らぶみそうめはる。
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■ショートシナリオ
担当:小田切さほ
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 52 C
参加人数:8人
サポート参加人数:4人
冒険期間:02月27日〜03月03日
リプレイ公開日:2008年03月09日
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●オープニング
決して店構えは大きくはないが、良質な味噌を作るので、評判を得ている味噌屋「良武屋」。
腰を痛めて診療所に逗留中の店主と、その看病に忙しいお内儀に代わって、店主の娘たる4人姉妹が、現在その店を切り盛りしている。
おりしも梅のつぼみがほころびかける「梅春」の季節、姉妹にも色々と変化が訪れたようでーー
◆
4人姉妹の次女・お蓮と三女・お利津は仲良く買い物帰りの道を歩いていた。
「お蓮姉ったらあ〜、新しいかんざし、いつもと違っていやに可愛い細工の選んだじゃない〜?」
子供好きでひょうきんもののお利津は、姉の買い物をからかう。
男勝りで口は悪いが、心根は優しい熱血娘のお蓮は言い返す。
「お利津こそ、また紅なんか買いやがって、最近やけにシャレめいてるじゃねえか」
「だって、この色似合うって言われたもん♪」
「へん。俺だって磨けば光るって言われてんだぜ」
二人はほとんど同時に家に戻り、戸口を開いた。
「ただいま〜」
おかえり、と二人を迎えたのは、長女・お陽。
藍染めの地味な着物姿だが、色白くおっとりとした雰囲気を持つ和風美人である。
「あらぁ、お蓮とお利津だけなのぉ〜? お滝はぁ?」
「ああ、チビなら、またどっかの剣術道場の稽古見物に行ってんだろ」
4女お滝は、姉妹中一番の美形ながら、無口で何を考えてるかわからない不思議ちゃん。
だが、なぜだかこの所、とみに剣術に興味を持ったようで、毎日のように近所の剣術道場の稽古を熱心に見て回っているのだ。
「またなのぉ、あの子ったらぁ〜。この前も冒険者の人に『弟子にしてくれ』なんて頼み込んで困らせてぇ〜、あれほどムチャだって叱ったのにぃ〜、まだあきらめてないのねぇ〜!?」
むきーっと怒っているお陽だが、何事か姉妹全員で相談したいことがあったらしく。
聞いて聞いて、と真剣に妹たちを奥の部屋に呼び寄せる。
「さっきぃ、母さんからぁシフール便で連絡あったのよぉ。
父さんの腰、だいぶ良くはなったんだけど、完治するにはぁやっぱり湯治が一番だってぇ、診療所の先生がぁ仰ったそうなのよぉ〜。
どうせのことならぁ〜、完治させてあげたいじゃないぃ〜?」
「湯治かあ‥‥お金、どれくらいかかるんだろう‥‥」
「診療所の先生にぃ、聞いてみたのぉ〜」
ごにょごにょ。
お陽は、その金額を妹たちにささやいた。
「う〜〜〜ん‥‥」
「お味噌の売り上げを伸ばせばなんとかなりそうだけど‥‥問題はどうやって伸ばすか、よねえ」
お利津が首をかしげて言うとおり、その金額はちと微妙。
小さな味噌屋には高価であることには間違いない。
だが、ちょっと無理をすれば都合できないこともなさそうな。
「冬の間に新しく作ったお味噌はまだ売り物にならないからぁ〜、やっぱり今ある二年もののお味噌やぁ〜、残った米麹とかでぇ〜、お惣菜か何かを作ってぇ〜、売るしかないと思うのぉ〜」
お陽はのんびりまったり口調ながら、きっぱりと言う。
「味噌関連の商品を増やして、売り上げを伸ばすわけか‥‥」
お蓮もうーんと考え込む。
「じゃ、私はお漬物作るね♪」
「っと、お滝はみそ焼きおにぎりが得意よねぇ〜? おにぎりにお漬物を添えて売りだすっていうのはぁどうかしらあ〜」
「俺が得意なのは味噌汁だけど、頑張って田楽でも作ってみっか」
姉妹はそれぞれに案を出し合い、いっそのこと、得意料理を詰め合わせてお弁当を売ってみようということになる。
「まだ少し寒いけどぉ、梅の花がそろそろ咲く頃だしぃ、梅林の近くなんかで売ればあ、それなりに売れるかもしれないわぁ〜」
お陽はにっこり。
「でも、どうしよ‥‥甘酒やお味噌はともかく、私達、お弁当屋さんなんて商売したことないじゃない」
と、お利津は不安そう。お蓮も、
「俺達の中で、うまく魚さばけるのは、お陽姉だけだもんな」
お陽がぽんと手を叩いた。
「冒険者ギルドに頼んでぇ〜、料理指導お願いしましょうよぉ〜。
確実に美味しいものを作ったほうがぁ〜、自信持って売れるわぁ〜」
「でもってそれが、恋のきっかけにもなったりして☆」
と、お利津はほわわんと瞳を宙にさまよわせる。
4人姉妹とも、よいお年頃。
それに、そもそも4人姉妹の両親も、もとは味噌屋の跡取り娘だった母のもとへ、浪人の父が手伝いに来たのが縁で恋に落ち、結婚したそうな。
そのエピソードを幼い頃から聞かされて育った姉妹は、自分達もそんなきっかけで恋に巡り合うのではないかと、胸をときめかせているのだ。
「それにしても、お滝のチビは遅いな」
お蓮が、呟いたとき。
かたん。
玄関で音がした。
「ただいま‥‥です」
見れば、お滝が立っている。その姿を見たお陽が悲鳴をあげた。
「お滝ってばぁ〜、どうしたのぉ〜、その髪〜!?」
お滝の髪は髷がほどけ、砂をかけられたように汚れている。着物にも、土がついており、不自然に襟元が乱れていた。
まるで、誰かに胸倉をつかまれたかのように‥‥
お利津が尋ねた。
「お滝‥‥また誰かにいじめられたの?」
「‥‥」
お滝は口をつぐんだまま。
お滝が手習い仲間にいじめられていることが判明したのは半年ばかり前。
姉たちがいじめっ子達ににらみを利かせてしばらくは、いじめは止んでいた様子だった。
お滝はその時も、自分からいじめに遭っていると姉達に告げはしなかった。
プライドが高くていじめられたと認めたくないのか、言いつければ余計いじめられると思っているのか。
「黙ってねぇで、なんとか言えよっ!」
お蓮が焦れったそうにお滝を揺さぶるが、お陽はその手を静かに止めた。
「お蓮、今はおやめ〜。お滝、あなたが言いたくなければぁ〜、今は何も聞かないわぁ〜。その代わりぃ、こっちもぉ、したいときに勝手にぃあなたの手助けするかもよぉ〜」
にっこりきっぱり言い終えて、お陽は妹達の顔を見渡した。
「さぁ〜、皆でぇ〜ギルドに行きましょう〜」
「はぁい!」
「お陽姉には負けるぜ」
「一陽来復‥‥です」
お滝の髪や服を整えて、姉妹は出かけてゆく。それぞれに期待を秘めて。
春は、新しいことをはじめる季節なのだから‥‥
●「良武屋」4人姉妹について
○長女:お陽(23歳)‥‥正統派和風美人でおっとりまったりキャラ。長女(姉)ならではの色々な責任に悩んでいる。 恋人はまだいないが、ある冒険者と仲良く喧嘩する友達な関係?
○次女:お蓮(21歳)‥‥男勝りでズケズケ言いだが、家族思いな熱血娘。ある冒険者と友達以上、恋人未満の関係?
○三女:お利津(18歳)‥‥お茶目でおっちょこちょい、子供好きの癒し系? ファニーフェイスを気にしているが、ある冒険者にお化粧指導され、やや容貌に自信を持ち始めている。 彼氏募集中。
○四女:お滝(16歳)‥‥欧州風に彫の深い美少女。ぽつんぽつんと意味不明発言をする不思議ちゃん。ある冒険者に憧れて剣術に興味津々?
●リプレイ本文
●W不思議ちゃん
「‥‥(なぜかにっこり)」
「‥‥(なぜか満足げに頷く)」
以上、お滝と瀬崎鐶(ec0097)の初対面でした。
ただ視線を合わせただけで、何か通じたらしい二人。シュールだ。
一方、白翼寺 花綾が「この間は‥‥来てくれて‥‥ありがと‥‥ですっ」ぴょこんと頭を下げると、
「天理人道‥‥です」
と嬉しそうに、でも相変わらず意味不明言語を口にするお滝。だが、そうやって二人の友達と和みながらもお滝はしっかりと氷雨鳳(ea1057)の袂をつかんでいる。
以前、鳳の弟子になりたいと申し出て、姉達にきつく叱られたものの、鳳が再度良武屋の手伝いに来てくれたので、今度こそと決めているらしい。
「駄目よぉ〜、新撰組の人たちにはぁお役目があるんだから〜!」
叱るお陽を、鳳は止めた。
「いや、子供がここまで心を決めているなら‥‥話だけでも聞いてやろうと思う。お滝、お前の本当の気持ちが私は知りたい。本当に剣を学びたいというならその気持ちを私にぶつけて欲しい」
「でもぉ〜。ご迷惑じゃ‥‥」
鳳の言葉に遠慮していたお陽だが、‥‥花綾がうるうる瞳で何かの念波を送っていたのもあり‥‥根負け。鳳がお滝と二人で話してみるというので、奥の座敷に通す。
その際に、お陽は鳳にお滝がいじめにあっているらしいことを耳打ちしておいた。
「あ♪シルキーさぁん‥‥あれ?」
チェルシー・ファリュウ(eb1155)をその姉と見間違え、喜んで手を振りかけたお利津は首を傾げる。
「あたし、お姉ちゃんの代わりに来たの。家事はおねえちゃんより得意だよ」
シルキー・ファリュウは身重なため初日の付き添いだけ、今回チェルシーが家事を担当に来たと説明され、四姉妹は羨ましがるやら祝うやら、心配するやら。
「赤ちゃんのお世話した〜い。ねっ、いいでしょシルキーさん」
と、子供好きのお利津はせがんでいる。
「鳳お姉ちゃんや未楡ママもご一緒ですし、頑張りますのです♪」
月詠葵(ea0020)はぴょこんと頭を下げ、
「まぁお利口さん〜♪ 歩いてきて疲れたでしょ〜? 煎り豆あげるわぁ〜」
とお陽に早速餌付‥‥げふんげふん、歓待されている。
「成る程、噂どおりの良い店だな」
琥龍蒼羅(ea1442)は、店内に足を踏み入れ呟く。
「まあ〜こちらこそ、有名な楽士さんがお手伝いに来てくださって嬉しいわあ〜☆ 煎り豆、お好きぃ?」
「ああ、頂こう。手伝いといっても、料理はあまり詳しくないので主に宣伝のほうを手伝うとしよう」
餌付け作戦その2‥‥いや、なんでもない。
トントン‥‥と、明王院 浄炎が弁当温め用などに活用できる、持ち運び可能な簡易かまどを木箱などで作っている音が気持ちよく庭から響いてくる。
そんな中、お弁当おかず作戦会議は始まった。
「お弁当のおかずはぁどうしたらいいと思われますぅ〜?」
お利津の得意な味噌汁はどうかと伏神亮(eb2990)が提案。亮は自身の寺から竹枝を一束譲ってもらい持参している。明王院未楡(eb2404)が、竹筒を器に仕立てれば汁物も持ち運べると示唆したため。
「でもな、味噌汁って長いこと温かく保とうとすると煮込みすぎて香りが無くなるぜ」
「あらかじめ‥‥昆布や鰹節の粉を混ぜた味噌玉を筒に仕込み‥‥現地で注文に応じて熱いお湯を注ぐ‥‥方法なら、安全ですし‥‥煮込み過ぎる心配も‥‥ありません」
未楡の提案に亮が深く頷く。
「お蓮さんが作った絶品のお味噌汁があれば、多くの人が心から暖まると思うんです」
「絶品♪ へへっ、褒め上手だなてめぇは(ばしーん」
「ごふっごふっ」
お蓮は照れ隠しにばしっと亮の背中を叩き、茶にむせさせる。
「魚をお味噌で焼いたのとか、信州の五平餅みたいな感じのが美味しそうかなって思うの」
という葵の意見や、
「現地で味噌の焼ける香りを立てれば‥‥集客力アップですわ‥‥」
と未楡の意見により、魚のみそ焼きがメニューに加わることになった。
そこで魚の買い付けについて、
「馬を使えば運搬は問題ないが、選ぶのは知識の無い俺がするより四人姉妹の誰かに同行してもらい任せるほうが良いかな」
と蒼羅が申し出たので、ちょっとした騒ぎが起こる。
川で釣れる鱒やモロコを食糧や商品にする農家はよくあるし、モロコに味噌を塗ってあぶるなどすればいいおかずになる。だが問題は、馬に乗っての遠出が、小さな味噌屋の娘達には貴重な経験だったこと。
「魚の目利きならぁ、私よねぇ」「ずっるいお陽姉、値段の交渉ならわ・た・し」「違えよ、俺!」
「こらこら、帰ったら順番に馬に乗せて散歩させてやるから、喧嘩はするな」
蒼羅に同行する役目を巡り争う姉妹。蒼羅に叱られ、やっとお陽が同行して魚を選ぶことに落ち着く。その間、お蓮は近所のおかみさん達に味見をしてもらい、お利津は竹筒つくりの手伝いをすることに。蒼羅の持参したグウィドルウィンの壷に川の水を入れて、その中で生きたモロコを泳がせておき、持ち運ぶことにした。
チェルシーの連れてきた馬はやや華奢なので、田楽用の豆腐を運ぶことになったが、荷物運びの手間が軽減され、四姉妹は蒼羅とチェルシーに感謝していた。
●お滝とお師匠様
一方、お滝はといえば、座敷で、鳳と二人きりになってもなかなか口を開かない。
鳳はゆっくりと告げた。
「お滝、おまえが剣術に興味があるのは分かった。だが何故いじめられているのか、話してくれても良いのではないか?」
「大駒屋の‥‥お勝ちゃん‥‥意地悪します」
ぽつりぽつりとお滝が話し始める。近所のリーダー格の子供が、ぽつんと孤立しマイペースなお滝が目障りで、いじめてくるらしい。
「やめてって‥‥言ったですけど‥‥」
「悔しいならば言うだけではなく噛みつけ、何度も噛みついて「いじめるな」と言ってやれ、私もそうした‥‥女が剣を持つというのはそういうことでもあるんだ」
鳳の言葉に、お滝は眼を丸くした。
「鳳‥‥さん‥‥いじめられた‥‥?」
「だが切り抜けた。お前にもきっと‥‥できる」
鳳が桃の木刀を手渡した。
「これは私の弟子になったという証だ‥‥暇があればうちに来い、稽古をつけてやろう。だが厳しいぞ?」
お滝の眼が見る見る輝いた。
こっくり。力強く、お滝は頷いた。
●お蓮と友達以上の男
近所のおかみさん連中に竹筒の味噌汁を味見してもらい、濃さや具について意見を聞いた後の帰途、お蓮は亮に、心配を訴えた。
「お滝、ちゃんと相談出来てんのかなあ‥‥ったく俺に似ないで喧嘩弱ぇんだから」
気は強い癖に、並んで歩くとお蓮の肩は意外に華奢だ。強がりなお蓮を愛おしく思っている自分に、亮は気づいた。
(「やはり、私はお蓮さんの事が一人の女性として好きなんでしょうね‥‥でも、黙っていても何も変わらないんですよね。思い切って一歩を踏み出してみましょう」)
亮がふいに足を止めた。
「お蓮さん。少し‥‥話を聞いてください」
「え? う、うん」
「私はあなたの手助けが出来ることが、私の喜びなんです。私はあなたの事が一人の女性として好きです。付き合っては頂けませんか? いつもあなたの支えになれる、その‥‥恋人として」
ぽかんとしていたお蓮の顔に、見る見る赤味が上ってきた。
「なっ、なっ、何言ってんだよっ?? こ、こ、恋人ってお前っ‥‥い、今俺は父さんやお滝が心配で、それどころじゃ!」
袖で顔を隠すようにして、お蓮は走り去ってしまう。
(「困らせてしまったのでしょうか‥‥」)
亮は空になった箱を抱えて、一人とぼとぼと店に戻った。
● お陽と弟? お利津とアニキ?
良武屋の奥では、草薙隼人(eb7556)達が竹筒水筒作りに忙しい。
「見て♪ 口つけて飲む所、竹が刺さらないようにまあるくしたの」
葵は形を整えた竹筒をお陽に見せる。
「まぁお利口〜。一休みしておやつの黄粉餅食べてねぇ〜。 好きかしら?」
「わあ♪ いっただきまーす♪ 絶対絶対、美味しいのですっ」
(「実は弟って欲しかったのよねぇ〜♪」)
フェアリーアイズを輝かせて餅を食べる葵を見守るお陽の目は、なんだかうっとりしている。
そしてお利津は、竹筒を水洗いして空気穴と湯注穴を錐で開けている草薙隼人の生業が化粧師と聞いて興味津々。さっそく隣にくっついて質問。
「この紅の色、気に入ってるんだけど、化粧師さんから見てどぉ?」
「ん〜似合ってるよ? うん。後は、自分の好みと合わせて色々試してみな」
「そぉ? ‥‥ほんとはもう少し濃い紅もつけてみたいんだけど」
「だったら冒険してみな。似合う化粧をすりゃ綺麗になれるが、綺麗なだけじゃいい女にはなれないぜ」
「でも、私、まんまる顔だから似合わな‥‥」
「ご謙遜。その餅肌なら、化粧しがいがありそうだ」
すいと隼人がお利津の頬に触れた。
「か、からかってるでしょっ!?」
お利津の白い肌がかすかな桜色に染まった。傍で、梅干の塩抜きをしていたチェルシーが口を挟む。
「あのね、お姉ちゃんが言ってた。お利津さんのこと蒲公英にたとえたのは、小さな太陽みたいだからって。お利津さんはもっと自信持った方がいいよ?」
お利津は余計照れたようで、ばたばたと奥の間に掛けてゆく。
「もっと肌が磨きたきゃ、いつでも相談に来な」
隼人の声がその背中を追いかけた。
台所では、鳳がてきぱきとモロコの調理を指導。
「魚の捌きは素早くな、もたもたしていると身が崩れてしまう」
「お師匠様‥‥包丁も‥‥上手‥‥」
とお滝が見とれる横から姉達が、
「お師匠様ぁ〜頭が巧く取れないわぁ〜」
「お師匠ーっ、田楽の味これでいいか?」
「頼ってくれるのは嬉しいのだが‥‥はあ」
師匠、お疲れ気味。
○売り子は大変
弁当を販売する当日。よく晴れたその日は、梅の花が七分咲き。御所近くの広い梅林を選び、良武屋一行は店を広げた。
「お滝ったらぁ〜、あれから何も言わないけどぉ、鳳さんに聞いてもらって気が晴れたのかしらぁ」
妙に明るい顔で、風呂敷に包んだ荷物を広げているお滝を見て、お陽が蒼羅に囁く。長女の彼女としては、鳳に任せたとはいえ、末っ子の悩みは気にかかるらしい。
「いじめに克つために、剣術を習いたいと、ちゃんと意思表示ができたのなら大丈夫だろう。剣を振るう上で大切なのは意思の力‥‥、いじめに打ち克つのもまた同じだ」
蒼羅は言って、愛用の樫の竪琴を取り出す。
有名楽士の演奏に、何事かと人が集まりだす。鳳の横笛の音色が華を添える。
「音楽付で梅見弁当とは、風雅どすな。三つおくれやす」「こっちは四つ」
いつもの店先での商売と勝手が違い、4人姉妹はまごつき気味だ。
「お利津さんも笑顔、笑顔っ♪」
チェルシーはお陽の影に隠れているお利津を引っ張り出し、肩に美しいスカーフをかけてやる。
一方、緊張の「き」の字も縁のない女の子もいる。
『味噌屋「良武屋」から新商品!』と書かれた、背に負えるぎりぎり極限のでっかいのぼりを肩にかつぎ、横笛吹きつつすたすた歩いていく鐶だ。
「年頃の女の子なのにぃ〜あれでいいのかしらぁ〜」
お陽は心配げだが鐶がなぜか生き生きしてるのは否めない。
淡々とした表情でぴーひゃら練り歩く様が妙に面白いので子供達がぞろぞろついて歩く。
「新商品、美味しいよ。梅入りのお茶もどうぞ‥‥商品がより一層美味しくなるかも」
鐶が連れてきた客に、チェルシーが塩抜きした梅干の入った茶を手渡す。
「‥‥やるわね‥‥私だって、子供にはモテるんだけど」
お利津はなぜかライバル意識を燃やすのだった。
「いらっしゃいませー♪ ただいまみそ焼きおにぎり焼き立てでーす」
と、お滝の紫苑色の晴れ着を無理やり着せられた葵も売り子を務めているが、
「あの〜‥‥やっぱり着替えていいー? この格好じゃ、女の子に見えちゃう‥‥」
「ん? それがどうかした? とーっても可愛いわよぉ?」
その抵抗はあっさりと四人姉妹に流された。
竹筒を運ぶ亮に、おずおずとお蓮が近づいてきた。こんなに綺麗な梅の花の中で告白しなくてどうすると、未楡やチェルシーにハッパをかけられたらしい。
「亮、あの‥‥ごめん、すぐ返事できなくて。俺、慣れてなくてさ。あの‥‥」
お蓮が言いかけると、お滝が二人の間に割り込んだ。
「唇歯輔車‥‥です」
お滝が亮をじーっと見る。いつもいじめっ子から守ってくれたお蓮を奪われるような気がして、二人の関心を引こうとしているのは明らかだ。チェルシーがお滝に囁いた。
「あのね‥‥お滝さん。あたしもお滝さんと同じ、お姉ちゃん大好き‥‥恋人が出来たときとか結婚したときとか遠くに行っちゃうようで淋しかったけど好きな人や…大事な人が増えたから嬉しいんだ!」
「大事な‥‥人‥‥増える?」
「お姉ちゃんを取られるんじゃない、お兄ちゃんが増えるの。もしかしたら姪っ子や甥っ子だって」
チェルシーは自信をもって頷く。
自身お姉ちゃんっ子で姉の恋人にずっと複雑なものを抱いていたチェルシーだから言えるのだ。
お滝はぎゅっとつかんでいたお蓮の袖を離した。
皆はそれぞれ片付けや散歩に動き出し、お蓮と亮の二人がその場に残される。
「お返事を承りましょう」
亮は覚悟を決めた表情。
「あの‥‥な。お前はいい奴だし、だからその、付き合ってやる!」
赤面しつつも威張って宣言するお蓮にあっけにとられ、やがて亮が笑い出した。
「男友達みたいで、さっぱりしてて気持ちがいいですね、貴女は」
「男みたいって‥‥それ嫌味か?」
「私はそういうさっぱりしたお蓮さんが好きなのですよ」
明るく笑う亮を、お蓮は睨んだ。
だが、「紅梅が綺麗ですよ」亮が自然に手を伸ばすと、「‥‥う、うん」お蓮はその手をそっと握る。花香る梅林へと、二人は手を繋いで歩き始めた。
●その後の四姉妹
「外また歩きは‥‥いけません。 手を上げる時は袖を押えて‥‥」
お蓮は、何かと助言してくれる未楡を頼って彼女の下へ作法見習いにゆき‥‥大苦戦。
「くっ‥‥見てろよ亮、うんと女っぽくなってびっくりさせてやるぜ(涙目)」
お陽とお利津はおやつレシピ開発がマイブームである。
「出来た♪ 梅肉入りお餅ぃ〜甘すぎなくて男の子にもいいと思うのぉ」
お陽の目的はどうやら餌付k(略)。
(「お餅を手土産に、相談‥‥行ってみようかな」)
お利津には別の思惑があるようだ。
お滝はどうやら、いじめっ子に本気で立ち向かい、子供達から「普段大人しいけどやる時はやるヤツ」と見直されたようだ。しかも新撰組隊士の弟子というので一目置かれ、教わった構え方などを得意になって披露する‥‥のはいいんだが。
「新撰組ごっこ‥‥です」
すぱぱーん♪ と少年達に混じり木刀片手に遊びまくるこの頃。
「友達が出来たのはいいけれどぉ〜、これはこれで心配だわぁ〜」
お陽の心配の種は尽きない。