した床机でエレナが甘酒を飲んでいる。彼女いわく、
「ま、生きた看板ってとこさ」
美味しそうな表情もさることながら、金髪に、お陽がいつも店に立つ時の紺絣を着た姿が人目を引いたことも間違いない。
 甘酒は無事完売となった。
「皆さん‥‥お疲れ様。お風呂‥‥沸いていますわ」
 疲れた皆を迎えて、未楡がにっこり。生姜の残りを使っての足湯や、マッサージで鳳達を労う。
「横笛を吹くと、この辺りが凝りましょう‥‥?」
「うむむ‥‥あ、もう少し下も頼む‥‥」
 首の付け根をもまれて凛々しい女剣士の鳳もほにゃ☆ モード。
そして未楡は、揉み療治に興味のあるらしい花綾に、ジーンを実験台にしてレクチャーすることに。
「お、お手柔らかに頼むぜ」と片肌脱ぎになったジーン。
「殿方の揉み療治で、力が足りない場合‥‥こうして膝を使い‥‥背中を押しつつ、肘をひきますと‥‥(メキャ」
「あがっ!?」
「未楡さん、ふにふにだけじゃなくてメキッボキッもお上手なのですぅ‥‥めもめも‥‥」
 女は弱しされど母は、の見本のごとき未楡は、疲れの色も見せずに皆の夕食まで用意していた。鳳が余った麹で京野菜の甘酒漬けを作り、それもなかなかに美味い。
 後片付けが終わり、お利津が売り上げを計算し、報酬を渡し終え。
4人姉妹が冒険者達にそれぞれ別れを告げるときが来た。
 お蓮は最後の最後に、ちょっとだけ女の子モードで亮に別れを告げた。
「今回は、味噌汁作れなくて‥‥ごめんな。見舞いに簪なんかもらっちまったのに」
「いいんですよ。また、寄らせてもらいます。お連さんが作ってくれた味噌汁を飲んでみたいですから」
「じゃあ、や、約束。 ‥‥俺も世話になりっぱなしじゃ、気がすまねぇし、さ」
 上目遣いに亮の表情を伺いつつ、お蓮は小指を差し出す。その様子に、改めて亮も、お蓮は同性の友ではなく女性なのだと認識を新たにする気持ちだった。少しためらってから、亮は心の中で呟きつつ小指を絡めた。
(「お蓮さん、貴女の事が好きだというのは間違いないです。ただ、一人の女性としてと、と言われるとまだ自信がありません。もしかしたら貴女も、同じ気持ちなのかもしれませんね」)
 友情とも、恋ともつかない不思議な親しさに、心を揺らす二人だった。
「あのぉ〜、色々わがまま言ってぇ〜、ごめんなさい〜」
 どうやら風邪の治ったお陽は、別れ際にジーンにぺこりと頭を下げた。
「まあ、あれだ。困った時はお互い様だしな。今度から、ここで味噌を買うことにするわ。ちょっと値段サービスしろよ?」
「嬉しいぃ〜♪ 今度『なめろう』作って待ってるわぁ〜、って、値段は負からないわよぉ〜」
「負けねぇのかよ!」
 かくしてバトルは続行。
「お利津とお滝も良く頑張ったな。この時期寒さは厳しいからな、病気にならないよう気をつけるんだぞ」
 帰りかけた鳳の袖をはしっと掴むお滝。
「ん? どうしたお滝?」
「弟子に‥‥なります‥‥強くなりたい‥‥です」
「はあっ!?」
 皆の頬を撫でて行く冷たい風。
 だが、かすかに春めいた香りが混ざっているようだ。