【男子厨房に乱入!?】川遊びに行こう

■ショートシナリオ


担当:小田切さほ

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:04月10日〜04月13日

リプレイ公開日:2008年04月20日

●オープニング

僕の勤めている診療所には、色んな患者さんが来る。
 盗賊と戦って怪我をして、手当てを受けに来る用心棒。熱を出した赤ん坊を抱いて、髪を振り乱して駆け込んでくる若い母親。
 全快して家族に迎えられ、笑顔で「お世話になりました」と帰ってゆく人。
 手当ての甲斐なく、不治の病で亡くなってしまう人。
 どんな別れであれ、笑顔でさよならを言いたいと僕は思っている。
 「一期一会」‥‥だよね。

「また都に、不穏な空気が流れているようですね」
 薬湯を運んでいった僕に、廉乃丞(れんのじょう)君は、待ちかねたように話しかけた。
 廉乃丞君は長期逗留の患者の一人である。病弱なたちで、今は皮膚の炎症で療養中。
 それまでも時折ひどいめまいを起こして倒れたりしていたらしい。
 投薬と療養でずいぶん改善したものの、女の子に間違われそうなくらい色白で華奢な少年だ。
 だが、彼の精神はあくまで国を憂う志士そのものだ。
「そうだね」
 僕は頷く。
「今は、どんな状況なのでしょうか? 政局は如何に‥‥?」
 僕は出来るだけかいつまんで、知っている限りの京都の情勢を話した。
 廉乃丞君は、むさぼるように聞いていた。そして言うのだ。
「ああ、もっと早く回復できればいいのに。そして一刻も早く、神皇のお役目に立てるよう、命の限り戦いたいものです」
廉乃丞君は、本人の希望もあり、来る卯月の十日には診療所逗留から、家に戻る予定となっている。
 だけどそれは決して頑丈とは言えない彼が、厳しい戦場へ赴く日が近づいているということでもある。
 彼の頭の中には、志士としての使命、それしかないのだ。
「また、戦に行くつもりなんだね」
「私も、志士のはしくれ。京の都のために戦って果てるならば本望ですから」
 女の子みたいな優しい顔立ちのくせに、廉乃丞君は涼しい顔で言い切るのだった。
 立派だと思う、だけど‥‥寂しい人だ。
「一つだけ、覚えていてくれるかな」
 僕は、彼の言葉が終わるのを待たずに言った。
「戦場で死なせるために、僕達は君の手当てをしたんじゃないからーーー」
 廉乃丞君は、外国語を聞いたようにきょとんとしていた。
 ◆
 どうしても廉乃丞君のことが気になって仕方がない僕は、宗哲先生に相談を持ちかけた。
「廉乃丞君ですけど‥‥元気になる前から、国のために死ぬことばかり考えているみたいで、少し心配なんです。
 外歩きの練習も兼ねて、鴨川べりにでも連れ出して構いませんか? 
 生き生きした楽しい思い出が作れたら、もっと彼も命を大事にしてくれるんじゃないかと思うんです」
「うむ。よかろう」
 案外あっさりと、先生は頷いた。
「最近、まっすぐ前だけ向いてひた走るような生き方の若者が多いように思う。わしなど、立ち止まって、道端の花など摘むときにこそ、生きている意味があるように思えるのぢゃが」
「僕もそう思います。‥‥僕達って変わり者なんでしょうね」
 僕の言葉に、宗哲先生はうっすら笑った。
「変わり者、大いに結構じゃわい。
‥‥さて、廉乃丞がひっくり返るくらい、思い切り、豪華な弁当でも作ってやるかの」
「はい」
 準備のために井戸水を汲みに庭へ出ると、月が明るい。
 明日はたぶん、晴れるだろう。

●今回の参加者

 ea5970 エリー・エル(44歳・♀・テンプルナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 eb1155 チェルシー・ファリュウ(25歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 eb2099 ステラ・デュナミス(29歳・♀・志士・エルフ・イギリス王国)
 eb2404 明王院 未楡(35歳・♀・ファイター・人間・華仙教大国)
 eb8467 東雲 八雲(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ec3983 レラ(28歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)
 ec3987 雪村 真之丞(35歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 ec4175 百瀬 勝也(25歳・♂・侍・人間・ジャパン)

●サポート参加者

大宗院 透(ea0050)/ カノン・リュフトヒェン(ea9689)/ リリー・リン(ec4638

●リプレイ本文

●母親と、友達と
 早朝ーー宗哲の診療所を、明王院未楡(eb2404)とチェルシー・ファリュウ(eb1155)
、レラ(ec3983)が準備手伝いに訪れた。
「助かります。張り切って色々詰め込んだら、いまいち見た目がよくなくて」
 と、エイシャ青年が見せるお弁当は、なるほど土筆ご飯や漬物や豆腐田楽がぎっしりだが、詰めすぎてごちゃごちゃ。
「せっかくのお弁当‥‥ですものね」
 くすりと笑って、未楡は弁当をつめなおしてゆく。嫁菜などの青みや嘗め味噌を添えて、見るからに美味しそうな弁当が出来上がる。
「おにぎり手伝うね、お‥‥にいさん」
 チェルシーは、義理の兄であるエイシャ君とまだ微妙に馴染んでいない模様。
「あ、ありがとう。は、初めての兄妹合作だね‥‥はは(←こっちもぎこちない)」
 出来上がってゆくおにぎりに、横合いからそーっと手が伸びて来る。
 ぺし。小さな白い手がそれを叩いた。
「つまみ食いはいけませんよ、京助さん」
 レラが笑顔で叱ると、京助がエイシャ青年の後ろで頭をかいた。

 お弁当を手に現地にエイシャ青年達が到着すると、東雲八雲(eb8467)達が薪集めにいそしんでいた。杖をついて、時々京助やエイシャ青年に支えられながら廉乃丞がゆっくりと到着する。
「志士の、東雲八雲だ‥‥宜しく頼む」
「あ‥‥あの、伊勢騒動の折の‥‥するともしや、このお方は」
 八雲の集めた薪に、火打石で火を起こしているステラ・デュナミス(eb2099)に目を留める。
「私? ステラ・デュナミス、ウィザードよ」
「やはり‥‥あっあの、秋山廉乃丞と申しますっ」
 緊張気味に廉乃丞は頭を下げる。二人の名に覚えがあるということは、それだけ京都の事件に大きな関心を持っているのだろう。だが、川に目を向けた廉乃丞は、子供らしい表情を見せた。
「あの動物は何でしょうか?」
 興味津々の彼の視線の先には、川で戯れるエリー・エル(ea5970)とペットの不可思議な鳥。
「ペンペンって言うんだよぉん♪ はい、握手ぅ」
 ペンギンと握手させてもらい、珍しい鳥なのだと聞かされた廉乃丞は、「鳥なんですか!?」と無邪気に驚き、恐る恐る撫でてみる。
「動物、好きなのぉ? 後でバウバウに乗せてあげようかぁ?」
 楽しそうな廉乃丞に、エリーは水を向けてみるが、
「はいっ。志士としていつかは騎乗訓練をと思っておりました」
 と、廉乃丞は戦のことが頭から離れない様子。
「やっぱり同世代で、話しが合うんですね」
 とか言ってるエイシャ君は、後でエリーの実年齢を知り腰を抜かすのであった。ステラが言った。
「ペンペン君とエリーさん、気持ち良さそうねえ。私も川に入ろうかしら」
「では、川魚を手づかみで捕まえるのはいかがでしょう?」
 レラの提案に楽しそうだと盛り上がる一行。廉乃丞も長時間は川に浸からないようにとエイシャ青年に釘を刺されるが、裸足になりペンペンを追いかける。
 一方なぜか慌てる百瀬勝也(ec4175)。
「‥‥女人の身で魚獲りをされるのか、川に入って?」
「いけない?」ステラが首を傾げる。
「いや、その‥‥にょ、女人に冷えは禁物と」
「八雲さんが焚き火をしてくれているから、すぐ乾くと思うけど?」
 百瀬、敗北。ステラの靴を脱いだ白い足首や、衣装をつまみあげて水に入るので露出する膝上辺りを見ないように固まっている。
「よっしゃ、燃えるぜ〜!」
 雪村真之丞(ec3987)が陽気に裾を端折る。
「私も、がんばっちゃうよぉん☆」
 エリーはレイピアのポイントアタックでアマゴをゲット。ステラは魚を捕まえるよりも、華奢な足を浸す水の感触そのものを楽しんでいる様子。
「まて〜っ!」
 ばしゃばしゃと水を跳ね上げて廉乃丞やエイシャ君まで水浸しにするチェルシー、そんな彼女に、
「川の流れに逆らわず、掴むのではなく掬う感じに‥‥」
 とレラが助言する。
「こうですか?」とやってみる廉乃丞。
「こうでしょう」とやってみて、勢い余ってレラに掬った水をぶっかけてしまう京助。
「何やってんですか京助さんっ!」
 エイシャ君が睨む。
「申し訳ござりませぬ」
「大丈夫です。今日は暖かいですから、かえって気持ちがいいくらいです」レラがフォローする。
 持参したテントを張って着替えを用意した未楡が声をかけた。
「皆さん、そろそろ‥‥上がっていらっしゃいませんか‥‥? お魚も‥‥これだけあれば、充分ですし‥‥」
「お弁当♪お弁当♪」
 ざぶざぶとチェルシー、レラ達が素足で岸に上がる。
「まあ‥‥廉乃丞さん、唇が紫色‥‥」
「つい魚とりに熱中してしまいまして」
 未楡が眉をひそめ、毛布でくるんでやると廉乃丞はくすぐったそうな表情を浮かべたが、故郷の母を思い出したか、されるままになっている。
「ちょっとそこで、火に当たらせて頂戴」
 と、ステラが焚き火で魚を炙っている百瀬の横に入って火に当たる。
 押す時に胸を突き出す形になってしまったため、柔らかな感触が肩をかすめ、百瀬はしばし硬直していた。
「百瀬さん。百瀬さーん。服、焦げますよ!?」
「石化でもされましたのか!?」
 エイシャ青年と京助が焦げかけた彼の服を消火し移動させる。
「こいつ等可愛いだろう、抱いてみるか? 癒されるし、あったまるぜ」
 真之丞が飼い猫の向日葵を抱かせてやる。
「美味しい味噌焼きとお味噌汁‥‥ですよ‥‥お魚も、塩焼きと味噌焼き二種類ありますから‥‥ご自由に、召し上がれ‥‥」
 竹筒に注いだ、湯気の立つ味噌汁と串焼きにした魚を未楡が皆に配る。獲れたてを炙った魚と香ばしい味噌の香りに皆が歓声を上げた。未楡の腕前と、レラが提供した「鉄人の鍋」を使っていることが相まって、通行人がうらやましそうな顔をして覗いていくほどの薫り高さである。
 暖めた石をハギレにくるみ、懐石にして、少しでも早く体を温めてやろうとする未楡に、廉乃丞は、
「いえ、私などよりもか弱い女性たちに先に差し上げてください。私は構いません、いずれ国のために捧げる命ですから」
 と首を横に振る。
「そんな、戦で死ぬのが前提みたいな言い方はないでしょう。せっかくの気遣いに対して」
 エイシャ青年はむっとした様子だ。未楡も静かに諭す。
「もしかして‥‥戦って死ぬ事が忠義‥‥とか思っていませんか? 大事を前に、何時死んでも‥‥と覚悟を持つ事は確かに大切です。でも、それは‥‥何時死んでも悔いのない生き方をする‥‥と言う事です」
「ですが、死して尚国を守る覚悟なくしては、戦に行けないではありませんか」
 廉乃丞はなかなか頑固だ。
「じゃ、僕達がしてきた廉乃丞君の治療は無駄ですか? 好きにしてください」
 ぷいと背中を向けて、エイシャ青年は川の水面を見つめている。なぜエイシャ青年が怒っているのか理解できない様子の廉乃丞に、エリーも噛んで含めるように説いた。
「未楡さんやアシュリー君は、廉乃丞君が病み上がりだから気遣ってくれたんだしぃ、信念を持って戦う事は悪くないけどぉ、大事なのは生きることだからねぇん」
「私は間違っているのでしょうか?」
 廉乃丞は同じく志士である八雲に意見を求めた。
「いや、間違っちゃいない、のかもしれない。ただ、いずれ戦で散るとしても、今生きる身としちゃ、どう生きるか考える方が先だろうな。
 とりあえず俺が目指しているのは、何事にも揺るがない、大地のような人物‥‥かな。接する人達を肉体的にも精神的にも「支える」。そういった人物になりたい‥‥なっていきたい」
「でも、東雲さん程のお方ならば、死に際してのお覚悟もなさっているのでは?」
「まあな‥‥だが大地のように人を支えるには、いつ振り向いてもそこにいてくれる、という安心感が必要だろ。どんな辛い闘いでも必ずこいつは生きて帰る、そう思わせてやらなくちゃ人の支えにはなれないぜ」
 八雲は半分自分に言い聞かせるように、言葉一つ一つに力をこめて言った。
「ですが私は病がちの身ゆえ、長生きしたところで周囲の人々に世話をかけるだけかと。せめて忠義のために命を捧げた方が」
 言いかけた廉乃丞の頬をぴしりと未楡が叩いた。その大きな瞳に涙が滲んでいる。
「神皇様は、民人の全てを等しく愛していられます‥‥貴方もその中の一人なんです。軽々しく“忠義”の名に酔って命を散らす者が居ると知ったらどれ程悲しまれる事でしょう‥‥」
 石化(違)の解けてきた百瀬も強く頷いた。
「神皇の望まれる平和は民の平穏。廉乃丞殿は、御自身も神皇の守りたい民の一人であることをご承知か? 貴方が命を散らすということは、神皇の平和の一欠片が砕けるも同じこと、自重めされよ」
「そう、貴方は勘違いをしているわ」
 火の傍で足先を温めていたステラが立ち上がった。
「『命を捨てること』そのものが立派なのではないの。「いざという時」に命を捨てる覚悟は立派‥‥でもそれは「必要な時に必要な事を躊躇せず出来ること」が立派なのよ。
 それに周囲の一生懸命な看病を受けて、回復した身なら、逆に少しでも健康で長く生きようと務めるべきね。
 でなければ、貴方を治癒し励ましてくれた人々は悲しむわ‥‥それは志士として褒められたことではないんじゃないかしら」
 考え込んでいた廉乃丞は、ふとレラに目を留めた。レラは食べ終えた魚の骨を丁寧に土に埋めている。視線に気づいたレラが顔を上げ、言った。
「命は、貴方一人の所有物ではありません。まして国を守る為の道具でもありません。今食べたお魚だって、貴方の命を支えるために犠牲になってくれたのですもの。
 まして、心の通じ合った友人が看病してくれたのなら、どんな戦いに赴くとも、生きて戻られる事をお約束して下さるのが人の情ではないでしょうか。たとえお役目と割り切れても友の死は哀しいもの‥‥」
 やがて、廉乃丞がおずおずとエイシャ青年に近寄って、低い声で言うのが皆の耳に届いた。
「私の配慮不足で失礼を‥‥すみませぬでした」
 エイシャ青年の応える声も。
「命は大切にしてください。約束です」
「お味噌汁‥‥温め直しましょうね」
 語り合ううちに冷めてしまった味噌汁を見て、未楡が母親らしい気遣いを見せた。

●思い出の効き目
「もういいかーい」
「もういいよー♪」
 チェルシーが廉乃丞を誘い、「かくれんぼ」を始めた。廉乃丞とエイシャ青年の仲違いで湿っぽくなった雰囲気を、和らげるつもりもあるらしく。
「これって、気配を察知する訓練にもなるんだよ」
 と言うチェルシーの言葉に、廉乃丞は真剣に頷いている。
「廉乃丞君って、あまり遊び方を知らないんですよね。小さな頃から病弱で、ほとんど家の中で育ったみたいで」
 と食後のお茶を沸かしつつエイシャ青年。
「そうだったの‥‥それでかくれんぼに誘われた時、もじもじしていたのね。『今すぐ志士として務めを果たせる訳でもないのだから、体を動かす訓練にはなるんじゃない?』って言ったら、素直に参加したのよね」
 ステラは言った。
「廉乃丞君、やっぱり‥‥戦には行くつもりみたいですね」
「うん‥‥本当は止めたいけどぉ、自分の意思でならぁ、止められないねぇん」
 エリーの童顔にも悲しげな影がよぎる。
 ひとしきり遊んだ廉乃丞とチェルシーが喉を潤しに戻り、エイシャ青年は早速淹れたてのお茶を皆に配る。
「よし次はナンパでもしにいくか〜!」
 雪村が元気一杯にばしっと廉乃丞の肩を叩く。
「女人と戯れるヒマがあったら鍛錬でも致します」
 と、廉乃丞は断固拒否。
「お堅ぇなあ。俺なんか、一日でも早く新しい家族と出会えてぇって、それが楽しみで生きてるようなもんだぜ」
「ああ‥‥確か、雪村さんのご家族って、火事で‥‥」
 亡くなられたのですね、とうっかり言いかけてエイシャ青年が言葉を飲み込んだ。なんとなく察した廉乃丞も、真之丞の陽気な表情を見直す。照れた笑顔で真之丞は、
「ま、だからよっ、余計家族のよさとか分かるのかもしんねぇ。今んとこは俺は向日葵と紗湖が大事でな、寂しい思いをさせたら可哀相だと思うから滅多なことは出来ねぇ。
俺に何かあったらこいつら路頭に迷うからなぁ。お互いいい女探そうぜっ」
「あ‥‥はい」
 顔を真っ赤にしてうなずく廉乃丞。
「ほんとに、体は大事にしてね。忠義はとても立派なことだと思うけれど、たとえばほら、根元を折った桜はもう咲かないんだよね‥‥」
 元気に走り回っていたチェルシーも、しんみりと言った。
 長時間の外出と運動は廉乃丞の体に障るからと、そろそろ帰途につくことに。
 「皆さん、ありがとうございました。秋山廉乃丞、皆さんのお言葉が胸に沁みました。エイシャ殿や宗哲先生に救っていただいた命‥‥少しでも長く生きてみようと思います。いや、私を友人と認めてくれる人がいる限り、命を大事にしようと思います」
 廉乃丞は最後に、皆にそう言った。
 帰り道、エリーはそっとエイシャ青年に囁いた。
「廉乃丞君、わかってくれたみたいねぇん。廉乃丞くんに戦いに赴かせちゃうのはぁ、私も嫌なんだけどぉ、廉乃丞くんにも悔いのない様に生きてほしいと思っているかなぁん。私はぁ、弱者のためにがんばる事を生甲斐にしてるんだけどぉ、ダメって言われたらぁ、生きる気力がなくなちゃうしねぇん」
「そうですね‥‥僕も、廉乃丞君には愛国心よりも、一緒に生きていける誰かを愛して生きて欲しいと思ってます」
「そういえばエイシャ君てぇ、どこの生まれぇん?」
「イギリスです。でも今は、家族がいて、仕事場もある京都が故郷みたいな感じです」
「私もぉ、弱い者を守るための闘いがある場所ならぁ、そこが私の居場所って感じぃ」
 エリーはにっこり笑った。えらくしっかりした少女だなあとエイシャ君は思っているが、後でエリーの実年齢を知り(略)。
 その時、石化? が解けた後、なんだかぎくしゃくした動きで歩いている百瀬に、ステラが無理なお願い。
「何だか背中が‥‥虫でももぐりこんだのかしら? 百瀬さん、見て下さる?」と胸元をゆるめ肩を露出させる。
《ドサッ!》
「おーい、今度は百瀬さんが硬直したまま倒れたぞ!?」
「誰か〜リカバー、いやレジストマジック!」
 いや多分魔法じゃ治るまい。

●それぞれの帰り道
 義理の兄となるエイシャ青年と、棲家に向かう道を歩きながら、チェルシーは言った。
「雪村さんも言ってたけど、家族って、すごく大きな存在なんだね‥‥あたしもあたしの家族を、大切に護る」
 エイシャ青年の妻である、身重の姉を思っているようだ。
「うん、チェルシーさんならきっと素敵な『おばさん』に‥‥」
「「「ぴく」」」チェルシーが一瞬柳眉を逆立てる。
「いや、子供には「お姉さん」って呼ばせるからっ!」
 青ざめたエイシャ君は慌ててとりなした。

「友人と呼んでくれる人がいる限り‥‥か。その意気で踏ん張れよ、廉乃丞。俺も‥‥」
 沈みかかる夕日を浴びながら、八雲が呟いた。